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[承前]<br />ベルリン滞在も終盤。<br /><br />この日は、ベルリン国立歌劇場でリヒャルト・ワーグナーの楽劇(正確には『三幕のお話(Handlung in drei Aufzügen)』)『トリスタンとイゾルデ』を観に行ってきました。<br /><br />指揮はダニエル・バレンボイム。彼の指揮でこの楽劇を観るのは、1997年のバイロイト、2003年から04年にかけてのベルリン訪問で2回、合わせて4回目となります。<br /><br />今回のベルリン訪問は『トリスタンとイゾルデ』を中心にスケジュールが組まれたと言っても間違いではありません。<br /><br />『トリスタンとイゾルデ』の詳細については、ウィキペディアを参照してください。<br />https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%88%E3%83%AA%E3%82%B9%E3%82%BF%E3%83%B3%E3%81%A8%E3%82%A4%E3%82%BE%E3%83%AB%E3%83%87_(%E6%A5%BD%E5%8A%87)<br /><br />開演は16時でバイロイト音楽祭と同じですが、休憩時間が短いので終演は一時間ほど早い……それでも21時過ぎの予定ですが。<br /><br />この日の歌手を紹介しておきましょう。<br /><br />トリスタン:アンドレアス・シャーガー<br />イゾルデ:アニャ・カンペ<br />クルヴェナール:ボアツ・ダニエル<br />ブランゲーネ:ヴィオレッタ・ウルマーナ<br />マルケ王:ルネ・パーペ<br /><br />これは、ご存知のみなさんなら頷かれるでしょうが、現在考え得る最強の顔触れで、こうしたメンバーを常打ち歌劇場日常公演で体験できるとは……奇跡のようなものであります、はい。歌舞伎で言うなら大歌舞伎の大顔合わせってやつです。<br /><br />この日の席は最上階の3.Rang(日本風だと4階席)てっぺん。ですが、舞台はほぼすべて見通せます。これでチケット代が62オイロ(8000円足らず)なんて信じられませんね。<br /><br />これで舞台演出がよかったら完璧だったのですが、世の中そこまでうまくはない。ベルリン国立歌劇場のトレイラーがあるので、下のリンクをご覧ください。<br />https://www.youtube.com/watch?v=uYLQFxWTaCI<br /><br />まあ、オペラについては歌舞伎のように“昔のまんま”なんて舞台はほとんどありませんで、演出家が台本を解釈しての読み替え演出なるものが普通に行われています。以下、ちょっとだけ長文なので、がむばって読んでみてください。<br /><br />今回観た『トリスタンとイゾルデ』ですが、舞台は現代。トリスタンがイゾルデをマルケ王のもとへと送り届けるのは中世の帆船ではなく、超豪華クルーザー。マルケは王様ではなく、大企業のCEOでありましょう。そしてトリスタンは、部下にして支社長とでもいった扱いですね。<br /><br />そうした演出が、うまいこと“はまる”こともありますが、今回はハズレ。何というか、あるべき悲劇感が希薄というか、ほぼゼロに近い……1幕の最後、ブランゲーネが毒薬からすり替えた媚薬を呷ったトリスタンとイゾルデは、爆笑を始めてしまいます。これじゃあ笑い薬を飲んだみたいではないかと思ったり。<br /><br />あれこれ省いて3幕の最後、イゾルデが『愛の死』を歌うところ。音楽が終わりかかるところで、イゾルデがベッドに横たわるトリスタンのところに目覚まし時計を持って行きます……さーて、どういう意味だろうと、ない頭を必死に動かして考えますが、たどり着いた貧しい結論は“トリスタンは死んだのではなく、眠っているのだ”というもの。あり得ない結論ですが、どうも3幕の舞台を見る限り、この演出では誰一人として死んではいないように思われるのです。マルケ王が「死んでしまった、みんな。みんな、死んでしまった」と嘆いたにもかかわらず。<br /><br />そうして口をあんぐりとしたのは、イゾルデが愛の死を歌っている時、上手側でマルケに寄り添って一緒に座っているのは、イゾルデの侍女ブランゲーネではありませんか。ブランゲーネがマルケの後添え? はい、わかりません。必死に頭を動かしましたが、エルキュール・ポアロのような“灰色の脳細胞”など持ち合わせてはいませんから。<br /><br />というわけで、アンドレアス・シャーガーのトリスタンは陽気に元気、誰かが恐れを知らないジークフリートみたいだと書いていましたが、そのとおりで、ちょっとやそっとでは死にそうにありません。そのあたりが舞台の雰囲気にも影響しているかも。<br /><br />アニャ・カンペのイゾルデは声量だけでなく、細やかな表現も含めて当代一のイゾルデと太鼓判を押しておきましょう。<br /><br />そしてボアツのクルヴェナール、ウルマーナのブランゲーネ、パーペのマルケと大満足の歌手陣でした。最後になりましたが、バレンボイム率いるベルリン国立歌劇場管弦楽団のワーグナーの響きも忘れてはいけません。<br /><br />長文御免<br />[続く]

