2014/01/31 - 2014/02/01
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Yoheiさん
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シンガポール赴任中のチャイニーズ・ニューイヤー。旅先に選んだのは、世界最大のムスリム人口を抱えるインドネシア、ジャカルタだった。
アジア最大級のモスクであるイスティクラル・モスクでは、巨大な礼拝空間と夜景を撮影。街を歩けば、勢いを増す日系コンビニの存在感が目に入る。東南アジアの熱気の中で、日本のサービスが根を張っていく様子はどこか不思議だった。
そして旅のクライマックスは、JKT48の劇場公演。日本で生まれたアイドル文化が、赤道直下の巨大都市で独自に育っている。その熱量を、現地のファンと一緒に体感した。
それにしても、今回の旅で最も印象に残ったのは人の優しさかもしれない。道を尋ねれば誰かが立ち止まり、困っていれば自然に声を掛けてくれる。2億人都市の喧騒の中で、インドネシア人の親切さだけは、驚くほど素朴で温かかった。
- 旅行の満足度
- 5.0
- 観光
- 5.0
- ホテル
- 5.0
- グルメ
- 3.5
- 交通
- 3.0
- 同行者
- 一人旅
- 一人あたり費用
- 1万円 - 3万円
- 交通手段
- 高速・路線バス タクシー 徒歩
- 旅行の手配内容
- 個別手配
-
□世界最大のムスリム国家へ
2013年、私は日本の建設会社に入社した。入社1年目の冬、上司から突然「シンガポールの現場に行ってみないか」と声を掛けられた。私はほとんど即答で「行きます」と返事をした。赴任先の現場は、正直かなり厳しい状況だった。工期にも追われ、トラブルも多い。それでも、社会人1年目で海外勤務という環境は、私にとって何もかもが新鮮だった。赤道直下の蒸し暑さ。多民族国家特有の雑多な街並み。ホーカーで食べる安い飯。日本語がほとんど通じない職場。毎日が旅行の延長線上にあるような感覚だった。
気が付けば、そんな生活にも少しずつ慣れ始めていた。仕事の流れが見え始め、生活にもリズムが出来てきた1月末のことだった。隣の席の中国系シンガポール人のおじさんが、旧正月休みの予定を聞いてきた。彼の英語は、気を抜くと中国語にしか聞こえない。スタッカートの効いた独特の喋り方で、最初の頃は聞き取るのにかなり苦労した。華僑の多いシンガポールでは、中国の旧正月は一大イベントらしい。2014年は1月31日と2月1日が祝日となり、会社も1月31日から2月2日まで休業になるという。
「思ってもみなかった3連休がやってくる!」その瞬間、私の頭に浮かんだ国があった。インドネシアだ。世界第4位の人口を抱え、世界最大のムスリム人口を擁する国。首都ジャカルタにはアジア最大級のモスクがある。それだけではない。近年は日系企業の進出も活発で、特にジャカルタでは日系コンビニの陣取り合戦が激しいらしい。ローソンはAKB48の姉妹グループであるJKT48を広告塔に起用し攻勢をかけている――そんな記事を最近日本経済新聞で読んでいた。東南アジア最大級の都市で、巨大モスクと日本式アイドル文化が同時に存在している。その混ざり方が妙に気になった。こうなったら、JKT48の劇場公演も見に行きたい。
旅行期間は2泊3日。さっそくエクスペディアで格安航空券を検索した。シンガポール―ジャカルタ間は飛行時間約1時間50分。ジェットスター往復で18,000円ほどだった。旧正月シーズンなので値段が跳ね上がるかと思っていたが、案外リーズナブルで安心した。ホテルは市中心部に近い場所を確保した。さらに今回の目的の一つであるJKT48劇場公演にも応募してみる。すると、「超遠方枠」という、どう考えても日本人ファン向けに設定されたチケット枠で、2月1日の公演が見事当選した。これは案外嬉しかった。2月2日は朝の便でシンガポールへ戻る予定なので、実質これが旅最後のメインイベントになる。当時、日本のAKB48からは高城亜樹さんと仲川遥香さんがJKT48を兼任していた。どうやら2月1日は、仲川遥香さんが舞台に立つらしい。
□シンガポールからジャカルタへ出発!
