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 理不尽でおぞましいイミグレを通過し、カンボジアに足を踏み入れました。<br /> 国境の丘の上から見えるココンの町は美しい。<br /> 町の中もそうあって欲しい。<br /> 親切で、貧しい旅行者からぼらない人々が住む町であって欲しい。

新境地を求めてカンボジア その3 入り江の町ココン

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2010/11/08 - 2010/11/21

20位(同エリア296件中)

旅行記グループ 新境地を求めてカンボジア

3

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motogen

motogenさん

 理不尽でおぞましいイミグレを通過し、カンボジアに足を踏み入れました。
 国境の丘の上から見えるココンの町は美しい。
 町の中もそうあって欲しい。
 親切で、貧しい旅行者からぼらない人々が住む町であって欲しい。

同行者
一人旅
交通手段
自転車 徒歩
  •  イミグレからココンの町までは、想像していたより遠かった。<br /> 丘を下り、その先の海に架かる長い長い橋を渡って行く。<br /> バイクはあい変わらずノコノコと走り、安心してカメラのシャッターを押せる。<br /> このバイクのおじさん、いい人なのかも知れないと思いはじめる。

     イミグレからココンの町までは、想像していたより遠かった。
     丘を下り、その先の海に架かる長い長い橋を渡って行く。
     バイクはあい変わらずノコノコと走り、安心してカメラのシャッターを押せる。
     このバイクのおじさん、いい人なのかも知れないと思いはじめる。

  •  あれがココンの町らしい。<br /> ここからだと、海の上に浮いているように見える。

     あれがココンの町らしい。
     ここからだと、海の上に浮いているように見える。

  •  橋を渡りきると、バイクのおじさんがしきりに話しかけてくる。<br /> 「ホテルに着いたら、その後はとこに行くんだ・・・?<br /> いい所知ってるから、案内してやるよ・・・」<br /> 聞き取りにくい英語ではあるが、片言英語なので私には理解しやすい。

     橋を渡りきると、バイクのおじさんがしきりに話しかけてくる。
     「ホテルに着いたら、その後はとこに行くんだ・・・?
     いい所知ってるから、案内してやるよ・・・」
     聞き取りにくい英語ではあるが、片言英語なので私には理解しやすい。

  •  通行量が少ないがらんとした道路が続く。<br /> 太陽の光だけがじりじりと照りつける。<br /> バイクおじさんの声が、何度も何度も繰り返される。<br /> 「ホテルについたら、いいとこ連れってやる・・・」<br /> こいつ、お人よしの観光客だと思って、観光案内してぼる気だな。<br /> いい人から危険人物に変わった。

     通行量が少ないがらんとした道路が続く。
     太陽の光だけがじりじりと照りつける。
     バイクおじさんの声が、何度も何度も繰り返される。
     「ホテルについたら、いいとこ連れってやる・・・」
     こいつ、お人よしの観光客だと思って、観光案内してぼる気だな。
     いい人から危険人物に変わった。

  •  賑やかな場所に近づいている。<br /> すると、途中勝手に両替所に立ち寄って<br /> 「ここで両替しろ。」<br /> 旅行代理店の看板の前に止まって<br /> 「バスのチケットはここで買え。」<br /> などと、そこに入って行きそうになるが、バイタクに連れて行かれるとその先々でぼられるに決まっている。<br /> 「あなたの英語、よく分からない・・」<br /> 分からないふりを続けのがベターだ。<br /> もっとも運転手の話す英語は、本当に理解しにくい。

     賑やかな場所に近づいている。
     すると、途中勝手に両替所に立ち寄って
     「ここで両替しろ。」
     旅行代理店の看板の前に止まって
     「バスのチケットはここで買え。」
     などと、そこに入って行きそうになるが、バイタクに連れて行かれるとその先々でぼられるに決まっている。
     「あなたの英語、よく分からない・・」
     分からないふりを続けのがベターだ。
     もっとも運転手の話す英語は、本当に理解しにくい。

  •  運転手に『リーチ・ココン・ホテル』と言ってはあるが、この運転手はどうも違うホテルに連れて行きたがっているようだ。<br /> 「リーチ・ココン・ホテル!! リーチ・ココン・ホテル!!」<br /> バイクおじさんの耳もとで何度も叫び続ける。<br /> ここで負けるわけにはいかない。

     運転手に『リーチ・ココン・ホテル』と言ってはあるが、この運転手はどうも違うホテルに連れて行きたがっているようだ。
     「リーチ・ココン・ホテル!! リーチ・ココン・ホテル!!」
     バイクおじさんの耳もとで何度も叫び続ける。
     ここで負けるわけにはいかない。

  •  バイクが止まったのは市場の前だった。<br /> えっ、こんな場所?<br /> こんな薄汚いところにゲストハウスがあるの?

