4週間のロックダウン後に明るい兆しも見えるシドニー (4 weeks after COVID-19 lockdown in Sydney)

2020/04/16 - 2020/04/16

2020年4月コロナウィルスが世界中に広まり全世界で旅行ができない状態が続いています。ここオーストラリアではスコットモリソン首相が2020年3月23日にロックダウンを宣言(明確なロックダウン宣言ではないですが、市民の日常生活に法的制限をかけ始めたのがこの日)して約4週間が経ちました。その間、全市民が旅行はもちろん外出さえも満足に出来ない引篭り生活を経験することになりました。その我慢の甲斐あってか、こちらでは4週間にコロナウィルスの新規感染者は大幅に減少、オーストラリアでは明るい兆しも見えてきました。オーストラリアのコロナウィルス対策と、人口500万人のシドニーでのロックダウン滞在記を紹介します。注：この滞在記の写真は3/23のロックダウン前に撮影したものです。正確に現状を示すものではありません。また状況は短期間で大きく変わる可能性があります。

エリア シドニー(オーストラリア)

• 旅行の満足度: 4.0

4/16現在の人口2500万人のオーストラリアでのコロナウィルス新規感染者の推移。3/23にロックダウンが開始された日からその数は急激に増加して、多い時は全国で1日500人を数えました。こちらでは日本と違い、積極的に検査してできるだけ早く感染者を見つける手段を取りました。幸運にもオーストラリアではロックダウンを始めて約4週間、ご覧の様に新規感染者は大幅に減り現在は1日50人前後(4/16時点で累計6600人位)に落ち着いています。先週末のイースター期間中(4/10-13)は、日本の3月の3連休と同じ雰囲気でロックダウンに疲れた人々が沢山公園に集まっていました。首相はロックダウンをあと4週間延長して第2波を警戒していますが、人々にはロックダウンへの緩みが現れています。

4/16現在の日本のコロナウィルス新規感染者の推移。日本はオーストラリアの推移を3週間後に追う形になっています(4/16時点で累計10000人位)。上昇するまでのグラフの形がよく似ています。日本政府は4/7に緊急事態宣言を出して、人の接触を80%減らす様市民に自粛要請して、2週間後にはピークアウトするのを目指しています。

オーストラリアでコロナウィルス新規感染者が激増した理由は比較的明確で、追跡可能な例がほとんどです。一つは国境を閉じる直前に欧米の感染国から緊急帰国した沢山のオージーが持ち帰った事。これに対し帰国後14日間ホテルでの強制隔離が施行されました。もう一つがご覧のルビープリンセスです。この船には結果的に600名以上(20名の死亡者)のコロナウィルス感染者を乗せていたのにも関わらず何の隔離もなく乗客を下船させた事で、3/19の翌日から一気に感染者が広まった大惨事です。前回の旅行記で下船時のその瞬間をご紹介した通りです。ルビープリンセスは毎日テレビニュースに登場して、オーストラリアでのコロナウィルスの象徴となっています。日本でのダイヤモンドプリンセスと同じです。発生から1ヶ月が経ち現在は船長が下船許可を得るために虚偽の報告をしてなかったか刑事事件として調査中です。

サーキュラー キー駅 駅

オーストラリアでは、運良くこのまま行けばコロナウィルスでの死者は100名以下に抑えられそうですが、経済的には大きな代償を受けることになります。ロックダウンで強制的に店を閉めたためで、観光業、ホテル、レストラン、バー、一部を除く小売店は最も被害が大きい業種です。これらの労働者は翌日から失業者となり政府から補償を受けています。失業率は倍の10%超の140万人が職を失うと予想され、ご覧の様に消費者コンフィデンス指数は一気に下降しています。政府予算は前年度は黒字でしたが今年度は大赤字を予想しています。日本での自粛と補償なしの曖昧な態度ではなく、政府はすごく短期間で強制閉店と失業者へ補償を決めました。しかし補償や損失規模はあまりに大きく、経済的回復は長くかかる事が予測されています。

