2018/03/15 - 2018/03/22
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falcon38さん
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上野の国立西洋美術館で「北斎とジャポニスム展」(2017.10~2018.1)が開催されましたが、その内容には多くの検証が必要なのではないか?と思わされました。
展覧会は「HOKUSAIが西洋の多彩な芸術家に衝撃を与えた」と主張しますが、その一部については「本当なのだろうか?」「これをフランス人はどう思うんだろうか?」と感じましたので、今回微力ではありますがプチ取材を試みました。
第1回目は、ギュスタ-ヴ・モロー美術館です。
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国立西洋美術館で開催された「北斎とジャポニスム:HOKUSAIが西洋に与えた衝撃」展にはキャッチコピーがあります。
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「モネ、ドガ、セザンヌ・・・、みんなHOKUSAIに学んだ」です。
例えばドガの描いた「踊り子」も、北斎の「相撲取り」の漫画から「学んだ」というのです。 -
展覧会では「さまざまな西洋の芸術家がHOKUSAIの影響を受けた」と主張していて、ギュスターヴ・モローもその一人です。
展覧会の図録によると、右のモローの絵の背景の岩山は左の北斎の描いた「北斎漫画」を参考にしたものだというのです。 -
これがモローの描いた「ヘラクレスとレルネのヒュドラ(Heracles and the Hydra of Lerna)」です。
ヒュドラは、多数の頭を持つヘビのような怪物として描かれています。 -
こちらは北斎漫画で、この絵がモローの絵に影響したというのです。
図録の説明文を引用します。
「・・・レルネの沼に住むヒュドラを退治する場面に取材した本作では、舞台装置となる岩場の風景に、『北斎漫画』十三編に描かれる須弥山の切り立った断崖を重ねることができよう。」(文責:HH)
この図録のいうことは、本当なのでしょうか? -
2018年3月16日、私は図録のカラーコピーを持ってギュスターヴ・モロー美術館を訪ねてみることにしました。
メトロのTrinité-d'Estienne d'Ovres駅を降り、トリニテ教会を左に見ながらCredi du Nordの白い建物の前を右に曲がります。 -
もう1回左に曲がり、真っ直ぐ坂を登った右側に美術館はあります。
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ギュスターヴ・モロー美術館に行かれた皆さんはお分かりと思いますが、この美術館にはかなりの数の作品が所狭しと並べられています。
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椅子に座っている女性係員にコピーを見せると「この絵なら、上の部屋のこっちの面にあります」と、たちどころに絵の場所を教えてくれました。
彼女がただのバイトではなく、専門的知識を持っていることが伺えます。 -
ありました。これがその絵です。
上の方に架かっていて、自力で探し出すのは困難だったと思います。
この絵を後からみると、国立西洋美術館の図録の絵(←ギュスターヴ・モロー美術館所蔵となっています)とは、微妙に背景が違いますね。 -
しかし絵のタイトルは「Hercule et l'Hydre de Lerne」となっており、問題の絵と同じです。
モローは、同じテーマで複数の類似した作品を描いたのでしょうか? -
女性係員の方のところに戻り、コピーを再び見せて聞いてみました。
私:日本の研究者がこう書いてますが、モローは北斎の影響を受けていたのでしょうか?
係員:そうですね、この崖が出っ張っているところは少し似ていますね。モローはたくさんの外国の文化を知っていましたので、影響はあったかもしれません。けれども、この絵に北斎の影響があるかは私は知りません。
大変無難ではあるが素直な答を得て、私は安心しました。
確かにモロー以前の時代にフランスでは中国趣味(シノワズリ)が流行しましたし、モローの時代であればジャポニスムはもちろんインドシナを植民地にしていましたから、東南アジアの文化も入ってきているはずです。
したがって、よほど確実な根拠がなければ「日本の北斎の影響」と限定することは難しいでしょう。 -
例えばこの写真はパリのギメ美術館で撮影した複数の頭部を持つナーガの石像ですが、インドシナからのものです。
私はむしろモローの描くヒュドラの姿はナーガに似ていると思いますし、係員もそう思うと言っていました。
モローの絵の背景の岩山は、別に何かのモデルは無いかもしれないし、仮に何かをモデルにしたとしても、ヨーロッパで描かれていた岩山かもしれないし、中国の絵かもしれません。モロー自身が「北斎を参考にしました」と言っているのならともかく、なにも北斎漫画でなければならない理由はないと思います。
それを「北斎漫画を参考にした」と主張するには根拠が必要です。 -
この係員さんに、他にも数枚のコピーを見てもらいました。
そのうちの一枚が、カサットの右の絵が北斎漫画の左下に描かれた絵を参考にしたというものです。
すると、彼女の顔色が変わりました。(余談ですが、この日本人研究者が女性であることを彼女には伝えてあります)
係員:この研究者は何という名前ですか?年齢は?
