番外編：ヒトラーが好んだWolfヴォルフは狼のことだが、Wulffヴルフも狼か！

2011/05/20 - 2011/05/20

＜Wolfヴォルフは狼のことだが、Wulffヴルフも狼か！＞

Adolf Hitlerアドルフ・ヒトラーの「Adolfアドルフ」は、Althochdeutsch古高ドイツ語（およそ紀元750年～1050年）の "adal（高貴な）" と "wolf（狼）" に語源があるという。　

写真はヒトラー：Berchtesgaden ベルヒテスガーデンの「Eagle's Nest鷹の巣」近くにあったBerghofベルクホーフ山荘執務室で（1936年）・・・ヒトラーは「Mein Kampf 我が闘争」(当時ベストセラーとなった) の印税の上りで当地のHaus Wachenfeldハウス・ヴァッヘンフェルト（見晴らし亭）という別荘を購入した。
後にこれを拡張・改装してベルクホーフ山荘とした。

エリア ドイツ

• 旅行の満足度: 4.0

• 同行者: カップル・夫婦（シニア）
• 交通手段: レンタカー
• 旅行の手配内容: 個別手配

総統ヒトラーは1920年代よりお忍びで動く場合に偽名として "Wolf（狼）" を使用し、親しい仲間に「Herr Wolf（ヘル ヴォルフ）」（Herrは男性への敬称、英語のMr.に当たる）と呼ばせていたと云う。

つまり、あのヒトラーが驚いたことに愛称を使用していたとは・・・。

アドルフ・ヒトラーが愛称・Wolfヴォルフ（狼）を好んだ事もあってか、第二次大戦中の総統大本営の名称のいくつかに Wolf（ヴォルフ）を使っていた。
もっとも有名なのはシュタウフェンベルク大佐のヒトラー暗殺未遂事件が起こった総統大本営「Wolfsschanzヴォルフシャンツェ（狼の巣）」である。

＊番外編：総統アドルフ・ヒトラーにも愛称！があったとは！
https://4travel.jp/travelogue/11703486

また、Wolfヴォルフ（狼）は（狼のように）「残忍な人」、「どん欲な人」という意味もある。総統ヒトラーには前者が当てはまるといえそうだ。

写真はヒトラー：「Mein Kampfわが闘争」初版本（1925年発行）

写真はヒトラー：1924年＊Landsbergランツベルク刑務所でのヒトラーと幹部Mauriceモーリス、Kriebelクリーベル、Hessヘス、Weberヴェーバー。

前年の＊ミュンヘン一揆により有罪となったアドルフ・ヒトラーが5年の禁固の刑を言い渡され、ランツベルク刑務所に収監された。
後に減刑され仮出所したため、ヒトラーがランツベルク刑務所にいたのは8ヶ月間であったが、読書や面会も自由な快適な禁固生活であり、ルドルフ・ヘスの助力で『我が闘争』を口述筆記するなどしている。

＊ミュンヘン一揆は1923年11月8日から9日に、ドイツのミュンヘンでエーリヒ・ルーデンドルフ、アドルフ・ヒトラーらナチ党などの州右派勢力によって結成されたドイツ闘争連盟が起こしたクーデター未遂事件。半日あまりで鎮圧され、ヒトラーら首謀者は逮捕された。

＊ランツベルク刑務所はバイエルン州の南西にある小都市Landsberg am Lechランツベルク・アム・レヒにある刑務所。ミュンヘンの65km西、アウクスブルクの南35kmに位置する。

写真は訪独した松岡洋右外相はヒトラー総統と会談（1941年3月)

日独伊三国軍事同盟は1940年（昭和15年）9月27日に成立した。
松岡洋右外相は1941年（昭和16年）3月、同盟成立慶祝を名目として独伊を歴訪、ヒトラーとムッソリーニの両首脳と首脳会談を行い大歓迎を受け、両国との親睦を深めた。

この際、ドイツから、対イギリスへの軍事的圧力の確約を迫られるが、「私は日本の指導者ではないので確約はできない。帰国後貴国の希望を討議する」と巧みにかわしている。
往路と帰路の2度モスクワに立ち寄り、帰路の4月13日には日ソ中立条約を電撃的に調印、日本が単独でソビエトとの相互不可侵を確約する外交的成果をあげた（Wiki）。

