グランドホテル札幌とアンワインド ホテル＆バー 小樽に8泊9日北海道の旅（19）ステンドグラスグラス美術館膨大なコレクションに言葉を失う。

2022/06/26 - 2022/06/26

4館ある「小樽芸術村」の2館を見学しただけでお昼になってしまいました。この日のお昼は小樽市郊外の祝津にある「旧青山別邸貴賓館」のレストランでいただく予定にしていました。残り2館の見学を予定では1時間ぐらいで済まさなければなりません。頭の中がぐるぐるしてきましたが「ステンドグラス美術館」の作品を目の前にするとそれに集中してしまいます。「旧荒田商会」と「旧高橋倉庫」の建物の中に並ぶのは19世紀から20世紀のイギリスで造られたステンドグラスは見事なものでした、描かれた物語の多くは旧約聖書や新約聖書が題材になっているのでどんどん引き込まれていきます。元々は文字が読めない人々が聖書の物語を理解するためのステンドグラスなので、その役目を教会から離れても果たしていると思いました。聖書の物語以外にもイギリスの聖人などについても知ることが出来ました。じっくり見学してしまい、気が付くと午後1時前になってしまいました。

エリア 小樽(北海道)

• 旅行の満足度: 4.5
• 観光: 4.5
• ホテル: 4.5
• グルメ: 4.5
• ショッピング: 4.5
• 交通: 4.5

• 同行者: カップル・夫婦（シニア）
• 一人あたり費用: 10万円 - 15万円
• 交通手段: 高速・路線バス 観光バス 船 タクシー ANAグループ JRローカル 徒歩
• 旅行の手配内容: 個別手配

「旧高橋倉庫」
この建物は大豆を収める倉庫として建てられました。平成元年に改修され、店舗として再生しています。前面は運河に面し背面は出抜小路に接して建ち、周辺の歴史的景観を形成している建物の1つです。小屋組は梁を二重に架け2本の束を陸梁の中央付近で左右対称に立てるクイーンポストトラス（対束小屋組）と呼ばれる洋風の構造です。この中に膨大なステンドグラスが納められています。

ステンドグラス美術館 (旧高橋倉庫) 美術館・博物館

「旧荒田商会」
この建物は、荒田商会の本店事務所として建築されました。石造倉庫が軒を連ねていた小樽運河沿いに建ち、背面の「旧高橋倉庫」や左隣りの旧通信電設浜ビルなどと中庭でむすび、歴史的景観のまとまりを創っています。現在は2棟合わせて「似鳥芸術村」の「ステンドガラス美術館」になっています。

旧荒田商会(旧アール ヌーヴォーグラス館) 美術館・博物館

「種まく人」20世紀初頭/イギリス
新約聖書に書かれている信仰の大切さを説いた「種まく人」のエピソードが題材になっています。

左のパネルでは荒れ地に種をまく人物の周りに種を狙う鳥や独麦を巻く悪魔が描かれています。

右のパネルでは豊かに実った麦を刈る天使たちの様子が描かれています。これにより良い土地、つまり素直な心で神と向き合うことが多くの実りを得ることだと説いています。

「マギの礼拝」チャールズ・イーマー・ケンプ工房
イエス・キリストが生まれたことを知らせる星が、左から2番目のパネルの空に輝いています。この星を見た東方の三博士（マギ）たちは、イエスを礼拝するために贈り物を持ってはるばる訪れます。

これが「マギの礼拝」や「東方三博士の礼拝」と呼ばれる題材です。この作品では右から2番目のパネルに聖母マリアと幼子イエス、養父ヨセフの姿が見えます。背後には厩の中からイエスを見守る牛の姿があり、遠くにはベツレヘムの町が望めます。

周辺のパネルにはイエスのもとを訪ねた博士たちが描かれています。三博士にはそれぞれアトリビュートや描かれる姿が決められています。「バルタザール」は乳香を携え、神性の象徴として壮年の姿の賢者です。黒人の姿で描かれることも多い人物です。

