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 古我邸(旧荘清次郎別荘)は大正5年(1916年)に三菱銀行重役であった荘清次郎氏が別荘として建築した。その後浜口雄幸、近衛文麿等が別荘として使用したために歴代総理大臣の別荘にもなった洋館として知られるが、古我邸となっている現在でも、三方を山に囲まれて木々のなかで静かに佇む姿には気品が漂い、見る者をして鎌倉一の洋館との思いを強く抱かせる。鎌倉三大洋館の筆頭に位置するであろうが、鎌倉文学館(旧前田邸)や旧華頂宮邸(いずれも鎌倉市の所有)は鎌倉市の景観重要建築物に指定されているのに対し、ここ古我邸(旧荘清次郎別荘)は景観重要建築物に指定されていないのは、平成17年(2005年)に亡くなったバロン古我氏が、生前にはそうしたことを嫌ったからである。他の30棟の建物(指定を受けた32件のうち1件は東勝橋で、もう1件は山崎邸であったが平成15年12月に指定解除されている)よりは明らかに素晴しい景観の中にある築95年の建物である。鎌倉市がいつものように怠慢であることは否めない。JR鎌倉駅近くにある広大な南向きの斜面の敷地に建つお屋敷であるから資産価値が高いのは誰にでも分かるが、ぜひいつまでも残していただきたい洋館であり、佇まいでもある。<br /> 佐助トンネルあたりから駅の方に戻るので寄ってみた。1人、カメラを翳して門前に立っている人がいる。私から声を掛けた。門前で話していると、門の向こうにご婦人がいるではないか。間違えて入ってしまったのか、あるいは古我夫人に頼まれて庭の手入れでもしている人なのかと思っていると、奥に見えなくなった。暫くすると、門の扉を開けて出てきた。早速、聞いてみた。「失礼ですが、こちらの古我さんの関係の方ですか?」「この家に住んでいる者で、‥‥」「え!?」どう見ても60代にしか見えない。「主人が亡くなって、私が一人で住んでいるんです。」「でも、古我未亡人は、あ、失礼、古我夫人はご高齢だと聞いていますけど。」「わたし、85歳になりましたのよ。」「え‥‥‥」60代にしか見えないご婦人が85歳だという。大正15年生まれだそうだ。社交ダンスやジャズダンス、コーラスなどをやっていて毎日が忙しいそうだ。見た目に若いだけではなく、実際に、見た目どおりの若さがあるのだ。<br /> バロン古我こと古我信生さんは日本で初めてのレーサーだそうである。ここには今も未亡人になった古我夫人が一人で住んでいる。今は1人、娘さんを預かっているが、今は新潟に里帰りしているそうだ。また、横浜国大の先生が来られて、学生が家を見て卒論を纏めたとか話してくれた。<br /> 門前で話しているとお巡りさんのバイクが4台ほど行き帰りしていたが、今度は車が来た。古我夫人が前に出て門の方に寄るように私たちを導いてくれた。すると来た車は止まって窓を開けて挨拶していく。「ご近所の方か、知り合いの方ですか?」もう一人の人が尋ねると古我夫人は知らない人だと答える。私はナンバーを見たので、「沖縄の人は皆フレンドリーですから。」「初めての人にでも挨拶ぐらいはしますよ。」沖縄ナンバーの車だったのだ。ちなみに、前の道路は古我家の私道なのだそうだ。そこを郵便配達のバイクが通り、頻繁にお巡りさんのバイクも、たまには沖縄ナンバーの車が通るようだ。<br /> 古我夫人は今からジャズダンスに出かけるそうだ。出かけばなに、「よろしかったら、中に入られて見られてもいいですよ。」と声を掛けてくだされた。先程、「バロン古我の奥さんだった訳ですから男爵夫人だったのですね。」と私が言うと、「そうですね。」と言っていたが、見た目の美貌と人柄の良さが男爵夫人だった証なのだろう。<br /> 古我邸は寺院址に建ち、裏山までもが入っている。門からは芝生が続き、右側には細い竹があり、境界になっている。左側に道があり、さらに左には孟宗の竹藪があり、その先の崖にはやぐらがある。洋館が建つ場所は一段高いところであり、道を登って行くと大きな2つのやぐらが物置に使われていた。その向かいが玄関だ。洋館の裏も広く、裏山脇の崖にもやぐらがあるようだ。いわゆる、鎌倉では良くある2段構成の境内を持つお寺で、回りの崖にはやぐらが並ぶ、鎌倉では良くある谷戸のお寺の立地だ。銀杏の木が何本も聳えていたが、全部切ってしまったそうだ。<br /> 古我邸を間近で見れて本当に感動した。数年前に1度しか公開していないのであるから、こうして古我邸の家屋敷に足を踏み入れて洋館を間近で見られる機会すら得られないのが普通であろう。素敵な古我夫人に深く感謝します。<br />(表紙写真は古我邸)  <br /><br /><br />