     バイクが止まったのは市場の前だった。
     えっ、こんな場所?
     こんな薄汚いところにゲストハウスがあるの?

  •  バイクおじさんに連れて行かれたのは確かに『リーチ・ココン・ホテル』だった。<br /> 一度外に出て、看板を探して確かめた。<br /> 汚い建物だった。<br /> フロントも、あるのかないのか分からないゲストハウスだ。

     バイクおじさんに連れて行かれたのは確かに『リーチ・ココン・ホテル』だった。
     一度外に出て、看板を探して確かめた。
     汚い建物だった。
     フロントも、あるのかないのか分からないゲストハウスだ。

  •  入り口にいた娘は、ろくに部屋を示すこともできず、ただ微笑んでいるだけだった。<br /> バイクおじさんが勝手に部屋のキーを手に持つと、私を部屋に案内し、どうのこうのと説明する。<br /> 入り口にいた娘はうろうろするだけで、部屋の前で立ちつくしている。<br /> 「あんた、このホテルの人なの?」<br /> 私は怒りに満ちた口調でバイクおじさんにまくしたてた。<br /> なんなんだ、カンボジアというのは。

     入り口にいた娘は、ろくに部屋を示すこともできず、ただ微笑んでいるだけだった。
     バイクおじさんが勝手に部屋のキーを手に持つと、私を部屋に案内し、どうのこうのと説明する。
     入り口にいた娘はうろうろするだけで、部屋の前で立ちつくしている。
     「あんた、このホテルの人なの?」
     私は怒りに満ちた口調でバイクおじさんにまくしたてた。
     なんなんだ、カンボジアというのは。

  •  2階の部屋は、シングルベッドが1つの部屋と、シングルベッドが2つある部屋の2種類だった。<br /> ベッドが1つの部屋はファンで、2つある部屋にはエアコンがある。<br /> どうせ1泊だ、ベッド1つの部屋で充分だと考えてそう言うと、10ドルだという。<br /> ネット情報では150バーツ(6ドル)のはずなのに。

     2階の部屋は、シングルベッドが1つの部屋と、シングルベッドが2つある部屋の2種類だった。
     ベッドが1つの部屋はファンで、2つある部屋にはエアコンがある。
     どうせ1泊だ、ベッド1つの部屋で充分だと考えてそう言うと、10ドルだという。
     ネット情報では150バーツ(6ドル)のはずなのに。

  •  しかし、もうどうでもよくなるほど気持ちは疲れ切っていて、10ドル支払って部屋に荷物を運び入れることにした。<br /> 受付台帳(メモ用紙)に自分の名前とパスポート番号を記入しただけで、手続きは終わってしまった。<br /> ところが部屋に戻るとキーが壊れていて、ガチャガチャやってもドアが開かない。<br /> 即刻ベッドが2つにエアコンのある部屋に移ることになったが、料金はそのままだった。

     しかし、もうどうでもよくなるほど気持ちは疲れ切っていて、10ドル支払って部屋に荷物を運び入れることにした。
     受付台帳(メモ用紙)に自分の名前とパスポート番号を記入しただけで、手続きは終わってしまった。
     ところが部屋に戻るとキーが壊れていて、ガチャガチャやってもドアが開かない。
     即刻ベッドが2つにエアコンのある部屋に移ることになったが、料金はそのままだった。

  •  水は出たがお湯は出なかった。<br /> 湯沸しが故障している。<br /> シャワーは暑い昼間のうちに済ませなくてはならない。<br /> ふたのない便座、水槽に水をためて手動でウォシュレットするトイレ。<br /> あるだけましか。<br /> 不服は言うまい。<br /> ここはカンボジアなのだから。<br /> と思ったら、エアコンもガーガーと音を立てるだけで、冷たい空気は出てこなかった。

     水は出たがお湯は出なかった。
     湯沸しが故障している。
     シャワーは暑い昼間のうちに済ませなくてはならない。
     ふたのない便座、水槽に水をためて手動でウォシュレットするトイレ。
     あるだけましか。
     不服は言うまい。
     ここはカンボジアなのだから。
     と思ったら、エアコンもガーガーと音を立てるだけで、冷たい空気は出てこなかった。

  •  部屋の前には卓球テーブルがドテン。<br /> なぜこんな所に。<br /> 日本の温泉旅館か?

