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 「シキホル島へ行ってみます?」ダイビングインストラクターのエリコさんが聞いてきた。「行きます、行きます」と二つ返事で答えたもののどんなところか知っている訳ではなかった。<br /><br /> ダイビングショップでシキホル島へのツアーを募っているらしい。<br /><br /> トイレで用を足しているとマネージャーのべンが隣でズボンのジッパーを下げながら「君でちょうど定員になったよ」と言って私より先に済ませて出ていった。歳を取るとなかなか出きらず早めに仕舞うとパンツやズボンを濡らしたりしてしまうのだ。<br /><br /> ダイビングツアーは人数が少ないと利益が出ないし、多過ぎるとボートに乗りきれない都合で定員が決まるらしい。20数年間アロナ一筋だった私だが「バリ山行」という本を読んだら、何だかいつもと違うバリエーションポイントで潜ってみたくなったのだった。<br /><br /> 「ドラゴンさんも行くんですね」と最初に声を掛けてきたのは最近よく一緒になる香港人のチャンだ。「いい所らしいですね、楽しみです」というので「行ってみないと分からないよ。山でもバリエーションルートへ行くと藪漕ぎや崖登りがあったり、熊に遭遇する確率が上るんだよ。海でも潮に流されたりサメが出てきたりするかも知れないよ」とたしなめておいたが、私の方が楽しみにしている事は黙っておいた。<br /><br /> 長くなりそうなので途中略。<br /><br /> 浅瀬では太陽の光がサンゴ礁に当たっておりキラキラと輝いている。テーブル珊瑚にはカラフルな小魚たちが群れており、まるで海の宝石箱のようであった。「良いですね!」と言おうとしたが水中なので喋れないのであった。ガイドは「これからはもっといいよ」と言ってるように思えたが、水中なのでやはり聞こえないのだった。<br /><br /> 「これからドリフトだよ」とガイドが手話のように手で合図を送ってきた。少し深いところに行くと潮の流れがあり、泳がなくてもバランスをとっているだけで景色の方が動いてくれる。ドリフトダイブと言うらしい。「良いですね!」とまた言おうとしたがやはり水中なので喋れないのであった。潮の流れに身を任せ壁のサンゴを見ているとガイドが何か見つけたらしく「これを見ろ」と棒で円を描くように回しながら指し示した。じっくり見ようとしたが体は流されて行く。岩に捕まろうとしたがサンゴだったらしく、ポッキリ折れて取れてしまった。ガイドがエリコさんでなくてよかった。後でこっぴどく叱られるところであった。<br /><br /> いつの間にかガイドとの距離が開いている。これまでガイドに金魚のフンのようにくっついてきたが、いつの間にか冗談では済まされない場所に来てしまっている。気がつけば私は激しく息をきらしていた。元の場所からずいぶん離れたところに来てしまったのではないかと心配になった。<br /><br /> ガイドが浮上の合図を出した。もしかしたらボートが近くに来てくれているのではないかと僅かな期待もしていたのだが、海面に出ると水平線まて見渡す限りボートは影も形もない。まあ海の上に浮かんでさえいれば直ぐ死ぬことはないので身の危険は感じなかったが、問題は私の膀胱である。南国の海とはいえ1月の水温はそんなに高くない。ボートが来るまで持たないと判断した私は体の中心部に意識を集中し念じたのである。しかし私の偉大なる大砲はウェットスーツに締め付けられており、簡単には発出できない。尚も念を送り続けているとやがて安堵感と共に恍惚感が私に訪れた。山や海という自然の中では一瞬の判断の遅れが死に繋がったりするのだ。膀胱破裂を免れた安堵感とウェットスーツのなかで身体中にじわじわと拡がる温かい液体が冷えた身体に心地よい。他のダイバー達が私を中心に輪を描くように離れたように思えたが気のせいであろう。<br /><br /> ようやくボートか現れると皆先を争って上がり込もうとするが、私は悠然と皆に順番を譲り最後に乗船した。ボートの上でも皆私から距離を置いて座っているように思えたが、やはり気のせいであろう。「ドラゴンさんはトイレ行かなくて大丈夫なんですか?」とチャンが聞いてきたが「ん!まあ急がなくても大丈夫だよ」と答えたら、「そんな訳ないやろ、年寄りが持つ訳ないやん。」と納得出来ない表情を見せたがやはり気のせいであろう。やっとのことでわが身も膀胱も地獄から無事に生還したがここはひとつ「本物の危機でしたね」などと抜かすガイドに文句を言っておかなければならない。<br /><br /> 「ダイビングは遊びじゃないか。遊びで死んだら意味ないじゃないか! 本物の危機は海じゃないんだよ。家庭にあるんだよ。妻なんだよ。三週間も家を空けて遊びに来ているんだよ。離婚されるかもしれないんだよ」と伝えたかったのだが、英語が喋れない私は「グッジョブ!」と釘だけは刺しておいた。ガイドはにっこり笑って残りのバナナを口に放り込むと「じゃ、二本目潜りますか」と立ち上がった。<br /><br /> ✱この旅行記は芥川賞受賞作「バリ山行」のパロディであり筆者の旅行体験に基づいていますが架空の人物が登場したり、内容は少し(かなり、いや殆どかも)脚色してあります。