こうして1月31日、出発の日を迎えた。前日は旧正月イブ。街全体がどこか浮ついた空気に包まれていた。仕事終わりに同僚たちとチャイナタウンへ向かい、中華料理を囲みながらビールを飲む。そのまま流れるようにマリーナベイのカジノへ移動した。気付けば深夜1時を回っていた。コンドミニアムへ帰宅し、酩酊気味のまま念のため航空券を確認する。私はずっと、ジャカルタ行きの便は朝9時出発だと思い込んでいた。しかし画面に表示されていた出発時刻は、7時45分だった。一気に酔いが冷めた。
コンドミニアムからチャンギ空港までは1時間近くかかる。チェックインカウンターには、遅くとも出発90分前には到着していたい。結局、3時間ほど仮眠を取っただけで、そのままタクシーに飛び乗った。まだ呼気にアルコールが残っている気がする。ほとんど着の身着のまま、2日分のパンツと靴下、Tシャツだけをバックパックへ突っ込んできた。幸い道路は空いており、空港には余裕を持って到着できた。まだ薄暗いチャンギ空港には、旧正月休みを利用して海外へ向かう人たちが大勢いた。東南アジア独特の、湿気を含んだ早朝の空気が漂っている。
年季の入ったA320に乗り込み、シートに座った瞬間に爆睡した。次に目を開けた時には、すでに降下開始のアナウンスが流れていた。隣の親切なおばさんが、入国カードと税関申告書を座席ポケットに入れておいてくれていたらしい。礼を言い、ガタガタ揺れる機内で必要事項を書き込む。窓の外は、一面の雲だった。雨季のジャカルタは、やはり天気が悪いらしい。
飛行機は定刻通り到着した。シンガポールとジャカルタは経度的には近いが、1時間の時差がある。時計の針を1時間戻す。降り立ったのは、インドネシアの玄関口であるスカルノハッタ国際空港。もちろん名前の由来は、デヴィ夫人の夫として日本でも知られる初代大統領スカルノである。シンガポール チャンギ国際空港 (SIN) 空港
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□ジャカルタに到着、ビザの取得法&バスの乗り方
首都の玄関口という割には、空港はどこか古びた雰囲気だった。天井が高く、少し薄暗い。東南アジア特有の湿気を含んだ空気も相まって、到着した瞬間から「シンガポールとは違う国に来た」という感覚があった。どことなく、バンコクのスワンナプーム空港に雰囲気が似ている気がする。
ターミナルを歩いていくと、アライバルビザのカウンターが見えてきた。実は、日本人がインドネシアへ入国するにはビザが必要だということを、私は出発の2日前に先輩から聞かされて初めて知った。取得費用は25米ドル。しかも支払いはなぜか米ドル建て限定らしい。日本円でも払えるが時間が掛かる、と聞いていたので、事前にチャンギ空港で米ドルを準備しておいた。
カウンターには各国から来た旅行者たちが並んでいた。係員にパスポートと25ドル札を渡すと、慣れた手つきで処理が進んでいく。しばらくして返ってきたパスポートには、新しくインドネシアのビザが貼られていた。ジャカルタ スカルノ ハッタ国際空港 (CGK) 空港
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空港内の両替所で100シンガポールドルを両替すると、925,000ルピアになった。ゼロが多すぎて、一瞬感覚が狂う。2014年1月時点では、だいたい1円=約0.01ルピアくらいのレートだったので、買い物の時は単純に後ろのゼロを二つ消せば、おおよその日本円感覚になる。もっとも、最初のうちは「20,000ルピア」とか「50,000ルピア」と言われても、高いのか安いのか全く分からない。財布の中だけ急に大金持ちになったような、不思議な感覚だった。
空港から市内への移動手段は、バスかタクシーらしい。しかしタクシーは値段が高い上に、旅行者相手に法外な金額を吹っ掛けられることもあると聞いていた。ここは無難にバスで行くことにする。到着ロビーを歩いていると、さっそく客引きのタクシードライバーたちが声を掛けてきた。「Taxi? Taxi? City?」東南アジア独特の、ぐいぐい距離を詰めてくる感じだ。適当に笑いながらかわし、ツーリストインフォメーションへ向かう。係員に市内行きバスについて聞くと、ターミナルの端にある乗り場を教えてくれた。ジャカルタ スカルノ ハッタ国際空港 (CGK) 空港
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てくてくとバス乗り場まで歩いていき、空港連絡バスを運行しているダムリ社のカウンターへ向かった。カウンターには、目の大きな可愛らしい女の子が座っていた。「どこまで行きたいの?」そう聞かれて、私は少し戸惑った。実は私は、ろくに地図も見ずにインドネシアへ来てしまっていたのである。
