7週間のロックダウン後に豪政府はコロナ出口戦略を発表 (7 weeks after COVID-19 lockdown in Sydney)

2020/05/08 - 2020/05/08

ここオーストラリアではスコットモリソン首相が2020年3月23日にロックダウンを宣言後(明確なロックダウン宣言ではないですが、市民の日常生活に法的制限をかけ始めたのがこの日)、全市民が旅行はもちろん外出さえも満足に出来ないステイホーム生活を経験することになりました。3週間が経った辺りから感染者急減して明るい兆しが見えたものの、ロックダウンは緩和されず継続されてステイホームはダラダラと続いていました。豪州政府はウィルス撲滅を目指し妥協しませんでした。約7週間が経った5月8日、ようやく豪州政府がロックダウンを少しずつ徐々に解除する出口戦略を発表。一方で豪州政府はたとえ全国の新規感染者が一桁を続けても、ウィルス撲滅まで引き続き長い間の警戒が必要と声明を出しました。ようやく終わりが見えて来ましたが、まだまだ先は長く油断することはできない状況です。注：リンク先が表示されている写真は、そのソースからの引用です。

エリア シドニー(オーストラリア)

• 旅行の満足度: 5.0

5/7現在の人口2500万人のオーストラリアでのコロナウィルス新規感染者数の日毎の推移。ロックダウンが開始された3/23頃からその数は急激に増加して、多い時は全国で1日500人を数えました。その後3週間ほどでロックダウンが効き始めると感染者急減して4月下旬には全国で一桁まで下がりましたが、5月に入って再度上がって現在は日に10-20人。老人ホームや食肉工場でクラスターが見つかったからです。一時下がってきても油断するとまた上がってしまう、厄介なウィルスです。5/7現在で全国の累計感染者数は約6900人、完治したのは6000人以上、死亡者97人。こちらでは1日に10000件以上のPCR検査しています。

https://www.health.gov.au/news/health-alerts/novel-coronavirus-2019-ncov-health-alert/coronavirus-covid-19-current-situation-and-case-numbers

世界の新規感染者数の推移は毎日WHOが公開しています。これは5/5現在の世界地図。対策が進んで週に100人以下の国は黄色で表示されています。アジアの国(中国、韓国、台湾、ベトナム、タイ等)、太平洋(豪州、NZ)、ヨーロッパ(オーストリア、アイスランド、ギリシャ等)はウィルス撲滅まであと一歩です。しかし引き続き第2波の警戒は必要ですし、豪州はこれから冬なので感染が増える恐れがあります。冬にウィルスが活発化しても感染を防げるか豪州に世界が注目しています。

https://www.who.int/emergencies/diseases/novel-coronavirus-2019/situation-reports/

豪州でのコロナウィルスによるパニックで話題になったいくつを紹介します。スーパーマーケットでトイレットペーパーをめぐって喧嘩したり、ホテルでの自己隔離中に脱走して刑務所送りにされたり、ロックダウン中に連邦政府警察の研修生がパーティしたことが密告された事が、こちらではニュースになりました。

https://www.news.com.au/national/nsw-act/courts-law/coronavirus-nsw-women-in-toilet-paper-brawl-have-case-in-sydney-court/news-story/31cafe48d8249385dfac618a96278851

トイレットペーパーを買占めて、その後高値で転売できなくなりスーパーマーケットへ返品しようとした男に対して、スーパーマーケットから怒りのメッセージが。中指が出ていますので写真は別のものにしました。こちらではお客様は神様ではありません。変なニュースばかり紹介するとオーストラリアのイメージ損ねるので、これ位でやめておきます。

https://www.news.com.au/finance/business/retail/supermarket-bosss-blunt-reply-to-toilet-paper-hoarder-wanting-refund/news-story/985cc7022ce371a71b7d86c3031e2ce5

この結婚式で35人の感染者がクラスター発生しました。こちらでは警告を破った結果に事件が起きても、理由があれば被害者として扱われます(例えば報道関係者がシリアに行って誘拐されても、自己責任とは責められません)。モリソン首相は彼らを責めてはいけないと世論の鎮静を図りましたが、彼らのSNSは炎上しました。普段は何でもおおらかなオージーですが、ウィルスは人の性格まで変えました。多くの自粛ポリス(英語ではVirus vigilantes)が生まれて、違反をしている人の密告(Dobbing)は毎日数千にも増えました。

https://www.afr.com/policy/health-and-education/the-super-spreader-events-behind-australia-s-epidemic-20200325-p54drt
https://www.dailymercury.com.au/news/australia-is-a-nation-of-dobbers/3992131/

