2014/09/01 - 2014/09/01
16位(同エリア383件中)
エンリケさん
晩夏のフランス、アルザス・ロレーヌ地方を巡る旅3日目。
月曜日のこの日は、ロアン宮やノートルダム大聖堂美術館などストラスブールの主要な見どころが休館日ということもあって、ひとまず南へ50kmほど離れたところにある人口7万人ほどの小都市、コルマールへ移動。
アルザス地方の美しい村巡りの拠点となるこの街は、この地方に特有の木骨組の家々の美しさもさることながら、何と言ってもいちばんの見どころは、かつて修道院であったウンターリンデン美術館にある名画、“イーゼンハイムの祭壇画”。
美術館が改装中のため近くのドミニカン教会に移されていたものの、本来の姿であろう礼拝堂の中での展示と相俟って、絵から発せられる恐ろしいまでの迫力を存分に味わうことができました。
<旅程表>
2014年
8月30日(土) 成田→ソウル→フランクフルト・アム・マイン→マインツ
8月31日(日) マインツ→ストラスブール
○9月 1日(月) ストラスブール→コルマール→エギスアイム→コルマール
9月 2日(火) コルマール→リクヴィル→リボーヴィレ→コルマール→ストラスブール
9月 3日(水) ストラスブール
9月 4日(木) ストラスブール→ナンシー
9月 5日(金) ナンシー→メッス→ランス
9月 6日(土) ランス→パリ
9月 7日(日) パリ→
9月 8日(月) →ソウル→成田
- 旅行の満足度
- 5.0
- 観光
- 5.0
- ホテル
- 4.5
- 交通
- 5.0
- 同行者
- 一人旅
- 一人あたり費用
- 20万円 - 25万円
- 交通手段
- 鉄道 徒歩
- 航空会社
- 大韓航空
- 旅行の手配内容
- 個別手配
-
9月1日(月)
月曜日のこの日は、ロアン宮やノートルダム大聖堂美術館などストラスブールの主要なスポットが休館のため、市内の観光は後回しにしてひとまずコルマールへ。
まだ薄暗さの残る早朝6時30分、前日の21時にチェックインしたばかりのホテルをチェックアウトし、ストラスブール駅へ向かいます。 -
早朝のストラスブール旧市街は清掃車が停まって清掃員がゴミの回収などの作業中。
・・・そういえば昔訪れたバルセロナでも、清掃作業が行われていたのは早朝の薄暗いうちでした。
大観光都市はこんなふうに見えないところで観光客に気を遣っているのですね。
【南仏〜バルセロナ紀行(6) バルセロナの街並み】
http://4travel.jp/photo?trvlgphoto=20248751
ホテルのすぐ近くの交差点からは、前日に光と音のショーを楽しんだノートルダム大聖堂の片腕の鐘楼が見えます。 -
早朝の薄暗い市街を走るトラム。
ライン川の支流であるイル川に囲まれ、車の出入りが制限されているストラスブール旧市街にあっては、市民や観光客にとって重要な乗り物です。
わたしは今回、駅から旧市街までをすべて徒歩で回ったため、乗る機会がありませんでしたが・・・。 -
さて、駅に向かって歩いて行きます。
トラムの線路の向こうに見えるのは“クレベール広場”。
この街出身のフランス革命期の軍人、ジャン・バティスト・クレベールを記念した広場です。 -
クレベール広場の見える交差点を左に曲がると、“11月22日通り”。
あとは駅まで一本道です。
途中、振り返って旧市街の中心部の方向をパチリ。
この位置からでもノートルダム大聖堂の巨大な鐘楼が見えますね。 -
駅まで続くこの11月22日通りは、こんなふうに緩やかなカーブを描いています。
“リーゼント”の語源にもなった、ロンドンのリージェント・ストリートを思い出しますね。 -
そしてイル川に架かるキュス橋(Pont Kuss)へ。
橋の周辺は緑の木々やかわいらしい花々で彩られ、都市の中の安らぎの空間となっています。 -
