2020/09/05 - 2020/09/05
51位(同エリア531件中)
ウェンディさん
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- Q&A回答132件
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この旅行記のスケジュール
2020/09/05
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車での移動
花巻までは自家用車で6時間。朝5時過ぎに自宅を出発し東北自動車道を北上し、11時前に到着です。
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11時に営業開始のなめとこ庵(お蕎麦屋)さんでランチ。人気店なので予約がお勧め。
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宮沢賢治記念館は賢治好きの大人の為の施設。展示物は文字が多いので、小学生にはツライかも。
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イーハトーブ館は賢治好きな方ならマストだが、ただの観光目的ならばパスもあり
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童話村は視覚で理解する賢治の世界
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イギリス海岸はその場所が車だとちょっと分かりにくいかも。近くに行くと案内標識あり。
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カフェ林風舎では古き賢治の世界に浸ろう♪(ネーミングが可愛らしいケーキもお勧め)
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童話村のライトアップは必見!9月開催は土日のみ。9月初旬ならば17:30頃からが美しく見え出す時間。
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花巻駅近くの銀河鉄道壁画は、駅から徒歩5分。人通りの少ない道なので安全確保はしっかりと。
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ケンジの宿はコスパ最高!
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この旅行記スケジュールを元に
その昔、まだやんちゃな小学生の頃に学校で習った【やまなし】という物語は、私が初めて触れた彼の作品です。
【やまなし】と聞いてピンと来なくても、
「クラムボンは わらつたよ」
「クラムボンは かぷかぷ わらつたよ」
「クラムボンは 跳て わらつたよ」
「クラムボンは かぷかぷ わらつたよ」
このフレーズを目にしたら、嗚呼、そういえば不思議な語呂の“クラムボン”が出てくる話が国語の教科書にあったかもしれない・・・と思い起こす方もいるかもしれません。
【やまなし】は川底で遊ぶ蟹の兄弟が、クラムボンという謎の生物(物体)と、クラムボンの周囲で起きる事象について話す物語ですが、クラムボンという軽快な響きを持つ言葉は、あれから幾月の時が過ぎたとしても幼い頃の記憶の中に居座っています。
【やまなし】を綴った彼は、宮沢賢治。
宮沢賢治は今でこそ有名な童話作家であり詩人ですが、37歳で没するまでに世に出た賢治の著書は少なく、多くの作品は彼が亡くなってから出版され、再評価されました。
岩手県花巻市は宮沢賢治が物語のインスピレーションを感じ、農地改良にその一生を捧げた土地。
その花巻を訪れ、賢治の夢見た理想郷;IHATOVO(イーハトーヴ)を吹き抜ける風の中に幻燈を見ました。
- 旅行の満足度
- 5.0
- 観光
- 4.5
- ホテル
- 5.0
- ショッピング
- 3.5
- 同行者
- カップル・夫婦
- 一人あたり費用
- 3万円 - 5万円
- 交通手段
- 自家用車 徒歩
- 旅行の手配内容
- 個別手配
PR
-
JRの花巻駅前。
そこには林風舎(りんぷうしゃ)という小さな館があります。林風舎 グルメ・レストラン
-
レンガ造りの館の外観は欧州風で、屋根下の破風窓ではミミズクが微笑んで居ました。
林風舎 専門店
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林風舎のステンドグラスの扉をそっと開き、2階へと続く階段を登ると現れるのは、カフェ。
お客さんが3組も入れば満席となるような小さなカフェですが、此処が宮沢賢治を巡る旅のスタートポイントで、まずはこのカフェでじっくりと賢治の世界に浸ることに・・・。 -
カフェの席に座り、カバンから取り出したのは私のバイブル的な本である童話【銀河鉄道の夜】。
本は背表紙がボロボロで年季を感じさせる佇まい。
ソレは当たり前で、この本は昭和60年に角川文庫から改版39版として発行されたもので、当時中学3年だった私が初めて自分で買った宮沢賢治の本です。
それまでは義務教育用の国語教科書にあった【くちなし】や【アメニモマケズ】、子供用に現代語に訳された児童書くらいでしか賢治の作品を読んでいませんでしたが、ますむらひろし氏による画で映画化されたこの本を境に、宮沢賢治の独特の言葉使いを用いた説明のつかない不思議な世界に迷い込むことになりました。 -
イチオシ
で、どうしてこのカフェ林風舎を、賢治旅の旅行記の冒頭にもってきたかって?