オーストラリアにもデマ情報(Infodemic)が溢れています。中国陰謀説や(疫病対策に大金を投資している)ビルゲイツの陰謀説まで。中国開発の5Gネットワークからコロナウィルスが感染するというデマまであり、保健局の長がこれを否定するという事もありました。5Gネットワークからコロナウィルスは移りませんが、モロナウィルス(Moronavirus: moron+coronavirus の造語)の感染力は凄い様です。他にもコビイディオット(Covidiot: covid+idiot の造語)など新語が誕生しました。

https://www.smh.com.au/national/direct-from-the-us-moronavirus-is-here-and-spreading-fast-20200511-p54rr8.html

政府内の不和も見られます。オーストラリアで600名以上のコロナウィルス感染者を生んだルビープリンセス号の下船を許可した原因調査では、州政府・州警察・保健所・国境警備隊が互いにブレイムゲームで責任を押し付け合う姿が見られます。表で言い争うのはこちらでは珍しいです。これは刑事事件として引き続き調査されています。

サーキュラー キー 観光名所

オーストラリアのスコットモリソン首相のリーダーシップは、市民からは評価は高いです。ロックダウンから約7週間が過ぎた5/8に、オーストラリア政府及び各州からロックダウンの出口戦略の発表がありました。3つのステージに分けて徐々に解除していく方針です。7月のステージ3が終了した時点で、ほぼ通常の日常を取り戻すことを目標としています。3つのステージで解除させる内容(州によって進捗は違います)は：

ステージ1 (5月中): 10人までの集会、買い物、レストラン・カフェ、公園、地域の移動(すべて10人のグループまで)
ステージ2 (6月中): 20人までの集会、ジム、映画館、美容院、博物館、一部の州の間の移動
ステージ3 (7月中): 100人までの集会、オフィス、バー・パブ、フードコート、州の間の移動

[5/10 追記]この出口戦略の実行は各州の州知事に委ねられています。1週間以上感染者が出ていない州は早速ステージ1になりましたが、シドニーのあるNSW州は未発表です。州知事は慎重に状況分析して、実行は出来るだけ遅らせたい様子です。この週末のシドニーは、既にステージ1と勘違いした人で町には人が増えていました。

https://www.news.com.au/finance/economy/australian-economy/coronavirus-in-australia-threestage-plan-to-ease-covid19-restrictions-across-the-country-by-july/news-story/935632037b012702bec9ae4edc3bcb51

CovidSafeというアプリケーションを、政府は全市民にインストールする様に要請しています。感染者が発生した場合は濃厚接触者を特定します。BlueToothを使って15分以上近くにいた人を記録する仕組みです。プライバシーの観点からGPSは使っていないそうです。

https://www.health.gov.au/resources/apps-and-tools/covidsafe-app

一方で日本はオーストラリアの2-3週間後を追っていましたが、ここに来て一部の県の解除の勢いは早く一気に豪州を抜かしそうです。日本政府からは未発表ですが、大阪府では独自の「大阪モデル」を公表して、以下3つの指標のすべてを7日間連続で満たすことを条件に自粛要請を解除することを決めました。これを豪州全国に適応してみると：

1) 感染経路不明者が10人未満 豪州-> 日に20人以下の陽性者の約30%が経路不明なので7人 (注: 豪州の人口は大阪府の3倍)。
2) 検査陽性率が7%未満 豪州-> 日に最低10000件の検査(5/7は33000件)の内、20人以下の陽性者。陽性率0.2%以下。
3) 重症患者用の病床使用率60%未満 豪州-> 最近の報道では24人がICU,17人がベンチレーターで入院中。

豪州は「大阪モデル」の3指標すべて(この1週間続けて)余裕で満たしており、新規感染者が1週間以上ゼロの州がいくつかありますが、こちらではロックダウンの解除は緩やかに進めています。
https://www3.nhk.or.jp/kansai-news/20200507/2000029413.html

レストラン・カフェでの店内飲食の解除は、ステージ1(5月中)に含まれます。この写真は過去7週間のオーストラリアでの「新たな日常(New normal)」でした。仕事は家で、移動は車で、食事はテイクアウェイで、基本がステイホーム。昼は半分くらいのレストランがテイクアウェイ専用でオープンしており、その外に人が集まっているのは見慣れた光景でした。

