2019/01/05 - 2019/01/15
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タヌキを連れた布袋(ほてい)さん
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「‥‥雨期の増水で流れる水音は激しく,イラワジは氾濫して河岸にもひたひたと溢れている。人影がさっと崩れたので見ると舟が着いたらしい。連隊本部に受領に行っていた竹下伍長が誘導して来たのだが,どうしたことか割当てより更に少なくたった四隻である。到着を知った兵隊たちが列を崩して,『わあー』と一度に群がり我先にと舟に手を掛ける。末吉中尉があわてて両手を拡げ『こらあーちょっと待て,ちょっと待て』と制するが,早く乗らねばと焦っている者の耳に届かない。筏が使えない事が判っているので,誰もが先を争い順番など待っておれないのだ。騒然としていきり立ち末吉中尉の手に余り,収拾できないような状態になってきた。
血相を変えて眼尻をつり上げた大隊長が飛んでくると『この態(ざま)は何だ,貴様らはそれでも軍人か,全員舟から離れろ! 離れるのだ,命令だ。言うことを聞かぬ奴は斬り捨てる!』と言いざま軍刀をサッと抜き放った。その勢いに兵隊たちはたじろいで身を引き,不承不承に一応は収まった。『各隊長は部下をしっかと掌握せよ。末吉中尉は速やかに区分した通りの指示を与えるのだ。各人は皇軍としての自覚をもって秩序を守れ。おい末吉中尉,俺は一番目の舟だな,宮崎曹長と当番兵は早く乗れ,俺は連隊長殿が向こうで待っておられるので先に行く,地区隊長集合の連絡を受けているので急ぐ。末吉中尉いいか乗るぞ,後は頼むぞ』わざと皆に聞こえるように大声で言うと素早く乗り込んだ大隊長の舟は,すうーっと漕ぎ出ると見る間に河霧の中に消えて行った。兵隊たちは各隊の上級者の制止で治まり,残りの三隻に末吉中尉の指示どおり乗船を終えると,次々に岸を離れていき,直ぐに闇の中に吸い込まれた。
『大隊長が一番先に舟に乗ったのか……』河岸に立っていた八中隊の添田軍曹が,誰にともなく呟くように言った。『舟が着いたときの状況を見ると,俺はもう嫌になった,浅ましいというか,何というか……,俺はそうまでして舟に乗らなくていい。どうせ今日まで死ぬ覚悟でいたのじゃないか,俺は今から広中隊が守備している陣地に戻る』決然として彼はそう言うと,軍刀を腰に差し静かな足取りで元の道を引き返した。『添田班長殿,私も一緒に行きます,連れていってください』同じ八中隊らしい兵隊が二人,そう言うとその後を追い三人の姿は闇の奥に消えた。」
「河下のほうで,ドーンと一発の銃声が聞こえた。誰かが暴発でもしたのだろうと気にも留めなかったが,それは暫くしてから,ざわめきと一緒に黒い話となって流れてきた。或る隊で乗船順位のことで逆上した兵隊が,指示をしている下士官を射殺したと言うのである。こんな殺伐な話は初めてで,これだけ兵隊の気持が荒んだのもあまりにも凄惨な戦闘が続き過ぎたためだろう。」
三浦徳平著「一下士官のビルマ戦記 ミートキーナ陥落前後」(葦書房)より
マンダレー=ミッチーナー夜行急行の旅
https://4travel.jp/travelogue/11547903
ミッチーナー逍遥~その1:中央市場周辺
https://4travel.jp/travelogue/11548599
ミッチーナー逍遥~その3:ミッチーナーのマナウ祭
https://4travel.jp/travelogue/11548637
ミッチーナー逍遥~その4:カチン料理探訪
https://4travel.jp/travelogue/11548659
- 旅行の満足度
- 3.5
- 観光
- 3.0
- ホテル
- 2.0
- グルメ
- 3.5
- ショッピング
- 3.5
- 交通
- 3.5
- 同行者
- その他
- 一人あたり費用
- 25万円 - 30万円
- 交通手段
- 鉄道 高速・路線バス 徒歩
- 航空会社
- タイ・スマイル
- 旅行の手配内容
- 個別手配
-
今日はミッチーナー郊外にある,第二次大戦の慰霊碑のひとつを訪れてみたい。
-
それは,地図中の「Liaodawmu Bhurarr」と表示されている場所にある。
ミッチーナー中心街から北へ1.5kmくらいの距離なので,徒歩約20分というところだろう。
Su Taung Pyi Paya(スータウンピーパヤー)という大きな寺を目指していけば,その南側付近だ。 -
中央市場周辺で,供花などを手に入れる。
-
大きな市場だから,どこかに線香が売っているだろうと踏んでいたのだが,見つからずじまい。不覚だった。
