2006/07/27 - 2006/08/20
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スキピオさん
メトロはパリの静脈です。絶えず流れて町に命をめぐらせています。そうたとえると、乗客はさしずめ血液中の栄養素となるのでしょうか。そう、メトロはパリの活力の源です。
メトロに乗って、メトロの駅を見ながら、パリの魅力を味わいます。
【7号線「プラス・モンジュ駅」】
パリ大学のすぐ近くのこの駅は、パリの典型的なメトロ駅でしたので、表紙としました。
手前のホームで電車を待っていますと、後ろから電車が来ます。つまり電車は必ず右側のドアが開くことになります。
[ガスパール・モンジュ(1746〜1818)は数学者(幾何学)、後ナポレオンと出会い、師と慕われ、エジプト遠征の際に学術調査団長となる]
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ご存知の通り、パリはメトロが極めて発達している町です。どこの街を歩いていてもちょっと気をつけてまわりを見回すとたいていメトロの駅があります。
それもそのはず、東京で言えば山手線ぐらいの規模の町に297の駅があり、現在14の線と郊外から地下に入るRERという郊外線、A〜Dの4線があるからです。駅と駅の間隔は平均300mだそうで、確かに乗っているとたいてい30秒から1分以内に次の駅に到着してしまいます。
典型的なアール・ヌーヴォー様式のメトロ駅
《ラスパイユ駅》
[フランソワ・ラスパイユ(1794−1878)化学者、政治家] -
パリのメトロは万博の年、1900年にその1号線が開通しました。パリを東西に走る、いわばパリの都市軸となる、凱旋門(エトワール広場)、シャンゼリゼ、コンコルド広場、ルーヴル、オテル・ド・ヴィル(市庁舎)、バスチーユ、リヨン駅、ナシヨン広場、ヴァンセンヌを結ぶ、現在でも最も乗客の多い線です。その後次々と新たな線ができて1913年には10号線まで、1929年には13号線まで完成したそうです。
写真は1号線にある《シャン=ゼリゼ・クレマンソー駅》(3月に撮影)
[シャン=ゼリゼ(エリゼの園)は英雄や徳の高い人の行く冥界]
[クレマンソー(1841−1929)は「トラ」の異名をとった政治家] -
最後の14号線は新しい国立図書館が完成し、その名前がフランソワ・ミッテランと名付けられたのと同時の1998年にそのフランソワ・ミッテラン駅からマドレーヌ教会までできました(現在はサン・ラザール駅まで延長)。
この14号線のホームは東京の南北線と同様にホームがガラスの仕切りで線路と仕切られています。そのために乗客が線路上に転落することはありません。
乗客に転落の心配がなくなったのなら、運転手はもういらない、ということでしょうか。この14号線の電車は完全に無人状態で走っています。運転手のいない電車がホームに入って来るのを見るとなんとも不思議な気がします。
《シャン=ゼリゼ・クレマンソー駅の通路》 -
実はパリのメトロはその14号線だけではなく、他の線も全て自動化されています。ですから、他の線には運転手こそいますが、彼らはただ漫然と運転席に腰をかけている、という印象を与えます。
運転手の仕事はドア閉めと電車を出発させることだけだそうです。自動化のせいでしょうか、確かに電車の停車位置はいつも判で押したようにぴたりと同じです。
《エドガール・キネ駅》
デパート「ギャルリー・ラファイエト」のポスター。映画やコンサート、遊園地も全てこの大きさのポスターに指定されています。
[エドガール・キネ(1803−75)は作家・哲学者・政治家] -
メトロとはメトロポリタン(都市交通)の省略です。ですから、地下鉄の意味ではありません。でも実際は90%以上の駅が地下にあります。
写真は高架を走るメトロの駅「シャペル」です。
シャペルとは〈礼拝堂〉のことですが、地名の由来は以前このあたりに「シャペル・サン=ドニ村」があったことから来ています。
