1975/08/02 - 1975/08/16
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おくさん
自転車旅関西編5
8月10日、出発から9日目。
奈良公園内のトイレの水道で洗面と歯磨きを済ませる。たとえどこで迎える朝でも、これさえすれば何となく「朝が来たー」という気になると言うものだ。朝の散歩なのか、近くの宿に泊まったらしい観光客のおじさんが話しかけてくる。どうやら関東から来た人のようだ。当たり前だが観光に来て宿に泊まれてる普通の人がちょっとだけ羨ましく感じる。
- 旅行の満足度
- 4.5
- 同行者
- 一人旅
- 一人あたり費用
- 5万円 - 10万円
- 旅行の手配内容
- 個別手配
-
写真は前回最後のブログと同じもので、一晩お世話になったベンチです。朝だから明るくて危険も何も感じませんが、真っ暗闇の中でここに寝るのはやっぱり気持ちの良いものではなかった。どうせなら屋根があるとか囲いがあるような、もう少しマシな所で野宿したい。
公園内に木製の机とイスがあったので絵はがきを何枚か書き、朝飯を探しに賑やかな方へ行ってみる。まだ8時前だけど開いてる食堂は幾つかあり、沢山の観光客で賑わっているので意外だった。今ごろ朝飯を食べる観光客ってどういうんだろう?。まさかこれだけの人達が私と同じように野宿をした筈はないだろうにな。早朝の電車で奈良に着いたんだろか?ちょっと謎だね。「ピノキオ」というスナックで、コーヒーとオムライスの朝食にする。今までの食事とは毛色の違う食べ物にちょっと自分がハイカラ(古っ)になった気がした。 -
9時、興福寺博物館が開くのを待って中に入る。数々の仏像に混じって、阿修羅像はあった。しばし立ち尽くしてしまうほどの美しさだ。これ程美しい顔をした彫刻は後にも先にも見たことがないと断言できるほどの美しさに圧倒される。頭部にいっぱい小さい頭が付いてて「チョットヘン」なのだが、美しいことには変わりはない。いい物が見られたー。他にも怖い顔をした像などが多数あり、見応えのある博物館だった。
次は昨日は閉館してしまって入れなかった大仏殿へ行ってみる。でかいでかい。ただ闇雲にでかいだけ。「うわーでっけーなー」とそればっかり。阿修羅で感激したあとなので、京都の懐石料理の後に、象の丸焼きを出されたよう。懐石料理って食べたこと無いけど雰囲気が。勿論、象の丸焼きもナシ。
東海道中膝栗毛にも出てきた、柱のくぐり抜けの四角い穴があった。凄いね、十返舎一九が話の種に使った実物がこうして現存していることにまず驚いた。しかも誰でも膝栗毛の中でやったように試すことが出来るとは。これをくぐれると何トカという曰く付きの穴だ。小学生の子供はやってるが、大人にはチョット難しいほどの小さい穴なので、やめておく。ほかの大人もやりたがらないようだ、子供がやるのを周りで見てるだけ。穴は想像してたのより遙かに小さくて、大人なら頭が突っ込める程度の大きさでしかなかった。穴がくぐれなくて途中で無様に引っかかっている弥次さん(喜多さんだったかな?)の光景と自分を重ね合わせてやらないんだろう。みんな利口だね。 -
今回の旅では群馬からは奈良が一番遠い場所で、折り返し点となる。そんなんであっさりとは離れ難く、二月堂やら三月堂、春日大社など、広大な奈良公園内をぐれぐれ歩き回る。
奈良は十分に堪能した気になったので、いよいよこれからは帰路になる。地図で帰るための道順を確認していると「これから群馬まで帰るんだー」という思いがヒシヒシと胸に迫る。今回は群馬県内から数時間走って帰るのと訳が違う。奈良から自転車をこいで帰ると言う、武者震いするような私の思いを想像しながらこれ読んでもらうといいと思うんですけど。たは