キュス橋を渡ればストラスブール駅はもう目の前。
イル川に囲まれたストラスブール旧市街(グランディル)とも一時お別れです。
しばしさらば。 -
さて、目の前には円盤状のスタジアムのような巨大な物体・・・これがストラスブール駅です。
時刻は6時40分。
ストラスブール旧市街中心部のホテルからは、徒歩10分ほどで到着です。 -
駅に近づいてみると、円盤は透明なガラス状のものでできており、その中に、本来の駅舎である伝統的な様式の建築物が建っているのが分かります。
一流の観光都市とは、古いもの、歴史的な遺産を持ち続けているだけではダメで、常に新しいもの、時代の最先端を行くものを採り入れ続けなければならないとはよく言ったものですが、“ヨーロッパの十字路”ストラスブールは古いものと新しいものが入り混じったいい街で、まさにそんな気概が見えますね。 -
思ったより早く着いてしまったので、駅舎の中で朝食。
利用したのは、他のトラベラーの方も絶賛しているPAUL。
フランス国内の主要な駅ならどこにでもあるパンとコーヒーのお店です。
モーニングセットの“Parisian”が3.5ユーロ(約490円)と手頃だったので、早速注文。
カウンターのおばあさんがすごく優しい感じの方で、東洋人に対する差別意識を感じることもなく、終始笑顔で応対してくれたのが印象的でした。
・・・フランスというと、黙っていても外国から観光客が押し寄せるゆえ、外国人観光客に対してぶっきらぼうなイメージがあったのですが、このおばあさんとのやりとりで、少し認識が改まりました。 -
注文した“Parisian”は、チョコレート入りのパンとコーヒーのセットメニュー。
さすが評判のお店だけあって、パン、コーヒーともに美味しいです。
唯一、コーヒーが熱すぎて舌を火傷しそうになったのだけが難点です(笑)。 -
PAULの店先から眺めるストラスブールの駅舎。
ガラスドームの中の本体部分も、天井が高くて立派な駅舎ですね。 -
ストラスブール駅のプラットフォームも、さすがにアルザス地域圏の首府だけあって、大きくて立派。
・・・長袖シャツ1枚では少し肌寒さを感じる朝の待ち時間を過ごし、7時21分発スイス・バーゼル行きのTER(地域圏急行輸送)の列車に乗ってコルマールへ。 -
ちなみに、切符は事前に日本でネットから購入(ストラスブール−コルマール間の料金は12.3ユーロ=約1,720円)。
フランス国鉄(英語版)のHPで予約の手続きをし、郵送で自宅に送ってもらいました。
【フランス国鉄(SNCF)HP】
http://www.sncf.com/en/passengers
左にある“Revervations”をクリックし、駅名や日付を入力していけば、画面がサクサク進んで思ったよりも簡単に購入できます。
TERの切符は入力した乗車予定日から2か月間有効のため、後で旅のスケジュールが変わっても無駄にならないですし、何より切符を買うために駅の窓口に並ぶ手間が省け、旅先での貴重な時間の節約になります。
また、発券方法としては、現地の駅での引き取りか、自宅への郵送かを選べるのですが、これまた郵送を選べば、現地での発券時間の節約にもなります(郵送にあたっての追加料金なし)。
郵送だと、遅れて旅行日までに届かないかもしれないから怖いという人もいらっしゃるようですが、わたしの場合、何回か分散して購入したところ、すべて購入日から5営業日後にきっちり自宅に届きました。
フランスの郵便制度はさすが先進国だけあってしっかりしているようです。
(フランス国鉄のサイトでの予約の手順については、以下のフランス好きな方のブログを参考にさせていただきました。)
http://yaplog.jp/france2009/archive/56 -
さて、列車はストラスブールから南へ約50km離れたコルマールを目指し、アルザスの農村地帯を進んでいきます。