それは、林風舎のオーナーが賢治の実弟である宮澤清六氏の孫の女性であり、賢治に縁のカフェとして営業しているから。
弟の静六は賢治の死後、残された数多くの文書を整理し世の中へと送り出した人物で、静六がいなければ賢治の作品は農家の納屋に埋もれたまま、出版されることもなく、消えていたかもしれないとも言われています。
カフェのケーキ・メニューは賢治の作品名に因んでいて、
注文の多いロールケーキ・オリザや英国海岸バウムクーヘンがあり、
飲み物とのケーキセットで1200円くらいでした。 -
賢治ファンの私としてはここでこのケーキをオーダーしないわけはなく、私が選んだのが【注文の多い料理店】から名付けられたロールケーキで、
-
相棒が頼んだのがイギリス海岸の石畳をイメージしたバームクーヘン。
コーヒーカップには賢治が理想郷;イーハトーヴの象徴として好んだミミズクが描かれていました。 -
イチオシ
【銀河鉄道の夜】のお話がきっかけで始まった旅ですので、賢治の郷への第一歩もまた、銀河鉄道からでしょう。
花巻には不思議な場所がいくつかあり、花巻駅から歩いて5分のこの場所もそんな所の一つです。
この絵の描かれている壁は日中はただの白壁ですが、太陽が隠れる頃になると其所に現れるのは惑星から宇宙軌道へと走り出す銀河鉄道の姿。 -
この壁画は“未来都市銀河 地球鉄道壁画”と呼ばれて、高さ10m、長さ80mの道路脇の壁に夜間しか見ることの出来ない特殊な塗料で描かれています。
未来都市銀河地球鉄道壁画 名所・史跡
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特殊な塗料はブラックライトに反応する性質があり、夜にブラックライトでライトアップすることにより壁画を浮かび上がらせているそうです。
(写真:壁画全体図、ライトアップ時間は夜10時まで)
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花巻で宮沢賢治について深く知りたいと思ったときに行くべきなのが、丘の上にある宮沢賢治記念館。
宮沢賢治記念館 美術館・博物館
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367段の長い階段の先に、宮沢賢治記念館はあります。
記念館の展示は賢治の生涯のテーマであった科学・芸術・宇宙・農業・宗教に深く踏み込んだ内容でした。
特に宇宙分野では、童話:銀河鉄道の夜の手書き原稿(コピー)が多く展示され、第1次稿から第4次稿までの遍歴がわかりました。
賢治の手書きの原稿は読みやすい文字の時もありましたが、時として殴り書きで判別が難しい文字もあり、その時々の賢治の心のあり方が文字に出ていて興味深かったです。
また、最終的に【銀河鉄道の夜】としてまとめられ現在出版されている話が、賢治の長い長い推考の末に選ばれた話であり、物語の最初の出だしの部分である“午后の授業”の章・・・学校の先生がジョバンニや生徒達を前に「ではみなさんは、そのように川だと言われたり、乳の流れた跡だと言われたりしていた このぼんやりとした白いものが本当に何かご承知でしょうか」と問いかけるシーンが第4次稿で初めて付け加えられたことを知りました。 -
宮沢賢治記念館内部はカメラ撮影が禁止なので詳しい写真はありませんが、活字となった物語や詩を読むだけでは分からない宮沢賢治とその思想の一端に触れるには最適の場所だとは思います。
ただ、記念館が対象としているのは、あくまでも大人。
小学生よりも小さなお子さんが訪れたとしても、文章展示の多い館内では退屈するかもしれません。 -
記念館では季節によって特別展が開催されていて、私が訪れた時は童話の【四又の百合】(会期:2020/7/15~9/13)でした。
賢治は童話作家であり詩人でもありましたが、彼の思考のその底を流れるのは子供の頃から親しんできた宗教の法華経の思想。
そして、賢治の童話には“西域もの”に分類される仏教の話があり、特別展の“四又の百合”も賢治が作り出したハーキャム城がある小さな村が舞台です。
特別展では、【四又の百合】の直筆原稿が展示されていて、コレはなかなかレア!