空港がジャカルタ中心部の北西側にあること、市内には巨大なモスクがあること、そして自分のホテルがその近くにあること―知っているのは、その程度だった。今思えばかなり適当な状態だが、当時の私は「とりあえず現地に行けば何とかなるだろう」と本気で思っていた。海外赴任生活に少し慣れ始め、自分の行動力を過信していた時期だったのかもしれない。ジャカルタ スカルノ ハッタ国際空港 (CGK) 空港
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困った末に、私は「ビッグモスク、ビッグモスク」と連呼してみた。すると彼女はすぐに察したらしく、「ああ、ブロックMね!」と教えてくれた。本当に合っているのか若干不安だったが、とりあえず言われるまま30,000ルピアのチケットを購入し、ちょうどやってきたバスへ乗り込んだ。
空港シャトルバスはいくつかの会社が運行しているらしく、ダムリ社のバスはFree WiFiが使えるとのことだった。もっとも当時の私は、海外でSIMカードを買い、自分のスマートフォンに挿して通信する――そんな旅行者の常識すら知らなかった人間である。東南アジアの空港バスでWiFiが使えるというだけで、少し未来的に感じていた。
バスは国内線ターミナルなどを回りながら乗客を拾っていく。ジャカルタといえば大渋滞、というイメージを勝手に持っていたのだが、空港から市内へ向かう高速道路は拍子抜けするほど流れていた。雨季特有のどんよりした空の下、高層ビル群が少しずつ近付いてくる。昨夜ほとんど寝ていなかったこともあり、途中からまた強烈な眠気に襲われた。気付けば、バスは最終停留所のブロックMへ到着するところだった。ジャカルタ スカルノ ハッタ国際空港 (CGK) 空港
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□ブロックMに到着!…モスクはどこ?
巨大なバスターミナルであるブロックMには、各方面からバスがひっきりなしに出入りしていた。排気ガスの匂い、エンジン音、雑踏。シンガポールの整然とした交通網とはまるで違う、東南アジアの巨大都市らしい熱気がある。「さすが首都の中心部だな」そんなことを思いながらバスを降りた。
とはいえ、問題はここからだった。私は依然として、自分が行きたい巨大モスクの正式名称を知らない。降り際に車掌のおじさんへ、「でかいモスクはどこにあるの?」と聞いてみた。すると彼は、「うーん……」と腕を組み、本気で1分ほど考え込んだ後、「ごめん、名前忘れちゃった! 確かあっちの方角だった」と、適当な方向を指差した。東南アジアらしい大雑把さである。
とりあえず言われた方向を見てみる。しかし、モスク特有のミナレットもドームも見当たらない。それどころか、周囲には高い建物すらほとんど見えなかった。私は勝手に、「アジア最大級のモスクなのだから、遠くからでも巨大な建物が見えるだろう」と思い込んでいたのである。どうやら、そう簡単には辿り着けないらしい。プラザ ブロック M ショッピングセンター
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そのうち歩いていれば見つかるだろうと思い、私はブロックMのバス停を離れて歩き始めた。空は灰色で、今にも雨が降り出しそうだった。雨季特有の湿った熱気が街全体を覆っている。歩いているだけでシャツがじっとり汗ばんでくるような暑さだった。
大通りを跨ぐ歩道橋へ上がり、周囲を見渡してみる。しかし、モスクらしき建物はどこにも見当たらない。ミナレットどころか、高層ビルすらまばらで、本当にここが東南アジア有数の巨大都市なのか疑いたくなる景色だった。「おかしいな……」そう思いつつも、私は朝から何も食べておらず、かなり腹が減っていた。とりあえず近くにあったショッピングセンターへ入ることにする。
冷房の効いた館内へ入った瞬間、生き返るような気分になった。適当な喫茶店へ入り、モーニングセットと紅茶を注文する。店内ではWiFiが使えるらしい。ここで私は、ようやくスマートフォンのGoogle Mapを開いた。現在地を取得してみる。すると画面上に表示されたのは、中心部にあるはずの巨大モスクから、南へ約10kmも離れた地点だった。プラザ ブロック M ショッピングセンター
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□ブロックMはジャカルタ中心部ではなかった!
