鎌倉旅行記(ブログ) 一覧に戻る
 やぐらは鎌倉時代から南北朝にかけて造られ、主に鎌倉中に見られるが、鎌倉在郷にも多少は見られる。しかし、横浜市金沢区の称名寺あたりまでであろうか。ここは武蔵国ではあるが、鎌倉の外港があり、北条氏の支流の金沢氏がいたところであったため、鎌倉時代から実質的には鎌倉と見なされたところである。しかし、相模国鎌倉郡であっても横浜市戸塚区あたりになるとやぐらは見られなくなる。浄智寺発祥の四方竹が鎌倉中なら何処にでも植えられているのに、鎌倉在郷や鎌倉郡であった戸塚区では見られないのと何やら似ている。<br /> 鎌倉中には大きなやぐらも見られる。明月院やぐら、覚園寺のやぐら、本田家のやぐら、冷泉為相墓裏のやぐら、浄光明寺のやぐら、薬王寺のやぐら、妙伝寺のやぐら、地蔵やぐら(瓜ヶ谷やぐら群)、海蔵寺の十六ノ井がそうである。覚園寺のやぐらは後世に大幅に手を加えられているようであるし、薬王寺のやぐらは時代が下がるのかも知れない。また、海蔵寺の十六ノ井はやぐら跡を井戸として伝えている。<br /> 明月院やぐらは北鎌倉・名月院にある上杉憲方の宝篋印塔を祀るやぐらで、間口約7メートル、奥行き6メートル、高さ3メートルあるとされ、鎌倉最大のやぐらとも言われている。この値が本当なら広さは25畳を越える。しかし、離れて仰ぎ見るだけであり、その大きさは実感できない。これ以外にはやぐらの寸法は分からない。<br /> この20年来の世界文化遺産登録に向けた動きの中でも、やぐらは構成要素から外されてしまっているために、調査さえろくに行われなかったようだ。上記の7つのやぐらのうち3つは国指定史跡内にあるが、明月院やぐら以外はその詳細が伝わってこない。また、鎌倉市内には34箇所の国指定史跡があり、神奈川県にある65箇所のうちの半分以上が鎌倉にあるのだが、やぐらを中心に据えた国指定史跡はないようだ。<br /> 忘れてはならないのは田谷の洞窟で知られる定泉寺である。源頼朝が奥州から凱旋する際に、「御路次の間、一青山を臨ましめ給う。その号を尋ねらるるの処、田谷の窟なりと。」とあり、田谷の洞窟のある山が見えるところを通っている。文治5年(1189年)のことであるが、もう洞窟が掘られていた。やぐらはこのあたりから発想されたものかも知れない。<br /> また、長谷寺の弁天窟は弘法大師参籠の地と伝わり、窟内壁面には弁財天とその眷属である十六童子(現在は十五童子と大黒天になっている)が彫られていた。やぐらの大きさも、最大ではこの弁天窟くらいにまで造れたはずである。<br />(表紙写真は冷泉為相墓裏のやぐら)

鎌倉の大きなやぐら巡り

1いいね!

2010/04/10 - 2011/10/23

6032位(同エリア7079件中)

0

19

ドクターキムル

ドクターキムルさん

 やぐらは鎌倉時代から南北朝にかけて造られ、主に鎌倉中に見られるが、鎌倉在郷にも多少は見られる。しかし、横浜市金沢区の称名寺あたりまでであろうか。ここは武蔵国ではあるが、鎌倉の外港があり、北条氏の支流の金沢氏がいたところであったため、鎌倉時代から実質的には鎌倉と見なされたところである。しかし、相模国鎌倉郡であっても横浜市戸塚区あたりになるとやぐらは見られなくなる。浄智寺発祥の四方竹が鎌倉中なら何処にでも植えられているのに、鎌倉在郷や鎌倉郡であった戸塚区では見られないのと何やら似ている。
 鎌倉中には大きなやぐらも見られる。明月院やぐら、覚園寺のやぐら、本田家のやぐら、冷泉為相墓裏のやぐら、浄光明寺のやぐら、薬王寺のやぐら、妙伝寺のやぐら、地蔵やぐら(瓜ヶ谷やぐら群)、海蔵寺の十六ノ井がそうである。覚園寺のやぐらは後世に大幅に手を加えられているようであるし、薬王寺のやぐらは時代が下がるのかも知れない。また、海蔵寺の十六ノ井はやぐら跡を井戸として伝えている。
 明月院やぐらは北鎌倉・名月院にある上杉憲方の宝篋印塔を祀るやぐらで、間口約7メートル、奥行き6メートル、高さ3メートルあるとされ、鎌倉最大のやぐらとも言われている。この値が本当なら広さは25畳を越える。しかし、離れて仰ぎ見るだけであり、その大きさは実感できない。これ以外にはやぐらの寸法は分からない。
 この20年来の世界文化遺産登録に向けた動きの中でも、やぐらは構成要素から外されてしまっているために、調査さえろくに行われなかったようだ。上記の7つのやぐらのうち3つは国指定史跡内にあるが、明月院やぐら以外はその詳細が伝わってこない。また、鎌倉市内には34箇所の国指定史跡があり、神奈川県にある65箇所のうちの半分以上が鎌倉にあるのだが、やぐらを中心に据えた国指定史跡はないようだ。
 忘れてはならないのは田谷の洞窟で知られる定泉寺である。源頼朝が奥州から凱旋する際に、「御路次の間、一青山を臨ましめ給う。その号を尋ねらるるの処、田谷の窟なりと。」とあり、田谷の洞窟のある山が見えるところを通っている。文治5年(1189年)のことであるが、もう洞窟が掘られていた。やぐらはこのあたりから発想されたものかも知れない。
 また、長谷寺の弁天窟は弘法大師参籠の地と伝わり、窟内壁面には弁財天とその眷属である十六童子(現在は十五童子と大黒天になっている)が彫られていた。やぐらの大きさも、最大ではこの弁天窟くらいにまで造れたはずである。
(表紙写真は冷泉為相墓裏のやぐら)