私:え~と、以前は覚えていたんですが・・・ あっ、ここに(文責の)イニシャルが「AM」とあります。とにかく日本の国立西洋美術館のトップです。
係員:OK。調べればわかるわ。 -
実は、国立西洋美術館の館長さんはこちらの方です( ↑ )。
読者の方はお分かりになられると思いますが、このような日本の国立西洋美術館の主張が、国際的に特にジャポニスムの発祥の地であるフランスでどのように評価されるのかは、大変興味を引くところなのです。
ところで、この展覧会はどのような人々により企画されたのでしょうか? -
共催者の中に、フランスの研究者(機関)は入っていません。
「永遠に不潔です!」と言われた某球団の親分は入ってますが(笑)
なおここでご注目いただきたいのが、展示された西洋美術の名品約220点を「北斎作品にインスピレーションを得て創り出された」と記載していることです。この強気の表現は、各作品の図録の解説文になると断定表現を避け推定表現に終始するというように一斉にトーンダウンします。 -
当然、BS日テレでもキャンペーン番組を放送しています。
これは2017年12月放送の「片岡愛之助の歴史捜査」です。 -
たくさんの例に触れていましたが、例えば左のモネの風景画は右の北斎の「富嶽百景」の影響だとしていました。
従来の西洋の風景画にはモネの左の絵のような斬新さはなく、これは右の北斎の絵に似通っており、モネは北斎の絵を所有していたというのが根拠です。 -
また、ロートレックのムーランルージュのポスターが北斎漫画を参考にしていると示唆していました。
ロートレックは日本びいきで彼の生家には今も「北斎漫画」が残り、その一部がロートレックの絵を思わせるというのが根拠です。 -
そして女性アナウンサーが、「北斎ってこんなに影響を与えているんですね!」とたたえるわけです。
この展覧会に関しては、国立西洋美術館館長さんご自身も昨年NHKの番組に出演しています。西洋美術と北斎漫画との「類似」をすべて「・・だと思います」「・・でしょう」「・・ということができると思います」といった推定表現で語り一度も断定表現は使わず、あたかもそれらの芸術家が北斎の影響を受けたかのように誘導しているように感じました。 -
一方こちらは、2018年1月フジテレビ放映の「林修のニッポンのドリル」。
「富嶽三十六景を真似て、〇〇三十六景が描かれた」と出題しています。 -
答は「エッフェル塔三十六景」なのですが、この時林先生は北斎の影響について「実際に作者がそう言っているんです」と言っていました。
作風を見ても日本の影響は明らかですが、「作者がそう言っている」と事実の裏付けを明示した点は、林先生の真骨頂であると感じられました。
こうした直接証拠は、国立西洋美術館の主張にはほとんど見られません。
次回は、ルーアンの大時計のお話とともにご報告いたします。
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「北斎とジャポニスム」展の衝撃
この旅行記へのコメント (2)
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- Pメテオラさん 2018/03/31 22:33:52
- テーマを持って
- 作者さまひとりひとりのテーマがある旅は、とても素敵です。テレビや、通説への疑義、定番の再考察、そして、百聞は一見に如かず、とか、王道を行ってみる、などなど。そういう気持ちを持った旅が、これからも楽しくユニークでありますよう、私も、心から賛同、応援します。
- falcon38さん からの返信 2018/04/01 00:11:21
- Re: テーマを持って
- Pメテオラさん、こんばんわ。
本稿の趣旨をご理解いただき、ありがとうございます。
(2)、(3)へと続きますので、引き続きよろしくお願い致します。
falcon38
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