「メルキオール」は黄金を携え、王権を象徴した青年の姿の賢者として描かれます。

「カスパール」は没薬の入った壺を携え、将来の受難である死の象徴の老人の姿の賢者として描かれています。

「善き羊飼い」1894年/イギリス
所蔵作品の中で唯一教会に嵌められていた当時の窓枠ごと保存されています。木枠の下部中央には「神の栄光と我らが長男ヒューバートを悼んで1894年３月18日」とラテン語で刻まれたプレートが付けられていて、亡くなった我が子を悼み、両親が教会に寄進したものと考えられます。

中央には「善き羊飼い」としてのイエスが描かれています。

その両脇にはイエスの最初の弟子である聖ペトロと聖アンデレが描かれていいます。こちらは聖アンデレで、兄のペトロと共にガリラヤ湖で漁をしていたときに初めにイエスに声をかけられ、弟子となりました。弟子のリストの中でもペトロ、ヤコブ、ヨハネについで4番目にあげられています。また伝承ではギリシアのアカイア地方でX字型の十字架で処刑され、殉教したことになっており、絵画においてもX字型の十字架と共に描かれています。

アンデレの兄の聖ペトロのアトリビュートは手に持った鍵です。カトリック教会ではペトロを初代のローマ教皇とみなします。これは「天の国の鍵」をイエスから受け取ったペトロが権威を与えられ、それをローマ司教としてのローマ教皇が継承したとするからです。バチカンのサンピエトロ大聖堂は天から見ると巨大な鍵穴の形をしています。

「幼子よ我に来れ」1915年/ヒートン・バトラー＆バイン工房
母親たちが我が子を祝福してもらおうと、イエスのもとに集まっている場面です。イエスはその様子を優しく見守っています。

作品下部に「神の栄光に。そして日曜学校の元管理者であったトマス・ジェイムズ・シャープの最愛の妻エレンの想い出に。彼女は1915年12月10日に没した」という文言が書かれています。

これは日曜学校で子供の教育に力を入れていたトマス・ジェイムズ・シャープが、妻の死を悼んで教会に寄進したものと考えられます。

ゴシックリバイバル様式のフレームの中に描かれた少女の姿はアール・ヌーヴォー様式を感じとれます。

「信仰/慈善/希望」1905年/イギリス　ジョーンズ＆ウィリス工房
左から順に「信仰」「慈善」「希望」を擬人化した女性が描かれています。

「慈善」を表す中央の女性は優しい表情で子供を抱きかかえ、この3つの中では慈善が一番大切なものとされ、中央に描かれることが多いです。

「信仰」
左側のパネルは信仰を象徴する女性が描かれ、十字架を手に持っています。

「希望」
右側のパネルは希望をを表し、鎖を手にした女性が描かれています。新約聖書の中では錨を希望のシンボルとする一節があります。

「磔刑図」1900年頃/イギリス
十字架に架けられるイエスの姿を中心に聖母マリアやイエスの弟子、イギリスにゆかりの深い聖人などが描かれています。似鳥美術館に収蔵された作品の多くに装飾として建物の柱や尖塔などが描きこまれていますが、これは「ゴシックリバイバル」の影響を受けたものです。

縦長の窓や尖った塔などが特徴です。12世紀末頃からフランスで発生した「ゴシック様式」を「リバイバル（復興）」する運動のことで、19世紀末から盛んになりました。

中央の上段は王冠を被り左手には宝珠を持っているキリストの姿です。宝珠とは十字架が上に着いた球体のことで、帝国宝珠とも呼ばれます。中世を通じてキリスト教の権威の象徴として表現されます。また、世界に対するキリストの支配権も象徴し、図上学上では「世界の救世主」として知られます。天使の持つ帯には「汝はキリストであり、生ける神の御子」とあります。

その下には十字架のはりつけにされたイエスの姿があります。聖パウロは聖痕を「イエスの焼印」と呼んでいます。聖痕はキリストの受難において釘を打たれた左右の手足と、ロンギヌスの槍によって刺された脇腹の5か所に現れるとするのが一般的ですが、キリストが被せられた荊冠に由来するとされる額の傷も含まれます。

