2025/04/13 - 2025/04/13
483位(同エリア4679件中)
+mo2さん
東京国立近代美術館で開催されているヒルマ・アフ・クリント展へ行ってきました。正直、ヒルマ・アフ・クリント知りませんでしたが、5章立てになっていますが、彼女の生涯を追う構成となっており、なかなか興味深い展覧会でした。特に高さ3mを超える10点組の絵画〈10の最大物〉は圧巻でした。抽象画なかなかどう解釈していいかわからない部分もあるのですが、会場やHPに丁寧な解説あり、理解することができました。後半の展示です。作品の解説はHPより参照したものです。
- 旅行の満足度
- 4.5
- 観光
- 4.5
- 同行者
- 一人旅
- 交通手段
- 新幹線
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「知恵の樹、Wシリーズ、No. 1」 1913年
知恵の樹とは一般に、旧約聖書の『創世記』に登場する、アダムとエヴァがその実を食べることで楽園を追われた樹を指します。 -
「知恵の樹、Wシリーズ、No. 2」 1913年
No. 2の裏面には、画面にも描かれている2羽の鳥の欲望、あるいは男性と女性の間の欲望について記されたアフ・クリント本人のメモが認められ、性や欲望に関わる二元性がテーマの一つであったことがうかがえます。 -
「知恵の樹、Wシリーズ、No. 3」 1913年
しかし彼女が込めた意味はそれにとどまらず多義的です。例えば北欧神話に現れる宇宙樹ユグドラシル(全世界の上に枝をひろげる巨大な樹で、三つの根はそれぞれ冥界、霜の巨人の世界、そして人間の世界につながっているとされた)との関連が指摘されています。 -
「知恵の樹、Wシリーズ、No. 4」 1913年
また、樹の形状が人間の脳のようにも見えることから、アフ・クリントが影響を受けた思想家ルドルフ・シュタイナーによる宇宙樹(脳は宇宙樹に到達するための 入 口 で あ り 、ミ ク ロ コ ス ム〔人間の脳〕とマクロコスム〔宇宙〕が接続する)のヴィジョンとの関連も指摘されています。 -
「知恵の樹、Wシリーズ、No. 5」 1913年
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イチオシ
「白鳥、SUWシリーズ、グループIX:パートI、No. 1」 1914-15年
白鳥というモティーフの源泉はいくつか考えられます。一つはヒンドゥー教における白鳥で、輪廻転生からの解脱を表すもの、高次元の存在への到達の象徴とされました。東京国立近代美術館 美術館・博物館
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「白鳥、SUWシリーズ、グループIX:パートI、No. 7」 1915年
また、ギリシア神話における白鳥は、ゼウスが白鳥に変身し、スパルタ王の妻レダを誘惑したというエピソードで広く知られています。 -
「白鳥、SUWシリーズ、グループIX:パートI、No. 8」 1915年
No. 1(exh. no. 066)では、二分された
画 面 上で白と黒、2 羽の鳥の闘争が 演じられ 、N o. 7では 4 分割された画面上で、2 羽の鳥がそれぞれ半身に分割されます。No. 8では、2 羽の鳥は物質の最小単位を表すかのような立方体の集合へと分解され、具象的な画面は幾何学的な表現へと変貌します。 -
「白鳥、SUWシリーズ、グループIX:パートI、No. 9」 1915年
No.9からNo. 18にかけてはプロペラ状の形態が生み出す旋回運動によって、色彩と形態における二項対立間の分離と統合が繰り返され、やがて中央に一つの円が配された静的な画面へ落ち着きます。 -
「白鳥、SUWシリーズ、グループIX:パートI、No. 10」 1915年
具象と抽象、黒と白の色彩、生死、オスとメスなど、ここでも基調をなすテーマは二元性をめぐるものでしょう。 -
「白鳥、SUWシリーズ、グループIX:パートI、No. 11」 1915年
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「白鳥、SUWシリーズ、グループIX:パートI、No. 13」 1915年
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「白鳥、SUWシリーズ、グループIX:パートI、No. 17」 1915年
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「白鳥、SUWシリーズ、グループIX:パートI、No. 18」 1915年
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「白鳥、SUWシリーズ、グループIX:パートI、No. 20」 1915年
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「祭壇画、グループX、No. 1」 1915年
〈祭壇画〉は、アフ・クリント自身が構想していた螺旋状の神殿において、最上層の塔にある祭壇の間に飾られるもので、「神殿のための絵画」の総覧、集大成として位置づけられます。青や黄などの色彩に付与した役割、螺旋の形態など、彼女が「神殿のための絵画」で一貫して使用してきた要素を認めることができます。 -
「祭壇画、グループX、No. 2」 1915年
No. 1とNo. 2の階層化された三角形は、神智学の教えにおける進化に関連してるのでしょう。進化は、肉体的なものから精神的なものへと上昇し(No. 1)、また神聖なものから物質的な世界へと下降する(No. 2)という二つの方向で起きます。 -
「祭壇画、グループX、No. 3」 1915年
〈祭壇画〉制作後の1915年終わりに、アフ・クリントは青地に浮かぶ黒い円の中に女性が描かれた小品を制作しました。この《人類の純潔》(本展未出品)を締めくくりとし、全193点からなる「神殿のための絵画」のプロジェクトが完了しました -
「青の本、ブック1 (原初の混沌) 」制作年不詳
「青の本」は10冊組の青い装丁の本で、「神殿のための絵 画 」がほぼまるごと収められています(それぞれ見開き左ページに自身が描いた各作品の縮小版水彩画、右ページに同じ作品の白黒写真がレイアウトされる) -
「青の本、ブック2 (エロス・シリーズ) 」制作年不詳