「バリ潜行」(旅行記風パロディ小説)

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2025/01/21 - 2025/01/23

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熟年ドラゴン(もう後期高齢だけど)

熟年ドラゴン(もう後期高齢だけど)さん

 「シキホル島へ行ってみます?」ダイビングインストラクターのエリコさんが聞いてきた。「行きます、行きます」と二つ返事で答えたもののどんなところか知っている訳ではなかった。

 ダイビングショップでシキホル島へのツアーを募っているらしい。

 トイレで用を足しているとマネージャーのべンが隣でズボンのジッパーを下げながら「君でちょうど定員になったよ」と言って私より先に済ませて出ていった。歳を取るとなかなか出きらず早めに仕舞うとパンツやズボンを濡らしたりしてしまうのだ。

 ダイビングツアーは人数が少ないと利益が出ないし、多過ぎるとボートに乗りきれない都合で定員が決まるらしい。20数年間アロナ一筋だった私だが「バリ山行」という本を読んだら、何だかいつもと違うバリエーションポイントで潜ってみたくなったのだった。

 「ドラゴンさんも行くんですね」と最初に声を掛けてきたのは最近よく一緒になる香港人のチャンだ。「いい所らしいですね、楽しみです」というので「行ってみないと分からないよ。山でもバリエーションルートへ行くと藪漕ぎや崖登りがあったり、熊に遭遇する確率が上るんだよ。海でも潮に流されたりサメが出てきたりするかも知れないよ」とたしなめておいたが、私の方が楽しみにしている事は黙っておいた。

 長くなりそうなので途中略。

 浅瀬では太陽の光がサンゴ礁に当たっておりキラキラと輝いている。テーブル珊瑚にはカラフルな小魚たちが群れており、まるで海の宝石箱のようであった。「良いですね!」と言おうとしたが水中なので喋れないのであった。ガイドは「これからはもっといいよ」と言ってるように思えたが、水中なのでやはり聞こえないのだった。

 「これからドリフトだよ」とガイドが手話のように手で合図を送ってきた。少し深いところに行くと潮の流れがあり、泳がなくてもバランスをとっているだけで景色の方が動いてくれる。ドリフトダイブと言うらしい。「良いですね!」とまた言おうとしたがやはり水中なので喋れないのであった。潮の流れに身を任せ壁のサンゴを見ているとガイドが何か見つけたらしく「これを見ろ」と棒で円を描くように回しながら指し示した。じっくり見ようとしたが体は流されて行く。岩に捕まろうとしたがサンゴだったらしく、ポッキリ折れて取れてしまった。ガイドがエリコさんでなくてよかった。後でこっぴどく叱られるところであった。

 いつの間にかガイドとの距離が開いている。これまでガイドに金魚のフンのようにくっついてきたが、いつの間にか冗談では済まされない場所に来てしまっている。気がつけば私は激しく息をきらしていた。元の場所からずいぶん離れたところに来てしまったのではないかと心配になった。

 ガイドが浮上の合図を出した。もしかしたらボートが近くに来てくれているのではないかと僅かな期待もしていたのだが、海面に出ると水平線まて見渡す限りボートは影も形もない。まあ海の上に浮かんでさえいれば直ぐ死ぬことはないので身の危険は感じなかったが、問題は私の膀胱である。南国の海とはいえ1月の水温はそんなに高くない。ボートが来るまで持たないと判断した私は体の中心部に意識を集中し念じたのである。しかし私の偉大なる大砲はウェットスーツに締め付けられており、簡単には発出できない。尚も念を送り続けているとやがて安堵感と共に恍惚感が私に訪れた。山や海という自然の中では一瞬の判断の遅れが死に繋がったりするのだ。膀胱破裂を免れた安堵感とウェットスーツのなかで身体中にじわじわと拡がる温かい液体が冷えた身体に心地よい。他のダイバー達が私を中心に輪を描くように離れたように思えたが気のせいであろう。