小麦畑の遥か向こう、中央に見える山の上には、朝日に照らされ赤色に輝くお城の姿が。 -
しばらく行くと、車窓にはアルザスらしい一面の葡萄畑も見えてきました。
-
そして7時51分、ほぼ時刻表どおりに列車はコルマール駅に到着。
フランスの列車の方がドイツよりも時間に正確な感じですね。 -
コルマールの駅舎は背の高い時計塔が目印の、ちょっとドイツっぽい印象のデザイン。
フランスにしろドイツにしろ、西欧の駅舎はどこも個性的でアートを感じさせるものばかりでいいですね。
・・・辺りを見渡してみると、この時間帯のコルマール駅周辺は人通りはそれほど多くなく、静かな地方都市といった感です。 -
8時過ぎ、コルマール駅から北へ10分ほど歩いて、線路沿いにあるこの日の宿、プチ・デジュ・オテル・ル・コルベール(P'tit Dej-Hotel Le Colbert)に到着。
まだ朝の早い時間帯ですが、部屋が空いていたのか、すんなりとチェックインさせてもらえました(朝食なしで1泊55ユーロ+市税0.77ユーロ=約7,800円)。 -
案内された部屋は2階で、窓からは線路が見えますが、二重窓になっているため、電車の音はそれほど気になりません。
部屋の大きさもそれなりに広く、バスルームにはシャワーだけでなくバスタブもあって、なかなかいい感じ。
ホテルの予約サイトでは、音がうるさいとかフロントの係員は英語が話せないとかネガティブな口コミ情報が目立ちましたが、わたしが体験した限りではそんなことは全くなく、滞在中はとても快適に過ごせました。
ただ、入口のドアが開けっ放しでフロントも誰もいなくてがらんとしている時があり、こんな管理で大丈夫なのかと心配に思うことも。
このほかにも、夜遅い時間に若い女性が一人で犬の散歩をしているのを見かけたりもして・・・アルザスの地方都市は想像以上に治安がいいようです。物乞いも全く見かけませんでしたし。
まるで日本の田舎にいるかと思うほどです。 -
9時、ホテルで少々くつろいだ後、コルマールの街歩きへ出発。
まだ朝早くて静かな街並みの中を、旧市街の方へと進んでいきます。 -
10分ほど歩いてアルザス伝統の木骨組の家々が立ち並ぶエリアに入ってきました。
お土産屋などが軒を連ねていますが、さすがにこの時間帯は観光客はほかに誰もいませんね・・・。 -
軒を連ねるパステル調の明るい色彩の建物の中に、出窓構造の珍しい様式のものを見つけたので思わずパチリ。
この時は気付きませんでしたが、この建物は“メゾン・デ・テット”(Maison des Tetes、頭の家)と呼ばれる、1609年に建てられた伝統ある有名な家(現在はホテル兼レストラン)だったようです・・・。 -
そしてこの朝の静かな木骨組の家々が立ち並ぶエリアを抜けていくと・・・。
-
コルマール一の観光名所、“ウンターリンデン美術館”(Unterlinden Museum)に到着。
“ウンターリンデン”とは、ドイツ語で“菩提樹の下”という意味。
そういえばベルリンにも、冠詞の付いた“ウンター・デン・リンデン大通り”という通りがありましたね。
先ほど見た木骨組の家々といい、このコルマールを含むアルザス地方は、もとはドイツ文化圏だったんだなあということを実感させられます。
【ウンターリンデン美術館HP】
http://www.musee-unterlinden.com/home.html
【tourism-alsace.com ウンターリンデン美術館】
http://www.tourisme-alsace.com/jp/major-tourist-sites-east-of-france-alsace/musee-unterlinden-japan.html -
さて、旅行計画中から絵画鑑賞を楽しみにしていたウンターリンデン美術館に着いたのはいいものの、壁にはこんな防護シートが。
