ときめきのイタリア周遊⑭ローマ編Part2

2013/05/02 - 2013/05/11

ローマ編Part.2は、人気スポットのコロッセオや真実の口、トレビの泉、スペイン広場の他、フリータイムで訪ねたサンタンドレア・デッレ・フラッテ教会とサンタ・マリア・ソプラ・ミネルヴァ教会を中心にお届けします。
コロッセオは、永遠の都ローマの映像的代名詞とも称えられる世界遺産です。古代ローマ帝国時代の威光を今に遺す巨大遺跡と対峙すると、昔日の湧上る歓声が聞こえてくるようなトランス状態に陥ります。
サンタ・マリア・イン・コスメディン教会（真実の口）では、映画「ローマの休日」のワンシーンを自ら演じ、それを写真に収めるのがお決まりのコース。ご多聞に洩れず、当方も映画スター張りにポーズをとります。
また、「ローマのシンボル」と称えられるトレビの泉では、大理石彫像の間を滔々と流れる落ちる噴水にコインを投げ入れ、心に秘めた願掛けをします。
そして世界中の女性が憧れるスペイン広場では、絵葉書でもおなじみのピンクのアザレアの花と青い太陽のコントラストの妙に魅了されます。
ありきたりの観光スポットですが、それ故に潤沢な魅力を兼ね備えていますので、決して侮ることはできません。

＜日程＞
５月２日：出発（関空～ローマ経由ミラノ）アリタリア航空（AZ793便）
　　　　　アタホテル クァーク宿泊
５月３日：午前　ミラノ観光
　　　　　午後　ヴェローナ観光
　　　　　アマデウス（ヴェネツィア本島）宿泊
５月４日：ヴェネツィア観光
　　　　　午後　フィレンツェへバス移動（２４５ｋｍ）
　　　　　クローチェ・ディ・マルタ宿泊　（２連泊）
５月５日：午前　フィレンツェ観光
　　　　　午後　ピサ観光
　　　　　クローチェ・ディ・マルタ宿泊　（２連泊）
５月６日：午前　フリータイム
　　　　　午後　イタリア版新幹線「イタロ」でナポリへ
　　　　　ホリディイン・ナポリ宿泊
５月７日：アマルフィ海岸ドライブ（３時間半）
　　　　　午後　ポンペイ遺跡見学
　　　　　高速船でカプリ島へ移動（４５分）→フリータイム
　　　　　レジーナ・クリスティーナ宿泊
５月８日：カプリ島観光
　　　　　午後　ナポリ港着後、ローマへバスで移動
　　　　　シェラトン・ゴルフ・パルコ・デ・メディチ宿泊（２連泊）
５月９日：ローマ市内観光
　　　　　ヴァチカン博物館（１時間半）→サン・ピエトロ大聖堂
　　　　　（３０分）→ランチ（日本食）→コロッセオ（外観）→
　　　　　ショッピング（マルコ・アウレリオ：４０分）→
　　　　　サンタ・マリア・イン・コスメディン教会（真実の口）→
　　　　　トレビの泉～スペイン広場（徒歩）→フリータイム
　　　　　（１時間２０分：サンタンドレア・デッレ・フラッテ教会→
　　　　　サンタ・マリア・ソプラ・ミネルヴァ教会→パンテオン外観→
　　　　　コロンナ広場）→カンツォーネ・ディナー
　　　　　シェラトン・ゴルフ・パルコ・デ・メディチ宿泊（２連泊）
５月１０日：ローマ市内観光
　　　　　ナヴォーナ広場→サンタゴスティーノ教会→パンテオン
　　　　　観光後、ローマ空港へ
　　　　　アリタリア航空（AZ792便）で一路関空へ　
５月１１日：関空着

エリア ローマ(イタリア)

• 旅行の満足度: 5.0
• 観光: 5.0

• 同行者: カップル・夫婦
• 一人あたり費用: 30万円 - 50万円
• 交通手段: 観光バス 徒歩
• 旅行の手配内容: ツアー（添乗員同行あり）
• 利用旅行会社: 阪急交通社

サンタンジェロ城（車窓）
サン・ピエトロ大聖堂を後にして、バスでランチ会場に向かいます。本日のランチは日本食。久々に熱いお茶が飲めます。場所は、ノメンターナ街道にあるピア門の近くです。
途中で渡ったプリンチペ・アメデオ橋の上からサンタンジェロ城が見えました。手前の橋は、ヴィットリア・エマヌエーレ２世（久々の登場です）橋です。地図で確認してみると、丁度テヴェレ川が大きく蛇行している箇所です。

