2006/08/17 - 2006/08/17
11507位(同エリア17017件中)
スキピオさん
アール・ゼ・メチエ(国立工芸院高等専門学校)に隣接した国立技術博物館に行く。何年か前から見学したかったのだが、色々な事情(修復工事も長かった)で入れなかった。
パスカルの計算機を見たい!
メートル原基を見たい!
このデジカメのご先祖、ダゲールの写真機を見たい!
そして、なによりもフーコーの振り子が見たい!
そんなこんながついに今日実現する。
入場料
6.5ユーロ、割引き料金:4.5ユーロ、18歳未満:無料
開館時間
火曜から日曜日:10:00〜18:00
木曜日:21:00まで
月曜日、祝祭日:閉館
表紙写真《1893−97年、クレマン・アデールの飛行機》これを飛行機の嚆矢とする。
-
僕のパリの根拠地は20区のテレグラフというメトロ駅近くにある。このメトロの線は11号線で、パリの中心地シャトレが終点だ。その三つ手前に「アール・ゼ・メチエ」という駅がある。
《アール・ゼ・メチエ駅構内》
この駅は独特だ。壁から天上まで銅葺きになっていて、まるで潜水艦の中にいるように丸い窓がついている。驚いたことにベンチも、ゴミ箱までも同色にする徹底ぶりだ。
国立工芸院や技術博物館がある駅にふさわしいと言えるのかも知れない(メトロ駅とそのまわりの街については「パリはメトロポリタンな町」を参照して下さい)。
もちろん博物館ヘ行くのにはこの駅をおりる。 -
《国立技術博物館の表札》
厳密には《アール・ゼ・メチエ博物館》と書かれている。
アール・ゼ・メチエとは、工芸学院という工学部系のエリート校、高等専門学校のこと。 -
《博物館入口にあるゼノブ・グラム(ベルギー人の電気技師、発明家)像》
フランス人でないところがおもしろい。パリにはワシントン像やチャーチル像などフランス人以外の偉人の像が目につく。真にコスモポリットな町とはこうなのかも知れない。
そういえば、パリの地図を開けばすぐにわかるが、通り名や広場名もアメリカ人を始め外国人の名前が多い。 -
《ヨハン・ラインホルトの天球儀1588年》
イタリアの学者ウンベルト・エーコが書いた、『薔薇の名前』に次ぐ小説『フーコーの振り子』のクライマックスはこのアール・ゼ・メチエのシャペルだったと思う。たいぶ前に読んだので少し記憶が怪しいが(図書館で借りて読んだので帰国した今も確かめられない。本代はケチルものではないな)、ここに七百年近く前に異端宣告を受けて滅びたテンプル騎士団の魑魅魍魎が集まったような気がする。
フーコーの振り子は後出 -
やっと出会いました!
《パスカル19歳の時製作した計算機》
ブレーズ・パスカル(1623〜62)の天才ぶりは16歳の時に〈円錐曲線の定理〉を発表して以来、〈パスカルの原理〉〈パスカルの三角形〉など物理・数学の分野でつとに知られている(ちなみに気圧の単位は彼の名に負う)。また、遺稿の哲学随想集『パンセ』は、「人間は考える葦である」のフレーズによって、「我思う、ゆえに我あり」のデカルトと並んで、フランス知性の原点となっている。
地方行政官の父親の徴税業務を軽減するためにおそらく史上初の計算機を考案・製作した。 -
《日時計》1600年
これを用いて地球の大きさを測定する。 -
《天体観測器》1785年
-
《天体望遠鏡》1805年
-
《18世紀半ばの時計》
-
《シャルル・ベルトランの時計》1785年
-
《ショーヌ公の依頼によって作られた顕微鏡》1751年頃 マニー作
顕微鏡は16世紀末から17世紀にかけて発明されたが、とりわけ、オランダのレーウェンフック(1632〜1723)による、細菌・微生物(1674)、赤血球の核(1684)、とりわけ精子(1677)の発見に欧州社会は仰天した。
裸眼で見てもなにもないところに別世界が見える。人の好奇心はマクロ(天体)に向かうと同時に、ミクロの世界にも広がった。 -
《ラヴォワジエの実験室》
偉大な化学者ラヴォワジエ(1743−94)は革命下、元徴税請負人という負の経歴を持っていたため、ギロチンの露となってしまった。
数学者のラグランジュ(1736−1813)は「やつらにはあの頭を落とすのに一瞬しかかからなかったが、同じような頭を作るのに100年あっても足りないだろう」と言った。 -
ありました!1メートルを示すプラチナの原基が。
《1メ−トル原基と1リットルと1キログラム》1799年
フランス大革命の記念すべき成果のひとつにメートル法の制定、つまり度量衡の制定がある。それまで、この博物館に展示されているように長さというものは体の一部を基準にしていた。たとえば両腕を広げた長さはトワーズ、足の大きさはピエ(英語でフット)、指はプース(インチ)という具合だ。
革命は測量の単位までも平等を求める。なぜなら、体を基準にしたものでは様々な体格の人種・民族の住むこの地球上において平等とは言えないからだ。
そこで何を基準にすれば、この地球上のすべての人間が共通のそして馴染みやすいものになるだろうか? -
《さまざまな定規や枡》
結局至った結論はすべての人間に共通の基準は地球の大きさということになった。
さあ、測量だ!