驚きつつも、私は「地図をろくに見ずに来た自分が悪い」と反省した。そもそもダムリ社のカウンターのお姉さんは、「ビッグモスク」という曖昧すぎる単語から、一体何を想起してブロックMを案内してくれたのだろう。しかしGoogle Mapをよく見てみると、北の方へ歩いていけば、ASEAN本部や、JKT48劇場の入居するショッピングセンターが比較的近いことが分かった。とりあえず飯も食べ終えたので、そのまま歩いてみることにする。
外へ出た瞬間、再びまとわりつくような熱気に襲われた。シンガポールも十分暑い国だが、ジャカルタの蒸し暑さはそれ以上だった。空気そのものが重い。道路事情もかなり違う。幹線道路ですら、ところどころ舗装が剥がれていたり、路面が陥没していたりする。シンガポールのような綺麗な歩道は少なく、ロードバイクなど到底走れそうにない環境だった。もっとも、平日の昼間ということもあり、恐れていたほど渋滞は酷くない。日本製の車が次々と走り抜けていく。
意外だったのは、ジャカルタ市内を普通にトゥクトゥクが走っていたことだった。私は勝手に、「ジャカルタ観光はバスかタクシーしかない」と思い込んでいたので、これは少し嬉しかった。さらに歩いている途中、日本のODAによって建設中だったジャカルタ地下鉄の工事現場も目に入った。現場看板には、コンサルとしてオリエンタルコンサルタンツの名前、施工会社として清水建設や大林組の名前が並んでいる。もう1社、地元ゼネコンと思われる会社名も記載されていた。社会人1年目の私は、こういう海外インフラ工事を見るだけでも妙にテンションが上がった。 -
道路の中央2車線は、バス専用レーンになっていた。一般車が進入できないよう、境界部分にはハンプまで設置されている。「なるほど、こうやって渋滞対策をしているのか」そう思ったものの、ジャカルタ名物とも言われる朝夕の大渋滞を考えると、本当に定時運行できるのだろうかという疑問も浮かぶ。
中心部へ向かってしばらく北へ歩く。湿気を含んだ風の中を汗だくになりながら進んでいくと、右手にASEAN本部の建物が現れた。重厚感のある建物だった。東南アジア各国の国旗が並び、敷地は深い緑に囲まれている。大通り沿いに建っているにもかかわらず、不思議と静かな空気が漂っていた。 -
□ジャカルタ中心部を目指して歩く!