私が最後にバスに乗ったのはロックダウン前の3/19。その頃には既にシティへ向かう鉄道・バスはほぼ無人。ここシドニーではシティに通勤するオフィスワーカーの多くがリモートワークができる環境です。そもそもシドニー全体で公共交通で通勤する割合は10数%で、大多数は車で移動します。必要不可欠の医療機関や物流を支える現場の労働者のほとんどは車で通勤しているのでしょう。東京では3/7の緊急事態発令後も満員電車が解消されない状況ですが、シドニーは車社会で少し事情が違います。日本の様に80％の労働者へリモートワークの要請もありません。以下の記事ではシドニーの交通量の減少率は、車が50%、鉄道80%、徒歩70%減程が見られます。
https://www.smh.com.au/national/the-data-that-shows-sydneysiders-are-not-staying-home-as-much-as-melburnians-20200415-p54k2v.html

前回の旅行記で紹介した通り、観光名所オペラハウスはロックダウン前3/19でもすでに無人でした。この時はロックダウンも自粛もありませんでしたが、数日後からロックダウンされて許可される外出理由以外(不要不急の外出)は違法となりました。ロックダウン中に認められる必要不可欠の外出理由は16つあります。主なものは運動と必需品の買い物。他に職種条件なしで通勤も認められています。

シドニーオペラハウス 現代・近代建築

3/19のシティのタウンホール前。不要不急の外出が警察に見つかって捕まると罰金1000ドルを取られるので、私もこれ以降は行っていません。この時は普段の半分ほどの人混みですが、今ではゴーストタウンなのでしょう。

[4/20 追記] 4/19にシティへジョギングで行きました。ゴーストタウンではなく、人もちらほら見かけます(特にデリバリーの自転車)。警察もいましたが、2人程度の少人数であれば、特に注意を受ける事もありません。ソーシャルディスタンシングが取られていれば、シティへ行く事自体は黙認されている様です。

タウン ホール 現代・近代建築

こんな感じで警察が市民をパトロールしているのでしょう。主に狙われる地域はシティやビーチ沿いの町、これらホットスポットでは感染者が多く出ています。パーティをしていたバックパッカー、店員に咳を浴びせた病人、公園でケバブを食べていただけの無知だった人など、普通では考えられない些細な理由で違法行為として捕まる人々のニュースが毎日流れています。別荘に行った政治家は誰かに密告されて辞職しました。複数で集まって会食するだけで”Illegal Dinner Party”と報道されます。異常な見せしめでまるで北朝鮮みたいです。それでも捕まったのは氷山の一角だと思いますが。日本では法的にロックダウンはできない様ですが、その分同調圧力が強いので自粛だけでも良く機能するのでしょう。

ロックダウン中でも許可された外出理由のひとつが公園での散歩。住宅地の歩道や公園は普段より人通りが多く、沢山の人が散歩やランニングをしています。ホットスポットでなければ警察も見かけません。気をつければソーシャルディスタンシングは確保できます。しかしすぐ背後から追い抜くランナーや、すれ違う時に(わざと?)くしゃみをする子供を避けるのは難しく、完全に安全な場所ではありません。人々は緊張感がなくなった様に見えます(少なくともイースターの週末後は)。

外出理由のもうひとつ、スーパーマーケットへの買い物です。ロックダウン前は買い占めとかで混雑していましたが、今は人も少なく落ち着いています。気をつければソーシャルディスタンシングはまあ大丈夫でしょうか。レジ行列の足元には2ｍ間隔に線が引かれています。レジの店員は透明プラスティックの板で区切られて保護されています。品不足だったトイレットペーパーやパスタなどの在庫も復活しつつあります。マスクは人混みではしている人も増えましたが、公園では誰もしていません。殆どの店員(主に高校生のアルバイト)もマスクしていなく、心配になります。

