番外編：ハン・ミュンデン：ヒトラー暗殺未遂事件に関与し、処刑された一人の弁護士

2019/09/18 - 2019/10/03

＜2019年ドイツの初秋：メルヘン街道と木組み建築街道の旅＞
期間：2019年9月18日（水）～10月03日 (木)

『ハン・ミュンデン：ヒトラー暗殺未遂事件に関与し、処刑された一人の弁護士』

Friedrich Adam von Trott zu Solzフリードリヒ・アダム・フォン・トロット・ツー・ゾルツ(1909年～1944年、ポツダム生まれ)は弁護士、外交官、ヒトラー暗殺未遂事件に関与したとして処刑された。

写真はフリードリヒ・アダム・フォン・トロット・ツー・ゾルツ1943年

エリア ハン・ミュンデン(ドイツ)

• 旅行の満足度: 4.0

• 同行者: カップル・夫婦（シニア）
• 交通手段: レンタカー
• 旅行の手配内容: 個別手配

フリードリヒ・アダム・フォン・トロット・ツー・ゾルツについては４Tra のドイツ好きの「たっこさんの旅行記、メルズンゲン、バード・ゾーデン・アレンドルフの旅」に掲載されていた不思議な写真を調べて初めて知ったのです。
きっかけを頂いて、「たっこさん」には大変感謝しています。

ハン・ミュンデンを2019年9月27日（金）に訪れたが、アダム・フォン・トロット・ツー・ゾルツの顕彰碑などは気付かず見ていないのだ。

かつて何度かナチスに対する抵抗運動をした人について書いてきましたので、この章をきっかけに番外編で書いてみようと、訳して纏めました。
　　　　　　　　　　　（2020年3月13日訳・編集・加筆）

ハン・ミュンデンの駅前広場は彼に因んだ名前アダム・フォン・トロット・ツー・ゾルツ広場が付いている。

これはかつて国家社会主義（ナチス）に対する抵抗運動の闘士だったアダムの顕彰をこめたものだ。

写真はアダム・フォン・トロット・ツー・ゾルツ広場とある。

ハンミュンデン駅 駅

ハン・ミュンデンの駅前に立つアダムのこちらの顕彰碑はちょっと異様だ。

"Adam von Trott zu Solz. Widerstandskaempfer im Nationalsozialismus“
「アダム・フォン・トロット・ツー・ゾルツ。彼は国家社会主義（ナチス）に対する抵抗運動の闘士だった」と説明に書かれているという。

写真はアダム・フォン・トロット・ツー・ゾルツの顕彰碑。
（木彫りの口を開けた顔の意味は調べても分からなかったが）

「たっこさんの旅行記、メルズンゲン、バード・ゾーデン・アレンドルフの旅」に掲載されていた不思議な写真を転載するご了承を「たっこさん」に頂きました。
こうして見ることができますが、印象はやはり奇妙です。
「たっこさん」には大変感謝しています。

写真は「たっこさんの御撮りになった写真」です。はっきり正面からのものですから、アダム・フォン・トロット・ツー・ゾルツの顕彰碑がよく分かります。

アダム・フォン・トロット・ツー・ゾルツはヘッセン州の北東部にあるBebraベブラの町のImshausenイムハウゼンに所領を持っていたプロイセン貴族であり、プロイセンの国務大臣だった父が引退生活に入ると、アダムは1922年4月、ハン・ミュンデンのギムナジュームに入った。

ここに1923年～27年の間、在学して、1927年にハン・ミュンデンでAbiturアビトゥール（大学入学資格試験）に合格している。
（ここまで調べて、なるほどハン・ミュンデンで顕彰されている理由が分かった）

写真はアダムが在籍したハン・ミュンデンのギムナジューム

アダム・フォン・トロット・ツー・ゾルツは上述のようにハン・ミュンデンとの関係で、この町には以下の顕彰碑が残されている。

彼の顕彰碑がハン・ミュンデンのギムナジュームにある。
（現Schule am Botanischen Garten植物園傍の學校・・・かつての Staedtisches Gymnasiumハン・ミュンデンの町立ギムナジュームで住所はD-34346 Hann. Muenden 、Boettcherstrasse 7にある）