PR

  • 明月院やぐら。上杉憲方の宝篋印塔を祀る。

    明月院やぐら。上杉憲方の宝篋印塔を祀る。

  • 覚園寺の十三仏やぐら。江戸時代頃に掘られお堂の代わりになっている。(覚園寺境内は撮影禁止のため写真はない)

    覚園寺の十三仏やぐら。江戸時代頃に掘られお堂の代わりになっている。(覚園寺境内は撮影禁止のため写真はない)

  • 本田家のやぐら。扇ノ井の横にある。中に前室と後室があり、とにかく広い。

    本田家のやぐら。扇ノ井の横にある。中に前室と後室があり、とにかく広い。

  • 御前谷(扇ガ谷4)のやぐら(人見氏墓)。

    御前谷(扇ガ谷4)のやぐら(人見氏墓)。

  • 薬王寺向かい(扇ガ谷3)のやぐら。

    薬王寺向かい(扇ガ谷3)のやぐら。

  • 薬王寺向かい(扇ガ谷3)のやぐら。

    薬王寺向かい(扇ガ谷3)のやぐら。

  • 薬王寺のやぐら。石仏を祀る。

    薬王寺のやぐら。石仏を祀る。

  • 亀ヶ谷坂(扇ガ谷3)のやぐら。

    亀ヶ谷坂(扇ガ谷3)のやぐら。

  • 亀ヶ谷坂(扇ガ谷3)のやぐらの奥壁右にある後室。

    亀ヶ谷坂(扇ガ谷3)のやぐらの奥壁右にある後室。

  • 勝縁寺谷(扇ガ谷3)左側のやぐら。

    勝縁寺谷(扇ガ谷3)左側のやぐら。

  • 勝縁寺谷(扇ガ谷3)右側のやぐら。

    勝縁寺谷(扇ガ谷3)右側のやぐら。

  • 浄光明寺のやぐら。「地蔵やぐら」とも「網引やぐら」とも呼ばれる。中に網引地蔵尊が祀られている。

    浄光明寺のやぐら。「地蔵やぐら」とも「網引やぐら」とも呼ばれる。中に網引地蔵尊が祀られている。

  • 冷泉為相墓裏のやぐら。多宝寺跡やぐらとされる。周辺にあった五輪塔を纏めたという。

    冷泉為相墓裏のやぐら。多宝寺跡やぐらとされる。周辺にあった五輪塔を纏めたという。

  • 妙伝寺のやぐら。入口は狭いが中は広く、延命地蔵尊などを祀る。多宝寺跡やぐらとされる。

    妙伝寺のやぐら。入口は狭いが中は広く、延命地蔵尊などを祀る。多宝寺跡やぐらとされる。

  • 地蔵やぐら(瓜ヶ谷やぐら群)。入口は狭いが中は20畳ほどあると言われ、お地蔵さまが安置されており、壁面には五輪塔と石仏が彫刻されている。<br />地蔵やぐらは前に「市指定史跡 瓜ヶ谷やぐら群 5穴」の標柱が建つ第1やぐらで中で第2やぐらと繋がっている。 <br /><br />

    地蔵やぐら(瓜ヶ谷やぐら群)。入口は狭いが中は20畳ほどあると言われ、お地蔵さまが安置されており、壁面には五輪塔と石仏が彫刻されている。
    地蔵やぐらは前に「市指定史跡 瓜ヶ谷やぐら群 5穴」の標柱が建つ第1やぐらで中で第2やぐらと繋がっている。

  • 十六ノ井(海蔵寺)。やぐら跡を井戸として伝えている。

    十六ノ井(海蔵寺)。やぐら跡を井戸として伝えている。

  • 三橋家のやぐら(横浜市栄区小菅ヶ谷4)。天井が三角に掘られている。

    三橋家のやぐら(横浜市栄区小菅ヶ谷4)。天井が三角に掘られている。

  • 定泉寺の瑜伽洞(ゆがどう)(田谷の洞窟)。 <br />源頼朝が奥州凱旋の際にこの寺の傍を通ったとされ、そのころからもう洞窟が掘られ、そのことが知られていた。

    定泉寺の瑜伽洞(ゆがどう)(田谷の洞窟)。
    源頼朝が奥州凱旋の際にこの寺の傍を通ったとされ、そのころからもう洞窟が掘られ、そのことが知られていた。

  • 長谷寺弁天窟。

    長谷寺弁天窟。

この旅行記のタグ

関連タグ

1いいね!

利用規約に違反している投稿は、報告する事ができます。 問題のある投稿を連絡する

コメントを投稿する前に

十分に確認の上、ご投稿ください。 コメントの内容は攻撃的ではなく、相手の気持ちに寄り添ったものになっていますか?

サイト共通ガイドライン(利用上のお願い)

報道機関・マスメディアの方へ 画像提供などに関するお問い合わせは、専用のお問い合わせフォームからお願いいたします。

旅の計画・記録

マイルに交換できるフォートラベルポイントが貯まる
フォートラベルポイントって?

フォートラベル公式LINE@

おすすめの旅行記や旬な旅行情報、お得なキャンペーン情報をお届けします!
QRコードが読み取れない場合はID「@4travel」で検索してください。

\その他の公式SNSはこちら/

タグから国内旅行記(ブログ)を探す

PAGE TOP