足元に預言者イザヤ（Saiah the Prophrt）と書かれてあります。預言者イザヤはイエス・キリストが生まれる700年以上前の人です。イザヤ預言の内容は「神に立ち返らないなら裁きが下る」というものと「しかし、希望もある」という2つが繰り返しなされています。この「希望」のメッセージの中には、将来イエス・キリストが世界の救い主としてこの世に来られるという「メシア（救い主）預言」が多く含まれているのも特徴です。

手を合わせて佇む姿からも聖母マリアだと分かります。特に図上学上のアトリビュートは描かれていません。よく見ると青い衣の襞には細かい模様まで描かれています。

手に持った巨大な鍵からも聖ペテロだと分かります。ペテロはラテン語なので英語ではセント・ピーターです。ロシアのサンクト・ペテルブルグは「聖ペトロの町」の意味があります。聖ペテロはカトリックにおける初代のローマ教皇で、ローマで宣教したことにより皇帝ネロによるキリスト教徒迫害下で逆さ十字架にかけられ、紀元67年に殉教したとされています。

聖ルカが献堂している姿です。「ルカ伝福音書」および「使徒行伝」の記者とされ、ルカの名は新約聖書に3回現れるだけです。使徒パウロが弟子テモテにあてたとされる書簡のなかに、「ルカだけがわたしのもとにいる」と記され、さらにパウロにより「愛する医者ルカ」および「同労者ルカ」と述べられています。医者の守護聖人で、聖路加病院の路加はルカのことです。

聖ステファノはキリスト教における最初の殉教者、信仰のために自らの命を犠牲にする者であったとされています。ステファノは天使のような顔を持ち「不思議な業としるし」によって人々をひきつけたため、これをよく思わない人々によって訴えられ最高法院に引き立てられます。そこでもステファノはユダヤ人の歴史を引き合いにしながら「神殿偏重に陥っている」とユダヤ教を批判したため、ファリサイ派によって石打ちの刑に処せられます。左手にはアトリビュートである石を持ち、右手には殉教を意味する棕櫚の葉を持っています。

聖ヨハネは兄のヤコブとともにガリラヤ湖で漁師をしていましたが、ナザレのイエスと出会い、その最初の弟子の1人となります。ペトロと兄弟ヤコブとともに特に地位の高い弟子とされ、イエスの変容の場面やゲッセマネにおけるイエス最後の祈りの場面では、彼ら3人だけが伴われています。使徒たちの中で唯一殉教しなかったとされ、イエスの母である聖母マリアを連れエフェソスに移り住みます。後にパトモス島に幽閉されてそこで黙示録を記します。パトモス島の教会は感慨深かった記憶がありますが、聖母マリアの家はただの小さな石造りの家でした。

手に持った聖書と剱から聖パウロだということが分かります。イタリアからギリシャ、トルコやキプロスやマルタ島を旅しているとローマ皇帝のハドリアヌスと同じくらい聖パウロの足跡に出会います。トルコとシリアの国境の町アンタクヤで行った聖ペテロ教会で堂守りのおじさんの娘さんに聖ペテロの洞窟を案内してもらいましたが、すごい美人だったことを覚えています。

「四人の聖人伝」20世紀初頭/イギリス
上段に聖人が描かれ、下段にはそれぞれの聖人にまつわる物語が描かれています。

左端は戦地へ赴く兵士の護りとされる聖オズワルドです。戦いに赴く際に十字架を立てて祈りをささげたことで大勝利を得たといわれ、兵士たちとともに木の十字架を立てる場面が描かれています。その右側はトゥールの聖マルティヌスです。物乞いにマントを2つに切り裂いて半分を与える場面です。この物乞いはイエス・キリストであったといわれ、これが受洗のきっかけとなりその後に軍を除隊します。

右から2番目（写真の左）はイングランドの守護聖人の聖ゲオルギウスで、ここでは逸話の1つである悪竜退治が描かれています。右端はブリタニアのキリスト教殉教者である聖オルバンの姿ですが詳しくは分かりません。