直筆のコピーの展示は一般的ですが、賢治の本物の手書き原稿が見られる機会なんてそうそうあるものではなく、ちょっと興奮してしまいました。 -
イチオシ
記念館のすぐ近くには、童話【注文の多い料理店】に出てくるレストランの山猫軒があります。
レストラン山猫軒 グルメ・レストラン
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山猫軒の扉の脇には“どなたもどうかお入りください。決してご遠慮はありません”の文字。
もし、私が賢治の童話【注文の多い料理店】を読んでいなかったら、ついついこの言葉に誘われて山猫軒への扉へと手をかけてしまうかもしれませんが、私は、この扉を開けてレストランの中へと入ってしまったふたりの紳士のコトをもう既に知っています。山猫軒 グルメ・レストラン
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山奥で猟をしていた二人の若い紳士が道に迷った時にふと目の前に現れたのが、WILDCAT HOUSE山猫軒。
何も捕れなかった狩りに心底疲れ果てていた彼らは、山の中で見つけた高級そうなレストランに大喜びし、その扉を開け、店内へと入っていきます。
レストランの廊下には扉がたくさんあり、そこには「当軒は注文の多い料理店ですからどうかそこはご承知ください」と書いてあり、二人の紳士は扉をくぐる度に色々なお願いに書いてある通りに、外套や帽子を脱いだり、鉄砲を脇に置いたり、頭に酢の香りがする香水を塗ったりと大忙し。
彼らは美味しい西洋料理を食べられるならば・・・と、レストランが書くそのお願いに沿って行動しますが・・・
(写真:宮沢賢治童話村にて展示ミニチュア 【注文の多い料理店】より) -
山猫軒の最後の扉の先で二人の紳士を待ち受けていたのは、凶暴な山猫たち。
つまり、注文の多い料理店とは、メニューの品数が多いとかオーダー数が多くて大繁盛しているレストラン・・・という意味ではなく、レストランにやって来るお客さん(山猫の餌)に対しての注文が多いという意味。
山猫たちは山でカモ(この場合は人間)を見つけると高級レストランの幻影を見せ、彼らが自主的に西洋料理風の味付けになるように行動させていたのです。
二人の紳士も最後の最後に自分たちは騙されていて、山猫の食事となるべく行動していたと気がつきますが、その時点では、鉄砲も何もかも身を守るものは近くにはない丸腰の状態で、あわや凶暴な山猫たちの餌食となってしまいそうに・・・。
(写真:宮沢賢治童話村にて展示ミニチュア 【注文の多い料理店】より)
だから、私は、山猫軒の扉には手をかけませんでした。 -
相棒と私が花巻でのランチ場所としてセレクトしたのは“なめとこ山庵”。
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なめとこ山庵は手打ち蕎麦が有名で、季節の旬を生かした蕎麦メニューがあります。
夏の季節メニューは辛味大根の盛りそば(900円)で、私達のオーダーも勿論コレの中盛り(+200円)。
電話予約をしてから訪れる方も多いようで、4,5席敷かないテーブルの2つには予約席の木札。
繁忙期に訪れる場合には予め予約をしておくほうが良いのかもしれません。 -
辛味大根蕎麦は、辛味大根をつけ汁に入れるのではなく、盛り蕎麦の上に辛味大根を載せて食べるのが花巻流。
辛味大根とはいうものの大根そのものには強い辛さはなく、残暑厳しい9月にはそのさっぱりとした舌触りがぴったりで、美味しくいただきました。
この蕎麦屋の名前の“なめとこ山庵”。
この店名も宮沢賢治の童話【なめとこ山の熊】からその名前を貰ったのでしょう。
【なめとこ山の熊】は猟師の小十郎となめとこ山に棲む熊との心の交流の話ですが、交流といってしまうにはその話の中身は重く、動物の命をいただく代償は猟師自身の死である・・・という内容です。
【なめとこ山の熊】は深く読み解こうとすれば幾通りにも読めてしまう話で(賢治の話にはそのような内容が多いですが)、庵の店主さんがどのような想いを込めて店名にその名前を貰ったのか、興味深い所です。なめとこ山庵 グルメ・レストラン
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蕎麦庵の近くには、宮沢賢治イーハトーブ館もあり、イーハトーブ館は賢治研究家の中心地のような存在の場所で、出版されている賢治の書物を集めた資料館(図書館)があります。
この日はあまり時間もなかったので、1Fホールの特別展示のみを見ることにしました。 -
特別展は童話【双子の星】と【マグノリアの木】の挿絵原画展(会期:2020/9/2~10/30)。
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【双子の星】は夜空に浮かぶ双子座の二つの星であるカストルとポルックスを軸にする話で、物語の中での二つの星の名前は“チュンセ童子”と“ポウセ童子”。
その二人の童子を巡る物語の挿絵が、文章と共に展示してありました。
挿絵を描いたのは高山たみ子さんで、ふんわりとしたそのタッチに惹かれました。
写真は【双子の星】に出てくる1シーンで、天の川の泉で宿敵同士の“大烏(カラス)”と”蠍“が運悪く顔を合わせてしまった時の様子を表現していて、大烏を黒いマントを被った魔法使い的な雰囲気で描いているところが、なるほど!
