2007/11/27 - 2007/11/27
264位(同エリア747件中)
motogenさん
- motogenさんTOP
- 旅行記391冊
- クチコミ1件
- Q&A回答3件
- 438,522アクセス
- フォロワー44人
タイ北部の朝は冷こみます。
フード付きのジャケットを着て寝ていましたが、寒さで目を覚ましました。
靄で煙る東の空から太陽が登ってきます。
テントも裏庭も周辺の道路も、今はシーンと静まりえかえり、その中を托鉢のお坊さんが列を作って歩いていました。
-
庭に置かれた音響セットも、沈黙してます。
しばらくすると、隣近所のおばさんたちが集ってきて、 -
裏庭は食事の準備で大忙しとなってきました。
食材も食器の数も、昨日よりも盛大です。 -
ポリスのザックさんが仕事から戻ってきました。
葬儀の準備で、チェンライの街に出かけます。
子どもたちも奥さんも、トゥックさんも一緒です。
私も連れて行ってもらいます。
最初の目的地は病院の、霊安室のある病棟でした。 -
死亡証明書をもらっている間に、病棟内を観察してみます。
棺がたくさん積まれている部屋がありました。
死後の準備も怠らないことに驚きました。 -
別の部屋には大きなビンが並び、その中にはホルマリン漬けの胎児や内臓が浮かんでいます。
本物です。 -
人間の頭蓋骨も展示されています。
医学のための研究でしょうか・・・
姉さんの治療費は未払いのはずです。
心配になってザックさんに聞くと、公立病院は無料なんだとのこと。
地元の病院での入院費も無料だと言います。
そのかわり、公立病院は基本的な治療しか行いません。
高度な治療は私立病院です。
でもタイは、日本以上の福祉国家です。 -
次の目的地は役所でした。
ポリスのザックさんは手馴れているようで、あっちこっちの窓口を順繰りに回り、書類を手に入れました。 -
それを持って別の役所に出かけ、埋葬許可をもらうようです。
-
このような戸籍関係の手続きは、日本と同じようにあるのです。
それが済むと市場を回り、子どもたちやイェンさんが葬儀のための服を探し、葬儀用の小間物を買い、昼食をとりました。
食堂の料理の美味しさにほっとします。 -
最後に葬儀に供える飾り物や仏具を買い込んで、
-
家に戻ると、周囲の様子が一変していました。
テントが移動され、その場所にごちゃごちゃと飾られた小屋があります。
よく見ると、小屋は台車に乗せられていました。 -
小屋の内部には蚊帳が張られ、マットレスが敷かれていて、
-
周りはテントで囲われ、
-
その中に、鍋や釜、箸や茶碗、洗面器や歯ブラシ、包丁、洗剤など、台所にあるものが置いてあります。
ガスコンロも、扇風機やテレビ、ラジカセ、冷蔵庫などの家電まで置かれています。
呆然として見つめていると、イェンさんが、
「明日は、姉さんと一緒に、みんなでお寺まで引っ張っていくんだよ・・」
と教えてくれます。
「扇風機や冷蔵庫は、どうなるの?」
「お寺に、みんな、タンブンするの・・・」
「えっ・・??」
「姉さんの使っていた物は、おんなお寺に、タンブン・・」
姉さんの服までもが、ファッションケースの中に詰め込まれています。
誰かが、バイクまで押し込もうとしています。
「姉さんのバイクだから・・」
絶句してしまいました。 -
貴重な電化製品や高額なバイクまでタンブンしてしまったら、貧しいこの家はこれからどう生活していくんだろう。
「この屋台、1万7千バーツなんだよ・・」
ザックさんが耳打ちしてくれます。
1万7千バーツといったら、家族が2か月も暮らせる金額です。
この屋台は、買いとったものなのか、それともレンタルなのか?
タイの葬儀、いったいいくら金があればいいんだろうか?
悲しい気持ちになってしまいました。 -
町外れの散髪屋で身だしなみを整えることにしました。
旧式の散髪椅子があるだけで、あるべき鏡がなく、もちろんシャンプー設備もありません。
看板もなく、ただ髪を切るだけの、小汚いバラック小屋です。 -
心配になりましたが、仕事は丁寧でした。
ヒゲもそってくれ、顔面マッサージまでしてくれて、料金を聞いて、狐にだまされた気分になりました。
たった30バーツ。(90円)
この町では、20バーツでカオパットやバミーが食べられ、30バーツで散髪ができます。
田舎町とバンコクでは雲泥の差があります。 -
裏庭はあいかわらずキャンプ場のように賑やかさでした。
-
シートの中央に、ブタの頭が乗っています。
おばちゃんが何の迷いもなく、鉈のような分厚い包丁で耳を切り離し、鼻をそぎ落とし、脳髄を掻き出します。 -
私を見つけると、からかうようにそれを差し出して、ニコリとしますが、気味が悪くて近づけません。
細かく切り裂かれて積んである肉片には蠅が集まり、おこぼれにあずかろうと野良犬たちが、庭の中を徘徊しています。
ここには衛生面がどうのこうのとか、賞味期限がどうのこうのと言う人は誰もいません。
生命力にあふれ、たくましい人たちばかりです。 -
家の中に入ると、親戚のおじさんやお婆さんたちが写真を見ています。
その中に、赤いフレアースカートに白のブラウス姿の、亡くなった姉さんがいました。
同じ服を来た友だちと並んで、池を背景にして微笑んでいます。
「高校生の頃?」
「貧乏だったから、高校には行けなかったんだよ。」
「チェンライのレストランの制服で・・・結婚する前はレストランで働いていたんだよ。」 -
子供が生まれた頃の写真、その子がよちよち歩きをしている頃の写真も見つかりました。
しかし不思議なことに、夫の写真は一枚も見当りません。
子供が生まれた頃には、既に離婚していたそうです。
ずっと家で農作業に明け暮れしていた姉さんが、なぜエイズに?