聞き及ぶところによると、北はダンケルクから南はバルセローナまで文字どおり足を使って測量したそうな。
結局、北極と南極を通る(両極以外を通る一周では長さが異なる、ということはすでに知られていた)地球一周の四千万分の一を1メートルと定めて、それを度量衡の基準とした。
そのプラチナ原基が目の前にある。開明的かつ革命的な学者たちの血と汗と英知の結晶だ。
この原基を十分の一にして立方体を作り、1リットルと1キログラムを作った。
残念ながら、英語圏の国々(アメリカやイギリスなど)はいまだこの便利なメートル法を用いていない。 -
《レオン・ボレの計算機》1889年
レオン(1870〜1913)は父アメデ(1844〜1917)と共に著名な技術者、他に自動車も製作している。 -
《19世紀の印刷機》
グーテンベルク以来、印刷術は着実に進歩していたが、19世紀には識字率の向上とともに飛躍的な発展を遂げる。
多数の新聞が発刊されて、新聞小説の流行が拍車をかけた。アレキサンドル・デュマ父子、バルザック、ユゴー、ゾラ、モーパッサン、ヴェルヌ等々、流行作家が輩出した。 -
《秤》19世紀
実用的なものにもかかわらず、凛として美しい。 -
《ダゲ−ルの写真機 》1835年
ジャック・ダゲール(1787〜1851)は発明家ニエプス(1765〜1833)に協力して写真機の製作に取り組んだ(1829)が、ニエプスは道半ばにして他界してしまう。意志をついだダゲールは、ついに単独で1835年、記念すべき第一号の写真機を完成させた。
時はロマン主義全盛時代、ドラクロワはすぐに写真機の真価を見抜き、ミレーは絵画に写真機を利用する。
時代を大きく変えた写真機は絵画の世界にも革命をもたらした(印象派の出現)。 -
《リュミエール兄弟の映写機》
写真機の発明から60年、ついに人は動画を手に入れた。
1985年12月28日、パリでシネマトグラフィは初公開された。観客はただただ仰天するばかりだったとか・・・
発明したのは、リュミエール兄弟(1862〜1954、1864〜1948)
1900年のパリ万博の折、世界中に映画が紹介された。ここからフランス映画の伝統が始まる。 -
《ルネ・バルテレミー(1889〜1954)のテレビジョン》1935年
バルテレミーはテレビジョンの改良に貢献した。 -
階段の隣に設置されている《車椅子用エレベーター》
技術博物館の面目躍如・・・ -
《自由の女神像建設模型》
ご存知、ニューヨーク港内のリバティ島にある巨大な自由の女神像。
その像を建設している(1886年)当時の様子を復元。
自由の女神像はもちろん、建設作業そのものもフランス国民とアメリカ国民の団結の象徴となっている。 -
[この博物館のシャペル(元の礼拝堂)は最後に見学しましたが、自由の女神像が出て来たので先に紹介します]
《シャペル内に立つ自由の女神像》
自由の女神像の後ろに回ると、次のように書いてあった。
フランス=アメリカ団結のモニュメント
世界を照らす自由
A.バルトルディにより/1886年ニュ−・ヨ−ク港内の島に建てられる
モニュメントはこの友愛活動に参加した/両国民によって/共同で建設された。
かつて両国民がアメリカの独立を/揺るぎないものにするためにそうしたように
モニュメントの大きさ
像の高さ:56メートル 台座:35メートル
全長:91メートル
工事期間
1875年から1885年まで(以上拙訳による)
ちなみに、前面にはおきまりの標語が書いてあった。
LIBERTE(自由)/FRATERNITE(友愛)/EGALITE(平等)
係りの人に後ろの文言はニューヨークの自由の女神像の後ろにもあるのか確かめたところ、あると言った。
この独立100周年を記念する巨大なモニュメントは、フランスとアメリカ合衆国が同じ価値観を共有していることを如実にしかも力強く物語っている。その価値観とは、前面に刻まれた「自由・平等・友愛」という18世紀の啓蒙思想から生まれた理念のことだ。 -
ちなみに、あの巨大な自由の女神像の制作費はフランスの民衆からの募金でまかなわれた。
製作は彫刻家のバルトルディ、内部の鉄の骨組みはエッフェル塔で名高い技師エッフェルによる。
