名作ＶＳパロディ～「一の谷」から「須磨アルプス」へ～サラ川もご紹介！

2013/04/29 - 2013/04/29

　連銭葦毛の馬からは、とっくの昔にころがり落ちて、熊谷次郎直実に追いかけられ、須磨浦公園内にある敦盛塚の周囲をぐるぐると逃げ回っていた敦盛、ついに力尽きて地べたへ倒れてしまった。ふと見ると熊谷も、すでに目をまわして傍にぶっ倒れている。どうやらしばらく前から敦盛ひとりでぐるぐる走りまわっていたらしい。
「腹が減ってもう動けぬ」と、熊谷がなさけない声を出した。
「拙者もだ」あたりを見まわしていた敦盛は、公園のはずれに茶店があり、大きく『敦盛そば』と書かれているのを見ておどりあがった。「そばだ、そば屋がある」
「本当か」熊谷はむっくり起きあがった。
「どうだい。食べるかい」
「そりゃもう、見つけた限り食わずにゃ須磨の浦」
　茶店で熊谷と敦盛がそばを食べているところへ、のれんをわけて義経が顔を出し、訊ねた。「ここのそばはどうだ」
「敦盛だ」
「味は」
「だし汁の加減が義経」
「では拙者も九郎判官」腰かけた義経、財布をどこかへ落としたらしいことに気がついた。「しまった、金がない」
　敦盛がいった。「心配いらぬ。金なら拙者が払おう」
　その途端熊谷は腰の太刀を引っこ抜き、敦盛の首をぽんと刎ねて叫んだ。
「奢る平家は久しからず」

　　　　　　　　　　　　　　　　　筒井康隆「こちら一の谷」より

エリア 須磨(兵庫)

• 旅行の満足度: 5.0

• 同行者: 友人
• 交通手段: 私鉄 徒歩
• 旅行の手配内容: その他

　敦盛塚

　パロディ好き、パスティーシュ好きのドラゴンなので司馬遼、藤沢周平、池波正太郎も愛読しているが、清水義範や筒井康隆も好きである。
　今回のハイキングはこの短編小説の舞台である「一の谷」周辺の須磨アルプスを行く。

　好評だったのでサラ川も引き続きご紹介。
　第一生命が募集して評判の良かった句、ドラゴンの自作ではないので念のため。
　また、選句に何か意図的な共通点を感じる方がいるかもしれないが、決して我が家のことではないので、これまた念のため。

　吉川英治の「平家物語」のさわりも少々。

　『おお、よくぞ、引っ返された。さすが、恥を知るよき大将の君にやおわさん。・・・いで』と、熊谷もまたともに渚を駆けあがって、
『名乗り給え。――そもかくいう者は、武蔵ノ国の住人、熊谷丹治次郎直実。――会い奉るこそ、冥加なれ」
と、大音声でいった。
　敦盛は、名乗り返そうともしなかった。
　その全姿は――萌黄匂いの鎧も、鶴の模様を刺繍した直垂も、こがねの太刀も、そして鞍やあぶみまでも――滝のような濡れしずくを滴らせて、何か、夢みる人のようすらある。
『・・・冥加とや』　　　
ふしぎな言葉と聞こえたのか。
　敦盛は、口のうちでつぶやいたが、その唇さえ、海の冷えに凍えて、紫ばみ、生きた人の色はなかった。