夜に行く場所はすべてクローズ(テイクアウェイを除く)なので、夜の町は静まり返っていました。ここはかつての繁華街のレストラン、左のテントの下にはテーブルが並んで毎晩多くの人で賑わっていた場所でした。テーブルは撤去されて人も少なく町全体が薄暗いです。もうすぐステージ1で解除されます(但し10人までなので、大きなレストランはどうなるか不透明ですが)。レストランで食事できる様になるまであと少しです。

夜の町はテイクアウェイを運ぶデリバリー自転車の配達員が目立ちました。クローズしている店も多くレストラン経営者の悲鳴が聞こえてきそうでした。100万人が失業して、500万人がJobKeeperという月3000ドル(約20万円)の政府の補助で雇用を維持しています。こんな経済危機は過去にないものです。7月までに経済をほぼ元に戻すことが政府の目標です。

[5/14 追記] 政府はJobKeeper申請に多くのデータの誤りがあり、実際の対象者は350万人に下方修正しました。また失業者数も首相は60万人と言っていました。報道によってこの数字は結構異なります。

バー・パブの解除は、ステージ3(7月中)。このビーチ沿いのパブの広場では、昼間から大勢の人が隙間なく集まりビールを飲んでいていつも騒がしい場所でしたが、テーブルは撤去されてその跡形もありませんでした。7月中には元通りになるでしょう。

フードコートは、多くの人が集まる大空間なのでステージ3(7月中)で解除。シティのMyer下にあるフードコートもテーブルは撤去されて、大きなスペースができていました。かつての混雑が嘘の様に静かでした。

私が最も期待していた移動制限(旅行)の解除は、ステージ1(5月中)で地域内、ステージ2(6月中)で一部の州の間を解除予定。今までNSW州では、仕事・運動・医療・買い物以外の不要不急の外出は認められませんでした。その為に航空便の需要は98%減、この豪州2位のヴァージンオーストラリア航空は破綻してしまいました。極めて限定した便が今でも運行されていますが、管理人によって会社再建が模索されています。解除はヴァージンとっては朗報でしょう。

豪州から海外渡航は残念ながら2020年中は絶望的です。海外渡航はどのステージにも含まれず最後の最後の解除と言われています。5/7にシドニー国際空港から出発する国際線は僅か4本のみ。ANAは日本への最後の砦です。

唯一の望みは豪州とNZが共にウィルスを撲滅できれば、今年後半には両国間で往来可能となる可能性があると報道されています。私の希望的観測ですが、東アジアのコロナ撲滅国でグループ(トラベルバブル Travel bubble)を作りそこに豪州も入ってグループ内で往来できないかと。一方でコロナと共存することを選んだ国(欧米など)のグループ内も、防止策を義務つけた上である程度往来可能となりそうです。日本も今がコロナ撲滅グループか共存グループかどちらに入るかが決まる瀬戸際です。

私の予想では、海外渡航が全世界で解禁となるのは、ワクチンが開発されるか、ウィルス抗体が再感染予防に有効であることが証明されるまでは困難だと思います。この写真はイエローカード、黄熱病の接種をした証明で以前からアフリカや中南米諸国からの帰国に必要です。いずれコロナカード(抗体パスポート)が発行されるのでしょうか。

7週間のロックダウン後にようやくコロナウィルスの出口戦略が発表されたオーストラリアの滞在記でした。出口戦略によって先が見える様になりましたし、今後何かできて何ができないのか明確になりました。ここまで7週間もかかりましたが、先を行く中国・韓国も2ヶ月位の期間をかけましたし、コロナウィルスの出口戦略(決して終了ではありません)を示すには最低2ヶ月は必要なのでしょう。その後、ほぼ元の生活に戻るまでにあと数ヶ月が必要です。

日本の緊急事態宣言は最初の4週間に加えて5月末まで(約3週間)の延長を決定しましたが、これは妥当な期間なのではないでしょうか。むしろ早すぎる解除の方が危ないです。最近はPCR検査も増やして感染者をきちっと把握している様なので、感染者数が下がった状況が続けば5月末には緊急事態宣言が終わり、日本もコロナウィルスとの戦いに終わりが見える事を期待しています。

[5/14 追記] 私の理解に間違いがあったので一部訂正します。5/14に安倍首相が緊急事態宣言の一部解除に伴い、大阪府の吉村知事が「ウイルスと共存」する道を探ると声明を出しました。日本は最初からウイルス撲滅をゴールとしていない様です。早期解除の理由がわかりました。また豪州もできればウイルス撲滅したいという目標であり、豪州首相もウイルス撲滅を目指すとは明言していません。ウイルス撲滅はとても困難です。豪州は今がウイルス撲滅できるかの瀬戸際です。