2014/08/10 - 2015/05/20
253位(同エリア2951件中)
のまどさん
アール・ヌーヴォーの館めぐり1に多数アクセスいただき、大変ありがとうございます。投稿から1年経ちましたが、毎月トップ3に入るアクセス数に感激しております。
今回は感謝を込めて第2弾です。内部に入れる館をご紹介しようとしましたが、目当てにしていた所が長らく改装中だったりなどで予定が狂ってしまいました。若干二番煎じになってしまいますが、前回未公開の館の外観も併せて紹介します。旅行時期については正確ではないのでご容赦下さい。
館の番号は前回の旅行記から通しになっているので、ご興味があれば併せてご一読下さい。
http://4travel.jp/travelogue/10876339
<参考資料>
Louis Meers 'Art Nouveau Wandelingen in Brussel' (以下、ミールス)
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④『コーシー邸』
1905年 コーシー作
('Maison Cauchie' P.Cauchie)
まずは館めぐり1で既出の邸宅。毎月初めの週末午後と夏期は火曜日の夕方に5ユーロで一般公開しているので行ってみました。
外観を見ると上の壁画までも線対称で、丸窓以外はほとんど直線になっています。アール・ヌーヴォーは曲線の美と言えると思いますが、コーシー邸の外観はどちらかと言うと直線が主役のアール・デコの先駆とも言えます。
<参考資料>
Jos Vandenbreeden, Françoise Aubry 'Het Cauchiehuis: tussen droom en daad'時間が合えば是非 by のまどさんメゾン コーシー 建造物
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コーシーは画家として活躍した時期の方が長いですが、大学では建築学を専攻し、この邸宅以外にも2軒ほど設計しています。この邸宅が同じ美大出身の芸術家であった妻との住まいであることを2階部分のフレスコが語っています。掲げられているプラカードは「我々による、我々のために」ですって。お熱いねー。
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丸窓のテラス部分はMAという表記になっていて、これは日本語の「間」から構想を得ています。当時ジャポニズムの影響で東洋思想もずいぶんとヨーロッパに流れ込み、西洋の二元論的にない「間」という概念にコーシーは強く惹かれたようです。
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玄関脇は自身の事業を宣伝しています。概要は
左:コーシー夫妻の芸術講座 絵画、デッサン等
右:リフォーム請け負います 装飾品、家具等 -
さて、中に入ってみましょう。
地下はギャラリーになっていて、この邸宅の説明とコーシーの絵画が展示されています。コーシーの死後、邸宅の所有権は彼の娘に渡ったが、改修工事ができなかったため放置され荒れていました。
1980年にアール・ヌーヴォー愛好家夫婦が購入し、本格的にリフォームしました。この日案内してくれたのはオーナーの孫。
残念ながら館内は撮影禁止なので、サイトと本の写真を掲載します。時間が合えば是非 by のまどさんメゾン コーシー 建造物
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地上階部分はサロン・ダイニングになっています。
このサロンは優雅な空間です。芸術作品と向き合うにはそれなりのエネルギーが必要ですが、カタルシスというか精神が浄化される気がしました。
出所↓
http://www.cauchie.be/maison-cauchie/restauration/galerie-photos -
入り口の扉からコーシーお手製の家具まですべて線対称になっています。
サロンはイベント用に団体で貸し切ることができるようです。 -
五感を描いた女性の絵は外壁のフレスコ画と同じで、板の上に砂を敷いて引っ掻くように線を描いていくスグラフィティ技法を用いています。
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2階から上は現在もオーナー一家の居住空間になっているので見学不可能ですが、本にはこんな写真が載っていました。
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さて、コーシー邸からさほど遠くない所にある2軒を新しく紹介します。
(26)ストローヴァン私邸
1902年 ストローヴァン作
('Maison Strauven' Strauven)
・知名度 ★
・インパクト ★
・アクセス ★
・現在の仕様:個人邸宅
・入場可否:×
・内装: http://www.irismonument.be/fr.Bruxelles_Extension_Est.Rue_Luther.28.html
(5)サン・シル邸よりも更に狭く幅3.75メートル。しかも2階と3階で住所が異なる不思議な作品。建築家自身が短期間ここに住んでいたそうです。レンガの色の使い方がストローヴァン作品のファンタジー性を引き立てていますが、2階部分の出窓はオリジナルではありません。 -
(27) ヴァンデン・ヘーデ邸
1904年 ストローヴァン作
