瀛州洞オルムキルモノレールで訪ねる、坂の上の小さな鉄道博物館とカフェ【坂の街釜山＆順天ハレの日その2】

2024/04/12 - 2024/04/12

　福岡県には全国へ誇れる企業が数ありますが、嘉穂製作所もその一つ。いわゆる「スロープカー」と呼ばれる斜行器のトップメーカーで、全国各地で活躍しています。
　坂の街である釜山にも何箇所かで活躍しており、そのうち３ヶ所を巡ってみることに。１ヶ所目の瀛州洞（ヨンジュドン）では、小さな鉄道博物館とカフェを発見。坂の街の日常に溶け込んでみました。

エリア 釜山(韓国)

• 旅行の満足度: 5.0
• 観光: 5.0
• グルメ: 5.0
• 交通: 5.0

• 同行者: 一人旅
• 一人あたり費用: 5万円 - 10万円
• 交通手段: 高速・路線バス
• 旅行の手配内容: 個別手配

　釜山港から釜山駅へ歩き、駅舎の表口にあるデッキへ出てきました。韓国第２の都市とは思えぬ雑多な駅前と、そこに迫る山を見ていると、釜山にいることを実感します。
　デッキには「釜山ユーラシアプラットホーム」という愛称が付けられていて、はるかヨーロッパへの玄関口…に、なればいいな。

釜山駅前広場 広場・公園

　2004年のＫＴＸ開業で駅が大改造された後も、地下鉄への乗り換えは駅前広場を経由せねばならず、雨の日は難儀したものでした。
　地下鉄駅への上下移動も階段がメインで、大荷物の時も辛かったことを思い出します。

　近年、地下鉄駅とを直結する地下道が開通。エスカレーター完備になり、地下鉄・鉄道・船の乗り換え動線は劇的に改善されました。

　一方で駅内には、80年代の地下鉄開通時のままのレンガ調の壁面が残っています。はじめて韓国の地を踏んだ1999年から変わらぬ風景に、どこかほっとしました。

釜山駅 駅

　一人旅はリュック１つが常ですが、今回は結婚式への参列が目的なので、珍しくゴロゴロカートを引いています。うっとおしいので、ロッカーに預けちゃいましょう。
　3,000ウォンか、日本と変わらない値段だ…と思ったら、３時間を超過するとさらに追加料金が必要だとか。いやはや。

　明日の順天行きに備え、今日は釜山泊まり。身軽な一人旅なので、釜山の気になっていた場所を一気に巡りましょう。
　まずは地下鉄に乗って…

釜山都市鉄道 (地下鉄） 鉄道系（地下鉄・モノレールなど）

　１駅目の釜山鎮（プサンジン）駅で下車しました。駅内の出口案内には「汽車駅方面」とありますが、もちろん蒸気機関車のことではありません。
　韓国語における「汽車」は、地下鉄に対する、長距離列車の意味で使われるシーンが多いです。

　さて釜山地下鉄の乗車券は2023年秋に改変され、磁気乗車券からＱＲコード式乗車券へと変化しました。券売機も入れ替わったのですが、相変わらず無駄にでかい（笑）。
　QR乗車券は、日本だと沖縄の「ゆいレール」で実用化されていて、東武も導入の方針を示しています。韓国だと他都市ではIC乗車券を採用していて、釜山だけは独自路線です。

　釜山の地下鉄１号線自体、ソウルとは一線を画す独自規格であり、
　「ソウルがなんぼのもんじゃい」
　という気質が感じられます。
　なお使用済みのQR乗車券は、取って付けたようなゴミ箱に捨てるシステム。このあたりの大らかさは、韓国っぽいと言えるかもしれません。

　釜山鎮駅の地上に上がった場所にあるのが…

　東区文化プラットホーム。釜山市東区立の、文化施設です。この建物、2004年までは駅舎だったもので、現役時代の様子も記憶にあります。昨年の訪韓時にバス車内から発見した時には、「あ！」と声を上げてしまいました。
　あの時は家族旅行だったのでバスを飛び降りるわけにもいかず、今回、再訪した次第。

　展示室は、予約制の企画展だったため入場は叶わず。隣接するコーヒー博物館は無料で、自由に入ることができました。
　とある個人の膨大なコレクションとかで、興味深い展示です。エントランスでは無料でコーヒーを試飲できます。さぞコーヒー好きなスタッフかと期待しましたが、なんとも素っ気ない。公益勤務の若者かな。

　ちなみに旅客駅としての扱いは、20年前（2004年）に終わっており、地下鉄駅にあった案内はいわゆる「トマソン」。このあたりも大らかです。
　バス乗り場から、次の目的地へ。釜山都心部は、路面電車のようにバスレーンが中央にあり、バスのスムーズな運行に一役買っています。