     部屋の前には卓球テーブルがドテン。
     なぜこんな所に。
     日本の温泉旅館か?

  •  入り口から外に出ると、目の前は市場。<br /> 市場から出るごみや埃が道路の脇にたまり、その一部がゲストハウスの中にも舞い散ってきそうだ。<br /> 汚いところは平気だったはずのなのに、この雰囲気に負けてげっそりしてくる。

     入り口から外に出ると、目の前は市場。
     市場から出るごみや埃が道路の脇にたまり、その一部がゲストハウスの中にも舞い散ってきそうだ。
     汚いところは平気だったはずのなのに、この雰囲気に負けてげっそりしてくる。

  •  何か食べるものはないか。<br /> 市場の中に入ってみると、灯りのない建物の中は薄暗く、市場独特の魚のにおいで食欲は急に減退する。<br /> 肉を売っているおばちゃんがにっこり笑う。<br /> この生肉のかたまりじゃ、そのままでは食べれません。

     何か食べるものはないか。
     市場の中に入ってみると、灯りのない建物の中は薄暗く、市場独特の魚のにおいで食欲は急に減退する。
     肉を売っているおばちゃんがにっこり笑う。
     この生肉のかたまりじゃ、そのままでは食べれません。

  •  手に入ったものを無造作に並べたようなみすぼらしい市場。<br /> 商品も少ない。<br /> 食べもの屋台はありません。<br /> さらっと見ただけで、退散。<br /> ボーダーとバイクおじさんとのせめぎあいで、もう気力が枯れています。

     手に入ったものを無造作に並べたようなみすぼらしい市場。
     商品も少ない。
     食べもの屋台はありません。
     さらっと見ただけで、退散。
     ボーダーとバイクおじさんとのせめぎあいで、もう気力が枯れています。

  •  町の中心道路はしっかり舗装もされていて、すごく広い。<br /> その広々している道路を走っているのはバイクと自転車で、ときたま車が通るだけだ。<br /> 道路を横切るにもなんの苦労もない。<br /> ゲストハウスの周囲をぐるっと一回りし、飲み水や食料を探したが、それはらいったいど<br />こで売っているのだろうか。<br /> 雑貨屋が見つからない、コンビニが見つからない。<br /> 小ぎれいなブティックやレストランなどあろうはずがなく、ショッピングセンターなど夢物語。<br /> 路上にあるはずの屋台さえ見つからない。<br /> 今夜はどこで食べようか。<br />

     町の中心道路はしっかり舗装もされていて、すごく広い。
     その広々している道路を走っているのはバイクと自転車で、ときたま車が通るだけだ。
     道路を横切るにもなんの苦労もない。
     ゲストハウスの周囲をぐるっと一回りし、飲み水や食料を探したが、それはらいったいど
    こで売っているのだろうか。
     雑貨屋が見つからない、コンビニが見つからない。
     小ぎれいなブティックやレストランなどあろうはずがなく、ショッピングセンターなど夢物語。
     路上にあるはずの屋台さえ見つからない。
     今夜はどこで食べようか。

  •  ネット情報はあまりあてになるものではない。<br /> ゲストハウスにしても、情報とはまるで違っている。<br /> 市場や飯屋をはじめとする店が近くに集まっているというが、それはどこにあるのか。

     ネット情報はあまりあてになるものではない。
     ゲストハウスにしても、情報とはまるで違っている。
     市場や飯屋をはじめとする店が近くに集まっているというが、それはどこにあるのか。

  •  ロータリー近くを歩いていると、『レンタルバイク&バイスクル』の小さな看板が目に入った。<br /> 『洋食あります』の案内板も横にある。<br /> (もちろん英語で書いてある)<br /> さっそくレンタル自転車を申し込むと、その店の主人は品の良い欧米人のおじさんだった。<br /> ここはゲストハウスなんだと、部屋を見せてくれた。<br /> 清潔で快適な部屋に見えた。<br /> エアコン、TVはもちろん、冷蔵庫まで備えてあって、400バーツだ。<br /> 中庭には小さなプールまである。<br /> 掃き溜めに鶴。<br /> まさにそれだ。<br /> 明日はここに引っ越ししよう。<br /> 自転車を借りて勇んで外に飛び出した。