気がつくと、写真が縁となって、叔母さん方と何とかコミュニケーションがとれるようになっていました。
私のタイ語の力が伸びたのではなく、相手が私の語学力を察知して対応してくれていたのです。 -
外には昨夜以上の客が集ってきていて、お祭り騒ぎとなっていました。
-
運ばれて来る料理が次々に消えていきます。
酒はありません。
私は昨夜のように、固いブタ肉をつまみ、ヒマワリの種をかじって空腹を紛らわしていました。 -
いったいこの葬式はいつまで続き、私の旅行はどうなってしまうんだろう?
最初は好奇心で興奮していた私ですが、しだいにストレスが溜まっていきます。 -
この夜も坊さんたちがやって来て、お経が始まりました。
坊さんの人数も増えて、今夜は6人です。
相変わらず小僧たちはしまりのない態度で、
「しゃっきっとせんかい!」
とイラついてきました。 -
「あの坊さんは、亡くなった姉さんの恋人なんだぞ。」
「エイズは、あの坊さんからもらったんだ。」
そう教えてくれる人がいました。
己の罪を悔いて仏門に入ったのは、最近のことのようです。
そんな男が坊さんとなって、恋人の葬儀にやって来て、お経をあげている。
何とも常識はずれに感じたが、周囲にはそう思う人はいないようで、冷たい視線を送る人や、批判めいたことを言う人も見られません。 -
風聞はあっという間に拡がる狭い地域なのですが、みんな何事もなく手を合わせ、一緒にお経を唱えているのです。
-
坊さん一人一人に袈裟や金品などのお布施を献上し、儀式が終わると、
-
ドライアイスを詰めた棺を、例の小屋の中に移動させて、
-
これで今宵は終わるようで、
-
坊さん方も帰っていきます。
-
1万7千バーツの小屋には照明が入り、まぶしいほどに輝いていて、
-
来客はここで焼香して、それぞれの家に帰っていきます。
-
棺の横には、竹串にはさんだ香典や、造花やおふだなどが、隙間に差し込んでありました。
これも皆タンブンで、このままお寺に持って行くとのこと。 -
こうして二日目の通夜も、幕を閉じるのでした。
利用規約に違反している投稿は、報告する事ができます。
旅行記グループ
希有な体験・タイ田舎のお葬式
-
前の旅行記
希有な体験・タイ田舎のお葬式 その3 遺体を運び、そしてお通夜
2007/11/25~
チェンライ
-
次の旅行記
希有な体験・タイ田舎のお葬式 その5 タイの葬儀、最後まで見届けました
2007/11/28~
チェンライ
-
希有な体験・タイ田舎のお葬式 その1 ロイカトンでにぎわうチェンライへ
2007/11/21~
チェンライ
-
希有な体験・タイ田舎のお葬式 その2 稲刈りに汗を流し、夜は灯篭流し
2007/11/23~
チェンライ
-
希有な体験・タイ田舎のお葬式 その3 遺体を運び、そしてお通夜
2007/11/25~
チェンライ
-
希有な体験・タイ田舎のお葬式 その4 葬儀の準備はこれからが本番だった
2007/11/27~
チェンライ
-
希有な体験・タイ田舎のお葬式 その5 タイの葬儀、最後まで見届けました
2007/11/28~
チェンライ
-
希有な体験・タイ田舎のお葬式 その6 葬儀が終わり、メーサリアンへ
2007/11/29~
チェンライ
旅行記グループをもっと見る
この旅行記へのコメント (2)
-
- trat baldさん 2017/08/28 07:09:14
- もし南東部と同じなら成仏のためにお金を燃やします。
- motogenさんは強い意志と共に家族家庭が日本に有り確固たる地盤の上に旅を続けているから大丈夫でしょう。
おそらくアジアの仏教地域では似た様式で葬式が執り行われているでしょう、現地の人とあまりに深く関わる事で母国での生活を放棄するケースは多々あります、タイは男女関係にも大らかだし将来を恐れて金銭の出し惜しみはしません、彼らにとっての日常が我々にとって驚きですが価値観の違いでしょう、、、、
- motogenさん からの返信 2017/08/28 09:46:30
- RE: もし南東部と同じなら成仏のためにお金を燃やします。
- ありがとうございます。
好奇心で居続けていましたが、口に合う食べ物が少なく、プライバシーもない生活に疲れました。
こんな機会はめったにあるものではない・・と頑張りましたが、それに見合うものはあったと思っています。
ただの観光旅行者としてでは分らない、タイ人の生活ぶりや、人柄など、薄々分ってきました。
しかし身元不明の外国人を、こうもたやすく受け入れてくれる社会、そして家族同様に付き合ってくれる社会、タイ以外にはありませんね。
ベトナムやラオス、マレーシアでは、こうはいかなかったでしょう。
タイに通い続けた理由は、こんなタイだったからだと思います。
コメントを投稿する前に
十分に確認の上、ご投稿ください。 コメントの内容は攻撃的ではなく、相手の気持ちに寄り添ったものになっていますか?
サイト共通ガイドライン(利用上のお願い)報道機関・マスメディアの方へ 画像提供などに関するお問い合わせは、専用のお問い合わせフォームからお願いいたします。
旅の計画・記録
マイルに交換できるフォートラベルポイントが貯まる
フォートラベルポイントって?
旅行記グループ 希有な体験・タイ田舎のお葬式
2
36