もしかして改修中で閉館しているのでは?? -
美術館の周りの柵にはこんな写真も掲げられていました。
この美術館の至宝、“イーゼンハイムの祭壇画”の前で、改修に際しての美術館員たちの記念写真というところでしょうか。 -
こちらも作業現場でヘルメットとともににっこりポーズ。
美術館員たちの人間味が感じられる展示で、改修中の美術館の外観に彩りを与えてくれるいい趣向ですね。
ある意味、これも“アート”。 -
美術館の周りをよく調べてみると、入口らしきところのドアが開いているのを発見。
早速入ってみると、優しそうなおばさんが受付けしていて、一部改修中で見られないところもあるけれども、ちゃんと開館しているとのこと。
肝心の“イーゼンハイムの祭壇画”は、展示室改修のためここにはなく、近くのドミニカン教会に移設展示されているとのことでした(美術館のチケットで入場可)。
よかったよかった・・・。 -
そうと分かれば早速チケットを購入し(8ユーロ=約1,120円)、観賞スタート。
まず最初は、1階の回廊をつたって2階の展示室まで歩いていきます。
このウンターリンデン美術館、もともとは13世紀に、その名前が示すように“菩提樹の下”で修道者が集団で生活する場が造られたのがその起源でした。
それはやがてアルザス地方で最も大きな修道院のひとつとなり、現在のような美術館として公開されるようになったのは19世紀になってから。 -
したがって、このウンターリンデン美術館はかつての修道院の建物をそのまま使用しており、回廊部分からは宗教的な雰囲気が色濃く漂ってくるものとなっています。
-
1階の回廊を抜け、2階の展示室へ。
まず、回廊の上に当たる部分には、陶器や錫製品、鉄・金銀細工、家具などの、アルザス地方の伝統工芸品が一面ずらりと展示されていました。 -
角部屋にあったこちらの作品は、ヘルマン・シャーデベルク(Hermann Schadeberg、1399-1427年?)という人物の描いた、イエス・キリストの磔刑図(La Crucifixion、1410-15年)。
この後出てくる“イーゼンハイムの祭壇画”と同様におどろおどろしい雰囲気ですが、描かれた年代からも、ルネサンス以前の中世の絵画という印象が否めないですね。 -
2階の回廊の一角には印籠などの日本の装飾品が展示されていて驚き。
19世紀後半、フランスでジャポニズムが流行ったときに、当時のコレクターが集めたものでしょうかね。 -
こちらは黒人の姿をかたどったブロンズ製の置時計。
19世紀半ば頃の作品です。
当時はフランスが帝国主義で世界各地に進出していた時期で、日本に限らず世界の異文化に興味津津の時代だったのでしょうね。 -
9時45分、メインデッシュのないウンターリンデン美術館本館の観賞を30分ほどで終え、いよいよ“イーゼンハイムの祭壇画”を見るべく、ドミニカン教会へ。
美術館前の緑の広場を、木骨組の家々が見える方へと歩いて行きます。 -
ドミニカン教会への道すがらも絵になる風景が。
このコルマールの旧市街は道路脇の水路にもちょっとした花々が飾られていて、街全体がオシャレでかわいらしい感じですね。 -
木骨組の家々の周りにも、10時近くなってようやく観光客が集まり始めました。
-
さて、肝心のドミニカン教会は木骨組の家々に囲まれたところにあるのですが、あまりにも巨大すぎて全体が写せないので、ささやかながら入口のみパチリ。
ドアの上には、普段は掲げられないウンターリンデン美術館の標識が見えます。 -
そして教会の中に入ると、13世紀に建てられたゴシック様式の広々とした空間の中に、少し前までウンターリンデン美術館に展示されていたあの大作が。
観光客もそれをよく知っているのか、ガラガラだった本館に比べ、こちらは老若男女様々な人々で賑わいを見せています。 -
入口から入って最初に目に付いたのが中央に展示されていたこちらの祭壇画。
