2020/01/30 - 2020/01/30
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ちびのぱぱさん
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夏目漱石が熊本に赴任した時の経験をもとに書いた小説に「草枕」があります。
旅に文学を絡めるのは料理に味付けをするのに似ていると思います。
どんな味付けにするかは、どんな小説を絡めるかで決まる。
変哲のない路傍の石ころも、ストーリー次第で玉に変貌するわけです。
そう思って調べていたら、草枕のあの有名な導入部分にある「山路」は実在するらしい。
- 旅行の満足度
- 4.0
- 同行者
- カップル・夫婦
- 交通手段
- レンタカー JRローカル
-
明治29年、夏目漱石は、小説「坊ちゃん」の舞台になった愛媛県松山から熊本の第5高等学校に赴任してきました。
その時に降り立ったのが昼下がりの上熊本駅で、その頃の駅舎が現在は路面電車の駅舎として使われています。
わたしらがこの駅に到着したのは夕闇が迫った頃。 -
漱石は同行した3人の友人と共にここで汽車を降り、人力車に乗ってその友人の一人の自宅に向かいました。
その時、漱石は熊本が風光明媚であることに気付いたようです。
この駅の少し手前には、西南戦争の有名な合戦場である田原坂もあります。
一年しか過ごさなかった松山に比べ、熊本には4年以上暮らしました。
まあ、漱石ゆかりの地としては、熊本の方が上と、ご当地の方は自負しておられます。
市電に乗って、宵闇迫る熊本市街地のホテルに向かいます。
レトロな駅舎にモダンな路面電車の取り合わせも悪くありません。 -
私らは水郷柳川から西鉄に乗り、大牟田駅でJRに乗り換えて熊本に。
乗換の際、大牟田の駅前で見かけた昭和18年製の電車。
漱石の頃より40年以上後のものですが、雰囲気は伝わってくる。 -
漱石が熊本で住んだ最初の家からほど近い辛島町のネストホテルに荷を解き、徒歩圏にあるラーメン屋で夕食。
熊本にやってきた漱石は、友人の家に一月ほど居候の後、光琳寺というところに家を見つけ、そこで結婚式も挙げた。
それから漱石は都合5回引っ越しをした、つまり六カ所も住む家を変えました。
別に引っ越し魔だったわけではなく、たまたま事情でそうなったようです。ネストホテル熊本 宿・ホテル
-
旅をする時はなるべく、ご当地ラーメンを食べます。
とくにラーメンが大好きというワケではないのですが、気がついたらそういう習慣がついていた。
食レポはできませんが、こっくりして旨かったなあ。秀ちゃんラーメン グルメ・レストラン
-
明くる朝、ニコニコレンタカーを借りてドライブ。
このレンタカー会社とは付き合いが長くなりました。
わたしの会員番号が若いので、ビックリされた事がある。
他の格安レンタカーを利用した事もありますが、懲り懲りした。
真新しいビッツに乗って「草枕」の舞台を歩いてみます。 -
山路を上りながらこう考えた。
智に働けば角が立つ。
情に棹を差せば流される。
とかく人の世は住みにくい。
旅に出る前に、タブレットに「青空文庫」のアプリを導入して、「草枕」を読みました。
本当にずいぶん昔に読んだはずだけど、もしかしたら途中で投げ出したかも知れません。
主人公の画家がとにかく理屈っぽい。
今回も読んでいる途中に、辟易してしまいました。
導入部だけやたらと有名です。
こういうの、よくありますね。
たとえば、ポール・ニザンの「アデンアラビア」。
頑張ったけど、最後までたどり着けなかった。
今回は頑張って、はしょりはしょり(?)最後まで「草枕」読みました。
で、この山路が、漱石が実際に歩いて小天温泉(おあまおんせん)へ行った路。 -
鎌研坂といいます。
レンタカーオフィスのスタッフが、「すぐそこです」と言っていましたが、そこそこ走りました。 -
社会で生きる事に疲れていた主人公がぶつぶつ言いながら温泉への山路を登って行く。
政治家は何百万人ものために一生懸命働くけど、その見返りにちょっとつまみ食いをしても叩かれる、と政治家に同情して見せたりします。
聖書にも、脱穀している牛にくつこを掛けてはならないという言葉があります。
なるほど、しかし画家のくせにずいぶん分別くさい事を言う。
画家は峠にさしかかってにわか雨に襲われ、折良く見つけた茶店に雨宿りします。
ここで主の老婆から、峠を越える美しい花嫁ごりょうの話を聞き、大いに興味をそそられる。