ロックダウン後は必要不可欠以外の小売店の営業は認められず、これらの店は強制閉店に追い込まれました。レストラン・カフェはテイクアウェイのみです。シドニーの経営者の決断は早いです。スタッフを確保しながら再開を待つことはなく、いきなり解雇しました。3/23のニュースは衝撃でした。1日で10万人以上が失業して、失業保険を貰うため多くの人の行列が何百メートルもできていました(オンラインでもできるのですが、あまりも多くの人々が同時アクセスしてサーバがクラッシュしていました)。1930年代の大恐慌の再来と言われています。政府は雇用者にJobKeeperというパッケージで月に約3000ドル支給して、雇用を支えています。大家と6ヶ月の家賃猶予が交渉可能です。残念ながらビジネスにはとても辛い状況ですが、制度上はある程度のサポートがあります。

キリスト教徒にはクリスマスと並んで重要なイースター期間中も、2020年は教会に集まることを禁止。セレモニーはすべてオンラインで行われました。こんなイースターは初めてです。イースターエッグもイースターが始まる前なのに半額セールされていました。同居家族以外で2人以上が集まるのは違法です。

この時期シドニー郊外の山では紅葉が綺麗で見頃なのですが、シドニー郊外にも旅行へ行く事は一切できません。旅行は16の外出理由に含まれていないためです。途中には警察の検問があり外出理由を訊かれます。理由が正当でなければ捕まって罰金です。多くの州境はクローズされて移動には大きな制限があります。日本では緊急事態宣言も自粛要請だけでまだ国内旅行している人がいる様ですが、こちらでは明確に違法です。

国外への移動は厳しく制限されています。オーストラリア市民の出国は違法です。外国人の出国と市民の帰国のみが許可されています(帰国時はホテルで14日間の強制隔離)。よってカンタス航空は全ての国際線を運休(市民の帰国用の数少ない臨時運行を除く)して、シドニー国際空港からの出発便は外国の航空会社による1日で僅か10便程度です。現在日本へはANAが週3便のみです。国内1位のカンタス航空の多くのスタッフは一時帰休扱いで、無給で困るならスーパーマーケットで働く様勧告されたそうです。国内2位のヴァージン航空は存続の危機です。

[4/20 追記] ヴァージンオーストラリアは経営破綻してしまいました。

状況に明るい兆しも見えポストコロナも語られ始めています。国内移動は同じ州中の移動は来月の5月中には解禁されるのではないか、そして感染が収束した州の間も6月末頃には移動可能になるのではないかという(楽観的な)報道があります。海外渡航は2020年後半からコロナウィルスが収束した国同士で2国間協定が結ばれれば解禁、全世界への旅行が解禁されるのは2021年のコロナウィルスのワクチンが接種されてからでしょう(まだ不確定要素は多いですが)。これでも旅好きにとっては、とても長いですが。

コロナウィルスの緊急事態では色々な事が違法となりましたが、監視は緩く住宅地には警察や自警団などまず見かけません。全ての市民に遵守されているかは疑問です。中国やイタリアほど厳しいロックダウンではありません。前回の旅行記では悲観的な事を書きましたが、何でも大らかなオーストラリアで4週間のロックダウンが効き始めるとは良い意味で驚きです。しかし戦いまだ終わった訳ではなく、ロックダウンは少なくともあと4週間続くと言われています。

4週間のロックダウン後に希望も見えてきたシドニー滞在記を紹介しました。この滞在記が何かの参考になれば幸いです。日本の状況はこちらと同じではないですが、日本もあまり悲観的になり過ぎる必要はないと思います。何でも大らかなオーストラリアができて同調圧力の強い日本ができない事はないと信じています。日本でも緊急事態宣言の4週間後の5月のGW頃にはコロナウィルスの状況が落ち着き、再び日本へ海外旅行ができることを祈っています。