2019/06/05 - 2019/06/15
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タヌキを連れた布袋(ほてい)さん
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「僕ら3人で,5月初旬にイタリアのイモラで開かれるF1のサンマリノ・グランプリを取材に行く旅の始まりだった。すでに数日前からパリに入っていたN氏を,東京からシャルル・ド・ゴール空港に着いたMさんと僕が空港のエイヴィスでレンタカーを借り出して,迎えに行くことになっていた。」
「『ヨーロッパでは,クルマの性能が仕事の効率にモロに響いてくる。高性能車に乗れば,長距離を移動しても,移動に要する時間が短縮できて,その上疲れない。仕事に悪影響を及ぼさない。海外取材は,移動や宿泊,食事の心配など,取材そのものよりもやることが多くなるから,クルマの移動で煩わされる要素は少しでも減らしておきたいからね。安くて性能の低いクルマは,時間が掛かる上に疲れるから,運転して移動することでエネルギーを取られてしまう。取材で借りるクルマは許される限り高いクルマを借りたほうがいいよ。高いクルマには高いだけの理由がちゃんとあるのだから』
N氏は,予算は嵩むがメルセデスベンツ190Eか同等のクルマをと日本から予約を入れておいた。打ち合わせの時には,僕はまだヨーロッパをクルマで走ったことがなかったので,N氏の言っていることはやや牽強付会気味の,単なるわがままのようにも聞こえたが,この取材旅行が終わる頃にはN氏の言う意味がよくわかることになるのである。」
「ツーリングカー24時間耐久レースを取材に行ったのは,92年8月最初の週末だった。ひとり成田からサベナ・エアラインのブリュッセル直行便に乗り,空港のエイヴィスで,日本から予約しておいたレンタカーを受け取った。
『クルマは,オペル・アストラかセアト・ロンダです。どちらにしますか?』
予約確認書を僕から受け取った,朱色のジャケットのユニフォームを着たフロントマンに訊ねられた。アストラは一度乗ったことがあるから,ここは乗ったことのないロンダにしてみよう。それにしても,スペインやポルトガルの空港ならいざ知らず,ベルギーの国際空港のエイヴィスにセアトが用意されているとは意外だった。そう思うのは僕だけではないようで,カウンター職員はロンダを勧め始めた。
『セアトはスペインの国営自動車メーカーだったけど,最近になってドイツのフォルクスワーゲン・グループの傘下に入ったから,クオリティは向上している。ロンダは,いいクルマだ』
反論する理由もないし,おそらく日本に輸入されることはまずないだろうから,僕は珍しさからロンダを選んだ。イビサやトレド,コルドバといったように,セアトは自国の地名を車名にするならわしにしていて,ロンダは有名な水道橋のあるスペイン南部の古都である。」
金子浩久著「地球自動車旅行」(東京書籍1997)より
- 旅行の満足度
- 3.5
- 観光
- 4.0
- ホテル
- 4.0
- グルメ
- 4.0
- ショッピング
- 4.0
- 交通
- 3.0
- 同行者
- その他
- 一人あたり費用
- 25万円 - 30万円
- 交通手段
- レンタカー 徒歩
- 旅行の手配内容
- 個別手配
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-
バルカン諸国(最近は「東南ヨーロッパ」と呼ぶらしい)をレンタカーで回ってみることにした。
当初の構想は次のとおりだった。
*レンタカーの安いアルバニアで借りて,アルバニアで返す。
*レンタカーの期間は一週間。
*アルバニア,モンテネグロ,ボスニア・ヘルツェゴビナ(及びスルプスカ),クロアチア,セルビア,コソヴォ,北マケドニアを巡る。
そして,具体的な行程を考え始めると,すぐに無理が出てきた。
「一週間」が破れ,1日,2日,3日…と期間が延びていく。そのうち「二週間」が視野に入ってきた。しかしレンタカーのコスト(というよりガソリン代のコストのほうが重い)を考えると,野放図に延ばすわけにもいかない。
そこで,もっとも北にあるクロアチアの首都ザグレブをまずカット。次に,セルビアの首都ベオグラードをカット。これで,かなり現実的な行程になってきた。
