2021/11/21 - 2021/11/21
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shushu tany さん
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”昭和の文豪” 井上靖が小学校時代を過ごし、自伝的小説『しろばんば』に書かれた舞台の、伊豆湯ヶ島を散策しました。この旅行記は、ほぼ井上靖関連に特化したものになります。
『しろばんば』は、井上靖の主に小学校時代を扱った自伝的小説です。軍医で転勤の多かった父と家族から離れて暮らしていました。しかし、際立って特徴的なことは、ひいおじいちゃんの妾(愛人)であった人、つまり、何の血のつながりもないおばあさん(作品では「おぬいおばあさん」と呼ばれていた)に育てられた時期だということです。
おぬいおばあさんと二人、血のつながりはないながらも愛情をたっぷり与えられながら暮らした時期が、瑞々しく描かれた名作ですね。多作であった井上靖の膨大な作品群の中でも、名作として挙げる人も多い作品です。
【以下、行程です。】
●三島駅から、伊豆箱根鉄道で昔の終着駅であった「大仁駅」を見物。その後修善寺に着き、東海バスで30分ほどで、湯ヶ島エリアに到着。
●ここから『しろばんば』の里を散策開始します。
①「湯ヶ島」バス停
②井上靖の母方の実家で、当時の建物が残る「上の家」(ここでなんと、井上靖さんの親戚の方に遭遇し案内していただきました!)
③おぬいおばあさんと暮らした土蔵の跡地
④湯ヶ島小学校跡にある「井上靖資料室」
⑤江戸末期にアメリカの外交官・ハリスも宿泊したという「弘道寺」
⑥小説では、おばのさき子が若い教師とデートしたということになっている「天城神社」
⑦「湯の道」を散策
⑧「河鹿の湯」(共同浴場「西平の湯」の今の名称)
⑨最後に熊野山の上にある、井上靖のお墓
●おまけで、「浄蓮の滝」へ。
後編では『夏草冬濤』ゆかりの地(沼津、三島)を散策しました。
https://4travel.jp/travelogue/11723869
- 旅行の満足度
- 4.5
- 交通
- 3.5
- 同行者
- 一人旅
- 交通手段
- 高速・路線バス 私鉄 徒歩
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前編では、『しろばんば』ゆかりの地を散策していきます。
井上靖については、私自身は大学生の時に『敦煌』『楼蘭』などを読んではまり、その影響から中国のウイグル自治区、ウズベキスタンなどを旅行した経緯があります。旅行好きになるきっかけを与えてくれた人物の一人で思い入れがあります。 -
起点は三島駅になります。伊豆箱根鉄道で修善寺方面へ向かいます。
三島駅 駅
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車窓から珍しい形をした「城山」が見えます。地下にあったマグマが冷え固まった後、浸食によって地表に現れることでできたものだそうでうす。
井上靖(物語の中では「洪作」)もこの車窓からの景色を見たことでしょう。城山 自然・景勝地
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現在の伊豆箱根鉄道の終点は修善寺ですが、その2つ前に大仁という駅があります。途中下車します。
井上靖の少年時代は、ここが終点だったとのこと。小説の中では、伊豆の湯ヶ島から馬車で2時間くらいかけて大仁まで来たという記述がありました。大旅行ですね。大仁は、「鉄道の起点だというだけで興奮した」というような記述もありました。大仁駅 駅
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さて、修善寺に着き、バスに乗り換えていきますが、修善寺駅、リニューアルしてきれいになっています!