すると老婆はこれから主人公が行こうとしている旅館に、その花嫁が出戻っているから、頼めば気軽に花嫁姿も披露してくれるという。
これは楽しみ。
設定としては、この茶店が非日常の世界への入口になっているんでしょう。 -
小天温泉に抜ける国道を進むと駐車場があって「峠の茶屋」と書かれている。
古い民家が修理中で、若い職人が一人寂しく茅葺き屋根の修理をしていました。
残念ながら、漱石が訪れた茶店とは同じでないらしい。 -
怪我しないで下さいね。
-
有明海に面した小天温泉に抜ける山路には左右の山の斜面に広大なみかん畑が連なっている。
-
その遙か向こうには雲仙岳が雲を纏っていました。
-
落ちているみかんを拾って、剥いて味を見てみました。
濃縮ジュースのように甘い。 -
有明海に向かって一気に降りてゆくと、小天温泉に至ります。
漱石が泊まったのは、当時前田案山子が住んでいた前田家別邸。
小説では「那古井館」となっています。前田家別邸 名所・史跡
-
かつての前田家別邸の復元図が塀に掲げてありました。
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門から入ってすぐ右手に、かつての湯屋がある。
-
お湯は張っていませんが、今でも使えそう。
丘の上に立っている「草枕交流館」の職員の方の説明では、一旦人手に渡って畑になっていたのを掘り起こしたら、当時のままの浴槽が表れたそうです。
それをもとに、往時の姿に復元したらしい。
全部元に戻したいようですが、大人の事情で一部再現に留まっております。
入場は無料。 -
説明を見ると小説一番の名場面の舞台みたいなことが書かれていました。
主人公の画家は、那古井館の娘「那美」との印象的な出会いを経験します。
まあ、竜宮城の乙姫様のような役回りでしょうか。
魅力的で自由闊達な娘として、主人公を翻弄します。
那美は、茶屋の老婆から情報を得ていて、主人公のために花嫁衣装に着替えて館内を行ったり来たりというサービスもする。
よせばいいのに主人公は理屈っぽい持論をこの乙姫に披露する。
自分は非人情に生きたいのだと。
非人情というのは、超越した生き方というような意味らしい。
ところが乙姫さまは、不人情と聞き違える。
それを主人公は非人情ですとしっかり訂正する。
ちっとも超越していないんですね。
わたし的にはこのくだりが一番受けました。 -
で、この浴室。
主人公が深夜に一人で浸かっていると、乙姫さまが男湯に入ってきてばったり遭遇する。
これは、前田家の娘のツナと実際にあったできごとがモチーフになっている。
漱石がこの場面を小説の最大の見せ場に考えていたかは知りませんが、多くの人はこの出来事を印象深く読むようです。 -
階段を途中まで下りてきた那美が、先客がいる事に気付いてコロコロ笑いながら逃げて行く。
モデルになったツナの話では、女湯は男湯から湯を引いているので温いそうです。
それで、夜更けになると男湯を使っていた。 -
湯屋の裏には母屋があったらしいですが、まだ復元ならず。
背後の鬱蒼とした竹林から、聞いたことのない鳥の鳴き声がしました。
見上げたところに、漱石が滞在していた離れがある。 -
前田家別邸が健在だった頃の写真などが、説明のパネルに載せられています。
-
立派な石垣の階段を上って、漱石の間に行きます。
-
ここは綺麗に復元されています。
ちなみに、小天温泉には小説に登場する那古井館の名で、温泉宿が営まれています。
老舗の旅館ですが、漱石が泊まった旅館ではありません。 -
中に入る事ができます。
-
前田案山子は自由民権運動家の好人物で、小説にも那美の父親として登場しています。
その隣に那美のモデルのツナ。
明治期に大活躍した美女です。
朝の連続テレビ小説に推す声も高いです。
かなりおもしろいものになると思います。 -
不思議な胸像。
へたうま? -
庭園がきれいに整えられている。
-
ここに、まだ新婚といえた漱石夫妻が滞在していた。
-
屋敷側の入口から顔を出すと、湯屋が見える。
いくつかの建物を回廊が結び、那美が花嫁衣装でその廊下を行ったり来たり。
不思議な場面です。 -
濡れ縁がぐるりと囲んでいる。
わたしの生家も、こんな濡れ縁の向こうに庭がありました。 -
しばし小説の世界に浸る時間を過ごしました。
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