結局,期間を11日にして,宿の目星をつけるところまで済ませた。 -
次は,レンタカーの確保である。
色々調べたが,最終的に4トラさんの旅行記・クチコミの情報からお世話になることになった。上記↑の「アルバレントAlbarent」という会社。
サイトのフォームから申込み第一報を送ったあとは,メールでのやりとりになる。
申込みでは,料金表から選んだ「セアト イビサ 1.4L」(か同程度の車)を28EUR/日で借りたい旨送信した。レスポンスは早く,担当者の英語力は十分。
上記28EUR/日は,自動車保険(強制保険+任意保険最大補償)とVAT税20%込みの金額である。
(1EUR=約125円) -
それからのやりとりで,パスポートと国外運転免許の写真データをメールで送付することが求められた。クレジットカードの情報は不要。
また,借出・返却の場所はティラナのアルバレントのオフィスを指定していたのだが,「空港じゃないんですね?」と念を押された。外国人のほとんどは空港でのやりとりになるのだろう。
アルバニアからレンタカーで出国して前記の諸国を回ることを伝えると,「国境でグリーンカードを取得してください。40EURです」ということだった。
グリーンカードとは国際自賠責(強制)保険のことで,これがないと自動車を運転して国境を越えることができない。 -
ティラナに着いてから,スカンデルベグ広場に面する国立オペラ劇場の建物にある外国語書店「ADRION」でバルカン南部の広域ロードマップ↑を手に入れた。
老舗フライターク・ウント・ベルント社のもので,値段は2450ALL。
優れたロードマップは情報の宝庫なので,海外でドライブ旅をするときは入手するようにしている。
日本では手に入らないか高価になるため,現地調達が基本になる。 -
レンタカーを借りる当日,宿からアルバレントのオフィスへ歩いて向かった。
同社は思っていたよりずっとしっかりした会社で,大手ブランドの営業所に何ら遜色ない。オフィスでも英語は問題なく通じる。
ヨーロッパ圏でレンタカーを借りるのは10年以上ぶりだと思うが,AT車の選択肢が普通にあって驚いた。以前は,(安いクラスの車は)ほぼ選択の余地なくMT車だった。
こういう機会にMT車を運転するのも好きなのだが,バルカンの道路事情をよく知らないので一応AT車にしておく(何といっても同一料金なのだ。これも驚き)。
私と予約メールのやりとりをしてくれた若い女性の担当者は,「このAT車は,昨夜戻ってきたばかり。たぶん汚れているので,洗ってきますね。ちょっと待ってて」と言うや,バケツやスポンジを持って元気に外へ飛び出して行った。
待っている間に,彼女の上司のデスクで会計をする。
料金は,ウェブページの額面どおり28EUR(保険・税込み)×11日のみ。クレカの決済はレク建て(38500ALL)で,別にデポジットとして4万ALL分の請求書を切る(車の返却時に廃棄される)。(1ALL=約1円)
上司の女性に,国境でのグリーンカード(国際自動車保険)の取得方法を尋ねてみた。すると意外なことに,「うちの会社で手配してもらわないと」と言うではないか。国境で自力で取得するのではなかったのか。話が違う。
「どこの国のグリーンカードが必要なのですか?」
「モンテネグロ,クロアチア,ボスニア・ヘルツェゴビナ,セルビア‥‥」
「こんな小さな車でそんなに行くのですか」
「‥‥‥ええ(大きなお世話だ)」
彼女は,料金(40EUR)を告げてPCを叩き始める。ところが,
「ああ,今日は休日なので手配ができません。ボーダーでゲットしてください。すぐに分かりますから」
ということになった。
今日は火曜日だが,ラマダン明け(イード)で公休日になっているようだ。
ともかく,グリーンカードは国境で簡単に取れるということが分かったのでよかった。 -
担当者が,洗車が終えて戻ってきた。
車種は希望どおり「セアト イビサ(SEAT Ibiza)」になったようだ。日本ではほぼ見ないスペイン車のセアト,運転するのは初めてだ。
さて,いよいよ出発。
車の外面の傷と,トリップメーターを撮影しておく。
アルバレントの約款では,150km/日を超えた分は追加料金が発生することになっている。
燃料はちょうど半分入っているので,半分返しになる。燃料の種類を確認すると,オクタン価95のガソリン(Benzinë)でよいとのこと。 -
とりあえず,車に乗って宿へ荷物を取りに行く。