先日、ヒトラーと狼について書いたことに、ある方からコメントがあった。
「かつて勤務したドイツの現地法人会社で、Wulffヴルフという従業員がいました。彼の姓も「狼」でした。・・・Wulffヴルフの姓はご存知でしたか？」と。

確かにHerr Wolf （ヘル ヴォルフ：狼さんの姓）を検索すれば、例えば消防士、不動産会社のマネージャー、博士、芸術家といった方が少なからず出て来る。

それに、Herr Wulff（ヘル ヴルフ：狼さんの姓）も同様にお役人、子供の問題の専門家、教育相談員といった方々が、ヒットするから面白い。

写真はヒトラーはWolf狼好き

中でも特に有名な方でChristian Wulffクリスティアン・ヴルフ・・・第10代ドイツ大統領（2010年～2012年）・・・がいる。

Christian Wulffクリスティアン・ヴルフ（62歳）はニーダーザクセン州オスナブリュックの生まれ、弁護士、政治家（CDUドイツキリスト教民主同盟）です。
彼は歴代最年少である第10代ドイツ大統領（2010年～2012年）になりました。所が、ドイツの新聞で書かれた「Wulff-Affaereヴルフ事件」で辞任した。・・・

2011年末、ニーダーザクセン州の首相在職中の2008年、自宅購入資金として50万ユーロの融資を知人から低金利で受けていたこと等が発覚した。
更にこの事実を報道しようとした新聞紙の編集長に対し、記事を掲載しないよう電話したことも明らかになり、批判を浴びた（Wiki）。

ヴルフ大統領は先の後者である「どん欲な人」という意味に当てはまるようだ。

写真はChristian　Wulffクリスティアン・ヴルフ第10代ドイツ大統領(2014年)

だが、私はWolfヴォルフが狼と知っていたが、Wulffヴルフも狼というのは知らなかった。（ついでに言うと、オランダ語にもWolf 、Wolffの姓がある）

さらに驚いたことにWolf；Wulff；以外にもWulf； Ulf； Wolff； Wolfe； Woolf； Wolffeがあり、全て「狼ウルフ」の意味（発音は不確かですけど）だそうだ。

多すぎて、検索もしていないが、多分これらもいろいろの方が出て来るだろう。

さて、ドイツ語圏で古くからある男性の名前「Wolfgang ヴォルフガング」はよく使われるから、知られている。

この名も「狼」に因んでいるのだ。

写真はJohann Wolfgang von Goetheヨハン・ヴォルフガング・フォン・ゲーテ(1828年)

「狼ウルフ」に匹敵するほど、日本語表記で「ギョエテ」、「ゲョエテ」、「ギョーツ」、「グーテ」、「ゲエテ」など数多くの表記があったというドイツの文豪Johann Wolfgang von Goetheヨハン・ヴォルフガング・フォン・ゲーテや、

若くして神童と謳われた音楽家Wolfgang Amadeus Mozartヴォルフガング・アマデウス・モーツァルトが一番知られているでしょう。

写真はWolfgang Amadeus Mozartヴォルフガング・アマデウス・モーツァルト（1819年）

或いはオーストリア・ザルツカンマーグートのWolfgangseeヴォルフガング湖もまた観光地としてよく御存じでしょう。

写真はザルツカンマーグートのヴォルフガング湖：教会と白馬亭（右）のパノラマ

そして、湖と同名の町St. Wolfgangザンクト・ヴォルフガングは10世紀にこの地に隠棲していたという伝説の聖人St. Wolfgang von Regensburg（924年～994年）ヴォルフガング・フォン・レーゲンスブルクに因んだものだとも知った。

彼はレーゲンスブルクや大工、木彫り（きぼり）師の守護神として、トゥルン・ウント・タクシス家の宮殿にあるSt. Emmeram聖エメラム教会に埋葬されている。

写真は聖ヴォルフガング死去千年記念切手(1994年発行）

この「WOLFGANGヴォルフガング」は古高ドイツ語で「 狼 」を意味する「wolf」と、「 道 」「 旅 」を意味する「 gang 」が合体した名で、「 狼の道 」の意味になる。このことから「狼と一緒に（戦いに）行く人」、「狼の毛皮を纏った戦士」といった意味になるそうだ。