この像がフランス国による寄贈ではなく、民間によるところが大切だ。その感謝のしるしにのちにアメリカからその縮小版をお返しにもらうがそれも民間によるのはそのためだ。その像はセーヌ河の中州の島に立っている。
《中州の島の中央を通る「シーニュ(白鳥)遊歩道」の先端に立つ自由の女神像》驟雨のバトー・ムーシュから撮影 -
《アデールの飛行機》
実際は滑走中に何度か浮いたが飛び立つことはなかったらしい。
人が初めて空を飛んだのは1783年、モンゴルフィエ兄弟が作り上げた熱気球を用いてであった。
爾来フランスは、水素気球(シャルル、1783)、落下傘(ガルヌラン、1797)、飛行船(ジファール、1852)という具合に飛行において、他国以上に世界最初のこだわりを持っていたが、完全な飛行機の完成はライト兄弟の手によるものであった。
しかし、1909年7月25日、ブレリオが自作の飛行機で英仏海峡を横断。この快挙から飛行機王国としてのフランスはよみがえり、21世紀の現在に至る。 -
《ニコラ=ジョゼフ・キュニョーの蒸気自動車》1770年
人工の動力を使って走る人類初の乗り物は蒸気機関車ではなく蒸気自動車だったのだ。
1769年、フランスのキュニョー(1725〜1804)は、砲車を運ぶ蒸気三輪自動車を製作し、人が操って走ることに初めて成功した。 -
《車時代を謳歌する1900年頃のポスター》
ディオン=ブートンの三輪車、前出のレオン・ボレのミニカー、プージョの自動車が描かれている。 -
《1865年、ヴェロシペード》
フランス語で自転車を「ヴェロ」といいます。 -
《プジョーの自動車》1893年
-
《シャペル内の展示室》
天井にブレリオ機(?)が吊り下げられている。 -
《フーコーの振り子》
やはりシャペル(元の礼拝堂)にフーコー(1819〜68)の振り子があった。それは等間隔に円形に並べた親指ほどの大きさの金属の分銅を弾き飛ばす仕組みになっている。分銅と分銅のあいだが約5センチほど離れているのでしばらくすると静かな堂内に「パチーン」と金属音が響く。
それはまさに地球が自転していることを示す音なのだ。係りの人に尋ねたら、5分ごとに鳴るそうだ。なんとしゃれた仕掛けだろう。
実際の実験はソルボンヌ大学近くの「パンテオン」で行なわれた(1851年)。ご存知のとおりパンテオンは巨大なので丸天井から吊り下げられた振り子の振り幅が大きいので「自転」を見やすい(ワイヤーの長さ:67m、振り子の重さ:28kg)。 -
《シャペルの外観》
この国立技術博物館をひとまわりして、あまりの規模の大きさに驚嘆した。写真に取れなかったものも、写真に撮っても掲載できなかったものもあまりに多い。本気になると一日では見きれないだろう。
見学しながら、フランスの科学・技術に対する思いと自負が伝わってきたが、この度改めて原稿にしてみると自国だけにこだわらないもっと普遍的な科学・技術に対する愛情をこの博物館から感じることができた。そう、ここにあるのはフランスの技術史ではなく、人類の技術史だったのだ。 -
《高等専門学校、アール・ゼ・メチエ校門》
サン・マルタン通り -
《アール・ゼ・メチエとサン・マルタン門》
右側がアール・ゼ・メチエ、突き当たりに「サン・マルタン門」が見える。 -
《サン・マルタン門》左のアーチの中に「東駅(ギャール・ド・ノール)」が見える。
この門と並んで立っている「サン・ドニ門」のあたりには安いレストランがひしめいている。少々柄は悪いがこれもパリ、どこかにぶらりと立ち寄るのも一興・・・
僕たちはインド料理店の立ち並ぶ「パッサージュ・ブラディ」(「サン・ドニ門」近くです)に行き、安価なインド料理の定食を食べました。
いくらでしたかって?・・・妻は5ユーロ、僕は〈食い意地を張って〉6ユーロの定食にしました。あっ!それから、ロゼの葡萄酒(500ml、6ユーロ位)もいただきました。
お味のほうですって?・・・この値段ではあまり文句も言えません。
量ですか?・・・6ユーロのほうは、3種類のカレー的なもの1種類のデザート的なもの、かなりの量のご飯(インディカ米)でした。
この旅行記のタグ
利用規約に違反している投稿は、報告する事ができます。
この旅行記へのコメント (6)
-
- oscar002さん 2006/12/26 06:12:11
- ここ行かなきゃ!