パーチケはしくみがよく分からなかったので, -
安全策をとって地下駐車場に駐車する。料金は100ALL/時。
(1ALL=約1円) -
宿をチェックアウトして荷物を積み込み,とりあえず走り始める。
今回走る国はすべて右側通行(日本と反対)なので,途中で頭を切り替える必要がなくて楽だ。 -
初日は,かなりゆとりのある行程にした。
今日は国境は越えず,北部の街シュコドラ(Shkodër)で泊まる。明日の朝,国境でグリーンカードを取得し,モンテネグロに入る。
レンタカーのチェックアウトがスムースに進んだので,かなり余裕ができた。
シュコドラへ行く前に,クルヤ(Krujë)へも寄ってみよう。 -
ティラナからシュコドラ向かって北上し,1時間ちょっと走ればクルヤである。
-
クルヤ城は大きな岩山の中腹にある。
-
15世紀,圧倒的なオスマン帝国の軍勢は二度にわたってクルヤ城を包囲して攻めたが,不敗の大公スカンデルベグは籠城とゲリラ戦でこれを退けたという。
ヨーロッパの歴史では,トランシルバニア公(ルーマニア系ハンガリー貴族)フニャディ・ヤーノシュやワラキア公ヴラド三世と並んで,アルバニア公スカンデルベグは「異教徒オスマン帝国への抵抗者」「キリスト教,ヨーロッパの守護者」として三傑に名を数えられている。
ハンガリー人やルーマニア人,そしてヨーロッパのカトリック教徒はそれでいいのだが,あれ?アルバニア人(の多く)は「異教徒」のムスリムである。ここに齟齬が生じる。
アルバニア人にとっては,宗教とは関係なく,「わがアルバニアに攻め込んできた異民族の大軍を撃退したアルバニア人」として民族の英雄なのだろう。「三傑の一人」なのではなく,スカンデルベグ大公だけが偉いのである。 -
スカンデルベグ像付近の道路脇に車を置いて,クルヤ城へ向かって歩く。
-
城の周辺は,観光地としてきれいに整備されている。
-
土産物店が軒を連ねる。
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古い街並みも,
-
整備されたばかりのようでピカピカだ。
-
観光客向けレストランのメニューがあったので,クルヤの名物料理は何か調べてみる。
シグニチャの冒頭には,「Pule Fshati me Pilaf」と「Pule Fshati me Qulle」が並んでいる。それぞれ1700ALLと値が張っている。(1ALL=約1円)
前者は「地鶏のピラフ」だが,キャセロールに丸焼きの鶏と生米とスープを入れてオーブンで炊き上げるもののようだ。
後者は,丸焼きの鶏を,炒めた小麦粉とスターチ(片栗粉)でとろみをつけた鶏スープの餡(Qulle)で満たしたキャセロールに浸してオーブンで焼く。
残りふたつのシグニチャは,↓で登場した「Tavë Kosi」と「Tavë Dheu」だ。
https://4travel.jp/travelogue/11572649
シグニチャの下には,BBQが11種類並ぶ。
その中に「Berxolle」(ベルゾール)という言葉を見つけた。ラムチョップのことのようだが,キルギス料理ブリゾール(ステーキ肉のピカタ)と同じ語かも知れない。
その他には,
Xaxiq ジャジキ(ザジキ,ギリシャヨーグルトのライタ)
Djath Kaçkavall カシュカバルチーズ(黄チーズ)
Djath i Bardhe フェタ(白チーズ)
Djath Furre 鍋焼きチーズ
Japrak ドルマ(ブドウの葉でピラフを包んだもの)
といった品が目に留まるが,これらはどのレストランにもある定番であろう。
定番と言えば,こんな山のレストランでもしっかり「Spageti me Fruta Deti」(海の幸のスパゲティ)をメニューに載せている。外国人観光客には,アルバニアの料理の中で一番人気なのかもしれない。 -
城の中に入る。
-
城内の建物の跡地。
-
山の上なので,天候は急変する。空が真っ暗になったと思ったら,
-
いきなり集中豪雨が遺跡を叩きつけ,階段や通路は一瞬にして人工河川と化す。
あわてて避難。 -
雨が弱まったところで車に飛び込み,山を下りる。
山の麓(ふもと)では,雨は一滴も降っておらず,陽光がさんさんと差している。
狐につままれたような気分だ。
(つづく)
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