('Maison Van den Heede' Strauven)
・知名度 ★
・インパクト ★★
・アクセス ★
・現在の仕様:個人邸宅
・入場可否:×
2階部分右側の大きな張り出し窓とその上の丸い切り妻屋根が特徴的な邸宅。レンガの色も白と赤を基調に装飾のように配置されています。左側は階段で、アール・ヌーヴォーの特徴が露な窓は採光が工夫されています。
続いてイクセル地区に移動します。 -
(28)
ドリューヌ兄弟作
(Delune)
・知名度 ★
・インパクト ★
・アクセス ★★
・現在の仕様:個人邸宅
・入場可否:×
(16)と同じラ・ヴァレ通り(Rue de la Vallée)にある作品。この通りは池に向かって右側のほとんどがアール・ヌーヴォー建築です。その中の一軒が公証人立会いの下競売に掛けられていたので、一般公開の日に行ってみました。 -
外観の色違いのレンガや存在感のある出窓はなるほどと思いますが、中は結構古くて住むには全面改装しないと無理です。公証人の目を盗んでスマホで撮影しました。
落札価格は存じませんが、1億円前後かと思います。 -
(29)
1903年 ドリューヌ兄弟作
(Delune)
・知名度 ★
・インパクト ★★
・アクセス ★★
・現在の仕様:個人邸宅
・入場可否:×
(28)の内装ががっかりだったので、お口直しに。ステンドグラスと鉄の花の装飾。これぞまさにベルギーのアール・ヌーヴォー。ミールス曰く玄関ドアの上のガラス窓はモーロ風らしいです。 -
(30)マックス・アレ邸
1903年 オルタ作
('Hôtel Max Hallet' V.Horta)
・知名度 ★★★
・インパクト ★★★
・アクセス ★
・現在の仕様:イベント会場
・入場可否:△(http://www.events-at-horta.be/index_content.html にて団体予約すれば可)
・内装:http://photos.bruxelles5.info/maxhallet
弁護士アレ依頼の作品。ファサードを見ただけでもその荘厳さから一目でオルタ作品だと分かります。内装も非常に凝っていて、中庭に向いたガラス張りの温室はブリュッセルのアール・ヌーヴォーの象徴として取り上げられます。(サイト参照) -
(31)ヴィンク邸
1906年 オルタ作
('Maison Vinck' V.Horta)
・知名度 ★★
・インパクト ★★
・アクセス ★★
・現在の仕様:個人邸宅
・入場可否:×
・内装:http://visitbrussels.be/bitc/BE_en/minisite_bfo/bfospot/187/vinck-house.do
依頼人ヴィンクは弁護士で代議士でもあったようです。前面に砂岩が使われているのが特徴的です。アール・ヌーヴォー後期の作品で、あまり曲線が強調されていないように感じます。 -
(32)サンデル・ピーロン邸
1896年 オルタ作
('Maison de Sander Pierron' V.Horta)
・知名度 ★★
・インパクト ★★
・アクセス ★★
・現在の仕様:個人邸宅
・入場可否:×
依頼人ピーロンはオルタの友人で作家、芸術評論家でした。やはりピーロンも邸宅に巨額を投じることはできませんでしたが、オルタは質素でも貫禄のあるファサードと伝統的な内装を設計しました。赤レンガをベースにアクセントになっている白レンガ、3階部分の大きな張り出し窓が特徴的です。 -
オルタ作品に混ぜてアンカル作品を1点だけご紹介。
(33)ヤンセンス邸兼アトリエ
1898年 アンカル作
('Maison et Atelier de Janssens' Hankar)
・知名度 ★★
・インパクト ★★
・アクセス ★★★
・現在の仕様:個人邸宅
・入場可否:×
絢爛豪華な(21)キアンベルラーニ邸の隣にあるので地味に見えますが、アンカルのタッチが色濃い作品です。赤レンガを基調に砂岩を使っていて、最上階は別の建築家の手によって建て増しされたようです。出窓や窓には鉄を使い見栄えを整えています。 -
次も既出です。アール・ヌーヴォーの邸宅見学では一番有名なオルタ邸。
⑱『オルタ邸』
1901年 オルタ作
('Maison Horta' V.Horta)
アール・ヌーヴォーは産業革命以来の工業化で市民の生活が無機質になったことに反省を促す自然回帰運動です。オルタ邸ではそれが顕著に見られます。
<参考資料>
Françoise Aubry 'Het Hortamuseum Sint Gillis, Brussel'ブリュッセルのアール・ヌーヴォー探訪で外せない by のまどさんオルタ美術館 (オルタ邸) 博物館・美術館・ギャラリー
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バルコニーの飾りはツタが家に絡むのを表現しています。
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ファサードの砂岩は道路と同じ色のものを使い(当時は)、建物が地面から生えたように見えるようにしました。
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屋根の部分の飾りはトンボです。
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中は撮影禁止なのでネットから写真を拝借します。
出所↓
http://www.irismonument.be/fr.Saint-Gilles.Rue_Americaine.23.html