11時20分、前橋に向けて奈良公園を出発。国道24号を京都方面へ戻り、163号に乗り換えると道はだんだん山の中に入っていく。ずっと観光地や大きな国道を走ってきたので、久しぶりの寂しい田舎道だ。弥次喜多道中の時代なら山賊が出てきそうな寂しい道に若干びびる。悪いことに空模様がおかしくなってきて風も出てきた。雨にならなけりゃいいが。 -
今日は最初の予定では伊賀上野にでも泊まるつもりだったのだが、京都衣笠教会で一緒に泊めて貰った宮田さんの言った「桑名教会は泊まれる」を思いだし、ぐぐっと心強くなったので桑名まで走り通すことに決める。まだ時間は3時なので、ここから桑名まで約80キロ。何とか夜には着くだろう。
伊賀上野市は国道から少し外れた所にあるが、平地に寄せ集まったような町並みが、離れたこの国道からでも良く見える。小さな城もあるようで、天守閣も見える。上野に泊まるんなら、伊賀の里の忍者屋敷なるものを見物の予定だったが、成り行き上当然パス。
この辺りで後ろから「すいませーん」と近づいてくるサイクリストがいた。兵庫の高校生で、仙台まで走り、そこからフェリーで北海道へ渡るそうだ。18日間の日程とのこと。
だが、泊まりのサイクリングはこれが初めてで、今日出発したそうだ。心細いらしく、走りながら色々旅のノウハウを質問してくる。何だか心配になっちゃうような新米サイクリストだが、高校生がたった一人で18日間の自転車旅行を計画するなんて大したもんだ。キット無事にやり遂げれば一生の宝になることだろう。心から応援したくなる。今日は名古屋へ泊まるそうだ。ほぼ同じ道なので暫く一緒に走りお喋りに花を咲かせられる。。
出発したばかりで力が有り余っているのか、高校生は先に進むと言い残してスピードを上げて走り去ってしまった。その後ろ姿に「ファイトーッ」と大きな声援を送る。高校生と別れてまた一人旅が始まる。
交通量の多い道に入ったら久々のパンクになる。あづき粒ほどのガラスが刺さっているので自動車事故の置き土産かな。場所さえ分かればパンク修理も難しいものではなくなった。もう私は新米サイクリストじゃないでぇ。
風は相変わらず向かい風が続いている。ほとんど一日中風に向かって走っている。相当のロスだ。自転車は雨よりも坂よりも風が苦手。雨は仕方ないし、坂だって上れば下りがある。でも向かい風は極端にペダルが重くなり本当に癪にさわる。漕いでも漕いでもスピードが出ない「くそっこの馬鹿やろめーっ」と怒鳴りたくなる。
国道といえども山の中の2級国道は通る車も少なくうすら寂しい。また弥次喜多の頃なら差し詰め山賊の出るような山道に入ってきた。道の両脇には背の高いススキもごっそりあるし、賊が隠れるのに調度いいぞ。
通りすがりの畑帰りらしいおじさんが「どこへ行くんだね?うちに泊まらねーかい」と言ってくれるが「まだ時間が早いからもったいない」と断る。でも後で、泊めようとしたのにも二通りの考え方があるかな?と気が付く。
その1、自転車旅行を頑張っている好青年(?)を好意で
我が家でもてなしてやろうと思った。
その2、自分ちが民宿をやっていて、薄汚れたあんちゃん
だけど客を一人連れて帰ろうと思った。
さてどっちだったんでしょう?。
陽もとっぷりと暮れた頃、桑名の町に辿り着く。教会は暗闇に白くまぶしい光を放っているでっかい十字架があったので、見つけるのにさほど苦労はしなかった。泊めて貰えなかった奈良教会の例もあるが、今回はここの信者さんの名前を知ってるんだから大分違うだろう。それだけを頼りに司祭館を訪ねる。
神父さんと顔を合わせて「これこれこーいう訳なんですけど」とお願いすると、神父さんは目を丸くしてポカンとしている。いつもの教会とは反応が違うようだ。そしたら何てことはない、この神父さんは私が衣笠教会を出発した日に衣笠を訪れていて、すでに宮田さんから私のことを聞いていたそうだ。話に聞いていた自転車青年が、数日後、実際に目の前に現れたので「ポカン」となったらしい。図らずも身元保証の説明が省けたので助かってしまった。