     ロータリー近くを歩いていると、『レンタルバイク&バイスクル』の小さな看板が目に入った。
     『洋食あります』の案内板も横にある。
     (もちろん英語で書いてある)
     さっそくレンタル自転車を申し込むと、その店の主人は品の良い欧米人のおじさんだった。
     ここはゲストハウスなんだと、部屋を見せてくれた。
     清潔で快適な部屋に見えた。
     エアコン、TVはもちろん、冷蔵庫まで備えてあって、400バーツだ。
     中庭には小さなプールまである。
     掃き溜めに鶴。
     まさにそれだ。
     明日はここに引っ越ししよう。
     自転車を借りて勇んで外に飛び出した。

  •  そのまま自転車にまたがり、郊外に向かって出発する。<br /> ロータリーから東に伸びる道を進んでいく。<br /> 舗装は道路の中央だけ。<br /> 端っこには水溜りがあった。<br /> 道の両側には小汚い商店や民家が並んでいた。<br /> 店先のおばさんや子供たちが、通りすぎる私に好奇の眼差しを投げてくる。<br /> 水を買った。<br /> 1ドル札を出すと、お釣りはリエルでかえってきた。<br /><br /> 頼りになるのはネットから取り出した地図と噂話。<br /> 私の頭のすみには『ブラックアジア』の世界がちらついている。<br /> 『ブラックアジア』はアジアの貧困世界をえがいたサイトだ。<br /> 芳醇な赤い大地、ほこりっぽい土の匂い、走り回る子供、香辛料の香りを放つ女性・・・<br /> やくざまがいの警察官、社会から隠された差別村、人身売買、暴力、人々の笑顔・・・<br /> 危険を承知であてもなくアジアを彷徨っていたパックパッカーの記録だ。<br /> アジアに魅了され、日本社会から脱落してしまった旅行記が、私の心に火をつける。<br /> とても真似はできないが、その一端でも味わってみたい。<br /> 私は途方もない夢をみる。<br /><br /> 表面的には穏やかで、波風たたない日本の生活に埋没していると、そんな気持ちが湧き上がってくるのです。

     そのまま自転車にまたがり、郊外に向かって出発する。
     ロータリーから東に伸びる道を進んでいく。
     舗装は道路の中央だけ。
     端っこには水溜りがあった。
     道の両側には小汚い商店や民家が並んでいた。
     店先のおばさんや子供たちが、通りすぎる私に好奇の眼差しを投げてくる。
     水を買った。
     1ドル札を出すと、お釣りはリエルでかえってきた。

     頼りになるのはネットから取り出した地図と噂話。
     私の頭のすみには『ブラックアジア』の世界がちらついている。
     『ブラックアジア』はアジアの貧困世界をえがいたサイトだ。
     芳醇な赤い大地、ほこりっぽい土の匂い、走り回る子供、香辛料の香りを放つ女性・・・
     やくざまがいの警察官、社会から隠された差別村、人身売買、暴力、人々の笑顔・・・
     危険を承知であてもなくアジアを彷徨っていたパックパッカーの記録だ。
     アジアに魅了され、日本社会から脱落してしまった旅行記が、私の心に火をつける。
     とても真似はできないが、その一端でも味わってみたい。
     私は途方もない夢をみる。

     表面的には穏やかで、波風たたない日本の生活に埋没していると、そんな気持ちが湧き上がってくるのです。

  •  町から離れると立派な家がポツリポツリと建っていた。<br /> こぎれいなホテルもある。<br /> ナイトクラブらしき看板もあった。<br /> こんな辺鄙な郊外に、ココンのお金持ちは住んでいるらしい。<br /> 遊びに来る人もいるらしい。<br /> いったい誰が?

     町から離れると立派な家がポツリポツリと建っていた。
     こぎれいなホテルもある。
     ナイトクラブらしき看板もあった。
     こんな辺鄙な郊外に、ココンのお金持ちは住んでいるらしい。
     遊びに来る人もいるらしい。
     いったい誰が?