鎌倉古我邸-2011年秋

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2011/09/07 - 2011/09/07

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ドクターキムル

ドクターキムルさん

 古我邸(旧荘清次郎別荘)は大正5年(1916年)に三菱銀行重役であった荘清次郎氏が別荘として建築した。その後浜口雄幸、近衛文麿等が別荘として使用したために歴代総理大臣の別荘にもなった洋館として知られるが、古我邸となっている現在でも、三方を山に囲まれて木々のなかで静かに佇む姿には気品が漂い、見る者をして鎌倉一の洋館との思いを強く抱かせる。鎌倉三大洋館の筆頭に位置するであろうが、鎌倉文学館(旧前田邸)や旧華頂宮邸(いずれも鎌倉市の所有)は鎌倉市の景観重要建築物に指定されているのに対し、ここ古我邸(旧荘清次郎別荘)は景観重要建築物に指定されていないのは、平成17年(2005年)に亡くなったバロン古我氏が、生前にはそうしたことを嫌ったからである。他の30棟の建物(指定を受けた32件のうち1件は東勝橋で、もう1件は山崎邸であったが平成15年12月に指定解除されている)よりは明らかに素晴しい景観の中にある築95年の建物である。鎌倉市がいつものように怠慢であることは否めない。JR鎌倉駅近くにある広大な南向きの斜面の敷地に建つお屋敷であるから資産価値が高いのは誰にでも分かるが、ぜひいつまでも残していただきたい洋館であり、佇まいでもある。
 佐助トンネルあたりから駅の方に戻るので寄ってみた。1人、カメラを翳して門前に立っている人がいる。私から声を掛けた。門前で話していると、門の向こうにご婦人がいるではないか。間違えて入ってしまったのか、あるいは古我夫人に頼まれて庭の手入れでもしている人なのかと思っていると、奥に見えなくなった。暫くすると、門の扉を開けて出てきた。早速、聞いてみた。「失礼ですが、こちらの古我さんの関係の方ですか?」「この家に住んでいる者で、‥‥」「え!?」どう見ても60代にしか見えない。「主人が亡くなって、私が一人で住んでいるんです。」「でも、古我未亡人は、あ、失礼、古我夫人はご高齢だと聞いていますけど。」「わたし、85歳になりましたのよ。」「え‥‥‥」60代にしか見えないご婦人が85歳だという。大正15年生まれだそうだ。社交ダンスやジャズダンス、コーラスなどをやっていて毎日が忙しいそうだ。見た目に若いだけではなく、実際に、見た目どおりの若さがあるのだ。
 バロン古我こと古我信生さんは日本で初めてのレーサーだそうである。ここには今も未亡人になった古我夫人が一人で住んでいる。今は1人、娘さんを預かっているが、今は新潟に里帰りしているそうだ。また、横浜国大の先生が来られて、学生が家を見て卒論を纏めたとか話してくれた。
 門前で話しているとお巡りさんのバイクが4台ほど行き帰りしていたが、今度は車が来た。古我夫人が前に出て門の方に寄るように私たちを導いてくれた。すると来た車は止まって窓を開けて挨拶していく。「ご近所の方か、知り合いの方ですか?」もう一人の人が尋ねると古我夫人は知らない人だと答える。私はナンバーを見たので、「沖縄の人は皆フレンドリーですから。」「初めての人にでも挨拶ぐらいはしますよ。」沖縄ナンバーの車だったのだ。ちなみに、前の道路は古我家の私道なのだそうだ。そこを郵便配達のバイクが通り、頻繁にお巡りさんのバイクも、たまには沖縄ナンバーの車が通るようだ。
 古我夫人は今からジャズダンスに出かけるそうだ。出かけばなに、「よろしかったら、中に入られて見られてもいいですよ。」と声を掛けてくだされた。先程、「バロン古我の奥さんだった訳ですから男爵夫人だったのですね。」と私が言うと、「そうですね。」と言っていたが、見た目の美貌と人柄の良さが男爵夫人だった証なのだろう。
 古我邸は寺院址に建ち、裏山までもが入っている。門からは芝生が続き、右側には細い竹があり、境界になっている。左側に道があり、さらに左には孟宗の竹藪があり、その先の崖にはやぐらがある。洋館が建つ場所は一段高いところであり、道を登って行くと大きな2つのやぐらが物置に使われていた。その向かいが玄関だ。洋館の裏も広く、裏山脇の崖にもやぐらがあるようだ。いわゆる、鎌倉では良くある2段構成の境内を持つお寺で、回りの崖にはやぐらが並ぶ、鎌倉では良くある谷戸のお寺の立地だ。銀杏の木が何本も聳えていたが、全部切ってしまったそうだ。
 古我邸を間近で見れて本当に感動した。数年前に1度しか公開していないのであるから、こうして古我邸の家屋敷に足を踏み入れて洋館を間近で見られる機会すら得られないのが普通であろう。素敵な古我夫人に深く感謝します。
(表紙写真は古我邸)  