【連載】2019年6月、ベルリンとアルプスでビールぐびぐび!~トリスタンとイゾルデについて考察す~

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2019/06/14 - 2019/07/02

376位(同エリア2403件中)

Reinheitsgebot

Reinheitsgebotさん

[承前]
ベルリン滞在も終盤。

この日は、ベルリン国立歌劇場でリヒャルト・ワーグナーの楽劇(正確には『三幕のお話(Handlung in drei Aufzügen)』)『トリスタンとイゾルデ』を観に行ってきました。

指揮はダニエル・バレンボイム。彼の指揮でこの楽劇を観るのは、1997年のバイロイト、2003年から04年にかけてのベルリン訪問で2回、合わせて4回目となります。

今回のベルリン訪問は『トリスタンとイゾルデ』を中心にスケジュールが組まれたと言っても間違いではありません。

『トリスタンとイゾルデ』の詳細については、ウィキペディアを参照してください。
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%88%E3%83%AA%E3%82%B9%E3%82%BF%E3%83%B3%E3%81%A8%E3%82%A4%E3%82%BE%E3%83%AB%E3%83%87_(%E6%A5%BD%E5%8A%87)

開演は16時でバイロイト音楽祭と同じですが、休憩時間が短いので終演は一時間ほど早い……それでも21時過ぎの予定ですが。

この日の歌手を紹介しておきましょう。

トリスタン:アンドレアス・シャーガー
イゾルデ:アニャ・カンペ
クルヴェナール:ボアツ・ダニエル
ブランゲーネ:ヴィオレッタ・ウルマーナ
マルケ王:ルネ・パーペ

これは、ご存知のみなさんなら頷かれるでしょうが、現在考え得る最強の顔触れで、こうしたメンバーを常打ち歌劇場日常公演で体験できるとは……奇跡のようなものであります、はい。歌舞伎で言うなら大歌舞伎の大顔合わせってやつです。

この日の席は最上階の3.Rang(日本風だと4階席)てっぺん。ですが、舞台はほぼすべて見通せます。これでチケット代が62オイロ(8000円足らず)なんて信じられませんね。

これで舞台演出がよかったら完璧だったのですが、世の中そこまでうまくはない。ベルリン国立歌劇場のトレイラーがあるので、下のリンクをご覧ください。
https://www.youtube.com/watch?v=uYLQFxWTaCI

まあ、オペラについては歌舞伎のように“昔のまんま”なんて舞台はほとんどありませんで、演出家が台本を解釈しての読み替え演出なるものが普通に行われています。以下、ちょっとだけ長文なので、がむばって読んでみてください。

今回観た『トリスタンとイゾルデ』ですが、舞台は現代。トリスタンがイゾルデをマルケ王のもとへと送り届けるのは中世の帆船ではなく、超豪華クルーザー。マルケは王様ではなく、大企業のCEOでありましょう。そしてトリスタンは、部下にして支社長とでもいった扱いですね。

そうした演出が、うまいこと“はまる”こともありますが、今回はハズレ。何というか、あるべき悲劇感が希薄というか、ほぼゼロに近い……1幕の最後、ブランゲーネが毒薬からすり替えた媚薬を呷ったトリスタンとイゾルデは、爆笑を始めてしまいます。これじゃあ笑い薬を飲んだみたいではないかと思ったり。