サイズも技法も多様な実作を同一のフォーマットにまとめた「青の本」は、実見が容易でないこのプロジェクトの総体とその体系性を明らかにしています。 -
「青の本、ブック4 (10の最大物)」 制作年不詳
アフ・クリントは実際にこのノートをドルナッハへ持参して、人智学の創始者ルドルフ・シュタイナーに見せ、意見を求めたりしたようです。 -
「青の本、ブック6 (進化) 」制作年不詳
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「青の本、ブック9 (白鳥と鳩) 」制作年不詳
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4章「神殿のための絵画」以降:人智学への旅
「神殿のための絵画」を1915年に完結させた後、アフ・クリントの制作は、いくつかの展開を見せます。1917 年の〈原子シリーズ〉や1920年の〈穀物についての作品〉などは、自然科学と精神世界双方への関心や、眼に見えない存在の知覚可能性という点において「神殿のための絵画」に連なるものですが、表現としては、より幾何学性や図式性が増しているのが特徴です。 -
「パルジファル・シリーズ、グループII、エーテルの折り畳み、No. 62・63」 1916年
4 グループに区分された144点の水彩から構成されます。 -
「パルジファル・シリーズ、グループII、エーテルの折り畳み、No. 68・73」 1916年
パルジファルは中世の聖杯伝説に登場する円卓の騎士の名にちなんでいますが、物語を描写するものでは必ずしもありません。 -
「パルジファル・シリーズ、グループII、エーテルの折り畳み、No. 77・78」 1916年
モノクロームの正方形の色面を基本に、各色が濃度や彩度を繊細に変化させながら連続しています。時に上下左右、内外を意味する単語も描きこまれます。 -
「パルジファル・シリーズ、グループII、エーテルの折り畳み、No. 88・89」 1916年
Inåt(内向き)は正方形の中心で文字が一つに重なり合うように(No.73)、Up påt(上向き)は余白部分に文字を下から上に積み上げるように(No.77)描かれ、文字の配置とその意味が示す方向性と、色彩効果とが相互に影響し合っています。 -
「原子シリーズ、No. 10・13」 1917年
22 点の水彩によるこのシリーズは、物理的な原子とそのエネルギーを示す右下の正方形と、霊的な原子とそのエネルギーを示す左上の正方形で構成されています。 -
「原子シリーズ、No. 14・16」 1917年
物理的限界を超えた精神的世界への到達を思い描くアフ・クリントにとって、原子(ミクロ)は一挙に宇宙(マクロ)とつながるものでした。一方で19世紀末から20世紀初頭は、それまで物質の最小構成単位とされてきた原子が分割可能であると解明されていく時期にあたります。 -
「原子シリーズ、No. 17・20」 1917年
同時代の自然科学の発展を踏まえ、彼女の原子への関心を捉えることも可能です。 -
「無題シリーズ I」 1917年
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「グループ1、No. 4b、 4c」1919年
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「グループ1、No. 5、6」1919年
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「グループ2、No. 30a?38c」 1919年
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「グループ3、No. 10?17」 1919年
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「無題のスケッチ」 1916年
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1920年前後に制作された植物をテーマにした作品でも、ミクロコスムとマクロコスムの接続や、ダイアグラム的な表現が認められます。
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「無題シリーズIII、モタシラ・アルバ セキレイとガイドライン」 1919年
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「穀物についての作品、小麦」 1920年
〈穀物についての作品〉では、自然観察に基づく穀類の写生と抽象的なダイアグラムとが並置されています。 -
「穀物についての作品、ライ麦」 1920年
人智学協会の本部であるゲーテアヌムに寄贈された《花、コケ類、地衣類》では、草花の学名とダイアグラムが植物図鑑のように示されました。 -
「穀物についての作品、オーツ麦」 1920年
この図式が表すのは、眼に見える個別的外観ではなく、自然から抽出された、生命の成長をつかさどるような普遍的エネルギーと言えます。 -
シリーズV
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「シリーズV、No. 2a」1920年
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「シリーズV、No. 2b」1920年
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「シリーズV、No. 3a」1920年
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「シリーズV、No. 3b」1920年
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「シリーズV、No. 3c」1920年
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「シリーズV、No. 4」1920年
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「シリーズV、No. 5」1920年
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「シリーズV、No. 6」1920年