ゲオルギオスの生涯ははっきりしませんが、3世紀後半にパレスチナのリュッダでギリシャ系貴族のキリスト教徒の家庭に生まれました。彼の父親はローマ軍人で、彼も小アジア（現在のトルコ）のニコメディアで軍人となります。ディオクレティアヌス帝は302年にローマ軍のキリスト教徒をすべて逮捕してローマの神々に捧げなければならないという政令を発し、ゲオルギウスも逮捕されて棄教を強要されますが棄教せずに殉教したといわれています。イングランドやコーカサス地方のジョージア、ロシアのモスクワの守護聖人で、西方では十四救難聖人の1人に数えられます。生地はカッパドキアとする伝説が一般的で、ギョレメのオープンエアミュージアムの洞窟にも描かれていました。

美術館の中の一番奥にあり、祭壇も設けられていることから、当時の雰囲気をよく伝えているようです。実際の高さもこれくらいだったのではないだろうかと想像できます。

「神とイギリスの栄光」1919年/イギリス
イギリスの第1次世界大戦における戦勝記念と、戦没者追悼の意をこめて制作されました。中央上部に描かれたイエスが、真下にいるイングランドの守護聖人の聖ゲオルギウスに王冠を与えようとしています。

イングランドはイギリスの中心をなす地域で、第1次世界大戦での勝利に大きな役割を果たしました。右から2番目のパネル中央部には、鎧を着た聖女ジャンヌ・ダルクが描かれています。ジャンヌ・ダルクはフランスを代表する聖人であり、この大戦において両国がともに戦い、多くの犠牲を出したことへの追悼の意味が込められているようです。

「十字架のキリスト」19世紀末/イギリス　チャールズ・イーマー・ケンプ工房
イギリスを代表するチャールズ・イーマー・ケンプ工房の作です。多くの職人を抱えていたステンドグラス工房では、ほぼ全ての作業が分業化されており、原画の制作やガラスカット、絵付けなどを各分野の専門職が行っていました。

また一番左下の隅に麦束にお城の塔が描かれている小さなマークが確認できました。これはケンプ工房が19世紀末に使っていた隠しサインで、後世に自分たちの作だと伝える手段でした。

天使の持つモットーには「Becorse I live ye shall live also.（わたしが生きているから,あなたがたも生きるであろう）」と書かれ、十字架の上で正面を見据える姿を見ていたら「Tommy」というミュージカル映画を思い出しました。音楽監督はザ・フーのピート・タウンゼントで、主人公のトミーをロジャー・ダルトリーが演じた作品で、当時の中学生には衝撃でした。
https://www.youtube.com/watch?v=jceWFfwsgG4

「慈善」1903年/イギリス　クレイトン＆ベル工房
新約聖書に書かれた「人のするべき善き行い」をテーマとしています。人々が日常的に行うべき慈善が描かれ、教会に通う信者たちに善き行いの実践を勧めるために制作されたものと思われます。

中央の上段には「Charity never faileth（慈善行為は失敗することはない）」と書かれてあります。左上のパネルは「飢えていた時に食べさせ」、その下には「のどが渇いていたときに飲ませ」、中央下部は「道に迷えば、招き入れてくれる」。右上は「病気のときには見舞い」、下には「裸のときに着せ」という場面を表しています。

「昇天」1903年/イギリス　クレイトン＆ベル工房
息絶えたはずのイエスが復活してから昇天するまでの一連の場面を1コマ漫画のように表現しています。

左下には空になった墓が描かれてイエスの復活を表しています。キリストが十字架に架けられて埋葬された3日目の朝にマグダラのマリアたちが訪れると、空になった墓に輝く天使が現れて復活したこと告げます

復活の後にイエスが庭師の姿で現れます。膝をつくマグダラのマリアに対し「まだ天の父なる神に会う前なので、私に触れてはならない」と伝えている場面です。

主イエスは使徒ペテロに「わたしの小羊を養いなさい」と語る場面です。

中央上部にはイエスの昇天が描かれており、両脇では弟子たちが見守っています。

2人の天使の持つマナーには使徒行伝1:11の「ガリラヤの人たちよ、なぜ天を仰いで立っているのか。あなたがたを離れて天に上げられたこのイエスは、天に上って行かれるのをあなたがたが見たのと同じ有様で、またおいでになるであろう」の部分が書かれてあります。

