【吉野探桜録】中千本で満開の桜に巡り合った

2022/04/07 - 2022/04/07

桜は見たいが山道を延々と歩くのは体力的につらい。
そこでタクシーをチャーターして金峯神社から下ってもらうことにした。
タクシー会社はあれこれネットで調べて近鉄下市口駅前にある千石タクシーに依頼。
ゴールは近鉄の吉野神宮駅。

エリア 吉野(奈良)

• 旅行の満足度: 5.0
• 観光: 5.0
• グルメ: 4.5

• 同行者: カップル・夫婦（シニア）
• 旅行の手配内容: 個別手配

ステイしたあべのハルカスの真下にあるのが近鉄の大阪阿倍野橋駅。
吉野に行く近鉄特急はここから出ている。
08:10の特急で下市口駅を目指す。

近鉄吉野線 乗り物

発車するやいなやアルコールを摂取。

近鉄吉野線 乗り物

飛鳥駅のあたりではもう桜が満開だ。

飛鳥駅 駅

下市口で予約していたチャータータクシーに乗り込みまずは奥千本を目指そう。

金峯神社 寺・神社・教会

ネットで見ると下市口には評判の柿の葉寿司の店があるというので訪ねてみる。

柿の葉寿司 よいよい グルメ・レストラン

普通の民家に見える店にたどり着いた。

柿の葉寿司 よいよい グルメ・レストラン

おばあちゃんが一人でやっている店のようだ。

柿の葉寿司 よいよい グルメ・レストラン

あれあれマスクなしで柿の葉寿司を作っている。
コロナウィルスは大丈夫かな！？

柿の葉寿司 よいよい グルメ・レストラン

酢飯に塩で締めた鯖の切り身をのせ、柿の葉で巻く押し寿司。
昔は熊野から運ばれた塩鯖を使っていたが、今は焼津の鯖を使っているという。
和歌山から奈良にかけて、多く夏祭りで食べられていた郷土料理だ。

