2017/01/11 - 2017/01/11
66位(同エリア920件中)
玄白さん
宇都宮というと全国的に知られているのはギョウザの街ということぐらいしかなく、観光という点では今一つ魅力に欠けるというのは、この街の住民としても認めざるを得ない。だが、知名度は決して高くはないが、キラリと光るすばらしいモノもある街なのである。
そんなモノの一つに、宮染めという染物の伝統工業がある。今では宮染めをやっている業者は3社しかないということだが、そのうちの一社「株式会社中川染工場」は、予約すれば見学できるということを知ったので、行ってみた。
- 旅行の満足度
- 4.5
- 同行者
- 一人旅
- 交通手段
- 自家用車
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-
宮染めの工房「中川染工場」は、宇都宮市の中心部を流れる田川のほとりにある。昭和50年までは、染め上げた布の水洗いを、この田川で行っていたそうだ。環境汚染の問題により、それ以降は、工場内で水洗いをしているが、今でも田川由来の地下水を使っているという。
写真は宇都宮市中心部を流れる田川(4年前の桜の季節に撮影した写真) -
事業としてやっているので、工房という言い方は正しくないかもしれない。
見学したい場合、1週間前に直接「中川染工場」に電話で申し込か、WEB上のメール(http://www.somemono-nakagawa.com/page_04.html)で予約すればよい。
時間が取れるときには、5代目となる女性の中川社長みずから案内して下さる。
工場敷地の様子。大きなやぐらが目を引く。吊るしてあるのは、無地の長~い生地。これから染める原材料である。 -
生地はそのまま染めるのではなく、最初に染料がよくしみ込むように、浸透剤に漬け置きする。その後、生地についている余分な浸透剤や汚れを洗い落とした後に乾燥させる。ただし、カラカラに乾かしてはダメで、適度な湿気があるうちに取り込むのだそうだ。そのタイミングも職人さんの感によるのだという。
中川染工場の創業は明治38年。現在27人の社員が在籍しているとのこと。浴衣と日本手ぬぐいの染めがメインだが、半纏などの染めもやっている。
宮染めは、江戸時代中頃、田川沿いに染め職人が集まって、半纏や前掛けを染めるようになったのが始まりだそうだ。なぜ、宇都宮で染め物が盛んだったのかというと、南隣りの真岡市が江戸時代に木綿の一大産地で、江戸の木綿問屋の仕入先の8割が真岡木綿だった時代もあったそうだ。つまり、材料の木綿生地産地に近く、染め後の水洗いに適した田川の清流があったからということのようだ。 -
年代物の絞り機。染めと洗浄が終わったあと、これで布を絞ってから、敷地内で天日干しして乾燥させる。
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中川社長の案内で、建屋の中を工程順に見学。
仕事場は、お世辞にも整理整頓されているとは言えず、雑然としている。昔ながらの家内工業の仕事場といった風である。 -
まずは染める模様のもとになる型紙の準備。
型紙は、丈夫な和紙を柿渋で数枚張り合わせたものに、模様を彫り込んだもの。高度な職人芸が必要で、型紙制作は鈴鹿市の職人に依頼しているという。染めの型紙は伊勢型紙と言い、鈴鹿市の一地域で需要の8割をまかなっている。中には人間国宝に指定されている職人もいるそうだ。宮染めがこれからも残り続けられるかどうかは、型紙制作職人の後継者がでてくるかどうかにかかっているのではないだろうか。
中川染工場の宮染めは、まず、この型紙を水に浸けて柔らかくするところから始まる。 -
次は型置きという工程。専用の台の上に生地を置き、型紙を生地の上に乗せ、上からヘラで糊を付ける。
こうすることで、型紙に彫られた模様の通りに、糊が着くところと、糊がないところが出来る。糊が付いていないところだけ染色されるというわけだ。
使われる糊は、見た目には泥のようにしか見えない。海藻由来の糊で化学薬品ではないのだそうだ。乾燥に弱いので、作業場にエアコンは使えないという。作業する工員さんは大変だ。
簡単そうにみえるが、均一に塗るには技能が要るらしい。この作業を見ていて、小学生の頃、学級新聞を作ったことを思い出した。蝋紙に鉄筆で原稿を書いて原版を作り、わら半紙の上に原版を置いてインクをのせて印刷するガリ版印刷と原理は同じなのだ。 -
一回ごとに生地を折りたたみ、たたんだ上から同じように糊を付けていく作業を繰り返す。一反につき10~12回折り返す。
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こうすることで、糊がついていないところの縁が立体的に形作られることになる。
型置きの工程が終わると、糊付けされた生地を、おがくずが敷かれた床に置き、その上におがくずを置いて糊の余計な水分を吸収させる。
作業場の床がおがくずが散らかって汚いな~と思っていたが、ちゃんと理由があったのだ。
見学中に、中川社長から生地を踏みつけないようにとしつこく注意された。おがくずにまみれているので、間違って踏みつける恐れがあるのだ。一旦踏みつけると、糊のかたちが崩れてしまうので、生地を洗い流してやり直さなければならないのだ。 -
次にいよいよ染めの工程に入る。