イエスを見守る使徒たちの心のうちは描かれた手が表しているようです。手を合わせ拝むもの、両手を広げた姿にも戸惑いの感情が読み取れるようです。

イエスが多くの弟子たちの中から選んだ一二人の弟子であるペテロ（シモン）、ヨハネ、アンデレ、セベダイの子ヤコブ、ピリポ、バルトロマイ、マタイ、トマス、アルパヨの子ヤコブ、ユダ（ヤコブの子、別名タダイ）、熱心党のシモン、イスカリオテのユダの12人で、キリストは特にこれらの弟子を使徒と名づけましたた。12人のうちイスカリオテのユダが後にキリストを裏切るためここには11人しか描かれていません。

「復活」1903年/イギリス　クレイトン＆ベル工房
磔にされて息絶えたイエスが石棺から立ち上がり、復活する様子が中央上部に描かれています。「クレイトン＆ベル工房」は19世紀末から20世紀初めのイギリスで最も大規模なステンドグラス工房であり、多くの聖堂に作品を提供していました。

この工房の特徴の1つとして人間を解剖学的に捉えた絵付けが挙げられます。特に顔や手足に注目すると筋肉の流れに沿って縞状に絵付けが施されていることがわかります。

棺の上に立つキリストの足元では深く眠りにつくローマ兵の姿が描かれています。

復活したキリストは左手に十字架の杖を持ち、架けられた旗には「VICTOR MORTIS(
死に対する勝利）」の文字が読めます。右手の掌には聖痕も見え、額には荊の冠の痕もあります。

キリストの下には甲冑で身を固めた聖ゲオルギウスの姿があります。その足元には対峙された竜の姿も見えます。

「To the Glory of God and the Elder of this Cherch（神の栄光をこの長老と教会へ）」と書かれたこの人物はX型の十字架を背負っていることから聖アンデレと思われます。背景にSaintのSとAndereのAからも間違いないと思います。イギリスにとって聖アンデレは重要な人物でユニオンフラッグのX型のストライプはこの十字架の形から来ています。

献堂された修道院のIONAの名前からアイルランドの守護聖人の1人である聖コルンバの姿だと思います。背景のSとCのアルファベットもSaint Columbaの名前に合致します。

「富と慈悲　愛と収穫」20世紀初頭/イギリス　ヒートン・バトラー＆バイン工房
4枚組のステンドグラスですが、描かれた人々がどちらを向いているか見ていくとある者はうっとりとした表情を浮かべ、またある者は膝をついて祈っていますが、その視線はいずれも、左側に注がれています。

左側の2枚のパネルではみな右側に視線を送っています。下側には石段の一部のようなものや衣服の裾が見られることからも、本来はこの間にイエスか聖母などの神聖な存在が描かれたパネルがもう1枚存在していたと考えられます。

「天使の祈り」20世紀初頭/イギリス
2人の天使が十字架に祈りを捧げていることから追悼の意味を持つ作品であったと考えられます。また画面のいたるところに聖書の言葉が読み取れ、ヨハネの黙示録からは「死に至るまで忠実であれ。そうすればあなたに命の冠を授けよう」と象徴的な言葉が書き込まれています。

「奇跡の行い」1874年/イギリス
イエスの奇蹟は新約聖書の四福音書に記されている、イエス・キリストが行った奇蹟のことです。イエスはこれらの奇蹟を行うことで、自然、病、罪、悪霊、死に対して支配する権威をもっていることを公に示し、自らがメシヤであることを立証するために行いました。

「中風者の治療」身体を動かせない病人を動けるようにしたイエスの奇跡の姿です。屋根に開けた穴から寝台を吊るして、地上まで下ろす様子が描かれています。

「盲人の治療）」イエスが自分の唾液で泥をこね、盲人の目に塗っています。これは視力の回復と同時に、キリスト教の教えに目を開かせたという両方の意味を表しています。

「奇跡の行い」1874年/イギリス

「べトザタの池」べトザタの池は奇跡が起こると信じられており、多くの病に苦しむ人々が集まっていました。池のほとりで長い間動くことのできなかった重病人にイエスは「起き上がりなさい」と語りかけます。すると病人はすぐに歩き出したといいます。