柿の葉寿司 よいよい グルメ・レストラン

柿の葉や酢飯にも、杉の容れ物にも殺菌効果があり、時間経過とともに味が馴れ変化する。

柿の葉寿司 よいよい グルメ・レストラン

その場で一つ試食させてもらった。
写真も構わぬという。
お名前は西村富代さんとのこと。

柿の葉寿司 よいよい グルメ・レストラン

となると買わないわけにはいかない。
一折り購入。

JWマリオット・ホテル奈良 宿・ホテル

その日の夜食として奈良のホテルで食べる。

JWマリオット・ホテル奈良 宿・ホテル

一晩寝かした方が良かったかもしれない。

JWマリオット・ホテル奈良 宿・ホテル

下市から脇道を通って金峯神社へ向かう。
幸い道は空いている。

下市口駅 駅

奥千本は、まだ桜には早いようだ。

金峯神社 寺・神社・教会

藤原道長も詣でたとされる金峯神社は、吉野山の地主神を祭っている。

金峯神社 寺・神社・教会

金峯神社の横の道を降りてゆくと義経隠れ塔がある。

義経隠れ塔 名所・史跡

兄頼朝の疑いを受け、後白河法皇の義経捕縛の院宣に追われた義経は吉野に逃れる。
吉野山は女人禁制のためこの地で静御前と別れた後、この塔に潜んだという伝説がある。

義経隠れ塔 名所・史跡

追っ手に囲まれた義経が、屋根をけ破って逃れたことから、蹴抜の塔とも呼ばれる。

義経隠れ塔 名所・史跡

大正時代に作られたこの建物は粗末な小屋だが、平安時代末期には五重の大塔だったとの説もあるらしい。

義経隠れ塔 名所・史跡

ここから山道を20分ほど歩くと奥千本のさらに奥、西行庵に行きつくようだ。
山道を昇るのは勘弁してもらおう。

金峯神社 寺・神社・教会

上千本の最高地に位置する吉野水分神社。
『みくまり』と読んで、農業用水の分配を司る神社だ。
みずをくばるの意味だろうか。

吉野水分神社 寺・神社・教会

奈良や大阪にはこの名を持つ神社が散在している。
ここは、大和国の葛木，吉野，宇太，都祁の四つの水分神社の第一とされている。

吉野水分神社 寺・神社・教会

建物奥の枝垂れ桜が、おりしも花の見ごろ。

吉野水分神社 寺・神社・教会

優雅な神社建築が美しい。
桃山期の建築だという。

吉野水分神社 寺・神社・教会

また、ここは『子守宮』とも呼ばれ、子宝や子育ての神様としても信仰を集めている。

吉野水分神社 寺・神社・教会

吉野水分神社から少し下った花矢倉展望台。
いつもは無料なのに、桜の季節になり突然有料となっという。

花矢倉 名所・史跡

確かにここから見下ろす桜は見事だ。

花矢倉展望台 自然・景勝地

また、視線を上げれば、金剛、葛城、二上山も遠望できる。

花矢倉展望台 自然・景勝地

甘味処の「子守茶屋」。
うどんとかおでんとかを楽しめる。

花矢倉展望台 自然・景勝地

佐藤忠信は藤原秀衡に命じられ奥州以来義経に従ってきた忠臣である。
義経一行のしんがりとしてこの花矢倉に踏みとどまり、強弓をもって追っ手を防いだという。

花矢倉展望台 自然・景勝地

案内してくれるタクシーが、通常コースを離れた秘密の花見スポットに連れて行ってくれた。

桜美荘という宿の周辺の桜がまさに盛りだ。

それだけでなく『こぶし』の花も咲いている。
下市口から吉野に向かう裏道でも、車窓によく見られたのがこの花だ。

沈丁花も今が盛り。
みんな桜にばかり目を奪われるが、その陰で、春はしっかりと生命の賛歌をうたっているのだ。

花矢倉展望台 自然・景勝地

とはいえ、やはり主役は桜。

御幸の芝 雨師観音堂跡 名所・史跡

上千本の後醍醐天皇の故事にちなむ御幸の芝から中千本に下る道がまさに満開のタイミング。
谷を隔てた対岸の山腹の山桜。

吉水院宗信法印の墓 名所・史跡

まさに一目千本。

吉水院宗信法印の墓 名所・史跡

中千本に竹林院がある。
聖徳太子の創建と伝えられる由緒ある宿坊だ。

竹林院 寺・神社・教会

竹林院の庭園である群芳園は、秀吉の吉野山観桜に際し千利休がそれまであった庭に手を加え桃山風の庭園に作り上げたという。

竹林院 寺・神社・教会

吉野の千本桜は天然自然の桜だが、
群芳園の庭園は人工の手が加えられたもの。
ガーデニングの魅力が存分に感じ取れる庭だ。
細川幽斎も改築しているとの説もあるようだ。

竹林院群芳園 宿・ホテル

桜だけでなく、椿、紅葉、馬酔木など50種を超えるさまざまな草木が植えこまれており、

竹林院群芳園(庭園) 公園・植物園

枝ぶりも、喬木づくりや枝垂れづくりと、人手が入っている。

竹林院群芳園(庭園) 公園・植物園

回遊路が園内の小山を経巡っている。

竹林院群芳園(庭園) 公園・植物園

小山の上のあずまやから見下ろすと、同じ桜でもさまざまな種類があることがわかる。

竹林院 寺・神社・教会

吉野山の自然景観も取り入れた借景式の庭園の魅力も備えている。

竹林院群芳園(庭園) 公園・植物園

大麻寺の中の坊、大和小泉の慈光院とともに大和三庭園のひとつに数えられている。

竹林院 寺・神社・教会

「み吉野の 山の秋風 さ夜ふけて ふるさと寒く 衣うつなり」
小倉百人一首に選ばれている飛鳥井雅経の和歌の碑だ。
『ふるさと』は、かつての離宮を意味している。
とはいえ、後醍醐をはじめとする南朝の離宮ではなく、天智天皇の弟の大海人皇子（後の天武天皇）が妃の鵜野皇女（後の持統天皇）とともに隠棲した吉野宮のことを指しているようだ。

竹林院群芳園(庭園) 公園・植物園

竹林院は宿坊として宿泊客も受け入れている。

竹林院 寺・神社・教会

中千本の街でちょうどお昼時。
ここまでくると人出が盛んだ。
食べたかった吉野葛を味わう。

甘味処弁慶 グルメ・レストラン

吉野葛よりおいしかったのは新筍の天ぷら、えぐみもなくやわらかで、春の恵みだ。

吉水神社 寺・神社・教会

中千本の中心ともいえる吉水院。
そもそもは役行者が創建した修験道の僧房だった。
義経も静御前や弁慶を伴い、ここに滞在している。

吉水神社 寺・神社・教会

明治に至り吉水院は吉水神社に改組される。
その門前から丹治川を隔てて見る対岸の山は、一目千本の名所だ。
丹治川は吉野川と合流し、紀の川となって和歌山湾にそそぐ。

吉水神社 寺・神社・教会

吉水院は後醍醐天皇により南朝の皇居とされ、南朝４代の治世を支えた。
その行在所となった書院は、日本最古の書院として世界遺産に登録されている。

吉水神社書院 美術館・博物館

門前にある桜の板書は『天勾践を空しゅうするなかれ時に范蠡なきにしもあらず』。
隠岐に流される後醍醐天皇が作州院の庄に滞在していた時、備前の児島高徳が庭の桜の幹を削り、墨痕鮮やかに書き記した十字の詞。
中国の呉越の争いになぞらえ、後醍醐天皇を支えようとする自らの心意気を著したものだ。
戦前は日本人の誰もが知る逸話だったが、今は知る人も少なかろう。

吉水神社 寺・神社・教会

吉水神社の祭神は、後醍醐天皇と、後醍醐を受け入れた吉水院の宗信法印に加え、楠正成も祀られている。
ここは、明治の神仏分離の際に吉水神社となったわけだが、正成を祭神に列する点にせよ、児島高徳の故事を称揚する点にせよ、天皇制の強化・護持のための神社としての性格が顕わである。

