2019/06/05 - 2019/06/15
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タヌキを連れた布袋(ほてい)さん
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「パンの話 ユディッタ・ティモティエビッチ
まあ,ようこそ,いらっしゃい。お部屋へどうぞ。寒かったら,暖炉の前においでなさい。これからパンを焼くところ,一時間半で焼きあがる。その間,お話ししましょうよ。
私の母の友達のガリーナさんは,いつも言っていた。パンがどんなに大切かって。第二次世界大戦中に,まずハンガリーの牢獄に送られ,そこからドイツのブーヘンバルドの強制収容所に送られたの。夫は有名なパルチザンで,祖国解放運動に関わっていたため夫妻は逮捕されたのね。収容所ではパンなどもらえなかった。キャベツの屑が少しだけ浮かぶスープだけが食事だった。お皿を失くした人は,大変だったと言うわ。火傷するほどに熱いスープを,両手で受けなくてはならないの。士官たちが残したパン屑を,ごみ箱であさって食べて,生き延びたのですって。
第二次世界大戦中,私は子供だった。私の生まれたスポティツァの町でもパンは配給制だった。配給券が家族ごとに配られたの。パンの配給券を使い果たしてしまうと,決められた量の小麦粉をもらうことになっていた。まだ暗いうちから,母は,小麦粉をこねて生地をねかす。私はその生地をもってパン屋さんへ出かける。パン屋さんに大きな竈があって,黒い鉄のシャベルみたいな道具で,パンの生地をそこに入れて焼いてもらうの。パンが焼きあがるまで,私はお店で待っている。焼きあがったパンを大きな布巾に包んで,それを大切に抱いて,急いで家に駆けていくの。湯気がのぼる,あつあつのパンをみんなに一刻も早く届けたくて,走って帰るの。
パンは大切だと,心から思う。主食はどの国の人にとっても,大きな意味がある。日本なら,お米はとても大事でしょう。パンを焼くこと。それから,火を起こすこと。人が生きるためには,この二つを覚えなくてはいけない。イギリスの孫たちも,火を起こすことを知っている。この夏に教えたのよ。さあ,召し上がれ。マーマレードもどうぞ。
こんなに,簡単なことでいいのね,私たちが幸せな気持ちになるためには。」
「朝の牛乳 スミリャ・エデル
1942年の春,ドレジニツァに病院ができると,子供に新しい課題ができました。子供と言いましたが,今,思えば,一度だって子供だったことはなかったかもしれない。朝,母は,牛の乳をしぼりました。どれくらいの牛乳だったのか覚えていませんが,朝早く,少し年上の女の子と一緒に,負傷者のために牛乳を病院に届けました。バケツを頭に乗せて運びました。そんな運び方を覚えたのは,泉が遠くて水を運ぶときもバケツを頭に乗せて運んでいたからです。病院は遠かった。まず野原を通り,森を抜け坂道を辿り,山を登っていきました。森の中にひっそり,身を隠すように,病院は建っていた。
思い出すのは夏,大変な飢餓の年のこと。私たち子供は,負傷者のために野いちごを摘みました。木の皮でコゾリツァという小さな籠を編み,野いちごでいっぱいにして病院に運ぶ。あのときに野いちごを食べたから,私たちの身体からあんな力が出たのでしょうか。子供だった私たちにとって,口に広がる甘さは身体が欲しがっていたものだったのでしょうか。いいえ,私たちは野いちごを食べたりしなかった。負傷した人たちに野いちごを届けることが,私たち子供の幸せで誇りでした。そして負傷した人々は,そのご馳走に胸を打たれたのでした。手のある者は,私たちの頭を撫で,どの村から来たか尋ね,道は険しくなかったか,敵は怖くなかったか,なぜ自分たちで野いちごを食べなかったかと訊きました。私の頭を撫でてくれた負傷兵は,ラーデ叔父さんみたいだった。その年,リカ地方のコレニツァ村(Kolenica)で,第六リカ師団の兵士として戦死した,あのラーデ叔父さんみたいだった……。
あのころの私たちは,いつも逃げていたか,逃げる準備をしていた。」
山崎佳代子著「パンと野いちご 戦火のセルビア,食物の記憶」(勁草書房)より
- 旅行の満足度
- 4.0
- 観光
- 4.0
- グルメ
- 3.0
- ショッピング
- 3.0
- 交通
- 2.0
- 同行者
- その他
- 一人あたり費用
- 25万円 - 30万円
- 交通手段
- レンタカー 徒歩
- 旅行の手配内容
- 個別手配
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-
この日の行程に無理があることは,最初から判っていた。
昨日を休養日にした代わりに,今日のスケジュールがタイトになったのである。
行程は,Googleマップで粗く計測しただけでも約380kmある。セルビアから,直接コソヴォへ入る道は避けて,いったんモンテネグロへ出てからコソヴォへ入る。
現在は,特にきな臭いニュースは聞かないが,ルートを考える上ではそうするのが無難だろう。同じように,コソヴォ→セルビアの順に移動するのは避けるのが安全だ。
とにかく,今日は南セルビアの自然を満喫しながら,プリシュティナへ向かって爆走しなければならない。 -
ウジツェを出て南へ半時間も走ると,ズラティボルZlatiborが見えてくる。
典型的な高原リゾートである。 -
林の中にジップラインやキャノピーウォーク,
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街にはレンタルのバギー,
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たくさんの土産物店,
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そしてリゾート用のコンドミニアムが至るところで建設中である。
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そういうところへ来る客向けのレストランも次々に開店している。
できたばかりという感じのところが多い。 -