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  • 古我邸遠望。

    古我邸遠望。

  • 古我邸遠望。

    古我邸遠望。

  • 古我邸遠望。

    古我邸遠望。

  • 古我邸遠望。

    古我邸遠望。

  • 古我邸敷地から。門の外の道路は古我家の私道だそうだ。

    古我邸敷地から。門の外の道路は古我家の私道だそうだ。

  • 右側の竹藪。丸竹であるが、それほど太くはない。四方竹なら鎌倉らしいのだが。

    右側の竹藪。丸竹であるが、それほど太くはない。四方竹なら鎌倉らしいのだが。

  • 古我邸への道。

    古我邸への道。

  • 古我邸が近づく。

    古我邸が近づく。

  • 丘の上に建つ古我邸。

    丘の上に建つ古我邸。

  • 丘の上に建つ古我邸。

    丘の上に建つ古我邸。

  • 道と庭(広場)との境にはバナナも。

    道と庭(広場)との境にはバナナも。

  • バナナには実が着いている。

    バナナには実が着いている。

  • 道を上った上に古我邸がある。

    道を上った上に古我邸がある。

  • 道を上った上にある古我邸。

    道を上った上にある古我邸。

  • 古我邸の下の段の芝生の庭。広場だ。

    古我邸の下の段の芝生の庭。広場だ。

  • 上ってきた道の崖あたり。

    上ってきた道の崖あたり。

  • 坂の途中にやぐらがある。

    坂の途中にやぐらがある。

  • 大きなやぐらだ。物置として遣われている。

    大きなやぐらだ。物置として遣われている。

  • 隣にもやぐら。ここも物置のようだ。

    隣にもやぐら。ここも物置のようだ。

  • やぐらを過ぎると上に古我邸がある。門から100mではきかない。

    やぐらを過ぎると上に古我邸がある。門から100mではきかない。

  • 三角に張り出し、アクセントを付けている。この方向からは意外と奥行きが長い。

    三角に張り出し、アクセントを付けている。この方向からは意外と奥行きが長い。

  • 屋根も三角に張り出している。

    屋根も三角に張り出している。

  • 玄関との関係。洋館の側面からの景観とは思えない感じだ。

    玄関との関係。洋館の側面からの景観とは思えない感じだ。

  • 玄関。

    玄関。

  • 古我邸裏側。平地があり、その奥に裏山が続く。裏山の山道は崩落したところがあり、登れなくなっているそうだ。

    古我邸裏側。平地があり、その奥に裏山が続く。裏山の山道は崩落したところがあり、登れなくなっているそうだ。

  • 古我邸裏側に続く裏山。

    古我邸裏側に続く裏山。

  • 古我邸裏側。平屋で軒が出ている。増築した離れのようなものか。

    古我邸裏側。平屋で軒が出ている。増築した離れのようなものか。