童話の中では烏と蠍は喧嘩をして相打ちとなるのですが、私の中では蠍と烏ならば蠍の方が毒があるので強いのでは・・・と話を読む度に思っていました。
でも、大烏が魔法使い的な雰囲気ならば、蠍に引けをとらないですね。宮沢賢治イーハトーブ館 美術館・博物館
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こちらの挿絵は、帚星(彗星)にウソの話を聞かされて騙されている二人の童子の様子を表していて、こちらも悪役の彗星のヒール的な表現に納得でした。
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イチオシ
イーハトーブ館の入口にはベートヴェン・スタイルの賢治のシルエット。
宮沢賢治がベートーヴェンが大好き(ドヴォルザークも好きだったそうです)なことは有名ですが、このシルエットのことを賢治ファンがベートーヴェン・スタイルと呼ぶと、この旅で初めて知りました。 -
花巻に現在あるのは、賢治の作品が評価されてから作られた記念館等だけではありません。
賢治が農学校の先生をしていた時代にも花巻に存在し、数多くの著書の中に出てくる場所も残されています。
その1つがイギリス海岸(カフェのバームクーヘンもイギリス海岸をイメージして作られています)です。
宮沢賢治がイギリス海岸と呼んだその場所は海ではなく北上川と瀬川の合流点付近で、賢治が生きていた時代では夏になり河川を流れる水の量が減ってくると川底の凝灰質の泥岩が地上に露出し、独特な河川のその姿が英国ドーバー海峡の白亜の海岸と似ていることから、賢治は北上川のその辺りをイギリス海岸と名付けました。
私が訪れたこの日、イギリス海岸と思われる辺りは超大型で猛烈な台風10号がもたらした雨で増水した川のせいで、全てが水の中。
残念ながら、賢治が感じたイギリス海岸の風情を味わうことは出来ませんでした。イギリス海岸 自然・景勝地
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川が渇水の時のイギリス海岸は、北上川の河川敷にあったこの看板の写真のように見えるそうです。
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イギリス海岸は雨で残念でしたが、このイギリス海岸付近で、賢治の童話に幾度か登場するものを見つけました。
この写真、なんだか分かりますか。
クルミの実です。
童話【銀河鉄道の夜】の“北十字とプリオシン海岸”の章でも登場するクルミ。
童話の中で、博士が発掘作業を行うプリオシン海岸で拾い上げた化石クルミです。
賢治は花巻のイギリス海岸から着想を得てプリオシン海岸の描写を思いついたとも言われていて、こうやって賢治もイギリス海岸でクルミの実を拾っていたのかもしれないと考えたら嬉しくなってしまいました。 -
イチオシ
また、イギリス海岸のすぐ近くには“北十字とプリオシン海岸”の章にでてくる有名な場所があります。
それは銀河鉄道を旅するジョバンニとカンパネルラが途中下車をした停車駅の”白鳥の停留所”。
観光客用の客寄せの偽物では?と思われそうですが、此処は実際に今も利用されている停留所で、現在の使用用途はバス停ですが、ほんのちょっとした遊び心が賢治ファンには嬉しい所です。 -
白鳥の停留所の床には、実際の星座のはくちょう座がタイル画で描かれていました。
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花巻の宮沢賢治関連施設で一番人気なのが、宮沢賢治童話村。
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童話村は賢治の作品を子供でも分かるように視覚に訴えるように作られた施設で、賢治の学校、賢治の教室、そして屋外展示の3つで構成されています。
この童話村は私が開設当初から気になって居た場所で、花巻へと来たら絶対に足を運んでみたいと思って居た場所でした。
(写真:童話村“賢治の学校”のエントランス) -
宮沢賢治の童話や詩は、ソレを読むときの読み手の年齢やその時のシュチュエーションにより受け取り方や感じ方が変わる作品が多いと思います。
(写真:童話村“賢治の学校”-ファンタジックホールの展示-賢治が愛用したコートと旅行鞄のオブジェ) -
まさに【銀河鉄道の夜】の“北十字とプリオシン海岸”の章で牛の先祖のボスの化石を発掘していた博士が発した言葉が賢治の童話の本質を表しています。
(写真:童話村“賢治の学校”-エントランス- 【銀河鉄道の夜】に出てくる三角票の原型ではないかと言われる夏の星座;はくちょう座・こと座・わし座が形作る夏の大三角) -
