2024/10/06 - 2025/10/06
30位(同エリア67件中)
砂布巾さん
1940年7月10日 「カサブランカ」の時代(映画、フランス)
大戦中のフランス領モロッコを舞台とする1943年のアメリカ映画「カサブランカ」(撮影はハリウッド)のラストシーンに、警察署長ルノーが‘Vichy Water’の瓶をゴミ箱に投げ捨てる場面がある。フランス人ルノーが拒否した「ヴィシー」とは何だったのだろうか?
休戦条約締結後のフランスは、ドイツに併合されたアルザス・ロレーヌを除く北部はドイツの直接占領下に置かれた。
そしてこの日、ヴィシーのオペラ座(写真を撮らなかった)で開かれた両院合同の国民議会で、569対80の大差で84歳だったペタン元帥に全権が付与され、大西洋沿岸を除く南部には、自由地域と称してヴィシーを首都にドイツの傀儡(かいらい=「操り人形」)政権が成立した。ペタンは第一次大戦におけるヴェルダン要塞攻防戦の英雄で、国民の崇拝の的だった。両地域間の自由な手紙のやりとりは禁止され、往来も厳しく制限された。
ヴィシー政府は占領費を1日あたり4億フラン払わされるなど、条件は厳しかったが、植民地にも支配権が及ぶなど実質的な傀儡性はともかく、形式的にはフランス正統政府として主権を持ち、イギリスを除く国際的承認も得た。ヴィシー政府とイギリスは、フランス艦隊の引渡しをめぐって対立し、イギリスがフランス艦隊を撃沈して千人以上の死者を出したメル・エル・ケビル事件以後、緊張関係にあった。
これ以後、1944年8月のフランス解放までは、ヴィシー時代と呼ばれる。この時代は「引き裂かれたフランス」、「抹殺されるべき4年間」などと呼ばれた。
フランス人同士がレジスタンスとコラボラシオン(対独協力 ある資料によると全人口の0.4%)に別れて隠然と対立し、密告と相互監視が日常茶飯事だったヴィシー時代のキーワードは、「沈黙」だった。本項目の主要参考文献である渡辺和行著「ナチ占領下のフランス」(講談社選書メチエ)から、ヴィシー時代の「沈黙」を紹介する。
「ユダヤ人であるために発表する場を奪われた『強いられた沈黙』、地下鉄の車内で同胞がドイツ兵にぶたれるのを見て見ぬふりをせざるを得ない市民の『無力の沈黙』、ユダヤ人の迫害をどうすることも出来ない『メランコリックな沈黙』、連合国軍の空爆による犠牲者(注:6万8千人)には哀悼の意を表するが、ドイツ軍によって処刑された無辜の民には一言も発しないペタン元帥の『偽りの沈黙』、ドイツとの協力を拒否したレジスタンスの『緊張した沈黙』、一瞬のやすらぎの『平和の沈黙』、肉親を虐殺された人びとの『怒りの沈黙』」。
渡辺氏は本の中で、「フランス国民は抹殺されるべきヴィシー時代をレジスタンス神話で覆い隠して戦後を生きてきた」として、「救世主」ペタンの崇拝、ドイツの占領と略奪、爆弾騒ぎ、日常的な銃殺と強制収容所送り、廃墟と化した国土、経済のマヒ、レジスタンスの高まりと解放、暴力的復讐と要約したヴィシー時代を描いている。
(このページを訪問してくださった方へ)
ご訪問有難うございます。
もし読者の方が根本的間違い、編集の際に発生したと思われる不整合、文法上の誤りなどを発見されたり、何か目新しい情報をお持ちの方、ご意見がおありの場合は、ご遠慮なく掲示板でもメールでも、ご一報くだされば幸いです。
心からの感謝を込めて 砂布巾
-
話は戻って、大戦中のモロッコ「カサブランカ」はヴィシー、フランスの植民地であった。渡辺氏が反ナチ・プロパガンダ映画と呼ぶ冒頭の説明から、背景を説明する。
「第二次大戦の勃発でドイツの侵略を恐れたヨーロッパの人々は、アメリカ大陸を目指した。だが中継地リスボンまで行くのが難しかった。亡命者たちがたどったのは、苦しい回り道だ。パリからマルセイユ、地中海を渡ってオラン、そこから汽車か自動車か徒歩で仏領モロッコのカサブランカへ。そこで運のいい者は金かコネによってリスボンへの出国ビザを手に入れた。だが多くはカサブランカで待って待って待ち暮らすだけだった」。フランコのスペインを迂回する形で、中継地のポルトガルへ向かったことになる。
映画はカサブランカでカフェを経営しながら、脱出のチャンスをうかがうリック(ハンフリー・ボガート)、彼の前に現れたレジスタンスの闘士ラズロ、パリ陥落の日にリックと逃げる筈だったラズロの妻イルザ(イングリッド・バーグマン)をめぐる三角関係を中心に展開する。最後はドンでん返しの末に…。
なお映画公開直前の11月8日に北アフリカ上陸作戦、トーチ作戦が始まり、3日後にカサブランカは自由フランス軍に奪還され、枢軸軍は地中海での制空権を失った。