汗だくになりながら、バスレーン沿いをひたすら北へ歩いていく。湿気を含んだ空気は重く、少し歩くだけでTシャツが背中に張り付いた。しかし、歩けば歩くほど街の景色は変わっていった。
大通りの両脇には巨大な高層ビル群が現れ始める。ガラス張りのオフィスビル、大型ショッピングモール、建設中のタワー。シンガポールほど洗練されてはいないものの、「これから伸びていく都市」の勢いのようなものが街全体から感じられた。
ちょうどイヤホンからSuperflyの「誕生」が流れ始める。“時代はもうハイスピード”――そんなフレーズが、目の前のジャカルタの景色と妙に重なった。急成長する東南アジア。次々と建設される高層ビル。日本企業の進出ラッシュ。建設中の地下鉄。そして、その熱気の中を汗だくになって歩く私。当時NHK BSでは、「島耕作のアジア立志伝」という番組が放送されていた。アジアの起業家や経営者たちが、急成長するアジア市場で成功を掴んでいく姿を描いた経済ドキュメンタリーである。高層ビル群の間を歩きながら、「自分も今、そのアジアの成長の現場にいるんだな」と、少しだけ高揚していた。 -
途中、綺麗なモスクを見つけては立ち止まり、写真を撮る。白い壁面とイスラム建築特有のドームが、灰色の空によく映えていた。アルアズハル大学の横に建つ「Masjid Agung Al-Azhar」は、白を基調とした非常に美しいモスクだった。どこかアブダビのザーイドモスクを思わせるような、近代的で優雅なデザインである。
シンガポールでもモスク自体は珍しくない。しかし、ジャカルタではその存在感がまるで違った。巨大都市の風景の中に、イスラム文化がごく自然に溶け込んでいる。「世界最大のムスリム国家に来たんだな」そんなことを、ようやく実感し始めていた。 -
さらに歩いていくと、「Patung Pemuda Membangun」という大きな像が現れた。勢いよく腕を振り上げた青年像で、いかにも「発展する国家」を象徴しているような雰囲気がある。その奥には、リッツ・カールトンの巨大なホテルビルも見えていた。シンガポールでも高級ホテルは見慣れていたはずなのに、ジャカルタのそれはどこかスケール感が違う。急成長する都市の勢いを、そのまま建物の大きさに変換したような圧迫感があった。
気付けば、もう1時間近く歩き続けている。本当にこの道で合っているのだろうか。不安になった私は、ホテル近くにあった警備員小屋へ立ち寄り、Google Mapを見せながら道を尋ねてみた。中には陽気なおじさんが3人。英語はあまり得意ではないらしいが、それでも身振り手振りを交えながら、一生懸命説明してくれる。
「~~モナス、ブス、ブス、ウォーク~~サトゥジャム~~」
「ん? サトゥジャム?…」
その瞬間、数年前のマレーシア赴任時代に、インドネシア人労働者を教育するために少し勉強したインドネシア語の記憶が蘇った。サトゥは「1」、ジャムは「時間」。つまり、「歩くと1時間かかる」と言っているらしい。それはさすがに無理そうだ。 -
□徒歩を断念、やっぱりバスに乗る
さすがに歩き続けるのは無理だと判断し、私は近くにあった「ガトット・スブロト」のバス停から、モスク方面へ向かうことにした。ジャカルタのバスシステムは思っていたより整備されており、駅のような専用ホームへ入る形式になっている。まずはカウンターでチケットの買い方を教えてもらい、モスク最寄りのMonas停留所までの運賃3,500ルピアを支払った。日本円にすると、わずか35円ほどである。「安い……」シンガポール生活に慣れ始めていた私には、この物価感覚がかなり衝撃だった。
やってきたバスへ乗り込む。車内は少し薄暗く、エアコンも効いているのかいないのか微妙な感じだ。それでも、蒸し暑い外を歩き続けた後では十分ありがたい。途中の停留所で一度乗り換えを挟み、しばらくしてMonas停留所へ到着した。 -
バス停留所を対面から見ると、ちょうど駅のホームのような構造になっている。
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バスを降りた瞬間、遠くにアジア最大のモスクと思われるシルエットが見えた。さらに視線を少し移すと、ジャカルタの象徴である独立記念塔「モナス」も堂々とそびえている。ようやく目的地の核心に近づいてきたという実感があったが、その時点ですでに時計は14時を回っていた。朝からほとんど動きっぱなしで、Tシャツも体に張り付くほど汗を吸っている。まずはホテルに荷物を置き、体を落ち着けることにした。