しかも、北欧・ゲルマン神話において、狼はある種の崇敬の対象だったとされている。ローマ帝国には最初の王は狼に育てられたという伝説が残っている。

写真はローマ建国の伝説：狼の乳を吸うロムルスとレムスの像

私の故郷・青梅市の御岳山信仰（武蔵御嶽神社）では「おいぬ様」（二ホンオオカミ）の伝説があり、江戸時代の天保年間より火難や盗難除け・魔物除けとしての信仰が盛んになった。我が家の神棚やお勝手にこの御札が貼られていた。

＊武蔵御嶽神社（むさしみたけじんじゃ：
紀元前91年創建）は武蔵御岳山（標高929m）の山上に鎮座する。山岳信仰の霊場にある、この神社はご眷属の大口真神（おおくちまがみ）も祀っている。
「おいぬ様」と親しまれる真神（まがみ）は狼（ニホンオオカミ）の古名で、「まことの神」、「正しい神」を指す言葉という。
日本に生息していた狼（ニホンオオカミ）が神格化されたもので、真神は古来、聖獣として崇拝されてきた。猪や鹿から作物を守護し、人語を理解し、人間の性質を見分ける力を有し、善人を守護し、悪人を罰するものとして信仰された（Wiki）。

写真は武蔵御嶽神社(東京・青梅市）：大口真神・オオカミの姿の入ったお札（神札）

御嶽神社には、『日本書紀』の記述に基づく「おいぬ様」の伝説があり、日本武尊（ヤマトタケル）の東征の折、邪神が大鹿の姿で現れたのを野蒜（ノビル、姿や臭いはニラに似ている）で退治したが、その時に大山鳴動して辺りが霧に巻かれて道に迷った。

そこに忽然と白い狼が表れて道案内をして、無事に日本武尊軍を無事に導いたそうだ。日本武尊は白い狼に「大口真神として、この地に留まるように」といったと云う。

写真は武蔵御嶽神社（青梅市）：神社前に「おいぬ様（狼）」の狛犬像

写真はヒトラー：ベルヒテスガーデンの「Eagle's Nest鷹の巣」近くにあったベルクホーフ山荘

ヒトラーはMein Kampf 我が闘争(当時ベストセラーとなった) の印税の上りで、Berchtesgaden ベルヒテスガーデンのHaus Wachenfeldハウス・ヴァッヘンフェルト（見晴らし亭）という別荘を購入した。
後にこれを拡張・改装してBerghofベルクホーフ山荘とした。
ヒトラーが好んだ場所だと云う。

今更ながら気づいたのは、英語もドイツ語もWolfの綴りは同じです。
英語でウルフ、ドイツ語もヴォルフで同じ「狼」の意味。言葉はまじり合うものでしょうが、どちらが先に在ったのか？

ドイツ側の大陸と英国諸島の関係は遡ると実に古く、6万年前にドイツのネアンデルタール人がブリテンに居住し、以降ケルト人、アンゲルン半島（ドイツのシュレースヴィヒ・ホルシュタイン州の一部）から移動したアングロ・サクソン人、そしてノルマン人（北方系のゲルマン人）のイングランド征服（1066年：The Norman Conquest of England）と、連綿としたゲルマン系氏族の英国侵入があり、これらを通して英語に影響したのだろうと想像している。

写真はヒトラーの死を伝える『Stars_&_Stripes星条旗新聞』号外(1945年5月2日)

写真はグリム童話にある赤頭巾ちゃんと狼の場面・・・こちらはドイツの森にかつて多くいた狼の寓意に満ちた御話だ。

・・・・・

"adal（高貴な）" と "wolf（狼）"という良き名前を持ったAdolf Hitlerアドルフ・ヒトラーは、人々から尊敬されるどころか、真逆の人生を過ごした。

「ヒトラーと狼」の愛称話から、いろいろと思い浮かび、
番外編として以上のように書いてしまった。

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（2021年10月6日纏め）