  •  道は途中から舗装が切れて、でこぼこの赤土の道に変わってしまった。<br /> 民家もなくなり、この先にはジャングルが続いている。<br /> これがあこがれのカンボジアだと、勝手な判断で喜びながら、汗をしたたせながらペダルを漕いだ。

     道は途中から舗装が切れて、でこぼこの赤土の道に変わってしまった。
     民家もなくなり、この先にはジャングルが続いている。
     これがあこがれのカンボジアだと、勝手な判断で喜びながら、汗をしたたせながらペダルを漕いだ。

  •  民家などないと思っていたのに、建設現場が現れた。<br /> 巨大な建物を作っていた。<br /> 小さな家屋もある。<br /> でも人の姿は見えなかった。<br /> 空き家のようだ。<br /> 人だけ消えてしまったのか?

     民家などないと思っていたのに、建設現場が現れた。
     巨大な建物を作っていた。
     小さな家屋もある。
     でも人の姿は見えなかった。
     空き家のようだ。
     人だけ消えてしまったのか?

  •  もう少し進んでみよう。<br /> 謎の建設現場を通り越して、さらに東に東に・・・

     もう少し進んでみよう。
     謎の建設現場を通り越して、さらに東に東に・・・

  •  南に入り込む細い道があった。<br /> まさか地雷が埋まっているわけはないだろう。<br /> 盗賊もいそうにない。<br /> まだ昼間だから。  <br /> 目指すは、きっとこの先に違いない。

     南に入り込む細い道があった。
     まさか地雷が埋まっているわけはないだろう。
     盗賊もいそうにない。
     まだ昼間だから。  
     目指すは、きっとこの先に違いない。

  •  水溜り、でこぼこ穴を避けながらくねくねと進入していくと、荒れ果てた広場に散らばる数軒の小屋が目に入ってきた。<br /> ここなんだろうか?<br /> 頼りない情報をもとにこんな所までやって来て、探しているのは『隠れ村』だ。<br /> <br /> 『ブラックアジア』の中に出てくる隠れ村。<br /> カンボジアにも身分差別の賎民が作られていて、その人たちは迫害を受け、人里離れた山の中にひっそりと暮らしているという。<br /> ブラックアジアの作者が愛しみ続けた村だ。<br /> 興味本位に近づくべきではないが、そっと覗いてみたいという気持ちに負けて、来てしまった。<br /> こんな町に近い所にあるはずはないが、もしかしたらここもその隠れ村ではないのか。

     水溜り、でこぼこ穴を避けながらくねくねと進入していくと、荒れ果てた広場に散らばる数軒の小屋が目に入ってきた。
     ここなんだろうか?
     頼りない情報をもとにこんな所までやって来て、探しているのは『隠れ村』だ。
     
     『ブラックアジア』の中に出てくる隠れ村。
     カンボジアにも身分差別の賎民が作られていて、その人たちは迫害を受け、人里離れた山の中にひっそりと暮らしているという。
     ブラックアジアの作者が愛しみ続けた村だ。
     興味本位に近づくべきではないが、そっと覗いてみたいという気持ちに負けて、来てしまった。
     こんな町に近い所にあるはずはないが、もしかしたらここもその隠れ村ではないのか。

  •  立ち止まって注意深く様子を探る。<br /> 10軒ほどの小屋が散らばっている。<br /> カンボジアの国旗がひらめいている小屋もある。<br /> ここから奥には道はないらしい。

     立ち止まって注意深く様子を探る。
     10軒ほどの小屋が散らばっている。
     カンボジアの国旗がひらめいている小屋もある。
     ここから奥には道はないらしい。

  •  ある家の前に数人の住民がいた。<br /> 家族で食事の支度でもしているのか、私には目もくれない。<br /> いや食事のしたくではなさそうだ。<br /> 祝い事の準備をしているようだ。<br /> 話しかけてみようとも思ったが、その勇気がなく、遠くから見ていた。

     ある家の前に数人の住民がいた。
     家族で食事の支度でもしているのか、私には目もくれない。
     いや食事のしたくではなさそうだ。
     祝い事の準備をしているようだ。
     話しかけてみようとも思ったが、その勇気がなく、遠くから見ていた。

  •  朽ちた柱、さびついたトタン屋根。<br /> こちらの家は誰もいないようだ。<br /> 洗濯物が干してあり、ドアは開いている。<br /> シーンとしている。