「僕らから見るとここは厚い立派な地層で120万年位前に出来たという証拠も色々あがるけれども、僕らと違ったヤツから見てもやっぱりこんな地層に見えるのかどうか、あるいは風や水や、がらんとした空かに見えやしないかと云うことなのだ」/ 宮沢賢治著【銀河鉄道の夜】より博士の言葉を抜粋
(写真:童話村“賢治の学校” 宇宙の部屋の展示) -
だから、私からみた賢治の世界の風景と、他の方が想像する賢治の世界がどのように異なるのか、私も知りたいと思っていました。
(写真:童話村“賢治の学校”-大地の世界- 虫を愛した賢治には大地はこのように写ったのかもしれません) -
イチオシ
そんな期待を込めて訪れた宮沢賢治童話館でしたが、“賢治の学校”の施設内に具現化したという宮沢賢治の世界には、若干期待外れの部分があったことは否めませんでした。
(写真:童話村“賢治の学校” ファンタジックホールの展示)賢治の学校 美術館・博物館
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どちらかというと、 “賢治の学校”での展示は“写真映え”を狙った感が強い・・・と感じました。
(写真:童話村“賢治の学校” 宇宙の部屋の展示) -
昨今のSNSばかりの流れを意識すると仕方が無いのかもしれませんが、もう少し作品自体、賢治ワールドそのものをターゲットにして深く掘り下げて企画して欲しかった・・・というのが、日中に宮沢賢治童話館の屋内展示を拝見した感想です。
(写真:童話村“賢治の学校” 天空の部屋の展示) -
しかし、屋内施設 “賢治の学校”の展示の中には、共感出来るようなものもありました。
それが、一面の壁が白く塗られた部屋であるファンタジックホールの椅子展示で、ホールには5客の椅子があり、それぞれが賢治の童話をモチーフにデザインされていました。 -
勿論、イメージとしての椅子なので賛否両論があるとは思いますが、童話を読んでから椅子を眺めることで、デザイナーがどんな気持ちで作り上げていったかの過程がなんとなく読み取れ、面白かったです。
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写真は旅行記の序文で紹介したクラムボンが出てくる童話【やまなし】をモチーフにした椅子で、遠目に眺めると風車を上につけただけの椅子にも見えますが・・・
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近くに寄り、しゃがみ込み、椅子の座面の高さに目線を合わせてみると、この椅子が蟹の子供等の目線から見た水面の世界を表現しているのではないかと気づきました。
椅子の背中の部分は透明なアクリル筒で、筒の中を気泡がいくつも漂い、まるでソレは蟹の子らがぶくぶくと吹く泡のよう。
そして、背の上の風車は、川面のそよ風を表しているかの様に感じられました。 -
期待値が大きすぎ、屋内展示に関しては少し残念と感じた部分もあった宮沢賢治童話村ですが、実はこの感想は夕方以降に一変!します。
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童話村では期間限定で賢治フェスティバルとして童話村の森のライトアップを実施していて、9月以降のライトアップは土日のみの開催(2020年の開催期間:2020/8/1~10/18)。
夕方17:30に童話村を再訪し、夕暮れ時からライトアップされた賢治の森を歩いてきました。 -
ライトアップが始まるタイミングは日没時間。
薄暮の頃の童話村の森は、日中の明るさと夜の闇がせめぎ合う世界。 -
ゆっくりと闇が支配していく森の中に賢治の世界が形作られていきます。
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芝生エリアの中央にあるのは不思議な形のオブジェ。
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キノコのようにも見えますが、蓮の花のようでもあり、賢治の中にあった法華経の世界観を光で表現しているのかもしれません。
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日中に訪れた“賢治の学校”もライトアップされ、夕闇の中に浮かび上がっていました。
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ライトアップ・オブジェが一番その世界観を如実に表現していたのは、森の中に太陽の残した最後の光が消える直前。
光と闇のせめぎ合いの最中で見るオブジェが一番幻想的でした。 -
光の卵、光る筍にも見えるオブジェ。
オブジェのその内に秘められた輝きは、賢治の内面を含有するかのよう。
光る卵は童話【銀河鉄道の夜】に出てくる、中で小さな火が燃える水晶みたい。 -