こちらはハン・ミュンデンのギムナジュームにある顕彰碑。

（ナチス抵抗運動を称賛する動きが出て、これに関与し、処刑された人々を闘士としてその栄誉を顕彰する事となった。第二次大戦後しばらく経ってからだが）

写真はギムナジュームにある顕彰碑

その後、法律家になるため、ミュンヘン大学やゲッティンゲン大学、ベルリン・フンボルト大学、更に英国のオックスフォード大学に学んだ。

アダムは最初からナチス政権の反対者であり、遅くとも1939年からナチス政権の転覆を検討していたという。彼はまた、将来において、自由で共通なヨーロッパを組織するための構想をひろく、様々に考えていた。

写真は1943年（私が生まれた年だが）当時のアダム・フォン・トロット・ツー・ゾルツ。

アダムはKreisauer Kreisクライザウ・クライス（シュレージエン地方クライザウにモルトケ邸があった所で、市民の反ナチグループを呼称したもの）のHelmuth James Graf von Moltkeヘルムート・イェームス・フォン・モルトケ伯爵（弁護士：メクレンブルクの古い貴族モルトケ家の出身で、現在のポーランド領クルジゾワであるシュレージエン地方クライザウの荘園領主であった。

係累を遡るとドイツ帝国初代参謀総長ヘルムート・カール・ベルンハルト・フォン・モルトケ（大モルトケ）の甥の孫にあたる）や、

写真はHelmuth von　Moltkeヘルムート・モルトケ伯爵1945年1月

ヘルムート・モルトケ伯爵は
モルトケのクーデター計画への関与は証明されなかったが、「ヒトラー後」に堕落したドイツを樹立しようとモルトケらが画策したのは死刑に値するとして絞首刑になった。

子供たちに送った手紙には、「ナチスが政権を握って以降、その犠牲を和らげ、道を変えようと努めてきた。私は自分の良心、そして男としての務めに従った」と抵抗運動参加への動機が書かれている。
モルトケはナチスに反対する一方で、ヒトラー暗殺計画には反対していた。

Peter Graf Yorck von Wartenburgペーター・ヨルク・フォン・ヴァルテンブルク伯爵（弁護士：ヨルク・フォン・ヴァルテンブルク伯爵家はプロイセン元帥のルートヴィヒ・ヨルク・フォン・ヴァルテンブルク伯爵を祖とするプロイセン貴族の家柄で、シュレージエン地方クライン・エルスの荘園領主）のグループがあり、アダムはその中核に属していた。

写真はペーター・ヨルク・フォン・ヴァルテンブルク伯爵

1944年7月20日に起きたドイツ国防軍将校による、ヒトラー暗殺事件；その指揮を執ったClaus Schenk Graf von Stauffenbergクラウス・シェンク・フォン・シュタウフェンベルク伯爵（陸軍大佐）の“爆弾による暗殺”は、様々な要因から爆発したものの、ヒトラーは無事で失敗に終わった。

日付が替わった7月21日、大佐ら4名は早々とベルリン・ベントラー街（国防省）中庭で銃殺刑に処せられた（現在、この地に顕彰碑が残る）。

写真はクラウス・シェンク・フォン・シュタウフェンベルク伯爵（陸軍大佐）とヘルムート・モルトケ伯爵の生誕100年記念切手

クライザウ・クライス（反ナチグループ）の中心にいた彼らは人民裁判にかけられて、いずれも処刑された。

アダム・フォン・トロット・ツー・ゾルツはクラウス・シェンク・フォン・シュタウフェンベルク伯爵（暗殺実行者・陸軍大佐）と緊密に協力し、この日のヒトラー暗殺の陰謀に関与した。1944年8月26日、35歳の時、ベルリン・プレッツェンゼー刑務所で密かに処刑された。

ペーター・ヨルク・フォン・ヴァルテンブルク伯爵1944年7月20日に実行されたヒトラー暗殺計画もクーデター計画も失敗の後、数日して逮捕された。1944年8月8日に早々とベルリン・プレッツェンゼー刑務所で絞首刑となった（39歳）。