複数の色で染め分ける場合、染料が流れ出して混じり合わないように、糊で土手を作っていく。この工程を差し分けというのだそうだ。作業はケーキ作りのときにホイップクリームをのせていくのと同じように、糊を押し出していく。作業している人によると、糊を押し出すのに結構握力を使うので見た目ほど簡単ではないそうだ。入社したての新人がこの作業を実習でやると、1週間で腱鞘炎になるという。そんな試練を経ないと一人前になれないのだ。
差し分けと次の染めの作業は、細かい目の金網のような隙間がある専用台の上に置いて行われる。 -
この作業台には仕掛けがあって、台の下のペダルを踏むとバキュームされて、10~12層に折りたたまれた生地に注いだ染料が均一に下の層まで染みていくのである。
同じ色でも、濃度が違う2つの染料を同時に注ぎ、バキュームするペダルで浸み込むタイミングを調整してグラデーションを付ける。これは、相当熟練を要する難しい作業だということは見ていてすぐにわかる。 -
作業台の前には、見本が置かれていて、見本の通りに濃淡を出して染めていかなければならないのである。染料を注いて染め上げるので、注染と言われる技法である。
なお、注染は宮染め独自のものというわけではなく、日本手ぬぐいや浴衣の染色技法として古くから日本各地で使われていた染色技法である。 -
みごとに見本どおりのグラデーションで染められている。
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染料を注ぐのに使われるジョウロのような容器。ここでは、これをヤカンと呼んでいる。
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染料を注ぎ込む作業が一通り終わると、折り重なった生地をひっくり返し、今度は裏側から同じ作業を行う。こうすることで、裏表がまったく同じ色合いに染まることになる。注染の一番の特長である。
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これだけ難しい技能が求められるので、年配の頑固そうな職人がやっているのかと思いきや、こんな若い人がやっている。
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染めが終わると、次は洗浄工程。年季が入った洗浄機でガチャコン、ガチャコンと揺らして余分な染料や染め分けに使った糊を洗い流している。特別な洗剤は必要なく、水だけできれいに落ちるのだそうだ。原始的だが、環境にやさしい技術なのである。
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機械洗いが終わると、洗い残しがないか、チェックしながら、仕上げの手洗いをする。
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洗浄が終わった生地は、外に出して天日で乾燥させる。
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干し場には、いろいろな柄の生地が干されていて、染物工房独特の華やかな風景が広がっている。
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竿に懸けて縦に吊るして干すのではなく、両端をポールに懸けて横に広げて干す干場もある。
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この横に干してあるところで、反物の下に潜り込んで見上げると、こんなフォトジェニックな情景に変わる。
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この宮染めの中川染工場を訪問した一番の狙いは、青空に広がる鮮やかに染め上げられた反物の列をカメラに納めたかったからである。
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イチオシ
反対側からも撮影。逆光で照らされた反物が一層鮮やかに見える。
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縦構図で撮影
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イチオシ
背景の民家が入らないような位置とアングルで狙ってみたが、ちょっと奥行き感が無くなってしまった。
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一時期、価格が安いプリント生地に押されて注染技法の染物は衰退した。しかし、注染では、加熱処理しないので、生地が傷まず、通気性や吸水性に優れ、しかも裏表が同じ鮮やかな柄に仕上がるので、最近見直されつつあるという。
一方、プリント生地は、インクを加熱圧着するので、生地の耐久性が弱く、繊維にインクが入り込んでいるので、通気性、吸水性が悪く、しかも片面しかきれいな柄が作れないのである。
女性の4Travelerの皆さん、浴衣を着るなら注染の浴衣がオススメです。
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