東海バスに乗って、湯ヶ島を目指します。修善寺から680円、30分ほどです。ただし、SuicaなどのICカードは使えませんので、現金が必要です。
↓時刻表はこちらが分かりやすいです。
https://www.tokaibus.jp/images/999.pdf修善寺駅 駅
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湯ヶ島のバス停を起点に、『しろばんば』の里の散策を開始します。
地図に、今回訪問した順に番号を付けました。 -
【『しろばんば』の里散策①:湯ヶ島バス亭】
観光案内所になっています。夕鶴記念館 美術館・博物館
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湯ヶ島バス停から、現在の下田街道・国道414を渡ると、早くも「上の家」の案内があり、すぐに分かります。「上の家」は旧下田街道沿いにあるようです。
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【『しろばんば』の里散策②:上の家】
すぐに上の家に到着。井上靖の母方の実家ですね。父親は婿養子として井上家に入った人で、しかも軍医で転勤の多い人だったので、この母方の実家が、『しろばんば』にはよく出てきます。
私が写真撮影していると、「こんにちは」と、おじさんに声をかけられます。そこいらの地元のおじさんかなと思っていたら、「私、井上です」とおっしゃいます。私がポカンとしていると、「井上靖のお母さん(八重さん)の弟の孫です」とのこと。井上靖の叔父さんのお孫さんですね。なんと!!正真正銘、井上靖の親戚の方なのでした!「ひまだから案内してあげるよ」と、次の土蔵まで案内していただけました!
その親戚の方から、興味深いお話を色々聞かせていただくことができました。以下、抜粋です。
●この親戚の方、近くにお住まいとのこと。その家は、未完の大作『わだつみ』のモデルになった、井上靖の叔父さん(アメリカに長いこと住んでいた人)が建てたとのこと!この方の祖父にあたる方が、このモデルになった叔父さんのことなのか、別の叔父さんなのかは確認し忘れてしまいました。
●現在、クラウドファンディングで集めた資金によって「上の家」は改修中。古民家再生で有名な、工学院大学の学生さんが作業している。
●この方自身は、井上靖とは直接会話したことはないが息子さんや娘さん(この方にとって”はとこ”にあたりますね)とは、よく一緒に遊んだ。 -
【『しろばんば』の里散策③:土蔵の跡】
ここが、『しろばんば』のメインの舞台、土蔵のあったところです。今回のハイライトとも言える場所です。 -
今は花壇のようになっている、この場所に、井上靖が血のつながりのないおぬいおばあさんと暮らした土蔵があったそうです!
井上靖の愛読者にとっては、ある意味、聖地のような場所ですね。 -
あすなろの木もあるよ、と親戚の方が教えてくれました。
あすなろの木も、井上靖の愛読者にとっては特別な木です。
「明日はヒノキになろう『あすなろう』と必死に努力しても、決してヒノキにはなれないあすなろの木」
”劣等感”が主なテーマの一つでもある井上靖の文学の象徴とも言える木です。 -
『しろばんば』の書き出しの文章が刻まれた文学碑もありました。
この土蔵跡の敷地は、現在は伊豆市が管理していると、親戚の方が教えてくれました。「こういったものは、とても個人では管理しきれない」とも。 -
これは、道の駅「昭和の森」に移築されて現在公開されているものですが、この「井上靖旧邸」があったのが、この辺りでしょうか。井上靖の小学校時代は、この立派な家は他の人に貸し、井上靖とおばあさんは土蔵に住んでいたのですね。(この写真のみ、3年前に道の駅を訪問した際に撮ったものです。)
昭和の森会館 公園・植物園
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親戚の方が、ふと、「お!しろばんばがいる!」と教えてくれます。
なるほど、小説にある通り、白~青白色の蚊のようなものが飛んでいます。今まで見たこともない生物です。
写真はうまく撮れませんでした!
