
2007/09/02 - 2007/09/13
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スキピオさん
長編小説「レ・ミゼラブル」で唯一の恋愛は、ジャン・ヴァルジャンが手塩にかけて育てたコゼットと真面目一筋の学生マリユスの恋だ。それはリュクサンブール庭園で始まる。
貧乏学生となったマリユスが下宿から大学(法学部)に通う途中にあるリュクサンブール公園の描写はきわめて興味深い。
ここは彼が初めてコゼットとその父(と彼は思っている)の存在に気付き、意識し、コゼットの方もこの美しい学生に関心を抱く物語の伏線となる重要なところだ。少し立ち寄ってみよう。
《一年以上も前から、マリユスは、リュクサンブール公園の人けのない小道で、苗木園の柵に沿った小道で、一人の男とうら若い娘の姿を見かけた。・・・(略)・・・そこに行くと、ほとんど毎日、その二人に会うのだった。男は六十歳ぐらいだろうか、わびしそうな,気むずかしそうな様子をしていた。・・・(略)
・・・娘は十三、四の少女のようでみにくいほどに痩せて,ぎこちなく、別に人目をひくところもなかったが、目はかなり美しくなりそうに見えた。》(『レ・ミゼラブル』第三章p.191)
【リュクサンブール庭園の恋人たち】
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【リュクサンブール庭園】遠くにパンテオンのドームが見える。
こうして二年ほどが過ぎて、マリユスはたいした理由もなく半年ほどリュクサンブール公園通いをやめてしまっていた。そして夏のあるさわやかな朝、彼はひさびさ公園に足を向けてみた。 -
【リュクサンブール庭園】
すると、《・・・やはり同じベンチに見慣れた二人の姿が見えた。男の方は前と変わりはないが,娘はもはや別人のようだった。》(『レ・ミゼラブル』第三章p.193)美しい蝶となったコゼットを作者はどう表現しているか,長くなるが引用してみよう。ユゴーの一世一代の美女の描写だ。 -
【リュクサンブール庭園】
《今,目の前にいる人は背も高く,美しくもなって,まだ子供らしいあどけない愛らしさをそのまま残している年ごろの女性の最も魅力的な姿態を申し分なくそなえており,十五、という二語だけで表わせるうつろいやすく,清らかな年ごろだった。金色の筋がほのかにただようすばらしい栗色の髪,大理石でつくられたような額,バラの花びらのような頬、ほの白い淡紅色と目もさめるように白い肌、ほほえみが光のように、言葉が音楽のように流れ出る美しい口もと,ラファエロの聖母マリアを思わせる顔が、ジャン・グージョンが彫刻したヴィーナスを思わせる首の上にのっていた。 -
【リュクサンブール庭園】
このうっとりするような顔だちは、美しくはないが、可愛らしい鼻で申し分のないものになっていた。まっすぐでもなく、曲がってもいない、イタリア風でも、ギリシャ風でもないパリジェンヌの鼻、つまりどこか知的で、こまやかで、ととのってはいないが、純潔な感じで,画家を絶望させ,詩人を魅惑するような鼻だった。》(『レ・ミゼラブル』第三章pp.193-4) -
【リュクサンブール庭園】
しかし,まだマリユスの心に火はともっていない。ただ散歩の習慣を取り戻しただけだった。が,ある日, -
《ある日,空気はなま暖かく、リュクサンブール公園は影と陽光にあふれ、空は今朝天使たちが洗ったかのように澄みわたり,マロニエの木立の中では,雀が可愛い鳴き声を立て、マリユスの心はすっかり自然にゆだねて、何も考えず、ただ生きて、呼吸するばかりだった。例のベンチのそばにさしかかると、二人の目が合った。
その時,若い娘の眼差しには何があったか? マリユスにはそれを言い表す言葉がなかっただろう。何もなく,そしてすべてがあった。不思議な光があったのだ。》(『レ・ミゼラブル』第三章p.196) -
【リュクサンブール宮殿】
こうしてマリウスは《純潔な心が知らずにはりめぐらし、思わず,われ知らず、人の心をとらえる罠》(p.197)のような眼差しに射抜かれ,《魂の奥底に、恋という香りと毒にみちた暗い花をにわかにひらかせる魔力》(p.197)に取り憑かれて,屋根裏部屋に帰ったのだ。ふと,散歩中に着ていた自分のふだん着に目をやる。 -
【リュクサンブール庭園、メディチの泉】
それはぶざまにも《リボンのところまでつぶれた帽子や、馬車屋のはく無骨な長靴や、膝が白くなったズボンや、肘が薄くはげた上着》(p.197)だった。
翌日、黄金の矢でハートを射抜かれた男が、一張羅を着て勇躍公園に向かったのはお察しの通りだ。 -
【コゼット像】ヴォージュ広場の「ヴィクトール・ユゴーの家」
こんな小娘が、ジャン・ヴァルジャンのおかげで、美女に変身する。 -
【ヴィクトール・ユゴーの家入り口】
ユゴー晩年の家は美術館となっている。無料なのがうれしい。マレー地区はここと、カルナヴァレ美術館が無料なので、必ず立ち寄る。 -
【若きユゴー像】ダヴィダンジェ作・・・ヴィクトール・ユゴーの家
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【ユゴー像(ロダン作)】ヴィクトール・ユゴーの家
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【リュクサンブール庭園】
リュクサンブール宮殿はアンリ4世に嫁いだマリー・ド・メディシスが、故郷フィレンツェを偲ぶために造営した。
今は元老院の議場となっている。
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