今回2泊滞在するミレニアムホテルは、モナスから徒歩20分ほどの場所にある。地図で見れば近いはずなのに、この灼熱の中ではその20分が妙に遠く感じられた。上も下も汗びっしょりの状態でチェックインを済ませ、9階の部屋へ向かう。扉を開けた瞬間、冷房の効いた空気が一気に流れ込んできた。そのまま荷物を放り出し、ほとんど倒れ込むようにシャワーへ向かった。静かで綺麗なホテル by Yoheiさんミレニアム ホテル シリー ジャカルタ ホテル
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□ジャカルタの夜を楽しむ
シャワーを浴びてようやく人心地ついたところで、WiFiを起動し、地図を確認する。頭の中にざっくりとした位置関係を叩き込みながら、夜の観光に備えて少し仮眠を取ることにした。ふと考えると、ジャカルタ市内では中国語の店や看板をほとんど見かけていないことに気付く。これまで訪れた東南アジアの都市では、どこへ行っても華僑系の存在感が強かっただけに、少し意外だった。「東南アジアにあって、華僑の影響が薄い国なんてあるのだろうか」と、ぼんやり思う。
まだ外が明るい18時頃、ホテルを出て再び街へ向かった。夕方の空気は少しだけ熱気が和らぎ、歩きやすくなっている。周辺を軽く散策しながら、頭の中にジャカルタ中心部の“地図”を作っていく。しかし途中でスコールに見舞われ、あっという間に土砂降りになった。雨宿りのため、近くにあったマクドナルドへ避難する。店内は冷房が効いており、外の熱気とは別世界だった。せっかくなので、ここで今日の行動をポメラに打ち込むことにする。
今回の旅から、日記代わりにキングジムのポメラを持ってきていた。ワープロ機能だけに特化したシンプルな端末で、キーボードの打ちやすさを徹底的に追求しているのが特徴だ。乾電池で動くというアナログさも含め、どこか“ガラパゴス日本製品”の象徴のような存在でもある。記者やライター向けに作られた機材ではあるが、旅先で日記を書くにはちょうどいい。実際に使ってみると非常にシンプルで快適だった。ただ一つ気になったのは、単語変換がアップデートされないことだった。つまり、新しい流行語や時代ごとの言い回しが増えていくわけではなく、あくまで購入時点の辞書のまま使い続けるしかない。 -
雨がやんだのを確認して外に出ると、むしろ空気は一段と重くなっていた。水分を含んだ熱気が街にまとわりつき、歩くだけで汗が滲んでくる。薄暗くなり始めた中心部の幹線道路を、モナス方面へ向かって歩いていく。ビルの灯りが少しずつ点き始め、昼間とはまた違う表情のジャカルタが立ち上がっていた。
途中で声を掛けてきた流しの「ツクツク」を捕まえる。短距離移動の足としてはちょうど良さそうだ。モナスの周辺は大きな公園になっており、その一角には地元の人たちが集まっていた。お茶やコーヒー(インドネシアでは「コピ」と呼ばれる)、お菓子などを並べた簡易の売店が点在していて、観光地というよりは市民の憩いの場といった雰囲気だ。そしてその中心に、独立記念塔モナスがそびえていた。
夜の闇の中でライトアップされた塔は、時間帯によって色を変えながら、静かに光っている。上部は展望台になっているらしく、内部にも明かりが灯っていた。もしかすると登れるのかもしれない。そう思い近づいてみると、入場ゲートはすでに閉まっていた。掲示には「16時まで」とある。少し残念ではあったが、こういうものはだいたい翌日に出直すことになる。私は軽く塔を見上げ、「まあ明日だな」と思いながら、その場を後にした。モナス (独立記念塔) モニュメント・記念碑
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モナスを美しく撮影できるスポットを探しながら、アジア最大のモスクの方へ向かって歩いていく。ライトアップされた塔は角度によって表情が変わり、どこから撮るのが一番いいのか、少し迷いながら歩を進めた。公園の一角に差し掛かると、雰囲気が少し変わった。そこにはホームレスと思われる人々が生活しているエリアがあり、簡易なテントや荷物が並んでいる。その近くには国連WFPの車両も停まっており、支援活動が行われている様子だった。
モナス (独立記念塔) モニュメント・記念碑
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□いよいよアジア最大のモスクへ