-
中央市場の北側にあるミッチーナーで一番背の高い「Cartel Hotel」前の路上が,ワイモー行きのバスカー(トンベインカー)の発着場になっている。
-
ワイモーは琥珀市場がある街として有名で,ミッチーナーから見るとエーヤワディー河対岸のずっと南方に位置する。
ところが,河を渡る鉄橋はミッチーナーの北の郊外にあるため,ワイモー行きのバスカーはまず北へ向かって走ることになる。
つまりワイモー行きのバスカーはスータウンピーパヤー付近を通過するので,そこで途中下車をすれば目的地近くまで行けることになる。 -
客が埋まるのを待っているバスカーの運転手に「スータウンピーパヤー!?」と連呼。頷いてくれたので荷台に乗り込む。
-
発車して,ものの5分もかからずスータウンピーパヤー付近に到着。
運賃相場はまったく判らなかったが,一人あたり500MMKを差し出してみるとニコニコ顔で受け取ってくれた。(1000MMK=約75円)
下車した目の前は花屋だった。わざわざ市場で買ってくる必要はなかった‥‥。
(Google座標:25.398026,97.403611) -
すぐ向こうに山門らしきものが見えている。
-
ここが目指す「Liaodawmu Bhurarr」のようだ。
(Google座標:25.396585,97.403889) -
中を進むと高僧の坐像や,
-
注意書きなどがあり,
-
その向こうに巨大な涅槃仏がおわした。
外国人参拝客と見るや,さっそく物売りの女たち(3人)が集まってきた。
花束,花輪,榊(もちろんビルマのもの)が,いずれもひとつ1000MMKとのこと。こういう場所なので,言い値で買うしかしようがない。
3人からひとつずつもらって涅槃仏に供えた。 -
慰霊碑は,涅槃仏から少し奥に行ったところにあった。
-
私が慰霊碑を訪れる日本人だと判ると,物売り女よりやや地位の高い「寺男(てらおとこ)」のようなおばさんが来てくれて,供花を生ける花瓶や,供物を置く盆などをわざわざ用意して下さった。
-
「招魂之碑」
「祖国を離れて幾千里,望郷の念に思いを馳せながら国の命ずるまま,食なく撃つ弾丸なく,飢餓悪疫と戦いながら,連日数百屯に及ぶ砲空爆を忍び,近代装備に支えられた数十倍の圧倒的多数の敵との戦いは,まさに徒手空拳,肉弾突撃と鉄塊の戦いであった。拉孟1,270騰越3,000名玉砕す。MYITKYINA3,400名散華す。生存せる兵を救出すべく玉砕命令に抗し,ノンタロー村にてすべての責めを一身に負い,退却命令を出すと共に自決せる水上源蔵少将の名は,散華せる兵士と共に後世にその名をとどめるであろう。又,敗戦と知りつつ日本軍と共に祖国の為に戦い戦死せる多数のビルマ兵補の死を,我等は決して忘れることはない。戦火により亡くなられたすべての人々の霊を弔うと共に,被害を受けたミャンマー国民へのいささかの償いとして,涅槃像を建立した。この像がミャンマー国と日本国との友好と交流の懸け橋ともなれば,望外の喜びである。建立に際し,北部軍司令官,其の他関係者の方々より,多大なご支援を頂き心から御礼を申し上げます。
北部軍司令官
小将KYAW WIN
有難うございます。
12.11.2001」
この招魂之碑は,ミッチーナー守備隊の数少ない生還者である坂口睦氏が呼びかけて建立されたものである。
碑文は,必ずしも美文とは言えないかもしれないが,(建立時)戦後56年余を経てすでにご高齢の氏が訥々と綴られた姿を思い起こさせる。 -
「寺男」のおばさんは,子供らに鍵を取って来させて,私をある建物に請じ入れた。
-
そこには,この地で戦没されたのであろう方々のご位牌・ご遺影がたくさん祀られていた。
合掌。 -
同じ建物の中に,坂口氏の銅像が立っていた。
以下は完全に想像で言うのだが,この銅像はビルマ側の関係者が「勝手に気を利かせて」造ったもので,氏の本意によるものではなかったのではあるまいか。
氏が所属した久留米の第18師団(通称「菊兵団」)は,国軍最強と謳われたがゆえに,犠牲者も多かったと言われている。
それを辛くも生き延びた氏が,一念でこの地に招魂之碑を建立したとき,自身の銅像の製作を思いつくかどうか。同じ日本人であれば自ずと分かるだろう。
そしてアジアを長く旅していると,ビルマ側の関係者がこういう「勘違い」をしてしまうのにも大いに頷くことができる気がする。
彼らの世界観は,どこまでも現実的で強靭なのだ。 -
涅槃仏のある敷地から道路を挟んで東側には,立派な立釈迦仏もおわした。
-
世話になった「寺男」のおばさんに相応の心付けを渡して,寺を辞した。
帰途は歩いて帰る。 -
