東武鉄道の開業七駅を歩いてみよう。（その4）越ヶ谷1/3

2025/02/01 - 2025/02/01

天下を治めた徳川家康公は、奥州街道の整備を進めました。後に家康公を日光に祀ると、奥州街道の千住から草加・越ヶ谷・粕壁・杉戸などを通って宇都宮に至る区間は日光街道の一部となりました。
現在の越谷市のうち、越ヶ谷町と大沢町は江戸時代、日光街道の宿場町としてとても栄えていた場所です。
千住から歩き始めた松尾芭蕉翁は、草加松原を通って越ヶ谷宿を歩いたはずですが、不思議なことに何の記述も残していません。
次の粕壁宿に宿泊したことが推定されているので、先を急いだのかも知れません。

エリア 越谷(埼玉)

草加宿を過ぎて、それまで綾瀬川の右岸に沿って歩いてくると、蒲生大橋で川を渡って綾瀬川の左岸に出ます。

蒲生大橋。
橋の中央付近に草加市と越谷市の市境があります。
芭蕉翁に随行した曾良の記録では、草加宿で橋を渡って越ヶ谷宿へと書かれており、まさしくこの橋のことです。

親柱の「がもうおおはし」。

橋の欄干に高浜虚子の句が記されていました。明治27年の早春に草加松原で詠んだ句です。
舟遊び
綾瀬の月を
領しけり

綾瀬川の下流方向、草加宿。

綾瀬川の上流方向、蒲生という名前どおり川岸には蒲が生えています。

越谷市側にも句が記されていました。
道ぞ永き
日にやき米を
加茂蒲生
元禄16年水野長福とありますが、はて、どのような人物なのか。帰宅してから調べました。
福山藩主水野家は、元禄11年に藩主が2歳で亡くなり家名は断絶しました。
5代将軍徳川綱吉公は名家が消えることを惜しみ、一族の水野勝長に下総国結城領の立て直しを命じました。勝長は、家老の水野織部長福（おさもと）に結城の下検分を命じています。
水野長福は、漢詩・俳句にも長じており、元禄16年癸未正月に江戸藩邸を出立したときから「結城使行」と題して日記を残しています。千住から小山まで日光街道を経て結城領に入りました。その時に詠んだ句です。
よろしければ結城を訪ねた旅行記もご覧ください。
https://4travel.jp/travelogue/11867501
こういう知見は実際に歩かないと得られないものですね。

蒲生一里塚と愛宕神社。

成田山の寺柱と地蔵尊。

蒲生の一里塚碑。

愛宕神社です。

旧日光街道は、蒲生茶屋通りの名前となり、越ヶ谷宿へ向かっています。

ボケの花。

さて、越谷駅の東口広場から旅を続けましょう。

越谷市のマンホール蓋。
県の鳥でもあるシラコバトが描かれています。背景はケヤキ。

越谷市のマンホール蓋（消火栓）。
こちらは消防服に身を包み放水銃を構えたガーヤちゃんを描いています。

ガーヤちゃんの蔵屋敷。
越谷駅東口（北側）高架下にあります。
観光物産拠点施設として平成29年5月21日に開業しました。
越谷の伝統工芸品（だるまや手焼せんべい）や越谷市が認証している「こしがや愛されグルメ」認証品などを販売しています。9時～19時まで。
併設の蔵かふぇは、10時～20時まで営業。
月2回のお休みあり。

店頭でイベントを開催しているときもあります。

越谷特別市民のガーヤちゃん。
かつて徳川家康公は御殿を作り鷹狩を行っていました。そして現在も宮内庁の鴨場（日本に2ヶ所）があるほど名産の鴨が、越谷ネギを背負い、鍋に入っているというキャラクターです。

ガーヤちゃんの蔵屋敷には、鉄道ジオラマがあります。
室内には段ボール箱が山積みされ、ジオラマは故障したまま放置されていて残念ですが、浅草から日光まで、東武鉄道のレールがあります。