　韓国の地図サイトを使えば、バス路線から現在地まで、一目で分かります。Googleマップでも系統番号までは出てくるので、便利。
　釜山駅から右折し、山手の道へ。エンジン音を轟かせ、急勾配を登って行きます。街は、ぐんぐん眼下へ…

　あっという間に遠ざかってしまいました。
　釜山は、長崎の地形そのままに人口を１０倍にしたような街でもあります。傾斜地では駐車場の確保も容易ではなく、バスは大切な足です。

　釜山デジタル高校前のバス停で下車しました。

　道の向かい側の階段に並んで走るのが、第１の目的地・瀛州洞（ヨンジュドン）オルムキルモノレールです。傾斜地での生活改善のため、釜山市の中区が設置しました。
　モノレールとはいっても法律で定められた正式な鉄道ではなく、昇降設備の一種。日本でも、この規格の乗り物は同様の扱いです。

瀛州洞オルムキルモノレール 交通機関

　とはいえ上下だけでなく水平方向にも移動できる、誰でも乗れる公共交通機関。
　７時～２０時の運行。もちろん高齢者・身障者が優先です。

　乗客がボタンを操作する、全自動運転。このあたりのノリは、エレベーターに近い感覚です。

　「韓国モノレール」の商標がありますが、これは嘉穂製作所の韓国総代理店。福岡県の企業の技術で作られた、福岡県産の乗り物なのです。
　2002年から韓国に進出し、今や全国各地で活躍中。福岡県人として鼻が高くなります。

　地元の方と一緒に乗り込み、ボタンを押せば、ドアが閉まりベルが鳴って発車。平地の街並みが、さらに遠くなっていきます。
　ガラス窓の掲示が邪魔だけど、定期点検のため４月１６日～１８日は運休という大切なお知らせ。4日遅ければ乗れなかったのね…。

　ゴンドラを支えるのは細いレール１本で、よく安定させられるなと感心します。都市交通のいわゆる「モノレール」よりも、よほどモノレール（＝１本のレール）らしい乗り物です。

　途中１か所ある停留所は通過して、２分で終点に到着。こちらには管理事務所があり、おじさんの管理員が一人詰めていました。
　壁面には汽車のオブジェがあり、周辺案内図を見ていると「記念館」の文字が。発見も旅の楽しみ、ちょっと行ってみましょう。

　歩いて１分のところに、朴琪淙（パク・キジョン）記念館がありました。

朴琪淙記念館 博物館・美術館・ギャラリー

　入館無料。住民票や納税証明の自動発行機もあるとかで、公共施設のようです。

　朴琪淙氏は、釜山の近代化に尽力した人物の一人。日本の影響が次第に強くなる中で、韓国人による民間鉄道の設立に向け、不屈の挑戦を続けた人物なのだとか。

　朴琪淙氏の功績にちなみ、韓国の鉄道の歴史の展示も充実。また、モノレールについてのパネル解説もありました。
　展示はほぼハングルばかりではありますが、モノレール体験のついでに立ち寄ってみるにはいいかも。

　ここ、眺望も素晴らしいんです。屋上のテラスが解放されていたら、もっとよく見えただろうな。

　次の目的地へのバスを検索すると、最寄りのバス停はモノレールで下ったところではなく、山上の道沿いにあるようです。
　というわけでバス停に向かって歩いていたら、いいたたずまいのカフェを見つけました。

　抹茶ラテ（６千ウォン）を頼み、セルフサービスで２階へ。なみなみ注がれているので、階段を登るのに気を使いました。
　しかしその苦労の甲斐あり、こちらの眺望も素晴らしい！ 記念館とは違う方向の眺めで、釜山タワーを望むことができました。

　この日は４月にも関わらず半袖で過ごせる陽気で、テラス席がぴったり。

　道には桜並木。先週くらいだったら、桜もさぞキレイだったことかと思います。
　平日午後３時。ひとりラテを傾けるというだけで、とんでもなく贅沢な時間です。まして、異国の見知らぬ街で過ごしているのだから。

　若い男子たちの元気な声が聞こえて来たと思ったら、デジタル高校の下校時間になったようです。
　厳しい受験戦争を前にした、束の間の自由な青春の時間。その元気、少し分けておくれ。

　元気な彼らとともに、１９０番のバスに乗りました。

　山腹に張り付く道路を快走。カーブの度に景色が変わり、釜山の以前のキャッチフレーズ通り「ダイナミック釜山」な車窓が展開します。
　釜山はそれこそ何度も訪れた地だけど、坂の街は有名な甘川文化村に行ったことがあるくらいで、ほぼ未踏。新たな釜山の魅力に、次第にはまり始めていました。