現在のこのあたりはいわゆるアラブ人街で、観光客を見かけることはあまりありません。 -
メトロは朝5時から翌朝の1時までひっきりなしに(2分から4分おきに)走っています。日曜・祭日は本数が約半分になります(5分から6分おき)。
メトロには時刻表はなく、待ち時間が書いてあるだけです。写真は[00]だから電車の到着する瞬間。日曜日なので次の待ち時間が[06]になっています。 -
運転手(バスのも)はフランス人の制服嫌いを反映しているのでしょうか、制服姿を見たことがありません。そもそも制服というものはあるのでしょうか。ちなみにバスの運転手もそうですが、女性運転手の割合が大変高いのに驚きます。
《7号線b(7号線の枝線)の車内》
誰も腰掛けていないので椅子が上がった状態になっています。乗客は椅子を下ろして座るが混んで来たら、立ち上がるのがマナー。
この椅子をスタンポンと言います。 -
運賃はバスも兼用で切符一枚、1.4ユーロ(1ユーロ約150円)で、10枚綴りのカルネが10.9ユーロ、1週間のあいだバスもメトロも乗り放題のカルト・オランジュ(オレンジ・カード)またはスイカのようなワンタッチの読み取りカード(ナヴィゴ navigo と言います)が16ユーロです。
このメトロの切符は大変スグレモノです。というのも、何年でも使用が可なのです。10枚綴りの切符が余っても翌年も翌々年もその先でも使えますのでご安心下さい。もちろんバスについても同様です。
《「モンパルナス・ビヤンヴニュ駅」の通路》
この駅は乗換え駅が遠いので長い動く歩道で結ばれています。
[ビヤンヴニュ(1852−1936)はメトロ建設における最大の功労者、メトロの「父」と呼ばれている]
[モンパルナス(パルナッソス山)は古代ギリシャにおいて聖地となっていた山(2457m)] -
通路の右の壁面にメトロにまつわる記事がAからZまで書かれています。
〈Z〉はもちろん小説『地下鉄のザジ』の一節。
「噫(ああ)!パリ!」思い入れたっぷりな調子で言う。「なんて美しい都会(まち)だ。見たまえ、きれいだろう」
「どうだっていいわよ」ザジは言う。「あたしは地下鉄で行きたかったの」
『地下鉄のザジ』(レーモン・クノー著)生田耕作訳〔中公文庫 P.11〕 -
個性的な駅を紹介しましょう。
「ルーヴル=リヴォリ駅」はルーヴル美術館があるからでしょう。ホームに美術品が展示されていて〈美〉への関心はいやが応でも高まります。
《ギリシャ美術「ディアナ像」》
美術館ではありません。駅のホームです。念のため 。 -
ルーヴル=リヴォリ駅ホームの《エジプト芸術「セクメト女神(獅子面女神)」》
ただしこの「ルーヴル=リヴォリ駅」はルーヴル美術館へのアクセス駅ではないから、ご用心下さい。
ルーヴル美術館へはその隣の「パレ=ロワイヤル ミュゼ・デュ・ルーヴル駅」が入口とつながっているので便利です。
ガラスのピラミッドにも入口がありますが、しばしば長蛇の列をなしています。ですから雨天の日や暑さ・寒さの厳しい日には、メトロからのアプローチの方がはるかに快適です。
既に中庭にいる場合は「カルーゼルの凱旋門」近くから地下に下りられます。 -
地下の《バスチーユ駅》
ホームの壁には革命前の〈バスチーユ城塞(牢獄)〉の風景を表した絵画が飾られています。
下の台座の石は当時の遺跡です。
ルーヴル美術館への地下からの入口付近の通路でもフィリップ・オーギュト時代の遺跡がそのまま現在の壁とコラボレーションしています。
どちらも古いものはそのままに、というこだわりのパリが垣間見えます。 -
「バスチーユ駅」の1号線ホームは地上 にあります。
革命勃発の地、バスチーユはもちろんその絵物語がタイルに描かれています。 -
1789年10月6日、群衆はヴェルサイユから国王一家を連れて来て「パン屋の親方とその女房、小僧を連れて来た」と叫んだ。ルイ16世と王妃マリー=アントワネットは二度とヴェルサイユに戻ることはなかった。