平屋の信徒会館に案内される。板張りで広く、私には打ってつけの宿だ。近くの銭湯へ行く途中、お礼の箱入りお菓子を買う。泊めてもらうからには毎回少しばかりのお礼はしてるのだ。
銭湯で安いカミソリを買ってヒゲを剃り洗濯もする。銭湯で洗濯してるのも余り格好いいもんじゃないが、できるときにやっとかないと、その内着る物がない騒ぎをしなくてはならないのだ。しかし周りに他のお客さんもいることだし大量におっぴろげてやるわけにいかない。とりあえずのだけコソコソと隠すように洗濯する。ゴシゴシゴシ。
肩に手を回したら「ゴワゴワゴワーッ」と異様な感触!ゲゲッー何なんだぁこりゃ。これが噂の背後霊ってものっー?首をひねって見たら、日焼けで皮膚がバリバリのケロイド状になっている。皮膚と言うよりプラスチックが溶けたような手触りだ。生まれて初めてのもの凄い日焼けで自分でも気持ち悪い。あの琵琶湖沿いの道を走ったときのものだ。普段は半袖シャツなのに、あの日ばかりは肩の出るタンクトップで走ってしまい、また運悪くその日が記録的な暑さの日だったのだ。ケロイド状のヤケド状態だが、運良く痛みは感じずにこれまでこれたので良かった。
湯上がりに白牛乳。銭湯ではやっぱりこれが定番でしょう。渇いた喉にゴキュゴキュゴキュと気持ちいい音がする(気がした)。さっぱりしたところで夕飯はビールとホルモン焼き、野菜炒めにライスの大盛りと豪華に850円(幾度も言うように1975年の値段です)。
昨日のパチンコでもうけた1600円が頭にあるので、今日は一日中気がでっかくなっている。昼間もジュースやアイスをいつもより多めに食べたし何か満ち足りた一日だった気がする。あぶく銭とはかくも心に余裕を生むものなのか。この店で今日の日記も付けておく。
今日は早朝から広大な奈良公園内を歩き回り、11時過ぎてから向かい風の中を130キロ走って辿り着いたので凄く疲れた。もうヘトヘト。でも、こうして泊まるところがスンナリ決まり、風呂にも入れてビールも飲める。最高の一日ですな。サイクリングの醍醐味ここにありってか。明日のおおざっぱな予定を立ててから寝る。今日は3枚しか写真を撮らなかった。観光してないと極端に撮る機会がない。
8月11日、出発から10日目。
6時過ぎに起床。寝袋だけど家の中で床に直に寝られたので安心して良く寝られた。洗面歯磨き、出発の準備をしてから7時のミサにあずかる。
桑名教会の聖堂は一風変わっていて、まん丸の建物の中央に祭壇があった。信者達はその祭壇を囲む形でミサにあずかる訳だ。中々先進的な造りと感心するが、なれない私に取ってはこりゃ落ちつかないデザインだな。
私と神父さんの二人だけのミサなので、決まり文句の「主は皆さんとともに」でなく「主はあなたとともに」がとても印象的。二人だけなので、ついでに待者の真似事もする。 -
ミサ後、神父さんが朝食を誘ってくれる。コーンフレーク、牛乳、コーヒー、トマトジュース、トーストにマーガリンと、司祭館の冷蔵庫にあった食べ物を全部だしてくれたような朝飯だ。ありがたく頂く。「あなたの洗礼はいつでしたか?」と聞かれたので幼児洗礼と答える。ミサの時に待者の真似事をしたのでそれでかな。記念に神父さんの写真を撮らせてもらい、桑名教会を後にする。
この辺りはもう名古屋の大商工業地帯なので、交通量が多く危険だ。こういう道はサイクリングにとって最悪の部類。こんな所で車にひかれたんじゃ目も当てられないので周りを注意しながら慎重にペダルをこぐ。1時間半ほどで更に賑やかになった名古屋市内に入る。市内では車道は狭く更に危険なので歩道を走ることもしばしば。歩道はスピードが出せないけど、ここでは早さより安全だ。 -