　　　　　　　　　　　吉川英治「新・平家物語」より

　蕪村の句碑「春の海　終日　のたりのたりかな」

　こちらはサラ川で対抗だ。

　死ぬまでに一度言いたい「オーイお茶」　　　　　　ノー天気

　六甲全山縦走のスタート地点にある公園。ここからはしばらく階段の登り道が続く。

　「オーイお茶」次の言葉は「入ったぞ」　　　　　　調味料

　「虚子の東帰に / ことづてよ須磨の浦わに晝(ひる)寝すと 子規」

　「子規50年忌 / 月を思ひ人を思ひて須磨にあり 虚子」
　　
　師弟碑というのは全国でも珍しく、碑面の文字はそれぞれ直筆だそうだ。


　最初からお茶は自分で入れてます　　　　　　　　　ねぼけまん

　「ひねもすのたり」の須磨の海、今は海釣り公園に。


　一言が足りない俺に多い妻　　　　　　　　　　　　みやっさん

　西には明石大橋が望める。


　この上司妻を思えば耐えられる　　　　　　　　　　上様

　大阪の米相場価格を西に伝えるため旗を振って知らせたことから名づけられた「旗振山」

　女房の記憶力には時効なし　　　　　　　　　　　　呆夫

　ある程度階段を登ると平坦な山道も少しはある。


　仕分け人妻に比べりゃまだ甘い　　　　　　　　　　北の揺人

　「あちら一の谷」


　だだいまは犬に言うなよオレに言え　　　　　　　　さらば地球

　坂落としの攻撃前に義経一行が勢揃いしたとされる場所。馬が３頭も並べばいっぱいいっぱいの山道だが？


　おかえりと笑顔で言われ身構える　　　　　　　　　窮鼠

　このあたりにはこんな石の標識が充実している。


　ワンコイン渡した妻はバイキング　　　　　　　　　蝸牛（でんでんむし）

　こんな道が続いてくれるといいのだが。


　昼食は妻がセレブで俺セルフ　　　　　　　　　　　一夢庵

　全山縦走路では次に登る山が見えてくる。


　さあ定年妻がさし出す求人誌　　　　　　　　　　　丁年

　ここまでで全山縦走の１５分の１くらいかな。


　定年後帰宅時間を妻に問い　　　　　　　　　　　　詠み人知らず

　次の山、横尾山であろうか。せっかく登ったのに次の山へ登るのに降りなくてはならないのが辛い。


　新婚時三つ指今はひじ枕　　　　　　　　　　　　　銀婚過ぎたら

　こんな階段で一気に降りる。


　仕事減りごみ出し買い物家事おやじ　　　　　　　　働き者

　ハイキングに行くと至るところで「危険」の注意書きを目にする。今日も白馬などで数人の登山客が雪崩で行方不明になった。ご近所ハイキングとはいえ注意は必要である。


　あれはどこ？あれはあそこよ　ああそこか　　　　　ツーカー夫婦

　横尾山に登る階段。ここだけで４５０段あった。


　許される仏は三度妻一度　　　　　　　　　　　　　湘南おじん

　全山縦走路だけあって標識は充実している。


　ハイと言う昔は妻で今は俺　　　　　　　　　　　　紙風船

　山の師匠。六甲全山縦走１５回完走のベテラン。因みに六甲全山縦走は健脚でも１３時間は掛かるハードコース。朝暗いうちに出発し、終盤はヘッドライトで歩きゴールは夜中という人も出る。

　合計の高低差３０００ｍ、富士登山２回分を上り下りしなければならない。


　定年後三歩下がって妻の後　　　　　　　　　　　　読み人知らず

　須磨登山十歩下がって師の後　　　　　　　　　　　ドラゴン

　本日最後の山、横尾山。


　発泡酒今じゃ我が家の高級酒　　　　　　　　　　　ビールマン

　須磨アルプスのハイライト、「馬の背」が現れた。


　本物のビール買ったら妻激怒　　　　　　　　　　　発砲美人

　一見の価値あり「馬の背コル」


　第三は昔男で今ビール　　　　　　　　　　　　　　ウェールズおじさん

　「ロッククライミングに挑戦」の絵にしたかったが、失敗の感は否めない。


　何食べたい？聞いてはみるけど決めている　　　　　やさしきハニー

　「何食べる？」何があるのか先に言え　　　　　　　心のつぶやき

　「アルプスのピークを制覇」の絵にしたかったが、右の数名のハイカーのお陰で失敗に。


　女房にはヒゲはないけどトゲがある　　　　　　　　とげぬき地蔵

　師匠もピークで一枚。


　子に注ぐ妻の期待とおれの金　　　　　　　　　　　こずかいへる父

　二世帯は昔親子で今夫婦　　　　　　　　　　　　　両世帯主

　この日の気温１９度。


　「ご飯いる？」「いる」の返事に妻不機嫌　　　　　　耐える夫

　「ご飯ある？」「ツクレバアルケド」「ならいいです・・・」　腹減った

　ケンカしてわかった妻の記憶力　　　　　　　　　　機関銃

　地下鉄で帰る。


　円満は見ざる言わざる逆らわず　　　　　　　　　　ソクラテス

この旅行記へのコメント （3）

• waadsさん 2013/05/05 14:00:24

  サラ川　面白すぎます・・・

  ドラゴンさん　こんにちは♪　GWはひょっとしてマニラ？
  
  いや〜何度読み返しても、ドラゴンさんのサラ川最高に面白いです。
  まさに我が家、そして僕の内容です。
  
  発泡酒飲んで、昼はセルフそしてそして恐妻の記憶力　その通りですよ
  
  waads
  

• pedaruさん 2013/05/04 06:42:33

  川柳調

  熟年ドラゴンさん
  
  ”ドラゴンに　我が家のことを　バラされる”
  
  コメントも川柳調に　なりました。
  
  pedaru

• わんぱく大将さん 2013/04/30 01:23:41

  笑い転げて転落

  熟年ドラゴンさん
  
  笑ってたら、谷から転落しましたがな。　
  ”写真より、鋭い突っ込み、目、奪われ”　　　　大将