これが『しろばんば』のタイトルにもなった生物なのですね。感動! -
②「上の家」と③「土蔵」のちょうど真ん中に、作品中、洪作少年(井上靖)の一番の親友として登場する”幸夫”がいた雑貨屋さんの跡があります。現在は、駐車場になっていて、建物などはありません。
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【『しろばんば』の里散策④:井上靖資料室】
続いて、井上靖の資料室があるという、湯ヶ島小学校の跡地を訪問します。ただし、井上靖が少年時代に通った湯ヶ島尋常小学校は、さらにまた別の場所にあったようです。 -
移転後の湯ヶ島小学校も10年ほど前に廃校になって、校舎は市民活動センターになっています。
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その2階に、「井上靖資料室」があります。
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資料室には、井上靖の書斎が再現されたものが展示されています。
その他、絶版になった小説、井上家から寄贈された書籍などを閲覧することができ、見ごたえのある施設でした! -
【『しろばんば』の里散策⑤:弘道寺】
弘道寺 名所・史跡
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この弘道寺、井上靖が少年時代に遊んだとのこと。
加えて、江戸末期にアメリカの使節だった外交官”ハリス”(日米修好通商条約の締結で有名)が、下田から江戸に向かう途中に泊まった所だそうです! -
【『しろばんば』の里散策⑥:天城神社】
弘道寺のすぐ隣に、天城神社があります。天城神社 寺・神社・教会
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小説中で、さき子が、小学校の教員の男性(小説では中川基)とデートしたということになっている場所です。さき子は、井上靖の若い叔母さん、つまり、靖の母親の年の離れた妹さんがモデルです。井上文学での女性像の原型ともいえる重要な存在と言われています。
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以上の場所はすべて旧下田街道にありましたが、再び現在の下田街道である国道414号線に戻ります。その414号線を渡ってここから奥に入ってくと、「湯道」があります。
「湯道」は、『しろばんば』に何度も出てくる西平の”共同浴場”へ向かう道です。 -
【『しろばんば』の里散策⑦:湯道】
その湯道へ入って行きます。
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こうした分かりやすい案内もあります。
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現在は気持ちの良い散歩道になっています。
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井上靖が後に、帰省した時によく宿泊したという、「白壁」という旅館を通ります。
天城湯ヶ島温泉 白壁 宿・ホテル
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立派な旅館です。
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例え井上靖について全く関心がなくても、狩野川沿いにひっそりとある「湯ヶ島温泉街」は風光明媚で美しい場所です。
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「湯道」を歩いて行くと、なんと!川端康成が『伊豆の踊子』を執筆したという伝説の宿「湯本館」に突き当たります!
湯本館 宿・ホテル
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【『しろばんば』の里散策⑧:旧西平の湯(共同浴場)】
その「湯本館」のすぐ横に、井上靖が少年時代、叔母や友達と毎日のように訪れた共同浴場「西平の湯」があります。当時は、男女の別なく、みんな自然に裸で入浴していたようですね。
現在は「河鹿の湯」という名称になっているようです。河鹿の湯 温泉
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続いて、西平の湯から北に向かって「成就院」のほうに歩いて行くと、「三十三観音巡り」の表示があります。
ここから熊野山に登った頂上付近に、井上家のお墓があります。 -
急な斜面を登っていくと、ところどころに観音様がいます。
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軽く登山ですね。標高差にして100m登ります。
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【『しろばんば』の里散策⑨:井上家の墓】
私の目的は観音様ではなく、井上家のお墓でした。湯ヶ島の部落からも見える熊野山の頂上付近にあります。『しろばんば』でもお墓参りのエピソードが出てきます。この旅の最後に井上家のお墓に詣でることができました。
井上靖が晩年、食道癌を患って手術をした後、生涯最後にこのお墓を詣でた際に、階段を数段上がっては休憩し、大変なお墓詣りだったというエピソードが思い出されます。娘さんの黒田佳子さんの著書『父・井上靖の一期一会』に書かれていました。 -
さて、『しろばんば』の里・湯ヶ島を後にし、浄蓮の滝方面へ。
この浄蓮の滝も、『しろばんば』の中で洪作少年(井上靖自身)の家庭教師だった犬飼という先生が、精神を病んで飛び込もうとした、ということで登場しますね。
その浄蓮の滝駐車場のすぐ前に、この地域の郷土料理である、猪肉料理、鹿肉料理を出すお店があります。
ここで昼食とします。滅多に食べられないので新鮮です。伊豆の佐太郎 グルメ・レストラン
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浄蓮の滝入り口、川端康成の『伊豆の踊子』の碑がありました。
浄蓮の滝 自然・景勝地
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浄蓮の滝へは、駐車場からかなり下ります。
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周囲は、伊豆名物のワサビ田が広がっていました。
以上、充実した訪問になりました。
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旅行記グループ 井上靖文学散歩『しろばんば』『夏草冬濤』の他、大黒屋光太夫、姨捨関連も
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