     朽ちた柱、さびついたトタン屋根。
     こちらの家は誰もいないようだ。
     洗濯物が干してあり、ドアは開いている。
     シーンとしている。

  •  別の家の前には幼児が遊んでいた。<br /> 入り口には2人の女性がこっちを見ている。<br /> 「ハロー・・」<br /> 勇気をふりしぼって声をかけてみる。<br /> 女性はパジャマ姿だった。<br /> 町でもそうだったが、女性や子どもは昼間でもパジャマを着ている。<br /> これがこちらの普段着のようだ。<br /> 「ハロー」と声が返ってきた。 <br /> 間近で見ると女性の鼻筋とおでこには白い粉が塗ってあり、歳のころは20代後半に見える。<br /> 白い粉は木から作られた粉末で、日焼け防止に塗るのだそうだ。<br /> <br /> 家にはドアがないも同然で、中が丸見えだった。<br /> しかし暗くて目が慣れないとはっきりしない。<br /> 分かったことは全てが土間だということ。<br /> そこに木製の台があって、その上に汚いマットレス。<br /> ハンモックも架かっている。<br /> 板張りの壁には吊るされた衣類やタオル。<br /> ここに何人もの家族が住んでいるんだろう。<br /><br /> 言葉も通じず、気まずさだけが大きくなって、おずおずと後退してしまった。<br /> 何を怖がっているんだ。

     別の家の前には幼児が遊んでいた。
     入り口には2人の女性がこっちを見ている。
     「ハロー・・」
     勇気をふりしぼって声をかけてみる。
     女性はパジャマ姿だった。
     町でもそうだったが、女性や子どもは昼間でもパジャマを着ている。
     これがこちらの普段着のようだ。
     「ハロー」と声が返ってきた。 
     間近で見ると女性の鼻筋とおでこには白い粉が塗ってあり、歳のころは20代後半に見える。
     白い粉は木から作られた粉末で、日焼け防止に塗るのだそうだ。
     
     家にはドアがないも同然で、中が丸見えだった。
     しかし暗くて目が慣れないとはっきりしない。
     分かったことは全てが土間だということ。
     そこに木製の台があって、その上に汚いマットレス。
     ハンモックも架かっている。
     板張りの壁には吊るされた衣類やタオル。
     ここに何人もの家族が住んでいるんだろう。

     言葉も通じず、気まずさだけが大きくなって、おずおずと後退してしまった。
     何を怖がっているんだ。

  •  暑い。<br /> こっちでは女の子が犬と遊んでいた。<br /> 「ハロー」<br /> 女の子は黙ったまま、じっとしている。<br /> <br /> ここは『隠れ村』なのだろうか。<br /> 全く分からなかった。<br /> 分からないまま、帰ることにした。

     暑い。
     こっちでは女の子が犬と遊んでいた。
     「ハロー」
     女の子は黙ったまま、じっとしている。
     
     ここは『隠れ村』なのだろうか。
     全く分からなかった。
     分からないまま、帰ることにした。

  •  入り江沿いにやって来ると、美味そうな匂いを放って屋台が並んでいた。<br /> きれいなお姉さんが営業する屋台のテーブルには、二人の子供が座っている。<br /> なんだ、屋台はあるじゃないか。<br /> おっ、何を食べているんろう。<br /> 覗き込むと鶏の足とトサカ焼きを美味そうにかじっていた。<br /> 匂いは美味そうだが、ウロコと爪のある足は、見るだけでだめだ。<br /> お姉さんに勧めをやんわり断って、子供たちの食べっぷりを眺めていた。

     入り江沿いにやって来ると、美味そうな匂いを放って屋台が並んでいた。
     きれいなお姉さんが営業する屋台のテーブルには、二人の子供が座っている。
     なんだ、屋台はあるじゃないか。
     おっ、何を食べているんろう。
     覗き込むと鶏の足とトサカ焼きを美味そうにかじっていた。
     匂いは美味そうだが、ウロコと爪のある足は、見るだけでだめだ。
     お姉さんに勧めをやんわり断って、子供たちの食べっぷりを眺めていた。

  •  お姉さんと子供は笑っている。<br /> この後どこの屋台にも、必ず鶏の足とトサカが並べられていて、私を困らせた。<br /> 意気地がない男である。<br /> 『ブラックアジア』に魅せられているとはお笑い種です。

     お姉さんと子供は笑っている。
     この後どこの屋台にも、必ず鶏の足とトサカが並べられていて、私を困らせた。
     意気地がない男である。
     『ブラックアジア』に魅せられているとはお笑い種です。

  •  ココン橋の見える場所まで走ってきた。<br /> この橋ができる前は渡し舟の時代だったはず。<br /> 人の乗る小舟や、荷物を運搬する大型船が、両岸を行き交いしていたんだろうか。

     ココン橋の見える場所まで走ってきた。
     この橋ができる前は渡し舟の時代だったはず。
     人の乗る小舟や、荷物を運搬する大型船が、両岸を行き交いしていたんだろうか。

  •  桟橋の先っぽにいるのは魚釣りの家族なのか?