賢治フェスティバルのライトアップで使われているのは偏光フィルターと呼ばれる特殊なフィルターで、その組み合わせ方向を90度変えるだけで見え方が異なってきます。
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イチオシ
普通の色フィルムだけではなく偏向フィルターだからこそ、このような不思議な色合いとなるのでしょう。
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花の蕾の様に見えるこのオブジェ。
よく見ると、ほおずきの実の如くその内側に丸い物体があり、丸いモノはまるで地球の様な水をたたえた惑星にも見えます。 -
勝手な想像ですが、光の花の蕾1つずつが賢治の物語の世界で、この花が開く夜、その世界が、私達の夢の中に顔を覗かせるのかもしれません。
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夕方にはぼんやりと光っていた土手にあるオブジェも・・・
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夜がやってきてその光が徐々に強くなると、その模様の中に賢治Worldを浮かび上がらせました。
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宮沢賢治童話村のライトアップ、此処は賢治の世界観が好きな方にはお勧めです。
闇に浮かぶ光に童話の情景を重ね合わせた森は、夢想の世界への扉。
未だ知らぬ、宮沢賢治の世界に出会えるかもしれません。 -
この日、花巻で一夜の宿としたのは、新花巻駅から徒歩圏の“ケンジの宿”。
翌日が登山の予定でしたので、敢えて素泊まりで早朝出発が可能な宿泊形態の宿をセレクト。
ゲストハウス的宿ですが、コロナ禍ということもあり敢えて満室にせず、ソーシャルディスタンスの保てる客室配置としてあり、お風呂やトイレは共有ですが、部屋にはTVも冷蔵庫もあり、宿としては十分な施設でした。
今回はGo toトラベル適用の恩恵もあり、二人で宿泊して3120円/1泊の宿代。
新幹線の停車駅である新花巻駅からも徒歩圏内であり、宮沢賢治資料館や童話村へも徒歩20分と近いのにこのコスパの良さは最高!
賢治関連の施設巡りの宿としたい旅人には、“ケンジの宿”お勧めです。ケンジの宿 宿・ホテル
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宮沢賢治を巡る旅の〆は、旅行記の冒頭で紹介した童話【やまなし】に登場する謎の物体;クラムボンが何であるのかについての考察を・・・。
世の中には宮沢賢治の研究者がたくさん居て、昭和初期から現代に至るまで多くの研究者が、クラムボンとはなんぞや・・・という問いに対し、その解を模索しています。
昭和初期の頃には、クラムボンはアメンボ(水生昆虫)であると言われ、その後、蟹の吐き出す泡説、屈折した光説、蟹の仲間説、トビゲラ(水生昆虫)説と色々な解釈がなされ、現代もその研究は続いています。 -
私が小学校で習った頃は、先生は最終的にはクラムボンが何であるのかの一択の解は示さずに、児童の意見を聞き、いろんな解釈が出来るね・・・というところで授業を終わらせたように記憶していますが、やはりソレでは中途半端。
せめて、いろんな意見がある中でも、先生はどの意見にこのような理由から賛成すると云ったコメントが欲しい所ですよね(現代の小学校ではどのような解説を先生方はなさって居るのでしょうか)。 -
大人になった私があらためて宮沢賢治の童話【やまなし】を読み返して思うのは、クラムボンはと川面に生きる生物たちが作り出した空気の小さな粒なのではないかと言うこと。
水草が光合成をしてその葉の表面に結ぶ小さな空気の粒、蟹が口から吐き出す泡、魚が水面を泳ぐときに紡ぎ出す小さな水流が作る泡。
それらに太陽の柔らかな光が反射してキラキラと輝く様子を蟹の子らは「クラムボンが笑ったよ、カプカプ笑ったよ」そんな風に感じたのではないか・・・そんな気がしています。
(写真:東京都すみだ水族館の水草の森/2020年8月撮影より)すみだ水族館 動物園・水族館
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かぷかぷ わらつたよ/クラムボン漂う IHATOVO
2020/09/05~
花巻
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この旅行記へのコメント (6)
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- ショコラさん 2020/10/25 11:31:06
- 童話村のライトアップ、美しい!