通りに熱田神宮があったので寄ってみる。境内にはどういう訳か鳩や鶏がたくさん放し飼いになっている。神社に鳩がいるってのは分かるが、鶏ってのはどーいうんだろう?。何か宗教的な意味でもあるんだろうか?と、不思議に思う。そして何故か境内に「きしめん」の出店まである。そういえばきしめんてのは名古屋名物なんだ。さっき朝飯食べさせて貰ってからまだ二時間しかたってないけど、パン主体の軽い朝飯だったことだし食べてみることにする。玉子とじきし麺300円てのを食べてみる。めんが群馬のほうとうみたいにぶっとく、汁は薄味だけどとても旨い。名物を食べるってのもいいもんだと思った(今頃)。その上値段も手頃だからなお結構。ココココ、コケッコー、鶏がいた謎が解明された。んなこたないか。
ここから名古屋城は数キロしか離れてないが、行きに遠くから見たことだし面倒なのでやめておく。一人旅のいいところで、面倒なことはすぐ止めてしまえる。逆に、すぐ近くまで行ったのに寄らなかったことを帰ってきてから悔やむ。
名古屋は大都市のくせして道路状態が極めて悪い。後から考えてみると、多治見辺りの道はすごく良かったのを今頃思い出す。県によって色々あるんだなぁ。
その後どうってない道を走り続ける。小休止に二匹目のドジョウを狙ってパチンコをするが、今度は500円損をする。人生甘くないのだ。
1時過ぎ、肉丼のお昼にする。今回はそんなに外れた時間じゃない。要するに手頃な食堂が手頃な時間に走ってる道筋に出現すればいいだけのことなのだ。もう肉丼にしば漬けは付いてこなかった。
次の小休止の時に、昨日洗濯した生乾きの洗濯物を広げて干しておく。30分間だけだけど、夏の日差しだから結構乾く。家に居るときは洗濯なんかしたことなかったけど、生活の知恵も幾らか身に付いてきた気がする。
夕方になると宿を探しながら走るようになるが、走ってる国道端でなくちゃ嫌なので、どんどん走り続けてしまう。夕暮れの浜名湖には釣り糸を垂れている人達が沢山いた。時間さえ早ければここも一応観光地なので、見物してみたい所なんだが、暗闇迫る宿なしの身ではそんな気分にもなれないので釣り人達を横目で見ながら走り抜けていく。
この辺りで幾ら走ってもまったく疲れを感じなくなってきた。この時は知らなかったが、ずっと後になってランナーズ・ハイと言う状態になっていたようだ。少しペダルが重くなるライトを点けた状態でもペダルが重く感じることもなく、ぐんぐんとスピードを出して走り続けていられる。これは不思議な感覚だった。
真っ暗になってから浜松市に入ってくる。もう8時を過ぎてるので、この辺りが限界だろう。この後は道ばたで野宿しかない。疲れもたまってきてるので、ゆっくり休みたいからここで宿を探すことにする。ちゃんとした宿は京都以来4日ぶりなので、宿に泊まると決めると肩の荷が下りた気がする。
それでもダメ元で一応、浜松教会も探してみたが見つからないので、裏通りにあった大浜旅館というのに決める。素泊まりで2000円。今まで泊まった旅館の中で一番いい部屋で、クーラー迄着いている。2000円では安い。洗濯をいっぱいして乾き易いようにと一晩中クーラーの風を当てておく。洗濯物は洗っただけじゃ未完成で、乾ききってこそまた着られると言うのが良ーく理解できてきた。今頃そんなことが分かったのかと言うレベルだが。
今日はずっと国道一号を走って車の多さに懲りたので、明日は国道一号を離れ、交通量の少ない150号を走り御前崎を回る計画を立てて寝る。
今日の写真は桑名教会の神父さんを撮った1枚だけだった。最小撮影枚数更新日。旅行に出れば毎日30枚50枚は撮り続ける現代とは隔世の感がある。
自転車旅関西編6へ続く
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