ヘルムート・イェームス・フォン・モルトケ伯爵は1945年1月11日に死刑判決を受け、1月23日にはベルリン・プレッツェンゼー刑務所で絞首刑となった（37歳）。

・・・・・

写真はGedenkstaette_Ploetzenseeベルリン・プレッツェンゼー刑務所の記念碑

その他の地域にもアダムの顕彰碑があるので、主たるものを以下に：

Imshausenイムスハウゼンの上のアダム・フォン・トロットの記念碑：
1986年、イムスハウゼン村の上に十字架と記念石がある。
トロット・ツー・ゾルツ家の荘園領主の居城はイムスハウゼン村にあり、現在、アダム・フォン・トロット・イムスハウゼン財団が所有している。

写真はイムスハウゼンの上のアダム・フォン・トロットの記念石と十字架

写真はHerrenhaus in Imshausenトロット・ツー・ゾルツ家の邸宅（かつての荘園領主の居城）

写真はGoettingenゲッティンゲンの顕彰碑：
ここにはFritz-Dietlof Graf von der Schulenburg フリッツ・シューレンブルク伯爵（1902年～1944年8月10日、1944年7月20日のヒトラー暗殺未遂事件に関与した。ドイツ国防軍予備役、行政官）と、アダム・フォン・トロットの名がある。

ゲッティンゲンの医師、名誉市民であった事に因んでつけられていたRudolf-Stich-Wegルドルフ・スティッチ通りの名前を彼がナチスに拘わっていた過去が判明した為、2016年1月22日、Weendeウェンデの地方議会は満場一致でナチスに対する抵抗運動の闘士だったAdam von Trott-Wegアダム・フォン・トロット通りに変更することを決めた。

写真はゲッティンゲンにあるアダムの名が付いた道路標識名：アダム・フォン・トロット通り

アダム・フォン・トロット・ツー・ゾルツのPotsdamer Geburtshausポツダム（ブランデンブルク州の州都）の生家は、現在、州内務省の一部になっている。
アダム・フォン・トロット・ツー・ゾルツは2009年に生誕100周年を迎え、生家に記念碑が掲げられた。

写真はPotsdam・Gedenktafel：ポツダムのアダム・フォン・トロット・ツー・ゾルツの生家の記念碑の除幕

1944年7月20日に起きたドイツ国防軍将校による、ヒトラー暗殺未遂事件、その指揮を執ったクラウス・シェンク・フォン・シュタウフェンベルク伯爵（陸軍大佐）はベントラー街にあるドイツ国防省の中庭（次の写真参照）で銃殺された。

シュタウフェンベルク大佐の言葉が残っている。
「今こそ、何かがなされなければならない。その何かを敢えて行う者は自分が裏切り者としてドイツの歴史に残るであろうことを認識せねばならぬ。しかし、それを為さなかったら、自分自身の良心に対する裏切りとなるだろう」

写真は左に長身のシュタウフェンベルク大佐、中央にヒトラー総統、右にヴィルヘルム・カイテル元帥（第二次世界大戦中に国防軍最高司令部総長を務め、総統アドルフ・ヒトラーを側近くで補佐した。終戦時にはソ連に対する降伏文書にドイツ軍を代表して調印した。戦後、ニュルンベルク裁判で死刑判決を受けて刑死）

Gedenkstaette Deutscher Widerstand Berlin
ベルリン・ドイツ抵抗運動記念館
Der Bendlerblock　、Stauffenbergerstrasse 13 - 14

ここはヒトラーに抗した人々を記念した博物館である。ベルリンのドイツ抵抗運動記念館はかつて軍の旧最高司令部でした。1944年7月20日にヒトラー暗殺・クーデターの試みがあった歴史的場所にある。
1953年、この栄誉の館はナチス抵抗運動追悼所となり、2階の常設展示では、5,000枚以上の写真と、26のテーマに分かれた記録を展示している。

写真はベルリンのドイツ抵抗運動記念館と銃殺刑が行われた中庭、記念像