- ウェンディさん、こんにちは。
童話村のライトアップ、とてもファンタジックで美しい。。。感動~。
去年、童話村に行ったのですが、ライトアップは見られなかったので、とても残念で……。
ウェンディさんの旅行記を拝見して、想像していた以上にすごく綺麗。これはリベンジせねばと思いました。
わたしも賢治が好きなのですが、ウェンディさんの知識と考察の深さに脱帽です。
賢治作品をまた読み返したくなりました。
ショコラ
- ウェンディさん からの返信 2020/10/25 18:58:05
- RE: 童話村のライトアップ、美しい!
- ショコラさん こんばんは。
賢治の郷である花巻への旅は、前日の夜に宿を予約しての突貫工事の旅。
本当ならば4ヶ月前のGWに岩手に行く予定だったのですが緊急事態宣言でキャンセルとなり、そのリベンジ旅でもありました。
もともと宮沢賢治の作品が好きでしたので、花巻で訪れる先々で目にするモノが興味深く、目の前に広がる景色と物語の中に出てくる描写を重ね合わせたりして、幻想旅行を楽しんできました。
童話村のライトアップは偏光硝子を用いた演出で、考えていた以上に素敵♪
完全に真っ暗になる直前の明るさの残る空とのコラボが賢治の作品の銀河鉄道の夜に出てくる光景のようで、ちょっと感動してしまいました。
童話村のライトアップは雪の降らない時期の週末だけなの、旅程と合わせるのがなかなか難しい部分がありますが、賢治の世界観が好きならば是非訪れてみてくださいね。
ウェンディ
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- pedaruさん 2020/09/20 19:31:19
- 宮沢賢治
- ウェンディさん こんばんは
宮沢賢治について詳しい作品と呼ぶような旅行記を拝見しました。
いろんな顔を持った賢治ですが、余すところなく解説してくださいました。
子供のころから アメニモマケズは暗記していましたが、今この歳になって
改めて美しい心の持ち主の詩だと痛感しています。こんな人になりたいという賢治は
どんな人なのかと思っておりましたが、ウェンディさんのお話で、賢治の一端を知った気がします。最愛の妹さんを亡くし、自分も若くして他界した彼を偲ぶにふさわしい旅行記でした。
pedaru
- ウェンディさん からの返信 2020/09/22 22:25:24
- Re: 宮沢賢治
- pedaruさん こんばんは。
賢治に会いたくて突貫工事で予定を組み、花巻でKenji Worldに浸ってきました。
宮沢賢治さんが書いた作品は、子供向けの童話から農業指南書まで数多くあり、その大半が旧仮名遣いであるため、私が読めていたのはほんの少しだけ。
だから今回訪れた宮沢賢治記念館で、私の知らない数多くの文書に出会いました。
様々な顔を持つ賢治ですが、私にとっての宮沢賢治はやはり童話作家としての彼。
ファンタジーの世界でありながらも、賢治が生きる現実世界の出来事を反映して書かれた話の多くはその背後に潜む賢治の思想を反映していて、大人になって読み返すと更に興味深く感じます。
アメニモマケズは私も小学校の頃、覚えました。
あの頃は言葉の響きが面白く感じましたが今、再びあの詩を読み返すと、賢治の苦悩の世界が見えてくる気がします。
きっとあと20年後に再び作品を読むときには、また異なる視点からの賢治の姿が見えてくるのでしょう。
そんなだからからこそ、賢治は今なお皆を魅了するのですね。
ウェンディ
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- nikさん 2020/09/15 18:57:47
- 僕も昔、この地を旅しました。
- 学生時代、青春18きっぷとバスでこの地を旅したことがあります。
のどかな田園風景が広がる地で癒されました。
ウェンディさんの旅行記を見て久々に昔を思い出しておりました。
- ウェンディさん からの返信 2020/09/15 22:35:17
- Re: 僕も昔、この地を旅しました。
- nikさん こんばんは。
花巻は静と動のどちらかに分類するとしたら、静の町ではないかと訪れる前は思っていました。
しかし、実際に自分で歩いてみて、勘違いを訂正。
宮沢賢治さんがIHATOVOの中に物語を見いだしたように、目には見えない不思議な躍動感が溢れる地域であり、そのパワーに癒やされてきました。
nikさんが青春18切符で巡られた頃と今、車窓の景色は多少変わっているかもしれませんが、その根底に流れるモノは同じなのだと思います。
ウェンディ
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