越谷花火大会は、7月最終土曜日の19～21時に開催され、約5,000発の花火が打ち上げられます。

浅草寺界隈。

東京スカイツリーも建っています。

越谷レイクタウン周辺。

越谷の田んぼアートと展望台。

越谷だるま。
江戸時代の中頃、（越谷市）間久里の「だる吉」という人形師が、従来の「起きあがり小法師 」に、中国の禅僧・達磨大師が座禅姿を描いたのが始まりという説もあります。
昭和59年「越谷張子 だるま」として、埼玉県の伝統的手工芸品に指定されました。
越ヶ谷宿と粕壁宿の間にある間久里には茶屋があり、芭蕉翁が歩いた時代にはうなぎの蒲焼が名物だったそうです。

日光の紅葉もジオラマになっています。。

越谷駅の東口広場に越ヶ谷駅開設記念碑があります。
明治32年に東武鉄道が開通したときの越ヶ谷駅は、今の越谷駅ではありませんでした。
現在の越谷駅は、大正9年（1920年）に東武鉄道初の請願駅として開業しました。
その誘致活動の記録を残すために記念碑が作られ、一時的に久伊豆神社に移された後、平成23年（2011年）11月から駅前広場に戻されました。

元荒川鉄橋を走るSLの写真。記念碑より複写。

越谷駅。
昭和30年（1955年）に越ヶ谷町が周辺町村と合併して越谷町となったことを受け、翌年に越谷駅に改称。
越谷市には、昔からの地名「越ヶ谷」と昭和30年以降の「越谷」とが併存しています。
現在の駅舎は、昭和57年（1982年）に建てられた2階建てです。駅構内に店舗等はありません。

駅前通りを東へ歩きましょう。

300mほど歩くと旧日光街道です。
両側の建物が道に迫っていて、圧迫感が強いです。

少し進むと路地の先に鳥居が見えます。

新町八幡神社。
文和2年（1353年）銘の板碑を御神体としているそうです。

八幡宮の額。
御祭神は誉田別尊です。

御本殿。

旧日光街道沿いに昭和モダンな建物がありました。昭和時代の初め（1930年代）に花開いた和洋折衷文化を感じる建物です。

横田診療所跡。
昭和10年に越谷郵便局として竣工し、昭和30年１月末まで使用されました。
その後は横田診療所（内科・産科・婦人科）として営業していましたが、院長の死去により廃業しました。保存状態も良く残してほしいものです。

川口の赤山陣屋から続いている旧赤山街道との交差点から、西側の様子。

大きな屋敷ですが、敷地内には集合住宅が数棟あります。

旧日光街道を北へ進みます。

越谷市のマンホール蓋（仕切弁）。
大輪の菊花を描いています。

越ヶ谷宿の問屋場（といやば）跡です。
江戸時代、越ヶ谷中町の各主・会田五郎兵衛の屋敷だった場所で、宝永4年2月からは問屋場として定着しました。問屋場には25人25疋が置かれていました。
現在は、ウィンハイム会田という店舗兼住宅のビルが建っています。今も会田家の子孫が所有しているのでしょう。

越ヶ谷宿の脇本陣跡。問屋場跡の向かい側です。
安永2年（1773年）まで脇本陣「四ッ目屋」（浜野次郎右衛門）でした。
近年はは松本屋洋品店でしたが、現在は集合住宅です。

問屋場跡と脇本陣跡に挟まれた道を左へ折れると、中町浅間（せんげん）神社があります。
境内の大欅は、市指定文化財です。樹高23m、幹回り7m、幹は地上6mのところで6本に分岐し、さらに上方で多数の枝を広げています。樹齢約600年と推定されていますが、樹勢はきわめて旺盛です。

創建不詳ながら、応永32年（1425年）銘の懸仏（市指定有形文化財）があることから、室町時代には鎮座していたと推定されています。懸仏には、富士山と大日如来が打ち出されています。

社殿。御祭神は木花咲耶姫命です。

社殿の後方には、古峰神社（左）と笠間稲荷神社がありました。

浅間神社の駐車場から、木下半助商店石蔵が見えます。
木下半助商店は、明治時代後期から大正時代にかけて建築された道具店でした。表通りに面する店舗のほか、土蔵、石蔵、主屋、稲荷社が現存し、明治期の越ヶ谷における商店の面影をよく伝えています（非公開）。平成27年（2015年）に国登録有形文化財の指定を受けました。
石蔵は明治42年（1909年）、防火を目的に房州石を用いて建てられています。