「カサブランカ」は初めて観た時には途中でチャンネルを変えたが、歴史的背景を理解した上で観ると、バーグマンの美しさやボガートの渋さ(「君の瞳に乾杯」は名言!)などと相まって、何回観ても飽きない映画であり、自分にとってベスト1だ(2007年版アメリカ映画ベスト3)。パリの駅のホームでイルザからリックに宛てた別れを告げる手紙のインクが雨に流されるシーン、「時の過ぎゆくままに」を歌っているシーンも印象的だが、圧巻はドイツ兵がリックの店で「ラインの守り」歌っている場面で、フランス国歌「ラ・マルセイエーズ」の伴奏が突然始まり、フランス人が涙しながら歌っている場面だろう。
https://www.youtube.com/watch?v=2b8OCFURCyE -
現在のヴィシーは中部フランスの静かな温泉町。こんな小さな町が首都だったのが信じられないくらい。5種類の温泉を飲んでみたけど、正に「まずい」という感じだった。ヨーロッパでは温泉は入るものではなく、飲むものだ。
-
フランス人が「抹殺したい」と思っている節が感じられた逸話を。パリからヴィシーへ向かう列車の時刻を聞こうとして駅のInf.へ行った時、中年女性に「ヴィスィー」と言っても通じず、「ヴィスィー・ガバーメント」、「ペタン」と言っても理解してもらえなかった。紙に‘Vichy’と書くと、「アッ、ヴィシー」と言って教えてくれた。オペラ座の前には政府庁舎が入っていたという。建物にあるInf.へ行って受付の女性に「ヴィシー政府の建物はどこですか?」と尋ねたら、‘in this place’と教えてくれた。内心は複雑だっただろう。
-
フランスの降伏は、援蒋ルートの遮断を目的に日本がフランス領北部インドシナへ南進するきっかけを作り、太平洋戦争への道筋を準備した。(1999年8月17日訪問)
ラストシーン https://www.youtube.com/watch?v=CstnPRtWfTQ
もくじへ http://4travel.jp/travelogue/10681693
関連項目 「ダンケルク撤退」http://4travel.jp/travelogue/10918791
「解放」http://4travel.jp/travelogue/10921081
この旅行記のタグ
利用規約に違反している投稿は、報告する事ができます。
-
前の旅行記
1940年7月25日 リュトリの誓い~中立を守るために(砂布巾のLW 第5章6)
2024/10/05~
ルツェルン
-
次の旅行記
1940年5月26日~6月4日 英仏軍33万人、ダンケルク撤退(砂布巾のLW 第5章4)*フランスの降伏とイ...
2024/10/07~
ノールパドカレー地方
-
砂布巾のLW番外編 (「第一の偶然」 オイスキルヘン彷徨い記)
2024/09/28~
その他の都市
-
ほか印象に残ったYHとモーツァルトの住家(砂布巾のLW 第5章12)+韓国の旅館(ソウルの定宿以外)
2024/09/29~
広島市
-
1941年6月14日 「リリー・マルレーンを聴いたことがありますか」(ベスト1 砂布巾のLW 第5章11) ...
2024/09/30~
ベルリン
-
ボスニア紛争とデイトン和平合意(砂布巾のLW 第5章10)
2024/10/01~
サラエヴォ
-
1941年4月10日 民族憎悪の原型(砂布巾のLW 第5章9)
2024/10/02~
モスタル
-
1940年11月12~14日 背を向けるか、胸を抱き合うか(砂布巾のLW 第5章8)
2024/10/03~
ベルリン
-
1940年10月15日 映画「独裁者」公開(砂布巾のLW 第5章7)
2024/10/04~
ヴヴェイ
-
1940年7月25日 リュトリの誓い~中立を守るために(砂布巾のLW 第5章6)
2024/10/05~
ルツェルン
-
1940年7月10日 「カサブランカ」の時代(砂布巾のLW 第5章5)
2024/10/06~
オーヴェルニュ地方
-
1940年5月26日~6月4日 英仏軍33万人、ダンケルク撤退(砂布巾のLW 第5章4)*フランスの降伏とイ...
2024/10/07~
ノールパドカレー地方
-
1940年5月10日 第一の偶然(砂布巾のLW 第5章3)
2024/10/08~
ロンドン
-
ソ・フィン戦争とバルト三国の運命(砂布巾のLW 第5章2)*ムーミンの産みの親 +フィンランド旅の名場面集
2024/10/09~
広島市
-
1939年9月1日 開戦(砂布巾のLW 第5章1)
2024/10/10~
グダンスク
旅行記グループをもっと見る
コメントを投稿する前に
十分に確認の上、ご投稿ください。 コメントの内容は攻撃的ではなく、相手の気持ちに寄り添ったものになっていますか?
サイト共通ガイドライン(利用上のお願い)報道機関・マスメディアの方へ 画像提供などに関するお問い合わせは、専用のお問い合わせフォームからお願いいたします。
旅の計画・記録
マイルに交換できるフォートラベルポイントが貯まる
フォートラベルポイントって?
旅行記グループ 砂布巾のLW「進化し続ける自叙伝的旅行記…」 第5章 電撃戦(ナチス・ドイツの欧州主要部制圧)
0
4