
2021/11/21 - 2021/11/21
1位(同エリア74件中)
旅猫さん
旅の二日目は、少し豊前を離れ、筑前を訪れる。向かったのは、筑豊炭田の積出港として栄えた若松港である。そこには、土木遺産に登録された『若松港築港関連施設群』の他、石炭景気に沸いた往時の面影を今に伝える建築物などが残り、一度歩いてみたいと思っていた場所である。今回は、対岸の戸畑から渡船を使って訪れることにした。
(2021.12.02 投稿)
- 旅行の満足度
- 4.0
- 観光
- 4.0
- 交通
- 4.5
- 同行者
- 一人旅
- 一人あたり費用
- 5万円 - 10万円
- 交通手段
- 船 JRローカル 徒歩
- 旅行の手配内容
- 個別手配
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小倉駅を6時57分に出る快速列車に乗車。日曜日の朝とあって、車内は空いていた。若松の対岸にある戸畑駅までは二駅。7分で到着した。
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渡船乗り場へ向かう前に、一文字岸壁跡へ立ち寄る。そこには、以前、一文字島と言う島があったのだが、埋め立てにより陸続きとなり、大規模な岸壁が造られたそうだ。そこには、石造りの記念塔が建てられていた。
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岸壁跡から渡船乗り場へと歩いて行くと、途中、若戸大橋が間近に望める戸畑漁港の脇を通る。漁船のある風景は個人的に好きである。
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漁港を過ぎると、若戸渡船の乗り場に着く。ちょうど7時40分発があった。100円の乗船券を購入し、待合室で少し待つ。乗船の合図があったので桟橋に入ると、小さな船が停まっていた。
若戸渡船 乗り物
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戸畑渡場を出ると、船は穏やかな洞海湾を横切って行く。若戸大橋の真下には、かつて中ノ島があり、若松城と言う城があったそうだ。若戸渡船は、若戸大橋が開通した際に廃止される予定であったが、地元の方たちの要望で存続したそうだ。
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対岸の若松渡場までは3分ほどだった。まさに渡船である。降り立った渡場の前には小さな公園があった。そこには、かつて福岡藩が設置した州口番所があったそうだ。その番所では、出入りする人や品物を監視していたそうである。
洲口番所跡 名所・史跡
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後援のすぐ隣には、上野ビルと言う古風な建物が建っていた。その建物は、筑豊炭田の経営に乗り出した旧三菱合資会社が、大正2年(1913)に若松支店として建てたものだそうだ。現在は、喫茶や雑貨店などが入っているようだが、時間が早かったので、中を観ることは出来なかった。
旧三菱合資会社若松支店 名所・史跡
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そこから少し北へ歩くと、若戸大橋の袂に、朽木ビルと言うやはり年代物の建物があった。大正9年(1920)に、朽木商事株式会社(現朽木汽船株式会社)の本社ビルとして建てられたもので、水洗便所があるなど、当時最先端の建物だったそうだ。
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さらに歩くと、『出入船舶見張り所跡』と言う変わった外観の建物があった。若松築港を開発した旧若松築港会社は、入港する船から港銭を徴収していたそうだが、この建物は、不正入港を監視するために設けられたものだそうだ。建物がいびつな形をしていて、戸や窓も傾いていたりと、不思議な建物であった。
港銭収入所船舶見張所 名所・史跡
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その近くあった若松建設(旧若松築港会社)の建物内に、『わかちく資料館』があったが、まだ開館前だった。そこは、若松築港に関する資料が展示されていると言うので、残念であった。資料館の前は、東海岸通護岸と呼ばれる石積みの護岸が築かれていて、土木遺産に認定されている。近くには、荷上場の跡らしきものも残っていた。
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海沿いの道をさらに歩いて行くと、寂びた線路と台車のようなものがあった。海から船を引き上げるための引揚船台だ。すでに使われていないようだが、市街地の中に取り残されたように佇み、そこだけが時間が止まったかのようだった。
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線路の先は海に浸かっている。波による浸食で、今にも崩れそうであった。周囲の護岸もかなり傷んでいた。
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その場所から陸側を見ると、石済みの護岸となっている。これも土木遺産のひとつで、東海岸係船護岸である。当初は防波堤として築かれたそうだ。今にも崩落しそうな状態で、修繕が必要だと感じた。
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海沿いから離れ、西側に鎮座する若松恵比須神社に参拝する。その社は、約1,650年前に創建されたという古社であった。境内南側の上空を、若戸大橋から続く道路が通過し、静謐な感じは無い。その拝殿脇には、江戸時代のものらしい方位石が置かれていた。
若松恵比須神社 寺・神社・教会
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神社から、旧若松市役所や公会堂が建っていた区役所前を通り、若松出身の芥川賞作家火野葦平が愛したと言う恵比須市場へと向かう。そこは、現在大正町商店街と一体となっていた。日曜日と言うこともあり、ほとんどの店はやっていない。
大正町商店街 市場・商店街
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商店街を歩いていると、道端で猫が食事をしている。向かいの魚やからおこぼれをもらったようだ。こちらを気にしているようだったが、食欲には勝てず、後は夢中で食べていた。