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「シリーズV、No. 7」1920年
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「花と木を見ることについて、無題」 1922年
人智学から影響を受けたアフ・クリントは、作風を大きく変化させました。 -
「花と木を見ることについて、無題」 1922年
〈花と木を見ることについて〉は、ゲーテの色彩論を知り、シュタイナー周辺で行われた水彩技法を取り入れた成果です。 -
「花と木を見ることについて、無題」 1922年
湿らせた紙に水彩で描くことで生まれるにじみや流れのような偶発性を活かし、色自体が形や主題を生み出すような作品で、「ローズヒップを観ながら」 制作するというように、ここでも植物が主なテーマとなっています -
「花と木を見ることについて、無題」 1922年
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「花と木を見ることについて、無題」 1922年
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「花と木を見ることについて、アザミ」 1922年
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「花と木を見ることについて、無題」 1922年
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「花と木を見ることについて、無題」 1922年
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5章 体系の完成へ向けて
「無題」1924年 -
「無題」1930年
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「無題」1931年
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「地図:グレートブリテン」 1932年
1920年代に始まった水彩を中心とした制作は、人間や動物といった具体的モティーフを回帰させ、また神話性や幻想性をより色濃くしながら、幾度かの中断を挟みつつも晩年の1940年代まで続けられました。《地図 : グレートブリテン》は、上空から見たイギリスへ、南東(ドイツ)から不吉な風を吹きかける人物が描かれた、のちの世界大戦を思わせるような予言的作品となっています。 -
「無題」1934年
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「無題」1941年
1941年には、かつて訪れたドルナッハを回想的に描いた作品を残しています。1枚目には、シュタイナーが設計した第一ゲーテアヌムの建物と、そこに向かって泳ぐ白鳥の親子。 -
「無題」1941年
2枚目では、1922年の完成後、間もなく焼失した史実同様に、建物は炎に包まれ、親鳥は水中に沈んでいきます。 -
「無題」1941年
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「無題」1941年
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「無題」1941年
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オタカル・セイブルリク教育用掛図「チューリップ、花」1938年
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スウェーデン、ハーニンゲ市にあるスヴァルトベッケン学校博物館
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1920年代半ば以降、アフ・クリントは、自身の思想や表現について記した過去のノートの編集や改訂の作業を始めました。
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ノートに付された +× という印は、それらが死後20年経ってから公開されることを示しています。さらに注目すべきは「神殿のための絵画」を収めるための建築物=神殿の構想です。
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1931年のスケッチを見ると、神殿は4層からなる螺旋形状で、頂上に灯台が設
置されています。 -
建物内部の作品配置に関する具体的な検討もなされ、建物から突き出すように設けられたライブラリには、〈10の最大物〉が書物とともに飾られる計画になっていました
-
制作の一方で、1920年代半ば以降、アフ・クリントは自身の思想や表現について記した過去のノートの編集や改訂の作業を始めます。
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アフ・クリントの後半生においては、この編集者的、アーキビスト的作業が、あるいは制作以上に大事な仕事であったのではないかとも思われます。
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特に注目すべきは「神殿のための絵画」を収めるための建築物の構想です。
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制作が完了してからすでに15年以上経過した1930年代にもなお、作品を収める理想のらせん状の建築物について記し、建物内部の具体的な作品配置計画の検討も重ねていました。
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この神殿が実現することはありませんでしたが、こういった自らの思想の絶えざる編集と改訂の作業は、絵画制作を含むアフ・クリントの仕事全体が、いかに厳密な体系性を目指していたかの証左となるものでしょう。
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1944年、1,000点をはるかに超える作品やノート類の資料などすべてを甥に託し、アフ・クリントは81歳の生涯を閉じました。
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