     桟橋の先っぽにいるのは魚釣りの家族なのか?

  •  やはりそうだった。<br /> お父さんと若くてきれいなお母さんが釣り糸をたれていた。<br /> 子どもが5人。<br /> 子どもはみんな男の子で、見るからにいたずらそうだ。

     やはりそうだった。
     お父さんと若くてきれいなお母さんが釣り糸をたれていた。
     子どもが5人。
     子どもはみんな男の子で、見るからにいたずらそうだ。

  •  兄弟なのか、近所の子どもも混ざっているのか。<br /> 子どもはじっとしていられない。<br /> 立ったり座ったり、あっちこっちへふらふら歩いたり。<br /> どたばた音をたてたりしたら魚が逃げてしまいますよ。

     兄弟なのか、近所の子どもも混ざっているのか。
     子どもはじっとしていられない。
     立ったり座ったり、あっちこっちへふらふら歩いたり。
     どたばた音をたてたりしたら魚が逃げてしまいますよ。

  •  大きな子どもも小っこい子どもも、じゃれあうのが大好きなようだ。<br /> じゃれあいが本気になってきた。<br /> 倒した相手に馬乗りになって転がり回っている。

     大きな子どもも小っこい子どもも、じゃれあうのが大好きなようだ。
     じゃれあいが本気になってきた。
     倒した相手に馬乗りになって転がり回っている。

  •  小さな子供は負けてばかりいるが、それでも泣きもせずに、大きな子にぶつかっていく。<br /> 小さいくせに根性あるなあ。<br /> 大きな子も手加減しない。<br /> おいっ、怪我するぞ。<br /> 親は止めもしない。

     小さな子供は負けてばかりいるが、それでも泣きもせずに、大きな子にぶつかっていく。
     小さいくせに根性あるなあ。
     大きな子も手加減しない。
     おいっ、怪我するぞ。
     親は止めもしない。

  •  そうかと思うと、今度はクライミング。<br /> 

     そうかと思うと、今度はクライミング。
     

  •  コンテナのような箱にしがみついて岩山登りの練習?<br /> ワイルドに遊ぶ道具はそこらじゅうに転がっている。<br /> ゲーム機はなくても、遊ぶものはふんだんにある。

     コンテナのような箱にしがみついて岩山登りの練習?
     ワイルドに遊ぶ道具はそこらじゅうに転がっている。
     ゲーム機はなくても、遊ぶものはふんだんにある。

  • 入り江に沿って南に走ると様相が変わってきた。<br />小さな川あってその橋の上から入り江を見ると、船が群れていた。

    入り江に沿って南に走ると様相が変わってきた。
    小さな川あってその橋の上から入り江を見ると、船が群れていた。

  •  反対側を見ると、半分川の中に突き出した民家がぎっしり。<br /> 生活排水で川はにごり、泥沼のような悪臭が漂う。

     反対側を見ると、半分川の中に突き出した民家がぎっしり。
     生活排水で川はにごり、泥沼のような悪臭が漂う。

  •  ゲストハウスに帰り休んでいると、大粒の雨が道路や屋根の上で跳ね回っていた。<br /> 部屋の前の卓球場で、数人のカンボジア人がラケットを振り回している。<br /> まずまずの腕前だが、卓球クラブの小学生には負けてしまうな。<br /><br /> 雨は1時間ほどで嘘のようにやんだが、道路には大きな水たまりやぬかるみができ、濡れた道路は光を吸収して真っ黒になっていた。<br /> 日が沈みかけ、町全体に薄闇が広がっている。

     ゲストハウスに帰り休んでいると、大粒の雨が道路や屋根の上で跳ね回っていた。
     部屋の前の卓球場で、数人のカンボジア人がラケットを振り回している。
     まずまずの腕前だが、卓球クラブの小学生には負けてしまうな。

     雨は1時間ほどで嘘のようにやんだが、道路には大きな水たまりやぬかるみができ、濡れた道路は光を吸収して真っ黒になっていた。
     日が沈みかけ、町全体に薄闇が広がっている。