モスクのドームを目印にしながら、入れそうなゲートを探して歩く。あたりは街灯が少なく、夜の公園はどこか薄気味悪い雰囲気を帯びていた。通り沿いには、ホームレスと思われる人々の簡素な小屋が並んでいる。都市の中心部に近い場所とは思えないほど、整備されたエリアとそうでないエリアが同居していた。首から下げたカメラを無意識に握りしめながら、私は少し早足でモスクの周囲を歩いた。昼間であれば開放されているらしきゲートも見つかったが、すでに21時を過ぎているこの時間では、さすがに中へ入ることはできないようだった。それでも門の外から見えるライトアップされたモスクは、想像以上に美しかった。白い壁面が光に照らされ、静かに浮かび上がっている。
今日はここまでにして、撮影は明日の朝に回すことにする。ただせっかくなので、モスクの外周を一周してから帰ることにした。南側へ回り込むと、メインゲートと警備員の詰め所があった。そこは先ほどの暗い雰囲気とは違い、人の気配があり、ゲートも開いているように見える。モスクの外観を写真に収めていると、近くにいたローカルのおじさんが声を掛けてきた。「どこから来たんだ?」「何しに来たんだ?」矢継ぎ早の質問に、少し戸惑いながら答えた。イスティクラルモスク 寺院・教会
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おじさんと別れ、モスクの入り口の方へ向かった。すでに閉まっているだろうと思いつつ、「どうせ中には入れないだろうな」と半ば諦めながらゲートに近づく。ところが、ダメもとで中を覗き込んでいると、セキュリティの体格の良いローカルのおじさんがこちらに気付き、意外にもあっさりと中へ手招きしてくれた。思わず少し驚いたが、そのまま中へ通される。インドネシア人は本当に親切な人が多い――この旅の中で、何度もそう感じる瞬間があった。
靴を脱ぎ、おじさんの後についてモスクの中へ入る。床は冷たく、外の蒸し暑さとはまったく別世界だった。モスクの営業時間は22時までらしく、セキュリティのおじさんは閉館の見回りに行くついでに、私を案内してくれるという。寝転んでいる人や、静かに談笑している若い女性たちに声を掛けながら、閉館時間を伝えていく姿は、どこか日常の一部のようだった。やがてメインの礼拝所にたどり着く。
ドームを見上げると、思わず息をのむ高さだった。音が吸い込まれていくような静けさの中に、圧倒的な空間の広がりがある。外から見ていた以上に、そのスケールは大きかった。一本立つミナレットも美しい。夜空に向かってすっと伸びる姿は、人工物でありながらどこか静謐な存在感を放っていた。
さらに内部には、廊下を利用した簡易的な学びの場もあった。ホワイトボードと椅子だけが並べられたその空間は、「ムスリム学校」と呼ばれるもので、いわば寺子屋のような場所だという。巨大な礼拝空間と、日常の学びの場が同じ建物の中に共存していることが、妙に印象的だった。イスティクラルモスク 寺院・教会
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巨大な礼拝堂
イスティクラルモスク 寺院・教会
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□世界最大のムスリム国家のモスクに相応しい、威風堂々とした佇まい
その後も、礼拝堂や回廊のあちこちでシャッターを切った。静けさの中に広がる巨大な空間は、どこを切り取っても絵になる。気付けば、この日一番と言っていい写真を何枚も撮っていた。やがて案内してくれたおじさんと一緒に入り口へ戻る。入場料は無料だったが、これだけ丁寧に案内してもらい、しかも貴重な時間を割いてもらったことを思うと、何も渡さないのは申し訳ない気がした。「この美しいモスクの維持に少しでも役立ててほしい」そんな気持ちで、心ばかりの金額を渡す。おじさんは特に大げさに受け取るわけでもなく、自然な感じで受け入れてくれた。
外に出ると、夜の湿った空気が再び肌にまとわりつく。しかし気分は不思議と軽かった。今日はもう十分だと思える満足感があった。帰り際、近くのコンビニでビンタンビールを買い、ツクツクを拾ってホテルへ戻る。事前に調べた限りでは、ジャカルタには観光資源があまり多くない印象を持っていた(多くの見どころはジョグジャカルタやバリ島などに集中している)。しかし実際に来てみれば、アジア最大級のモスクを夜に訪れ、その内部まで見ることができた。それだけで、この旅は十分すぎるほど満足のいくものになっていた。イスティクラルモスク 寺院・教会
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森閑としたモスクの中だけは、ジャカルタの蒸し暑さを忘れさせてくれる別世界だった。
イスティクラルモスク 寺院・教会
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