木下半助商店主屋。
木下家は江戸時代からの商家で、明治以降は金物商を営んでいました。現在の建物は明治32年（1899年）の大火後、大正4年（1915年）に再建されたものです。

庭に大きな釜が見えました。

木下半助商店。表通りに面する店舗。

塗師屋（小泉市右衛門宅）。
江戸時代に太物（綿や麻の反物）を扱っていた呉服商（廃業）で、明治32年の大火後に再建された建物です。黒漆喰で仕上げられた店蔵や煉瓦の袖壁など、重厚な佇まいが特徴です。地元の宮大工金子浅二郎が建築しました。
大火の経験から、二重の防火戸、台所や風呂を別棟にするなどの工夫がされています。

塗師屋。土蔵は明治8年の竣工です。

隣接して鍛冶忠商店があります。
十六代続くという旧家で、土蔵造の商家は明治33年（1900年）建築。

越谷商工会議所。
安永2年（1773年）まで越ヶ谷宿の本陣だった会田八右衛門家（名主・問屋・本陣の三役を兼務）の跡です。
それまで世襲で本陣を勤めた会田八右衛門家ですが、経営がいきづまり没落、越ヶ谷町から退転したといいます。
その後は、大沢町の照光院が仮本陣を勤めるなど宿の中心は大沢に移りました。

この辺りの道は北西へ進んでいます。

河内屋旅館。
創業は約300年前の老舗旅館です。
館内には和室や露天風呂があり、自然に囲まれた落ち着いた雰囲気とのこと。部屋数18室、 Wi-Fiあり。

道の向かい側に大きな駐車場があります。

ザ・パーク第5越谷商工会議所とあり、越谷商工会議所を利用する人の駐車場がありました。
隣接する「はかりや」を利用するにも便利ですが、たぶん有料です。

はかり屋（旧大野家住宅）。
大野家は最初は肥料店だったが、後に秤を扱い「はかりや」と呼ばれました。
明治38年竣工の主屋（金子浅二郎が棟梁）と、それ以前に建てられた蔵が平成31年3月に国登録有形文化財となりました。蔵も街道沿いにありましたが、曳屋しました。

現在は古民家複合施設としてミニ商業モールのようになっています。和食レストランやジビエ料理店などがありました。

会田金物店。こちらも明治38年頃に竣工した土蔵造りの商家です。

稲荷家は昭和初期創業の鰻屋。

本のある蔵 糀屋。
稲荷家の奥には、味噌醸造業で使用された、昭和前期竣工のRC造の蔵を利用した「本のある蔵 糀屋」があります。都築家糀屋蔵として国登録有形文化財に指定されています。。

旧日光街道を進むと市神神明社の鳥居がありました。

手水舎。

市神神明社の拝殿。
文禄年間の頃から毎月27日に市を開いていたことから、市の神として祀られていたようです。正徳3年（1737年）創建。
平成8年の道路拡幅工事に伴い現在地に移転するまでは元荒川と旧日光街道の交差する自然堤防に鎮座していました。
御祭神は、
大日要貴（おおひるめのむち）尊
神大市比賣（かみおおいちひめ）命
手力雄（てぢからお）神
の三柱です。

社殿の右手に稲荷社の赤い鳥居があります。

市神神明社の御本殿。

稲荷社。

米長乾物店（南面）。

キッコーマンの看板です。今では見ることのないホーロー製。

米長乾物店（正面）。

岡埜製菓店。
明治25年創業の和菓子製造・販売のお店です。特に、越谷特産の慈姑（くわい）を使ったくわい大福、くわい饅頭が評判です。
慈姑は世界中に分布していますが、野菜として栽培されている地域は、中国と日本だけです。日本では江戸時代から盛んに栽培され、生産量日本一は広島県福山市で、越谷市は第2位です。

大沢橋。
越ヶ谷本町から大沢橋（大橋）で元荒川を越えると、江戸時代後期に本陣や脇本陣の置かれていた大沢町です。
明治期の大火の影響もあり、越ヶ谷宿には宿場時代の面影は見つかりません。本陣や脇本陣跡を示す案内も全くないため、ある程度の知識がないと街歩きを楽しめないかも知れません。
ここまでお読みいただきましてありがとうございました。