「ラザロの蘇生」ラザロという男性が死んでから4日が経っていました。イエスが彼に「ラザロ、起きなさい！」と呼びかけると、包帯を巻かれたままの姿で棺桶から起き上がってきました。その後ラザロはキプロス島のラルナカの聖ラザロ教会で司教をつとめ、800歳で亡くなっています。教会の地下にはラザロの墓が残されているので参拝に行きました。

「幼子よ我に来れ」19世紀末/イギリス
中央の2枚のパネルに描かれているのがイエスの評判を聞いて、大勢の母と子が祝福を求めて集まった「幼子よ我に来れ」の場面です。

中央の右側のパネルでは幼子を膝に乗せるイエスを見守る人々です。

右端にはテモテとユーニスという新約聖書に登場する親子が描かれています。キリスト教にとって旧約聖書は過去を、新約聖書は未来を意味することから、２組の親子は、時の経過を表現するために意図的に旧約聖書と新約聖書から選ばれたと考えられます。

左端にはサムエルとアンナという旧約聖書に登場する親子が描かれています。

「受胎告知（部分）」20世紀初頭/イギリス
処女でイエスを身ごもったというお告げを受ける聖母マリアが描かれています。この左側にはお告げの大天使である聖ガブリエルのパネルが存在していたと考えられます。

「信仰」20世紀初頭/イギリス
「信仰」を象徴する女性が描かれています。この他にも「希望」「慈善」などをテーマにしたパネルが存在していたと考えられ、この女性は手に「FAITH（信仰）」と書かれた書物を持っています。

「大天使ミカエル」19世紀末/イギリス
天上の戦士である大天使聖ミカエルが描かれています。聖ガブリエルや聖ラファエル、聖ウリエルとともに四大天使とされています。足元のモットーには「全能の神の幾多の恵みへの感謝」と書かれています。

「聖ヨハネ」19世紀末/イギリス
聖ヨハネは十二使徒の中でもイエスに最も愛された弟子でした。イエスの磔刑や最後の晩餐など、重要な場面で常にイエスに寄り添っています。

ステンドグラスの下絵も展示してあるので興味深く見ることが出来ました。

「ステンドグラス原画」

「聖クリストフォロス」20世紀初頭/イギリス
クリストフォルスとは「キリストを担う者」という意味があります。世界で一番強い人に仕えたいと願っていたローマ人のレプロブスは、ある日幼児を肩に乗せて川を渡ります。途中で背中の幼児がものすごく重くなりましたが、無事に渡りきったところ、それはイエスだったというエピソードに由来します。旅人の守護聖人でもあり、スペインのセビリア大聖堂のコロンブスの墓の横には巨大な姿が見られます。

「聖ニコラウス」20世紀初頭/イギリス
聖ニコラウスは子どもたちを助ける多くの伝説を持つ子どもの守護聖人です。サンタクロースのモデルとしても知られますが、元々は小アジアのトルコのアンタルヤの郊外のフェティエ村に聖ニコラス教会があります。ここも20年以上前に参拝に行きました。

「キリストの公生涯」1875年/イギリス
元々は10枚のパネルからなる高窓で構成されていたと思われます。この美術館では現在そのうちの7枚を展示しています。3枚の上部に書かれているWL（ウィリアム・リーフ）とEL（エレン・リーフ）のマークは、本作を教会に寄進したリーフ家当主とその娘のイニシャルだそうです。

イエスの生涯はイエスの生誕の場面から始まります。小さいパネルですが、その精巧さには驚かされます。画面には青地にツルウメモドキの葉3枚と3匹の蜂、白鳩によるリーフ家の紋章が描かれており、紋章のモットーは「葉は散ることはない」とあります。リーフ家が栄え続けることを意味します。