  • 古我邸裏側。

    古我邸裏側。

  • 再び玄関。庇ではなく二階屋になっている。洋館では珍しいであろう。

    再び玄関。庇ではなく二階屋になっている。洋館では珍しいであろう。

  • 二階屋の玄関。

    二階屋の玄関。

  • 玄関。庇はないが、良く見ると外壁が少しばかりせり出している。

    玄関。庇はないが、良く見ると外壁が少しばかりせり出している。

  • 古我邸表側。

    古我邸表側。

  • 二階部分がせり出し、六角塔のようにも見える。

    二階部分がせり出し、六角塔のようにも見える。

  • 古我邸表側。こうした感じは前田家別邸(鎌倉文学館)や古河邸(古河庭園)にも似ていようか。

    古我邸表側。こうした感じは前田家別邸(鎌倉文学館)や古河邸(古河庭園)にも似ていようか。

  • 古我邸表側。

    古我邸表側。

  • 古我邸表側。

    古我邸表側。

  • 古我邸表側の右端。良く見ると二階軒から低い庇が続いている。その奥にあるのが平屋の離れの屋根であろうか。

    古我邸表側の右端。良く見ると二階軒から低い庇が続いている。その奥にあるのが平屋の離れの屋根であろうか。

  • 古我邸表側中央。庭に出るドアと石段がある。

    古我邸表側中央。庭に出るドアと石段がある。

  • 古我邸表側のドアと石段。

    古我邸表側のドアと石段。

  • 古我邸表側左端。六角塔のように見え、良く見ると土台から上の二階屋根へと順次広がっていく構造だ。

    古我邸表側左端。六角塔のように見え、良く見ると土台から上の二階屋根へと順次広がっていく構造だ。

  • 古我邸表側にある庭から下段の芝生の庭を望む。

    古我邸表側にある庭から下段の芝生の庭を望む。

  • 桜の木も植えられている。春に彩りを添えてくれていた桜の木だ。

    桜の木も植えられている。春に彩りを添えてくれていた桜の木だ。

  • 道の坂から見た古我邸。

    道の坂から見た古我邸。

  • 坂道を下って降りる。

    坂道を下って降りる。

  • 坂道の途中、道端に咲く花。

    坂道の途中、道端に咲く花。

  • 坂道の途中に見えるやぐら群。

    坂道の途中に見えるやぐら群。

  • 竹林の横を抜けると下段の芝生の庭だ。

    竹林の横を抜けると下段の芝生の庭だ。

  • 降りてきた坂を振り返って見る。丘の上に古我邸が建つ。

    降りてきた坂を振り返って見る。丘の上に古我邸が建つ。

  • 降りてきた坂を振り返って見る。

    降りてきた坂を振り返って見る。

  • 古我邸遠望。

    古我邸遠望。

  • 古我邸門。

    古我邸門。

  • 古我邸門。

    古我邸門。

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