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1879年10月5日、パンを求めて女性の一団がパリ市庁舎前に集結して、食料確保のためにヴェルサイユに向けて行進します。その数、女だけで6・7千。結果は「バスチーユ駅」の通りです。その「パリ市庁舎駅(オテル・ド・ヴィル駅)」のホームの壁にはパリの近・現代の歴史を物語るポスターが貼られています。
《パリ市庁舎(オテル・ド・ヴィル)駅》 -
「パリ市庁舎駅」ホームの《パリ市の紋章》
古代から港町だったパリを象徴する帆掛け船。
ラテン語で「たゆたえども沈まず」と書かれています。 -
《サン=ジェルマン・デ・プレ駅》
地上に出れば、芸術家のたまり場サン・ジェルマン・デ・プレ教会あたり、かつて実存主義者や芸術家が入り浸っていたカフェ「カフェ・デ・ドゥ=マゴ」や「カフェ・ド・フロール」が軒を列ね、ヘミングウェーが足繁く通ったブラッスリー(ビヤー・ホール)「リップ」が向かい合っています。
今は観光地となった前衛の街、サン=ジェルマン界隈。ロマネスク様式の「サン=ジェルマン・デ・プレ教会」の横に本当に小さいですが、「サルトル・ポーヴォワール広場」があります。 -
《サン=ジェルマン・デ・プレ駅》
白いタイルに影文字が浮かび上がる仕組みになっています。
ちなみに、訳すと《バスチーユは、庶民的で、今はやりで、ブルジョワっぽいごたまぜの街だ、それはとっても・・・な場所」という感じでしょうか。これはもしかしたら映画『猫は行方不明』のシノプシスかも知れませんが、わかりません。
というのは、今回この駅の影文字の文言は映画関係のものでしたから(以前は詩人の詩句だった)。 -
「一角獣と貴婦人」のタピスリーで有名な『クリュニー美術館』またはパリ大学「ソルボンヌ」からメトロを使おうとすれば・・・
駅名の文字が美しい《クリュニー・ラ・ソルボンヌ駅》
まわりを見回すと文字だらけ。 -
この駅の壁や天井は「モリエール(17世紀の劇作家)」のサインを始め、作家・文人・偉人のサインだらけになっています。
《クリュニー・ラ・ソルボンヌ駅》 -
【クリュニー駅】
天井いっぱいの著名人たちのサイン。 -
「国立工芸院 ARTS ET METIERS」と「国立技術博物館」のある駅は、銅ぶきの壁にかこまれ、潜水艦の中にいるような気分になります。
《アール・ゼ・メチエ駅》
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《アール・ゼ・メチエ駅》
ゴミ箱やベンチまで銅葺きという徹底ぶりです。
(まだまだ紹介したい駅がありますし、まだ見たことのない駅もたくさんあります。どなたかが、紹介して下さるかも知れません。そんなことを楽しみに、個性的な駅探しをさらに続けたいと思っています) -
【サン・ミシェル駅の音楽家】
アンデスの音色が心地よくて、しばらく聞き入ってしまいました。もちろん、小銭を「ポン」と投げ入れました。 -
階段を降りると、そこに広がるのは独特のメトロポリタンな世界、どこからか音楽が聞こえて来ます。世界中から集まったミュージシャンたちが地下の通路で、ホームで、車内で演奏しているからです。メトロは、公園や道路と同様、ミュージシャンにとって自己表現と生活のための大切なステージなのです(注)。音楽の種類もクラシックから民謡、シャンソンからジャズとさまざまです。
(注)あまりに多くの音楽家が演奏するようになったので、数年前から許可制になりました。オーディションの合格者、年間300組に許可が与えられているそうです。
地下の通路で歌う《アニエス・ビルとアレクサンドル》
CD『パリの地下鉄』(パリのメトロミュージシャンの歌と演奏を収録しています)の表紙を転載しました。
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