ヘロデ王はユダヤの新王がベツレヘムで誕生したことを予言で知ります。玉座を護りたいヘロデ王は、町に住む2歳以下の全ての幼児を殺すよう命じました。罪も無き赤子たちは母親の手から奪われ、無惨にも殺されます。それより少し前にベツレヘムに滞在していた養親ヨセフは天使の夢を見ました。天使は「キリストとマリアを連れてエジプトへと逃げなさい。ヘロデ王が息子を殺めようとしています。」といいものでした。ヨセフは慌てて2人を起こし、夜中のうちにエジプトへと出発しました。

これまで見てきたステンドグラスの題材にもなっていた「磔刑図」です。

そして「復活」の場面へと続きます。

「四大預言者/四大教父/四福音史家（上部ティンパヌム）」1892年/イギリス
上部ティンパヌムでは細かい装飾パネルのいくつかは失われていますが、最も大切な「アグヌス・デイ（ラテン語で“神の子羊”）」が残されています。勝利の軍旗を持ち光に包まれた「アグヌス・デイ」は、人々のために犠牲となって十字架にかけられたイエス・キリストそのものを表しています。

「この人を見よ 神を見よ 聖人たち」1900年頃/イギリス　クレイトン＆ベル工房
この作品には「人として」のイエスと「神として」のイエスが、中央の2枚に描かれています。中央左側のこのパネルが磔にされる前のイエスです。左側のイエスの背部には「この人を見よ」を意味するラテン語「Ecce Homo（エッケ ホモ）」と書かれており、これはイエスが十字架に架けられる前に、公衆の面前で罪を問われた時の言葉です。

右側はその後に復活したイエスで、その背部には「神を見よ」を意味するラテン語「Ecce Deus（エッケ デウス）」と書かれており、その右手には磔にされた時の傷痕であるスティグマータが残っています。

聖母マリアは左手に書物を持ち、右手には純潔を意味する白百合の花を持っています。

「神とイギリスの栄光」1919年頃
イギリスの第1次世界大戦における戦勝記念と、戦没者追悼の意をこめて制作されました。中央上部に描かれたイエスが、真下にいるイングランドの守護聖人である聖ゲオルギウスに王冠を与えようとしています。

イングランドはイギリスの中心をなす地域で、大戦での勝利に大きな役割を果たした。右から２番目のパネル中央部には、鎧を着た聖女ジャンヌ・ダルクが描かれています。ジャンヌ・ダルクはフランスを代表する聖人であり、この大戦において両国がともに戦い、多くの犠牲を出したことへの追悼の意味が込められているようです。

中央には王冠を持つキリストの姿が描かれています。今まで見てきた中では一番豪華な衣装です。栄光の王冠はキリストの直下にいる聖ゲオルギウスへ与えられようとしています。

その左右には大天使の姿が見えます。左手に天秤を持ち右手に剱を持つ姿は大天使ミカエルです。最後の審判の時にその計りを使い、天国へ行く善人と地獄絵落す悪人に振り分けます。

大天使ガブリエルはマリアが聖霊によってキリストを妊娠したことを告げ、またマリアがそれを受け入れることを告げる出来事である「受胎告知」に出現する天使です。右手にはマリアの処女性を表す白い百合の花を持っています。

キリストの直下にいる聖ゲオルギウスは英語名でセント・ジョージでイングランドの守護聖人として象徴的に描かれています。悪竜退治は敵国をねじ伏せる力強い英国を表しています。

「最後の審判」1901年/イギリス　アラン・バランタイン＆ガーディナー工房
絵画やステンドグラスのテーマとしてよく取り上げられる「最後の晩餐」の場面です。イエスが弟子である「ユダ」の裏切りを知っていながら、そのユダも含めた弟子たちと最後の食事をとる場面です。

イエスが「この中に裏切り者がいる」と告げ、驚いて顔を見合わせる弟子たちの姿が描かれています。また使徒達が自分の苦難に際して逃げ散る事を予告します。弟子達はこれを聞いて動揺します。ペトロは鶏が鳴く前に3度キリストを否むと告げられ、これを強く否定します。