途中から,エーヤワディー河畔沿いの道に出ることができた。
-
「(砂洲の位置は当時と変わっているとは思うが)ノンタロー村というのは,あの辺りにあったのだろうか。」
そんなことを考えながら,河の中洲をしばし眺めていた。
(つづく)
マンダレー=ミッチーナー夜行急行の旅
https://4travel.jp/travelogue/11547903
ミッチーナー逍遥~その1:中央市場周辺
https://4travel.jp/travelogue/11548599
ミッチーナー逍遥~その3:ミッチーナーのマナウ祭
https://4travel.jp/travelogue/11548637
ミッチーナー逍遥~その4:カチン料理探訪
https://4travel.jp/travelogue/11548659
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この旅行記へのコメント (4)
-
- Camelliaさん 2019/10/01 20:02:33
- 初めまして
- 私の東南アジア旅行記をご覧くださりありがとうございました。
私もミャンマーを訪れたとはいえ、知らないことがたくさんあり勉強になりました。ミャンマーはこれまで訪れた国のなかで最も「異世界」というものを感じられ、未だに強い余韻が残っています。
銅像はミャンマーの方たちなりの敬意の表れなのでしょうね。外国を訪れると、むしろ自分自身や自国をよく知るような気がします。
女性一人旅が主なので、できることはより限定的になりますがタヌキを連れた布袋(ほてい)さんの旅行記も参考にして今後の旅行について考えます。
- タヌキを連れた布袋(ほてい)さん からの返信 2019/10/06 18:24:38
- こちらこそ
- Camelliaさま
コメントを頂きありがとうございます。返信が遅くなり大変失礼致しました。
同じ街を旅された方からコメントを頂くと何だかワクワクします。
旅行記を拝読すると,マンダレーではETに投宿されたようですね。前に行ったときナイロンに宿泊しましたので,すぐに「あっ,あのホテル」と思い出しました。とても立地のよい宿ですよね。
何年か前にウボンとパクセに行きましたので,それぞれの旅行記の写真も懐かしく拝見しました。滞在中,ランカムには毎朝のようにフーを食べに行きましたよ。
これからもCamelliaさまの旅行記やクチコミを楽しみにしております。よろしくお願いします。
- Camelliaさん からの返信 2019/10/06 19:53:01
- Re: 初めまして
- タヌキを連れた布袋(ほてい)さん さま
ご返信ありがとうございます。
ミャンマーは未知の国だったので安全第一でホテルの方に提案された個人の日帰りツアーに申し込みました。今となってはそれでよかったと思います。
ナイロンはETの近くですね。おっしゃる通り立地で選んだのですが、実際に行ってみると野犬と車、バイクが怖くなりあまり歩けませんでした。大胆ですが、警戒心も強いのです。
ウボンとパクセにも行かれたのですね。ランカムの食堂、便利でしたね。
パクセで飲んだコーヒーがおいしく、もっと買ってこればよかったと思っています。先月は、パクセで洪水があったようでパクセの方はそうやって生きているんだな、と考えさせられました。
実は今年の冬、タヌキを連れた布袋(ほてい)さん さまのコメントに書かれていたヴェリコタルノヴォなどに行く予定です。私は大雑把なので丁寧に下調べされるタヌキを連れた布袋(ほてい)さん さまに感心するばかりですが、大雑把なりに楽しみたいと思います。また、コメントを参考にさせて頂きます。
インターネットやガイドブックを見ながらほどよい街を探して旅行するのが楽しみになっています。
こちらこそ、よろしくお願いします。
- タヌキを連れた布袋(ほてい)さん からの返信 2019/10/07 07:54:43
- 冬のブルガリア
- Camellia さま
冬のブルガリアに行かれるご予定とのこと,素敵ですね。
ヴェリコ・タルノヴォでは「Guest House Diel」というところに滞在しました。宿は英語学校も兼ねており,言葉の壁が低くて助かりました。良い宿です。でも,タルノヴォには良さげな宿がたくさんありましたので,ぜひ吟味してお気に入りに宿を見つけてください。
Camelliaさまが旅立たれるまでに,バルカンの旅の旅行記をアップできるように頑張ります(筆が遅いので無理かもですが…)。
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