- スキピオさん、おはようございます。
4トラは「何で皆さんこんなに良く知っているんだろ?」という驚きの連続では
ありますが、スキピオさんの博覧強記ぶりには、ホントにビックリです。
フーコー振り子は日本にも国立科学博物館にもあったように記憶しています
が、やはりここで見なきゃダメですよね〜。
元同僚は8年もパリにいたくせに、エッフェル塔に登ったのは帰国の2日前
でしたが、住んでると行かないってこと多いですよね。
ワタクシも既に4年になりますので、まもなく転勤じゃないかと(勝手に)
思ってますので、ここは是非訪問しておきたいと思います。
他の旅行記もゆっくり見させていただきます。
ではまた、アビアント!
- スキピオさん からの返信 2006/12/26 09:20:44
- RE: パリからありがとう。
- おはよう。oscar002 さん、書き込みありがとう。
そうですね。フーコーの振り子は東京の科学博物館にもありますね。僕も子供の頃見学して、地球の自転を想像して胸をときめかしたことを覚えています。そしてこの夏、本物に出会えました。
僕の方もパリにいらっしゃる oscar002 さんの旅行記を楽しみにしています。もしかすると、こちらでわからないことを質問することがあるかも知れません。その時はよろしくお願いします。
では、A bientot! Bonne annee!
-
- おでぶねこさん 2006/11/03 22:08:16
- お誕生日おめでとうございます。(*^^*)
- スキピオさん。
♪♪♪Bon Anniversaire♪♪♪
1日出遅れてしまいましたが・・・ごめんなさい。
祝福の気持ちはいっぱいです!
新しい1年、健康で素敵な毎日が送れますように♪
これからも、スキピオさんの溢れんばかりの
教養をおでぶねこにも分けてくださいね。
ふぅ〜ん。そうだったのか・・・。の連続です。
おめでとうございます!!!
おでぶねこ
- スキピオさん からの返信 2006/11/03 22:37:01
- RE: ありがとう。
- 誕生日メールありがとう。
おかげで何となくこれから一年、良いことがありそうな気がします。
健康でいつまでも旅行できればいうことはありませんが。
おでぶねこさんのお元気を旅に、好奇心に、食欲に大いに活用して下さい。
そして、お写真と旅日記でほんのわずかスキピオにもお分け下さい。
-
- コクリコさん 2006/11/02 20:11:37
- お誕生日おめでとうございます!
- スキピオさん、お誕生日おめでとうございます。
「アールゼメチエ工芸技術博物館」拝見しました。
『へぇー?!』がすごく多かったです。
- スキピオさん からの返信 2006/11/02 22:19:51
- RE: お誕生日おめでとうございます!
- メッセージありがとう。
誕生日が真にめでたいのは二十歳までと、還暦を過ぎてから、と思っています。
今はただただ齢を重ねていくだけ・・・
また次の年も元気に旅ができれば言うことなし。
国立技術博物館の見学、少々トリヴィアルなものが多かったかも知れませんね。
コメントを投稿する前に
十分に確認の上、ご投稿ください。 コメントの内容は攻撃的ではなく、相手の気持ちに寄り添ったものになっていますか?
サイト共通ガイドライン(利用上のお願い)報道機関・マスメディアの方へ 画像提供などに関するお問い合わせは、専用のお問い合わせフォームからお願いいたします。
スキピオさんの関連旅行記
パリ(フランス) の旅行記
旅の計画・記録
マイルに交換できるフォートラベルポイントが貯まる
フォートラベルポイントって?
6
35