あれこれ省いて3幕の最後、イゾルデが『愛の死』を歌うところ。音楽が終わりかかるところで、イゾルデがベッドに横たわるトリスタンのところに目覚まし時計を持って行きます……さーて、どういう意味だろうと、ない頭を必死に動かして考えますが、たどり着いた貧しい結論は“トリスタンは死んだのではなく、眠っているのだ”というもの。あり得ない結論ですが、どうも3幕の舞台を見る限り、この演出では誰一人として死んではいないように思われるのです。マルケ王が「死んでしまった、みんな。みんな、死んでしまった」と嘆いたにもかかわらず。

そうして口をあんぐりとしたのは、イゾルデが愛の死を歌っている時、上手側でマルケに寄り添って一緒に座っているのは、イゾルデの侍女ブランゲーネではありませんか。ブランゲーネがマルケの後添え? はい、わかりません。必死に頭を動かしましたが、エルキュール・ポアロのような“灰色の脳細胞”など持ち合わせてはいませんから。

というわけで、アンドレアス・シャーガーのトリスタンは陽気に元気、誰かが恐れを知らないジークフリートみたいだと書いていましたが、そのとおりで、ちょっとやそっとでは死にそうにありません。そのあたりが舞台の雰囲気にも影響しているかも。

アニャ・カンペのイゾルデは声量だけでなく、細やかな表現も含めて当代一のイゾルデと太鼓判を押しておきましょう。

そしてボアツのクルヴェナール、ウルマーナのブランゲーネ、パーペのマルケと大満足の歌手陣でした。最後になりましたが、バレンボイム率いるベルリン国立歌劇場管弦楽団のワーグナーの響きも忘れてはいけません。

長文御免
[続く]

旅行の満足度
5.0
観光
5.0
同行者
カップル・夫婦
交通手段
徒歩
旅行の手配内容
個別手配

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この旅行記へのコメント (2)

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  • Brunnen Altstadtさん 2019/07/22 02:05:25
    アニヤ・カンペさん
    Reinheitsgebotさん おじゃまします

    Tristan und Isolde ご覧になったんですね!
    アニヤ・カンペさんは 以前 新国立劇場で
    「さまよえるオランダ人」のゼンタを歌っているのを
    聴いたことがあります。
    綺麗なかたですね
    演出も変わったものでは無く 安心して見られたと記憶しています。
    ゼンタも 妄想する女の子? とかではなく
    まっすぐに愛する女性といった印象でした。

    私のような 同一演目をそれほど何度も見る機会が無い人にとっては
    オーソドックスな演出はありがたいです。
    見飽きる??ほど機会のある方々には
    もしかして変わった演出も一種のアクセントになるのかしら?

    Reinheitsgebot

    Reinheitsgebotさん からの返信 2019/07/22 07:26:12
    いらっしゃいまし!
    ありがとうございます。

    定年退職の身なので、毎年訪れているアルプスの端っこにプラスアルファした、ちょっと長めの旅行ができるようになりました。一昨年はアムステルダム、去年がインスブルックでした。

    それで、何か所か候補をあげて、なにかおもしろいものはと探したら、この時期のベルリンがおもしろそうということで決めたのです。

    イタリア・オペラ+二人のリヒャルト、そしてバレエにベルリンフィルと、これでベルリンの音楽事情が駆け足ですが一週間で俯瞰できるではありませんか。

    そしてベルリン国立歌劇場のトリスタン……一年前からチケット予約して、歌手が一人でもキャンセルしないようにと祈っておりました、はい。

    というわけで、バレンボイム指揮のオーケストラと歌手陣は大満足でしたが、演出がどんどん尻すぼみになっていってしまったのは残念。

    それに比べれば、コーミッシェオパーの『ばらの騎士』の、緊密なアンサンブルで展開した舞台の充実度が印象的でした。コーミッシェオパーが小劇団的存在とすれば、国立歌劇場の歌手陣は大歌舞伎ではなかったかな。

    とはいえ、いつもそうそううまくいくわけではないので、この先常打ちのオペラハウスで二人のリヒャルトに触れられる機会があればいいなあと思っています。

    いつも読んでくださって本当にありがとうございます。

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