
2019/01/05 - 2019/01/15
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タヌキを連れた布袋(ほてい)さん
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「昼近くまで姿を見せなかったザォパンは,やがて四人の老人を従えて,わたしの前へ姿を現わした。かれは四人の老人たちを,カチン国を構成する五種族の四族長であると紹介したのち,意外なことを言い出した。
『きょうは,わたしは日本軍の道案内人としてではなく,カチン国を代表する族長(チーフテン)として,あなたとお話ししたい……』
『…………』
『この国では,重大な事項を決定するさいには,カチン族を代表する五人の族長が集まって,族長会議を開かねばならない,というおきてがあります。おきてに従って,実はきょう,わたしをふくめ,ここに五人の族長が集まって族長会議を開いたのですが,会議で決定したことをあなたにお知らせします……』
『…………』
『結論からいうと,カチン族族長会議は,あなたをコーカムにしようとするわたしの提案に,最終的な同意を与えました……』
ザォパンがことばを切って他の四人の族長たちを見回すと,老人たちは深く無言でうなずき合った。わたしは自分の耳を疑った。コーカムとは,カチン国の王のことである。つまりかれらは,このわたしをカチン族の王にしようというのだ。日本人であるわたし,しかもとるにたらぬ一等兵のわたしを,かれら種族の首領にするというのである。」
「『残念ながらそれは,われわれ日本兵にとって不可能というものだ。日本軍の軍律は,君たちが想像している以上にきびしい。(中略)』」
「掃討隊の撤退したいま,わたしの残留はただ時間の問題であるとしか考えられない。『帰隊せよ』という命令が来れば帰らぬわけにはいくまいし,いつかは必ず帰隊命令があることは,火を見るより明らかである。」
「『イエス』と言うのはたやすいが,帰隊命令があれば,これまで献身的に尽くしてくれたカチン族の厚意や信頼を踏みにじることになり,また自分自身の良心にも恥じることになる。だが,ここで『ノー』と言ってかれらと絶縁してしまっては,日本軍を二百数十キロ離れたジャングルの中で孤立し,任務の遂行はおろか,生命の安全さえ保障されない。……どうすればいいのだろうか……」
「そこで,軍の命令があった場合,その命令に従うべき進退の自由を持つことを条件に,ついにわたしは,王位継承を承諾した。わたしはただちに詳細な報告書にわたしの希望をそえ,ミチナの日本軍に対して伝令を出した。」
「いよいよ即位式の日がやってきた。その日は,まだ暗いうちから目がさめて,心臓がコトコト音を立てて騒いだ。
わたしはモエギ色の重い絹の腰布(ロンジー)に純白の上衣(エンジー)を着せられ,頭には王家を象徴する紺の布を巻かれた。」
「五人の族長がわたしに向かってならび,合わした手を前に投げ出してひれ伏した。式壇の下のカチンたちもいっせいに土下座を始め,ザォパン一人だけが頭をあげて,カチン語で何やらとなえ始めた。」
「宣誓が終ると,式壇の下から,煙の出ている木片を持った数人の巫術師がいっせいに上がってきて,呪文をとなえながら,わたしのまわりをぐるぐる回って,煙をかけ始めた。悪魔を退散させているのだろう。わたしはセキが出るのを懸命にこらえた。
やっと煙の苦行が終り,王位継承のあかしである朱房のついた銀ザヤの剣が渡された。」
「即位式が無事終了したことを告げられたカチン族たちは,みんな立ち上がって,いっせいにヤー,ホー,ホー,と叫び声をあげた。
これでとうとう,日本陸軍歩兵一等兵が,首狩り族のカチン国王になったのである。」
妹尾隆彦著「カチン族の首かご」(筑摩書房,世界ノンフィクション全集4収録,1960)より
マンダレー=ミッチーナー夜行急行の旅
https://4travel.jp/travelogue/11547903
ミッチーナー逍遥~その2:ミイトキーナの戦い「招魂之碑」
https://4travel.jp/travelogue/11548616
ミッチーナー逍遥~その3:ミッチーナーのマナウ祭
https://4travel.jp/travelogue/11548637
ミッチーナー逍遥~その4:カチン料理探訪
https://4travel.jp/travelogue/11548659
- 旅行の満足度
- 3.5
- 観光
- 3.0
- ホテル
- 2.0
- グルメ
- 3.5
- ショッピング
- 3.5
- 交通
- 3.5
- 同行者
- その他
- 一人あたり費用
- 25万円 - 30万円
- 交通手段
- 鉄道 高速・路線バス 徒歩
- 航空会社
- タイ・スマイル
- 旅行の手配内容
- 個別手配
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-
ミッチーナーの街の中心は市場である。
鉄道駅から大通りを北へ数分進み,西に大きな踏切が見える通りを東へ折れて数分歩くと,ふたつの大きな公設市場が南北に並んでいるのが見える。
ミッチーナー中心部に現代的なスーパーマーケットはないので,買物はこの周辺で済ませることになる。
このエリアの中で,早朝市(朝3時~6時頃)や夕市も立つ。かなりの規模で,盛況だ。 -
これが「中央市場(1)」の入口。
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こちらが「中央市場(2)」の入口。どちらも同じくらいの広さである。
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乾物屋に並ぶ豆とマカロニ。
ミッチーナーには,ネパール系(グルカ兵の末裔)やベンガル系の住民がそこそこいそうだ。 -
売っているマカロニは非常にカラフル。たぶんインド製だろう。
茹でて食べてみたが,品質はいまいち。スープの浮きみ程度なら可か。 -
こちらは生の豆など。
ミャンマーの市場では,枡の代わりに練乳の空き缶(14oz)を使うのが慣習となっている。空き缶一杯が1ノジブー。 -
ミッチーナーでは,茶叶蛋を売っているのをよく見かける。どういうわけかミッチーナー名物のようだ。
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蓮根。
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ンガピの山,ラペソー,唐辛子,ターメリック粉,干し海老。
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白きくらげ(銀耳)。