ドイツ・ルネサンス期の画家、マティアス・グリューネヴァルト(1470/75?-1528年)の筆による“イーゼンハイムの祭壇画”(1511-15年頃)の一部を構成するもので、左が“イエス・キリストの復活”(Resurrection)、右が“聖母マリアの受胎告知”(Annunciation)です。
有名なイーゼンハイムの祭壇画は、観光客が見やすいよう、分解されてバラバラに展示されていますが、本来この部分は、ひとまとまりの祭壇画の第1面の裏側、すなわち第1面が開かれた際の第2面の両翼の部分にあたるものでした。 -
上の“復活”、“受胎告知”から向かって右に展示されているこちらの作品は、祭壇画を開いていくといちばん奥の第3面にあたる聖人の彫刻群。
真ん中が修道院の創始者とされるエジプトの聖アントニウス(Saint Anthony、251?-356年)で、この“イーゼンハイムの祭壇画”があった、イーゼンハイムの聖アントニウス会修道院のまさに象徴たるべき人物。
そして向かって左が教父哲学の確立者、聖アウグスティヌス(354-430年)で、右が古代の神学者、聖ヒエロニムス(340?-420年)。
下にあるプレデッラ(祭壇の最下部)内には、ご存じイエス・キリストと十二使徒の像が飾られています。
ちなみに、これらはいずれもグリューネヴァルトとは別の人物の作とされています。 -
2つ上の祭壇画から向かって左に展示されていたのがこちらの祭壇画。
右が“キリスト降誕”(Nativity)の場面で、左がそれを祝う“天使たちの祝福”(Concert of Angels)の場面。
“イーゼンハイムの祭壇画”全体で見ると、この部分は第2面中央の絵となっています。 -
その裏側の絵がこちら。
左が修行中の聖アントニウスを邪魔する悪魔を描いた“聖アントニウスの誘惑”(Saint Anthony Tormented by Demons)で、右が“聖アントニウスの聖パウロ訪問”(Visit of Saint Anthony to Saint Paul the Hermit)となっています。
いずれもこの“イーゼンハイムの祭壇画”が収められていた“聖アントニウス会修道院”のコンセプトに合致した作品ですね。 -
教会の壁には、この“イーゼンハイムの祭壇画”の本来の姿を模型にしたものが解説とともに掲げられていました。
この祭壇画が聖アントニウス会修道院の礼拝堂に飾られていた当時は、第2面は日曜日に、そして第3面の聖人の彫刻群は聖アントニウスの祭日のみに公開されたとか。 -
そしていよいよ最後の絵。
いちばん初めに見た第2面の両翼にあたる“復活”と“受胎告知”の絵を回り込んだところにあるのがこの第1面、中野京子氏の“怖い絵”でも取り上げられた、“史上最も恐ろしい”イエス・キリストの磔刑図(The Crucifixion)です。
全身が痩せ衰え、首をがっくりとうなだれている見るも無残な姿のイエス・キリストの周りには、左から聖母マリア、使徒ヨハネ、マグダラのマリア、そして洗礼者ヨハネが。
ついでながら、左のパネルには聖セバスティアヌス(Saint Sebastian)、右のパネルには聖アントニウス(Saint Antony)が、それぞれ描かれています。 -
祭壇画の近くに寄って、苦痛に満ちたイエス・キリストの表情をまじまじと眺めます。
肉体はあばら骨が浮いて見えるほどがりがりに痩せ衰え、苦痛に満ちた顔には希望の光さえ見えない・・・。
左下に見えるマグダラのマリアも、か細い表情で両手を合わせてただ祈るだけ。
しかも、イエス・キリストよりも前方にいるはずなのに、その姿は小さく見え、この遠近法を無視したような構図は、重要な人物を大きく描くという、どこか中世の絵画のような印象さえ受けます。
なぜこんな絵が現代にまで名画として伝わっているのか?