イエスが賛美の祈りののちにパンと葡萄酒をそれぞれ「自分の体」「自分の血」として弟子たちに与え、「これをわたしの記念として行え」と命じたとされます。

英国人のような容姿で描かれた十二使徒はどれが誰なのかは分かりません。画面にはヒントとなる持ち物が描かれていません。

唯一美しい女性のような姿で描かれているのは使徒ヨハネだと思われます。イエスから最後の晩餐の準備をペトロとヨハネの2人が仰せつかっています。

キャプションを読むまではこの茶色い服を着て下を向いているのがイスカリオテのユダかと思いました。

実際のユダは左手を上げて驚いている男でした。最後の晩餐の場面ではイエスに裏切りを予告され、マルコによる福音書では「生まれなかった方が、その者のためによかった。」とまでイエスに言われています。ユダは祭司長たちと群衆をイエスのもとに案内し、接吻することでイエスを示して引き渡しました。

その後のマタイ福音書ではユダは自らの行いを悔いて、祭司長たちから受け取った銀貨を神殿に投げ込み、首を吊って自殺したことになっています。また使徒言行録では裏切りで得た金で買った土地に真っ逆様に落ちて、内臓がすべて飛び出して死んだことになっています。この画中では腰のポシェットに銀貨が30枚入っています。

「放蕩息子の帰還」20世紀初頭/イギリス
ある家に2人の息子がいました。長男は家に残って父を助け、次男は財産を分けてもらい旅に出ます。しかし次男は放蕩の末に全財産を失い、反省して家に戻ります。すると父は喜んで次男を迎えましたが、真面目に働いていた兄はこれに不平を言います。父は「後悔して戻った子は、死んだ子の生き返りに等しい」と諭します。この話は一度はキリスト教の教えから離れた者でも、悔い改めれば許されるということを表しています。エルミタージュ美術館で見たレンブラントの「放蕩息子の帰還」が頭に浮かびます。

「善き羊飼い」20世紀初頭/イギリス
迷子の子羊を肩に担いだ羊飼いの背後には狼が描かれています。これは新約聖書に書かれている「狼が来るのを見ると羊を置き去りにして逃げる羊飼いと、羊のために命をも捨てる善き羊飼い」の部分を元にしています。羊飼いはイエスで狼はキリスト教徒を迫害する者達や異教徒を表しています。

「善きサマリア人」20世紀初頭/イギリス
イエスが本当の隣人とは誰かを諭した寓話です。旅の途中で強盗に襲われ大けがをしたユダヤ人を通りかかったユダヤ人たちは見て見ぬふりをしました。そこに通りかかったユダヤ人と長い間敵対関係にあった民族であるサマリア人が彼を手厚く介抱し、宿屋へ送り届けたました。本作に描かれているのはサマリア人が自分のロバにユダヤ人を乗せて、宿屋へ連れていく場面です。現在のロシアやウクライナや欧米の軋轢を考えると誰もキリスト教の基本的なことを理解していないのだと感じます。最後の審判はアブラハムの宗教であるユダヤ教とキリスト教とイスラーム教が共有する終末論的世界観ですが、皆でそこへ向かっているように思います。

「種まく人」20世紀初頭/イギリス
荒地に種をまいても実りを得るのは難しく、石だらけの道で枯れてしまったり、せっかく芽が出ても周りのいばらに覆いつくされてしまったりします。しかし良い土地にまかれた種からは多くの実りを得ることができるとイエスは説きます。これは言葉を聞いても信じようとしない人を「荒地」に、信じる人を「良い土地」に例えています。

「悪竜を踏み敷く大天使聖ミカエル」20世紀初頭/イギリス
大天使聖ミカエルはステンドグラスに描かれる天使の中で最も有名な天使であり、お告げの天使聖ガブリエル、癒しの天使聖ラファエルなどとともに様々な場面に登場します。聖ミカエルが踏みつけている悪竜はキリスト教に敵対するものや、伝染病、人の悪い心などを表しています。

「十字軍に遠征する聖王ルイ」20世紀初頭/イギリス
聖王ルイとはフランス国王ルイ9世のことです。信仰深いルイは在位中に2度も十字軍に出征している。本作ではフルール・ド・リスと呼ばれるフランス王家の百合の紋章の旗を掲げた勇ましい姿が描かれています。
ようやく見学が終わりましたが、既に午後0時40分です。急いで新しくできた「西洋美術館」に向かいます。