吉水神社 寺・神社・教会

吉水院は秀吉の吉野の花見においては本陣となっている。

吉水神社 寺・神社・教会

吉水神社の門前にある薬の店『藤井利三郎薬房』。
奈良は富山と並ぶ和漢薬の産地だ。
今から1300年前、役の行者は疫病に苦しむ人々を助けようと、オウバクの木の皮をはいで、煎じ薬にして人々に飲ませたと伝えられ、これが陀羅尼助の起源であると言われている。
陀羅尼助は、日常的にはだらすけと呼ばれることが多く、この店もその『ダラスケ丸』を商っている。

藤井利三郎薬房 専門店

店頭に置かれたヒキガエルは三本足の蛙。
風水ではお金がたまる効果があるとされている。

藤井利三郎薬房 専門店

店頭の説明文によると桜の木に彫られた三百年ものの彫刻のようだ。
この藤井利三郎薬房の登録商標になっているとある。

藤井利三郎薬房 専門店

修験道の根本道場金峯山寺。
東大寺大仏殿に次ぐ木造大建築だ。

金峯山寺蔵王堂(国宝) 寺・神社・教会

国宝蔵王堂内に安置されているご本尊金剛蔵王大権現３体は秘仏として通常は公開されていないが、仁王門修理費用調達のため特別に公開されるということで、大変な混雑。
青き顔を持つ秘仏ということで拝観したいものだが、行列に並ぶ時間がない。

金峯山寺蔵王堂(国宝) 寺・神社・教会

蔵王堂の正面に大塔宮御陣地址の標識。
北条勢に攻め込まれた大塔宮護良親王は一敗地にまみれ、ここでの別れの酒宴を最後に高野山に落ち伸びる。
家臣の村上義光は、護良親王を守るためこの地で自刃して果て、その子義隆は、ここから一キロほどのところで、追いつかれた護良親王を守ろうとこれまた自刃。
親子の犠牲のもとに護良親王は危地を脱することができたという。

金峯山寺蔵王堂(国宝) 寺・神社・教会

ここから500段の階段を下ったところに首から上を守ってくれる脳天大神がある。
最近呆けてきた身としては気になるところだが、ここもパスだ。

脳天大神 龍王院 寺・神社・教会

吉水神社や蔵王堂のある尾根から丹治川を渡った尾根に移り、如意輪寺を目指す。

中千本公園 公園・植物園

吉水神社門前から一目千本と眺めた桜の中にいるわけだ。

中千本公園 公園・植物園

如意輪寺は楠木正行の逸話の残る名刹。

如意輪寺 寺・神社・教会

寺の裏山には後醍醐天皇陵がある。

後醍醐天皇塔尾陵 名所・史跡

『天子南面』といって、中国でも日本でも天皇や国王は北に位置して南を向くのが原則だ。
天皇陵もその例にもれず南向きに造られるのが通常だが、この陵は後醍醐が捲土重来を期した京都を望み、北向きに造られている。

如意輪寺 寺・神社・教会

四条畷で足利尊氏軍の高師直との決戦に臨む楠木正成は、一族郎党を引き連れて後醍醐陵に参拝し別れの挨拶を告げる。

如意輪寺 寺・神社・教会

その際、髻を切って供えたことから、境内には森田節斎撰文の髻塚がある。

如意輪寺 寺・神社・教会

死を決している正行は如意輪堂の扉に矢尻を使って辞世の歌を彫りつける。
「かへらじとかねて思へば梓弓なき数に入る名をぞとどむる」と読める扉は寺宝として保存されている。

如意輪寺 寺・神社・教会

境内の摂社、難切不動尊は石を彫ったお不動さん。
昔、牛車と共に転落した農夫を不動明王が、左手を負傷してまで身代わりになって、救ったことから、交通安全祈願の不動明王して信仰を集めている。
『なんきり⇒なんきん』音の類似からかぼちゃをお供えすると効果があるらしい。

如意輪寺 寺・神社・教会

さて、下千本では吉野神宮だ。
明治22年に明治政府が作った官幣中社・吉野宮がもととなっており、後醍醐天皇を祀っている。

吉野神宮 寺・神社・教会

吉水神社と軌を一にする天皇制賛美のための装置といえよう。

吉野神宮 寺・神社・教会

吉野山の最後は下千本駐車場。

観桜期臨時バス (吉野駅～中千本) 乗り物

最盛期は過ぎ、中千本に主役の座を譲ったとはいえ、まだまだ下千本の桜も、勢いを保っといる。

観桜期臨時バス (吉野駅～中千本) 乗り物

徒然草の一節『花は盛りに、月は隈なきをのみ、見るものかは』。
盛りを過ぎようとする桜にもののあわれを感じ、興趣を掻き立てられるのも、日本人の伝統を受け継いだ美意識なのだろう。

花山山本 グルメ・レストラン