それは、“怖い絵”を執筆した中野京子氏によれば、この絵が抱えている当時の時代背景と、その中でこの絵がもたらしていた効能にあるとのこと。 -
この“イーゼンハイムの祭壇画”は、もともとはコルマールから南へ20kmほど離れたところにあった、イーゼンハイム村の聖アントニウス会修道院付属施療院の礼拝堂に飾られていたもの。
この磔刑図をよく見ると、イエス・キリストの全身の皮膚には、どこか病気の跡のような斑点が描かれているのが分かると思います。
実はこれは、この絵が描かれた16世紀当時にアルプス以北で流行していた、ライ麦の中の“麦角菌”(ばっかくきん)という菌が繁殖して体中の組織が破壊されるという“麦角中毒”を示すもの。
当時原因不明とされていたこの病にかかったドイツやフランスの患者たちは、病の治療のため、イーゼンハイムの聖アントニウス会修道院附属の施療院を目指すようになり、この病はいつしか“聖アントニウスの火”と呼ばれるようになります。
こんな状況の中、修道院が患者たちの魂の救済のため製作を依頼したのが、この“イーゼンハイムの祭壇画”。
この祭壇画の第1面を見た患者たちは、自分と同じ病にかかっているイエス・キリストの姿に勇気づけられ、腐った手足を切断する手術を受け入れることができたという・・・。
そして、日曜日になると第1面の磔刑図が開かれ、第2面の“受胎告知”や“天使たちの祝福”、“キリスト降誕”、そして“イエス・キリストの復活”が登場。
さらには、“聖アントニウスの祭日”になると、この病に打ち勝ち長寿を全うしたという聖アントニウスの銅像が現れ、病に苦しんでいた患者たちはますます勇気づけられたという・・・こんなふうにストーリー立てて分析していくと、この絵が当時の人々にとっていかに重要な役割を果たしていたかがよく分かりますね。
この絵が名画とされる理由もこれで納得がいきました(“納得”は全てに優先!)。
*画像は第1面のプレデッラ(祭壇の最下部)にある、十字架から降ろされたイエス・キリストと聖母マリアらを描いた“キリストへの哀悼”(Lamentation of Christ)のアップ。 -
これで“イーゼンハイムの祭壇画”の全ての面を見終わり、ちょっと気抜けした感じ・・・。
それでも、このドミニカン教会にはもう少し見るべきポイントがあるので、ちょっとラクな気持ちになって見て回ります。
この教会の本来の売りである“薔薇園の聖母”が飾られている内陣の方へ行こうとすると・・・。 -
内陣へと登る階段の脇には、イエス・キリストの磔刑図に向かって両手を合わせるこんな彫像が。
顔かたちからするとイエス・キリスト自身のようにも見えますが、だとすると、自分の磔刑図に向かって祈りの仕草をするのはなんともシュール。
この場所にこの彫像を配置した美術館員の遊び心(そう考えるのはキリスト教徒でない者の視点であって、本当は敬虔な気持ちからなのかも・・・。)が見て取れるようです。 -
さて、内陣に登って、15世紀のコルマールの画家、マルティン・ショーンガウアー(Martin Schongauer、1445-91年)作の“薔薇園の聖母”(The Madonna of the Rose Bower、1473年)を観賞。
明るい光が差し込む内陣の背景と相俟って、先ほど見た“イーゼンハイムの祭壇画”とは打って変わってきらびやかな絵という印象ですね。
こういう絵の配置の仕方も、美術館員が計算してのことなのでしょうね。
さすがはあふれるほど美術館のある芸術の先進国、フランスです。 -
“薔薇園の聖母”をアップで。
グリューネヴァルトの“イーゼンハイムの祭壇画”よりも40年ほど前の作品ですが、フランドル地方を中心とする北方ルネサンスの画家、ファン・アイク兄弟やハンス・メムリンクなどの影響を受けているようで、こちらの方が新しい、近代的な作品のように見えますね。
【ファン・アイク兄弟作“神秘の子羊”(ゲントの祭壇画)】
http://4travel.jp/photo?trvlgphoto=21322551
(リンク先の写真は徳島県鳴門市の大塚国際美術館にあるニセモノ、1432年製作のホンモノはベルギー・ゲントの聖バーフ大聖堂に安置) -
内陣の奥にある均整のとれたステンドグラス。
明るい光が差し込み鮮やかですね。 -
ステンドグラスの手前に配置されていた、ギリシャ正教のイコノスタシス(内陣と至聖所を分ける障壁)のようなものは、“薔薇園の聖母”と同じくショーンガウアーによる作品。
“ドミニカンの祭壇飾り”(Altarpiece of Dominicans、1480年)と呼ばれ、もとは改修前のウンターリンデン美術館に展示されていたものです。 -
・・・以上でドミニカン教会を含むウンターリンデン美術館の作品の鑑賞を終了。
以前中野京子氏の“怖い絵”を読んで、“イーゼンハイムの祭壇画”にかなり興味を持っていただけに、この作品を生で見ることができて、かなりの達成感がありました。
おみやげに教会の売店でこの作品の解説書(英語版で5ユーロ=約700円)を買ってしまったほど(笑)。
さて、時計を見ると、イーゼンハイムの祭壇画の観賞にたっぷり1時間を費やしてしまったので、時刻はいつの間にか11時近く。
この後は少し流れを変えて、フランスの最も美しい村のひとつ、コルマール近郊のエギスアイムへ行ってきます!