http://www.hortamuseum.be/fr/la-maison/galerie
ダイニングホールは左右対称、花形の照明から暖房器具に至るまで隅々まで装飾になっています。テーブル下の木の床はハンガリー製で、カーペットのように見えます。カーペットよりも手入れがしやすいため設置されました。 -
階段を見上げるとまさに蠱惑の世界。天窓からの採光が館中を明るくするよう設計されています。
ちょっと興ざめになるかもしれませんが、いつも気になるのは寝室ベッドの真横に設置された便器。高い美学で作られた館なのに、なぜこの便器があからさまに目につく所に置いてあるのか不思議です。 -
最上階の天窓はアメリカ製のガラスです。中央には日没後に使う照明がアラベスクの支柱から下がっていて、両側に取り付けられた合わせ鏡がその全てを無限に映し出しています。
鏡は照明の補強という機能がありますが、アール・ヌーヴォーでは幻想を演出するキーアイテムだと思います。 -
最後は食事で締めたいと思います。
①『レストラン・ファルスタッフ』
1904年 ウービオン作
('Taverne Falstaff' Houbion)
前面は幾何学が強調され、線対称になっています。基本様式はアール・ヌーヴォーですが、お店の看板の字体など所々アール・デコが混ざっています。アール・ヌーヴォーの雰囲気を気軽に味わえる by のまどさんファルスタッフ カフェ
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建築家ウービオンについても建築自体についてもあまり多くの情報がありませんので、仏語ウィキペディアより所々引用。
私が座った席から見たバーカウンター。 -
茶色のレフを頼みました。何気ないビールでも背景に映えます。
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エビのコロッケとサラダを頼みました。中心街でかつこういう所は場所代込みなのでお値段高めですが、おいしかったです。付け足しのサラダはこのボリュームでなかなかお得です。
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奥のステンドグラスの中心人物、赤い服を着ているのが店の名前になっているジョン・フォルスタッフ。シェイクスピアの作品に登場する肥満の老騎士だそうです。架空の人物の肖像を描くのはアール・ヌーヴォーの夢想趣味らしいですね。
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天井部分を撮影。シャンデリアは花形。
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お手洗いに通じるドアなのですが、奥に鏡があって幻想的な空間がありました。ということで表紙に決定。
ブリュッセルのアール・ヌーヴォーは他にも数軒入場可能なので、機会があればまた続編を書きます。ナンシーのアール・ヌーヴォーやアール・デコなども夏頃アップできればと思っています。
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この旅行記へのコメント (2)
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- kayoさん 2015/05/23 23:31:43
- アールヌーボー
- のまどさん、こんばんは☆
ブリュッセルのアールヌーボー建築、見ごたえありますね。
私も少ない時間を利用して少しだけ見に行きましたが、
内部を見学できる所もあるんですね。
直線ばかりの建物に囲まれて生活しているので、
やわらかい曲線のデザインに惹かれます。
日本のお寺の屋根の曲線なんかも大好きです。
レストラン、ファルスタッフ。
前を通っただけでしたが外観が直ぐに目に止まりました。
内装もこんなに素敵だとは。入れば良かった!
kayo
- のまどさん からの返信 2015/05/25 19:24:06
- RE: アールヌーボー
- kayoさん、こんにちは。
コメント、ありがとうございます。
> ブリュッセルのアールヌーボー建築、見ごたえありますね。
> 私も少ない時間を利用して少しだけ見に行きましたが、
> 内部を見学できる所もあるんですね。
私はkayoさんの旅行記を読んで、件のストで24時間以内のブリュッセル滞在になりながらもグランプラスに3回足を運び、キアンベルラーニ邸やヤンセンス邸等ツボを押さえる臨機応変さに脱帽しました。
> 直線ばかりの建物に囲まれて生活しているので、
> やわらかい曲線のデザインに惹かれます。
> 日本のお寺の屋根の曲線なんかも大好きです。
昔ある人が「曲線はロマンティシズムへの誘い」と言っていて、未だに納得しています。有機物は曲線でできているので、そういう建物を目にすると心が安らぐのでしょうね。
>
> レストラン、ファルスタッフ。
> 前を通っただけでしたが外観が直ぐに目に止まりました。
> 内装もこんなに素敵だとは。入れば良かった!
ファルスタッフは立地がいいので、アール・ヌーヴォーを味わうにはもってこいかもしれません。ブリュッセルへは是非またお越し下さい。その時にお役に立てる情報を少しでもお届けできればと思います。
ロシア、もうすぐですね。私も興味がある国なので楽しみです♪
お気を付けて行ってらっしゃい。
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