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商店街を抜けると、また猫がいた。店先に置かれた木箱の上に乗り、必死に爪を研いでいる。朝の狩りの準備か。よく見ると、そこかしこに猫がいる。この商店街は、猫たちにとって住みやすい場所のようだ。
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大通りを渡り、明治町銀天街へと入る。その先で右に折れると、交差点の先に、丸柏百貨店跡と言う石柱があった。石炭景気で湧いた頃に最盛期を迎えた百貨店があった場所だそうだ。そこから、港へ石炭を運ぶ市営の貨物電車が走っていたと言う通りを北へ向かって歩いて行く。歩道には、若松の夏を彩る『くきのうみ花火の祭典』を描いた鮮やかなマンホールがあった。若松には、他にも5種類の色鮮やかなマンホールがあるそうだ。
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その道の右手に、趣のある木造の建物が見えた。立ち寄ってみると、『金鍋』と言う料亭だった。明治28年創業の老舗で、火野葦平が執筆に使った部屋も残されているそうだ。近くには、小説にも登場する『若松クラブ』と言う映画館があったそうだが、跡地はパチンコ店になっていた。
料亭 金鍋 グルメ・レストラン
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道を戻り、海側へと再び出る。しばらく海に沿って歩いて行くと、旧ごんぞう小屋と言う建物があった。『ごんぞう』とは、石炭荷役を請け負った港湾労働者の別称で、この建物ものはごんぞうの詰め所を模して造られた休憩所だそうだ。何やら催し物をやるらしく、賑やかな音楽が流れ、少々煩かった。
旧ごんぞう小屋 名所・史跡
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そのすぐ脇に、荷上場のような石段があった。そこは、弁財天上陸場と呼ばれた場所で、ごんぞうたちを運んだ伝馬船が発着していたそうだ。大正6年(1917)頃に造られたもので、土木遺産のひとつである。
弁財天上陸場跡 名所・史跡
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その先は、土木遺産のひとつである若松南海岸物揚場となる。昭和初期に整備された場所で、石炭関係の事務所や商店などが建ち並んでいた場所で、『若松バンド』と呼ばれていたそうである。今でも残る砂色の洋風の建物は、旧石炭会館で明治38年(1905)に建てられたものだそうだ。一見すると石造りのように見えるが、木造モルタル塗りなのだそうだ。
石炭会館 名所・史跡
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その並びには、若松を代表する近代建築物である旧古河鉱業若松ビルが建っていた。大正8年(1919)に建てられたルネサンス様式の建物で、円塔のある赤煉瓦造りの外観は、界隈でひと際目立っていた。この先は渡船乗り場となるので、ここで折り返し、若松駅の方へ向かうことにする。
旧古河鉱業若松ビル 名所・史跡
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駅へ着くと、まだ時間があったる。そこで、近くにある火野葦平の旧居に立ち寄ってみることにした。訪れてみると、開館時間まで15分ほどある。門が空いていたので入ってみると、係の方が掃除をしていた。声を掛けてみると、見学しても良いとのことなので、上がらせてもらうことにした。
火野葦平旧居 河伯洞 名所・史跡
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その旧居は、『河伯洞』と呼ばれている。火野葦平が愛した河童の住む家と言う意味合いがあるそうだ。門を入った所には招き河童が置かれ、玄関を入った所にも、鴨居の上に河童が飾られていた。
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そして、式台には亀の彫り物も施されている。多くの人が見落とすらしいが、上り框に接しているので、確かに分かりづらい。
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この住居は、火野葦平が晩年の20年ほどを過ごした場所だそうだ。かなり大きな建物で、廊下も広く、庭に向かって続く硝子戸からは、朝陽が気持ち良いほど降り注いでいた。二階には、多くの作品を生んだ書斎があったのだが、資料館に移築されたそうで、今は再現したものとなっていた。
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係の方のご厚意で運良く見学できた『河伯洞』を後にし、若松駅へと戻る。構内に、東筑軒の店があったので、名物駅弁である『かしわめし』を購入。しばらく待つと、列車が入って来た。そして、10時18分発の直方行に乗り、若松を離れた。
若松駅 駅
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この旅行記へのコメント (2)
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- pedaruさん 2021/12/03 06:10:57
- 若松というなの港
- 旅猫さん おはようございます。
並みの観光客とは違う視点で旅をする旅猫さん、今回も風情ある景色をご紹介下さりありがとうございます。
滅びゆくものは美しいのですが、現実には修理をしてもらいたい(笑)と思います。
文学者が書く紀行文のようで、雰囲気のある旅行記でした。見習いたいと思います。
pedaru
- 旅猫さん からの返信 2021/12/03 08:41:55
- RE: 若松というなの港
- pedaruさん、おはようございます。
書き込みありがとうございます。
若松は、かなり開発されていますが、石炭積出港として栄えていた頃の風情が微かに残っていました。
古い商店街がいくつかありましたが、どこも繁栄は過去のもののようです。
寂れた感じは風情があって旅人には良いのですが、そのまま滅びてしまっては困りますね。
修繕は必要ですが、綺麗にしすぎるとまた、ただの観光地になってしまう。
微妙な匙加減が求められます。
旅猫
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