(晩夏のアルザス・ロレーヌ3日目中盤〜エギスアイム観光〜に続く。)
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この旅行記へのコメント (6)
-
- 川岸 町子さん 2014/11/25 21:14:47
- うなっちゃいました(笑)
- エンリケさん、おばんでした☆
絵画をはじめとする美術、歴史、宗教、建築、文化、読書、色彩、自然などなど
様々な事に目を向けられておられると改めて感じました。
お若いのに、すごいです〜!
昔のストラスブールは、こんなにおしゃれな町ではなかったような気がします。
コルマールとあわせ、再訪したくなりました(*^-^*)
- エンリケさん からの返信 2014/12/06 21:31:34
- また“発見”の旅になりました。
- 川岸 町子さん
こんばんは。いつもご訪問ありがとうございます。
現在はフランスの一地方となりながら、“アルザス人”としての矜持を示し続けるような街の姿にストラスブールの魅力を感じますね。
ひとえに“フランス”と言っても、その中にはいろいろな地方があるんだなということに今回の旅で改めて気付かされましたね。
-
- aoitomoさん 2014/11/15 11:23:01
- イーゼンハイムの祭壇画
- エンリケさん こんにちは〜
ウンターリンデンのイーゼンハイムの祭壇画見に行かれたのですね〜
私は行ったことがないですが、コルマールの街並みも含めて訪れてみたいところです。
なかなか祭壇画をここまで撮影される人も少ないですし、
絵のバックグラウンドを知っていると何倍も楽しめますね。
凄く感動してしまいメッセージを入れさせていただきました〜
たくさんのお写真とコメントで楽しませていただきました。
aoitomo
- エンリケさん からの返信 2014/11/23 20:51:49
- 教会の中で見るイーゼンハイムの祭壇画、素晴らしかったです。
- aoitomoさん
こんばんは。いつもご訪問ありがとうございます。
イーゼンハイムの祭壇画、この旅行記を作成する前にaoitomoさんの大塚国際美術館の解説を読ませていただき、わたしもちゃんと書かないとという思いにさせられました(笑)。
しっかり調べられたaoitomoさんにメッセージいただけるとは恐縮です。
コルマールはこのイーゼンハイムの祭壇画だけでなく、美しい花々で彩られた伝統ある街並みも素晴らしいところですので、ぜひまた覗きに来てください。
-
- pedaruさん 2014/11/14 06:04:39
- 旅の目的
- エンリケさん お早うございます。
ある目的を持って旅に出て、それが叶えられた時は達成感がありますよね。
宗教画はその意味を知らないと興味が持てませんが、エンリケさんのように勉強してからの絵画鑑賞は、印象に残るものとなったことでしょう。
適切な解説を交えた旅行記はとてもpedaruの興味深いものでした。有難うございました。
pedaru
- エンリケさん からの返信 2014/11/15 23:09:22
- 目的があると旅は楽しくなります。
- pedaruさん
こんばんは。コルマール旅行記にご訪問ありがとうございます。
なんだかんだ言って旅に出る目的は、テレビや写真を見て、あるいは本を読んで感動したものを、この目で確かめたくて行くようなものですよね。
今回の旅の目的は、アルザスの美しい村々とこのイーゼンハイムの祭壇画を見ることだったので、まずはそのうちひとつがかなえられて少しほっとしたところです。
絵画鑑賞はほかのトラベラーの方の反応を見ていると苦手な方が多いようですが、ちょっとコツをつかめばおもしろく思えてきますよ。
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旅行記グループ 晩夏のアルザス・ロレーヌ(2014.8.30~2014.9.8)
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