 ようやくボートか現れると皆先を争って上がり込もうとするが、私は悠然と皆に順番を譲り最後に乗船した。ボートの上でも皆私から距離を置いて座っているように思えたが、やはり気のせいであろう。「ドラゴンさんはトイレ行かなくて大丈夫なんですか?」とチャンが聞いてきたが「ん!まあ急がなくても大丈夫だよ」と答えたら、「そんな訳ないやろ、年寄りが持つ訳ないやん。」と納得出来ない表情を見せたがやはり気のせいであろう。やっとのことでわが身も膀胱も地獄から無事に生還したがここはひとつ「本物の危機でしたね」などと抜かすガイドに文句を言っておかなければならない。

 「ダイビングは遊びじゃないか。遊びで死んだら意味ないじゃないか! 本物の危機は海じゃないんだよ。家庭にあるんだよ。妻なんだよ。三週間も家を空けて遊びに来ているんだよ。離婚されるかもしれないんだよ」と伝えたかったのだが、英語が喋れない私は「グッジョブ!」と釘だけは刺しておいた。ガイドはにっこり笑って残りのバナナを口に放り込むと「じゃ、二本目潜りますか」と立ち上がった。

 ✱この旅行記は芥川賞受賞作「バリ山行」のパロディであり筆者の旅行体験に基づいていますが架空の人物が登場したり、内容は少し(かなり、いや殆どかも)脚色してあります。

  •  ボホール島のタグビラランからフェリーでシキホル島へいくのだ。

     ボホール島のタグビラランからフェリーでシキホル島へいくのだ。

  •  エアコンなしのフェリーで2時間半は辛い。乗客は殆ど欧米人だが皆疲れているようだった

     エアコンなしのフェリーで2時間半は辛い。乗客は殆ど欧米人だが皆疲れているようだった

  •  我々の乗ったフェリーAkepodはシキホル島のラレナ港に到着しようとしている。<br />「もうすぐ着きますね。今夜はナイトダイブですよね?」とガイドに言ったら「まだまだだよ。我々のダイビングショップは島の反対側のLaziだからね」とのことだった。

     我々の乗ったフェリーAkepodはシキホル島のラレナ港に到着しようとしている。
    「もうすぐ着きますね。今夜はナイトダイブですよね?」とガイドに言ったら「まだまだだよ。我々のダイビングショップは島の反対側のLaziだからね」とのことだった。

  •  宿はラジビーチクラブというリゾートホテルであった。

     宿はラジビーチクラブというリゾートホテルであった。

  •  ホテルにはダイビングショップが併設されている。周りにはほぼ何もないので他のホテルに泊まってここでダイビングするのは不可能かも。

     ホテルにはダイビングショップが併設されている。周りにはほぼ何もないので他のホテルに泊まってここでダイビングするのは不可能かも。

  •  テーブル珊瑚にはカラフルな小魚たちが群れており、まるで海の宝石箱のようであった。「良いですね!」と言おうとしたが水中なので喋れないのであった。

     テーブル珊瑚にはカラフルな小魚たちが群れており、まるで海の宝石箱のようであった。「良いですね!」と言おうとしたが水中なので喋れないのであった。

  •  海底で指示を待つドラゴン。

     海底で指示を待つドラゴン。

  •  浮上する時はブイを上げてボートを待つが何処にも見当たらないことも。

     浮上する時はブイを上げてボートを待つが何処にも見当たらないことも。

  •  ようやくボートが来て拾ってくれる。

     ようやくボートが来て拾ってくれる。

  •  以下、撮った魚の写真少々でお茶を濁す。<br /><br /> ベイビーフロッグフィッシュ、大きさ米粒。

     以下、撮った魚の写真少々でお茶を濁す。

     ベイビーフロッグフィッシュ、大きさ米粒。

  •  タツノオトシゴ。体長5cm.<br /><br /> このくらいの大きさだと肉眼で視認できる。

     タツノオトシゴ。体長5cm.

     このくらいの大きさだと肉眼で視認できる。

  •  英語名シーホース。

     英語名シーホース。

  •  カタツムリみたいな貝。

     カタツムリみたいな貝。

  •  クモガニ?

     クモガニ?

  •  ウミウシ。

     ウミウシ。

  •  たぶんカニハゼ?

     たぶんカニハゼ?

  •  ハゼ?

     ハゼ?

  •  ブルーリングオクトパス。 初めて見た!体長3cm。

     ブルーリングオクトパス。 初めて見た!体長3cm。

  •  オランウータンクラブ。

     オランウータンクラブ。

  •  タコ。

     タコ。

  •  カニ。

     カニ。

  •  クマドリカエルアンコウ。

     クマドリカエルアンコウ。

  •  ウミウシ。

     ウミウシ。

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