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ミッチーナー周辺は,希少価値を持つ最高級の香米「Khat Cho(カッチョウ)」の産地で,これはパーカン(Hpakan)の翡翠やフーコン(Hukawng)の琥珀と並ぶ重要な交易品と言われている。
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市場の一角でトーフヌエの屋台を見つけた。
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さっそく一杯頂く。
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屋台の上には,かんてきで炙ったシャン餅が無造作に並べられている。
一方,トーフヌエ屋台に付き物のトーフジョ(揚げたシャン豆腐)は,ここには置いていない。
炙り餅を一枚だけもらうと,はさみでちょんちょんと切ってトーフヌエの鉢に入れてくれた。 -
餅の向こうには凉粉の大きな塊が鎮座している。
見ていると,繊切りピーラーで凉粉の表面を削り,麺状にしたものをタレに絡めている。
せっかくなのでこれも食べておこう。 -
ひと混ぜしたら見栄えが悪くなってしまったが,こんな感じのものだ。
凉粉自体に味はない。この店のものは黒酢を利かせてあったので,日本のところてんにやや似ていた。基本的に辣油や花椒を使って強烈な味つけをすることが多い。中国人の大好物である。
値段は一杯600MMKほどだった。(1000MMK=約75円) -
中央市場(1)から(2)のほうへ戻ると,すぐに麺屋台のおばちゃんに捕まった。
「食べてけ。これはサンズィー,これはミーシェ‥‥」とひとつずつ指さして麺の解説をしてくれる。
写真のは極細の小麦麺で,やや伊府麺に似ている。おばさんは「これは『ジョッ』」だと教えてくれた。
麺の向こうに茶叶蛋があるのが見える。 -
すでに満腹近いが,頑張って「ジョッ」の「アイェー(汁麺)」をもらう。
出汁の味が独特だった。一杯1000MMK。(1000MMK=約75円) -
中央市場を出て周辺部を見て回る。
タナカ(左下に写っている丸太のようなもの)などの日用品を売るムスリマ。
ビルマの女性は,宗教に関係なくタナカを塗る。
タナカを売る女性は,特に上手にタナカを塗って店番をしていることが多いような気がする。 -
ミッチーナーの街には,
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仏教寺院を始め,さまざまな宗教の寺院が建っている。
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大きな中央モスク,1956年建立。
まだ雲南との馬幇交易があった頃,ミッチーナーの中心街はもっと南のほうに位置していたらしい。
1898年に鉄道が開通し,その後の第二次大戦及び中華人民共和国成立により馬幇交易も途絶え,ミッチーナーは鉄道駅を中心とした新街に移った。
このモスクは新街にあるので,雲南系清真寺ではなくベンガル系移民によって建てられたものなのかも知れない。 -
こちらはヒンドゥー教寺院。まだ真新しい。
-
キリスト教会は,中心部から少し離れたところでよく見かけた。
旧宗主国が英国であるにもかかわらず,伝統的に米国バプティスト教会が強い。 -
モスクの近所にはムスリム食堂があって,
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ダンパウ(ビリヤニ)や,
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ロティを食べさせてくれる。
「Yangon Biryani」(Google座標:25.381456,97.400587) -
広東会館の近くのラペイエサン(茶店)では,
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ラペイエとともに,
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包子や焼売がテーブルに置かれる(食べた分だけ課金されるシステム)。
客の会話は中国語だ。
このように,ミッチーナーの中心部を少し歩くだけで様々な民族のコミュニティを垣間見ることができる。
明日は,日本人ゆかりの場所へ行ってみることにしよう。
(つづく)
マンダレー=ミッチーナー夜行急行の旅
https://4travel.jp/travelogue/11547903
ミッチーナー逍遥~その2:ミイトキーナの戦い「招魂之碑」
https://4travel.jp/travelogue/11548616
ミッチーナー逍遥~その3:ミッチーナーのマナウ祭
https://4travel.jp/travelogue/11548637
ミッチーナー逍遥~その4:カチン料理探訪
https://4travel.jp/travelogue/11548659
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この旅行記へのコメント (2)
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- さいたまさん 2019/09/30 06:56:04
- 現在のミッチーナの様子が活き活きと紹介されています。
- 序文から興味が湧き、一気に三度続けて読ませて頂きました。
王位継承から始まり、2019年の今のミッチーナの様子を知ることができます。
続きが楽しみになりました。
泰緬鉄道の話題を主に、ミャンマーを経験しましたが、平原の広がりとともに北方に上がり、次いで山岳地帯を目指しています。
大変参考になる旅行記で、引き続きタヌキを連れた布袋さんの旅行記を読まさせて頂きます。
有難うございました。
- タヌキを連れた布袋(ほてい)さん からの返信 2019/09/30 20:30:40
- コメントをありがとうございます
- さいたまさま,コメントを頂きありがとうございます。
序文に抜粋・引用させて頂いた「カチンの首かご」という作品は,筑摩書房から昭和35年に刊行された世界ノンフィクション全集の4巻に収録されているものです。
「冒険ダン吉」を地で行く痛快な実話で,一気読み請け合いの面白さです。
機会があればぜひご一読ください。
(古い本なので,古書店で探すより,都道府県などの大きな図書館が収蔵しているものを借り出すのが便宜かと思われます。)
今後ともよろしくお願い致します。さいたまさまのソロモン諸島の旅行記を興味深く拝見させて頂きました。ありがとうございます。
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