近くにあったこの店の看板は,そのうち「観光客の苦情」とか「留学生の抗議」などによって撤去されてしまうのかもしれない。
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さて,経由目的地はこのズラティボルではなくて,シロゴイノSirogojnoというところにあるスターロ・セロ野外博物館である。(Googleマップでは「Etno Vilage Sirogojno」として登録)
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さっきの標識のあったところから脇道に入って,シロゴイノを目指す。
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なだらかな牧草地が続く。
-
しかし,いくら行けども「シロゴイノ」の標識ひとつない。
誰かに尋ねようにも,人の姿はまったくない。 -
やがて人家がほとんどなくなり,道も狭くなっていく。
丘陵地をくねくねと走っていると,自分の車がおおむねどの方角へ進んでいるのかもよく分からなくなってくる。
ただ,細い道は途切れることなく,先へ先へと延びている。自分がどこにいるのか判らないまま走り続ける。
30~40分くらい走ったが,手がかりは何も見つからなかった。もし間違った道をずっと進んでいるのであれば大きな時間ロスになってしまう。それはまずいと考え,この時点でシロゴイノ行きを断念しUターンする。
今日はどうも幸先がよくない。
経路選択がよくなかった。ウジツェから,ズラティボルを経由するのではなく,直接シロゴイノへ向かうルートを取ればよかったのかもしれない。 -
元の道に戻り,一気に南へ向かう。
この道沿いはドライブインが充実していて,休憩場所には事欠かない。 -
このドライブインは宿泊施設も併設していた。
ベーカリーでピロシュキを買う。セルビアのピロシュキはロシア標準のピロシキよりずっと大きい。
またときどき,カルツォーネのように折った形のスナックを「ピロシュキ」として売っているのも見かけた。
ゆっくりする時間はないので,ピロシュキは運転しながら食べることにした。 -
便利な水場があったので,空いたペットボトルを使って車の窓を洗わせてもらう。
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さて,プリイェポリエPrijepoljeから脇道に入り,今日のハイライトであるミレシェヴァ修道院Манастир Милешеваへ到着。
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セルビア南部には,セルビア王国時代の修道院群がある。ストゥデニツァやソポチャニが有名だが,ここもそのひとつ。1236年建立といわれる。
セルビア南部の修道院群が素晴らしいのは,どこも「拝観無料」ということだ。全部回ってみたい気になる。 -
修道院の建物はとても美しく,趣味のよいリゾートホテルを見ているようだった。
それもそのはずで,ここは日本でいう「宿坊」のような施設になっていて,一般人が修道院のルールに従いながら短期・長期の滞在をすることができるらしい。
食事も修道院式のものだろうから,それには異教徒の私も興味をそそられる。
ヨーロッパの修道院は,しばしば素晴らしい食べ物やリキュールの造り手であるからだ。 -
内部の貴重なフレスコ画は自由に見学することができるが,撮影は禁止である。
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参考までに,この修道院でもっとも有名なのはこの↑フレスコ画である。
「ベリ・アンジェオБели анђео(白い天使)」と呼ばれる。
イエス・キリストが復活した日曜早朝の墓のシーンで,白衣の天使がひとり,女性がふたり描かれている。ということは,マタイによる福音書が下敷きになっているのであろう。 -
敷地の一角にオープンエアの礼拝所があった。
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天井は,聖人などのイコンで埋め尽くされている。
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裏手には小川(ミレシェフカ川)がせせらぎ,遊歩道のようなものが上流へ通じているようだった。
上流域は自然保護区になっていて,切りたった山の頂きにオスマン帝国時代の山城の跡が残っているのが見える。
何人かの参拝者のグループが,上流のほうへ向かってゆっくり歩いていく。 -
聖堂内部に残る古いフレスコ画はいずれも貴重なものだが,かなり損傷・劣化が激しいのも事実だ。
個人的には,ここで貴重なフレスコ画を観られたということより,人々の信仰を集めるセルビア正教会の格式を感じられたことのほうが印象深かった。
セルビア人たちの礼拝ぶりは真摯そのもので,何度も十字を描き,熱烈にイコンに接吻をしている。
私のごとき異教徒は「礼拝の邪魔」以外の何物でもなく,ひっそりと物陰に隠れながら見学した。
正教では十字を描くとき,日本人がお焼香をするときのように結んだ三本指を自分の「額→胸→右肩→左肩」の順に運び,最後にお辞儀をする。日本で知られているカトリックの十字の描きかたとは肩の左右が逆になるので,初めて見たときは「??何かが違う‥‥。」と違和感を覚える人もいるかもしれない。 -
↓ミレシェヴァ修道院の公式サイトはこちら。
http://www.mileseva.com/
タグの中のギャラリー(Галерија)にいくつかのフレスコ画が掲載されているので,予習に見ておくとよい。いきなり現物を見ても判読が難しいものもあるからだ。
なお,修道院のエントランスを出たところにカフェテリア・売店があり,懐中用のイコンなどを売っていた。1000RSD以下の手頃なものばかりだったので,怖がらずに物色してみてはいかが。
(1RSD=約1円)
(つづく)
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