  •  食堂が見つかった。<br /> 昼間は閉まっていて、夕方になると開くようだ。<br /> ぼそっと明かりが灯る大衆食堂で、パイナップルの煮物と肉料理、豆乳を注文すると、大皿にたっぷりの飯と料理が運ばれてきて、一人だけのカンボジア到着記念の夕食となった。<br /> カンボジア料理は、辛くも酸っぱくもなく、日本人の口に合うまろやかな味だった。<br /> ふと外を見ると、あのイタリアおじさんがとぼとぼと頼りなげに通り過ぎて行った。<br /> ミニバンで一緒だった他の欧米人たちはどうしたんだろう。<br /> ボーダーで別れた後、こんな狭い町なのにさっぱり見ていない。

     食堂が見つかった。
     昼間は閉まっていて、夕方になると開くようだ。
     ぼそっと明かりが灯る大衆食堂で、パイナップルの煮物と肉料理、豆乳を注文すると、大皿にたっぷりの飯と料理が運ばれてきて、一人だけのカンボジア到着記念の夕食となった。
     カンボジア料理は、辛くも酸っぱくもなく、日本人の口に合うまろやかな味だった。
     ふと外を見ると、あのイタリアおじさんがとぼとぼと頼りなげに通り過ぎて行った。
     ミニバンで一緒だった他の欧米人たちはどうしたんだろう。
     ボーダーで別れた後、こんな狭い町なのにさっぱり見ていない。

  •  食べ終わって驚いた。<br /> この町はこんなに暗いのか。<br /> 道路脇の商店や民家からは漏れてくる灯はぼんやりと頼りなく、その場だけを照らしているだけで広い道路にまでは届かない。<br /> バイクの灯がまぶしく移動していくが、明かりは黒い道路に吸収され、町の明るさにはなんら寄与しない。<br /> 道路の先を見ると、吸い込まれるような闇が広がっているだけで、一点の明かりもなかった。<br /> 水たまりとぬかるみだらけの悪路は、まともに歩ける状態ではなかった。<br /> 今夜はこのまま寝てしまおう。<br /> ベッドの上の毛布をめくると、中に潜んでいた大きなゴキブリが逃げていった。

     食べ終わって驚いた。
     この町はこんなに暗いのか。
     道路脇の商店や民家からは漏れてくる灯はぼんやりと頼りなく、その場だけを照らしているだけで広い道路にまでは届かない。
     バイクの灯がまぶしく移動していくが、明かりは黒い道路に吸収され、町の明るさにはなんら寄与しない。
     道路の先を見ると、吸い込まれるような闇が広がっているだけで、一点の明かりもなかった。
     水たまりとぬかるみだらけの悪路は、まともに歩ける状態ではなかった。
     今夜はこのまま寝てしまおう。
     ベッドの上の毛布をめくると、中に潜んでいた大きなゴキブリが逃げていった。

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この旅行記へのコメント (3)

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  • trat baldさん 2015/12/24 09:02:34
    コ・コン(コン島)って本当は南に島が有るのよね。
    天国と地獄が同居するカンボジアに辿り着きましたネ(^o^)
    橋の架かっているのは陸地の方のココンなんだよね、ファラン達は島に移動したのかも知れない、、、、

    motogen

    motogenさん からの返信 2015/12/25 17:16:17
    RE: コ・コン(コン島)って本当は南に島が有るのよね。
     ココンに島ってあったんですか。
     全く知りませんでした。
     今思うと、もっとココンに居れば良かったかと思います。
     もう一度行ってみたいけど、あのボーダーを思い出すと行きたくありません。
     今じゃ、1500バーツって言うかな。
     20ドルが30ドルになったし。
     ネシアもビザ不要になったそうですが、カンボジアはいつなるんでしょうか。
     そうなればもっと観光客が増えると思うだけど。

    trat bald

    trat baldさん からの返信 2015/12/26 09:17:05
    motogenさんなら行ける!
    コ・コン程度ならハートレークかクロンヤイの渡し舟なら国境関係なしに往来しています、シアヌークビル辺りだとちょいヤバイかな?

    >  ココンに島ってあったんですか。
    >  全く知りませんでした。
    >  今思うと、もっとココンに居れば良かったかと思います。
    >  もう一度行ってみたいけど、あのボーダーを思い出すと行きたくありません。
    >  今じゃ、1500バーツって言うかな。
    >  20ドルが30ドルになったし。
    >  ネシアもビザ不要になったそうですが、カンボジアはいつなるんでしょうか。
    >  そうなればもっと観光客が増えると思うだけど。

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