サンタンジェロ城（車窓）
城の頂点には、この城の象徴であるプロンズ製大天使ミカエルが剣を鞘に収める雄姿で見守っています。２世紀にローマ皇帝の霊廟として建てられ、その後は要塞、教皇の避難場所、牢獄と多様な役割を担ってきました。５９０年、教皇グレゴリウス１世がローマで大流行していたペストの終焉を祈っていた折、大天使ミカエルが現れ、剣を鞘に収めた時に疫病に終止符が打たれたと言われています。その後、サンタンジェロ（＝聖天使）城と命名されたそうです。ブロンズ製聖ミカエル像は、１７５２年にラファエレ・ダ・モネルポが制作したもので、それまでは大理石像だったそうです。
ここにはパッセットと呼ばれるヴァチカンと直結する通路があり、度重なる修繕によって城内には無数の隠し部屋や秘密の入口が存在するとの噂も絶えません。敷地が五芒星の形をしているのも異質です。また、この城はオペラ「トスカ」の舞台となったことでも知られています。

ジェズ教会（車窓）
ヴィットリオ・エマヌエーレ２世大通りを東へ進むとジェズ教会のファサードとドームが見えてきます。
ジェズ教会とはイエズス会の総本山。ルターの宗教改革の波を受け、カトリック側に起こった教義の堕落と異端に立ち向かう修道会つまりイエズス会が、世界布教を目的として最初に造った教会です。１５６８年、アレッサンドロ・ファルネーゼ枢機卿の出資で建設が始まり、１５８２年、ジャコモ・デラ・ポルタがファサードを造って完成しました。ファサードは「世界初の真のバロック様式のファサード」と称されます。 因みに、ジェズ教会のイタリア語Gesuは、英語ではJesusで、イエス・キリストのイエスに相当する単語です。正面入口の上にはイエズス会の紋章（ＩＨＳの上に十字架）が彫られています。ＩＨＳが何を表すかは諸説あり一致を見ませんが、いずれにしてもイエスを表すようです。
この教会には、日本でもお馴染みのフランシスコ・ザビエルにまつわるあるものが奉納されています。ザビエルは１６世紀に来日し、中国で亡くなりましたが、ここには彼の礼拝堂があります。そして何が奉納されているかと言うと、彼の右手が納められています。リアルな右手のミイラをガラス越しに見ることができるそうです。
ザビエルは１５５２年に４６歳で生涯を閉じています。１５５１年に日本を去った彼は、中国に布教すべく広東近傍の上川島に潜んでいました。当時中国は鎖国状態にあり、密貿易商人と入国の交渉中に肺炎を患って他界したそうです。屍体はインドのゴアに運ばれましたが、いつまでも腐敗せずに生きているようだったので、信者が足の小指と薬指を噛み千切って持ち去ったのをはじめ、ローマのイエズス会から右腕を切って送れという命令があり、数年後には内蔵も摘出して送れという命令もありました。送られた遺骸の一部は断片に分けられ、ヨーロッパの各教会や信者たちに配られたそうです。
彼の死因は一応肺炎となっていますが、不可解な点が多く暗殺説も囁かれました。疑われたのは、彼と不仲にあったアルヴァロ・デ・アタイデ（バスコ・ダ・ガマの６男）です。アタイデは、中国との私貿易で私腹を肥やそうと企んでいたことから、貿易ルートを握られないように阻止したとの疑惑があるのです。

ローマ県庁（車窓）
門柱には金ピカの装飾がなされています。また、門にはローマ県の紋章の鷲が睨みを利かせています。
ローマはイタリア共和国ラツィオ州ローマ県の県都であり、首都でもあります。

サンタ・スザンナ教会（車窓）
サン・ベルナルド広場に面して建ち、ローマ最初のバロック建築として重要な教会です。聖スザンナが殉教した場所に建てられ、現在ではアメリカ人カトリック信者のための国民教会となっているそうです。 ファサードは１６０３年に完成し、サン・ピエトロ大聖堂のファサードも手がけたカルロ・マデルノ（ボッロミーニの師）のデザインによるバロック様式です。威風堂々として風格を感じさせます。
因みに、聖スザンナとは、２９５年頃、ディオクレティアヌス帝のキリスト教徒迫害の時に斬首によって殉教した聖人。

サンタ・マリア・デッラ・ヴィットリア教会 （車窓）
１６０５年に聖パウロに捧げた礼拝堂として創建され、１６２０年に聖母マリアに再奉納されました。名前の由来はプロテスタントとカトリックの戦いの最中にカトリック側がマリアのイコンを発見し、それを持って戦いに臨んで勝利を収めたことが名の由来だそうです（ヴィットリア＝勝利）。ファサードは建築家ジョヴァンニ・バッティスタ・ソリアの手によります。
「聖テレジアの法悦」（１６４５〜１６５２年）という巨匠ジャン・ロレンツォ・ベルニーニ、またバロック彫刻の最高傑作のひとつに数えられる彫像があります。
予定では、最終日の午前中にここを訪ねるはずでしたが、本日午後のフリータイムの時間が短縮されたため、お預けになりました。
http://www.chiesasmariavittoria.191.it/default.htm

アメリカ領事館（車窓）
ランチで天ぷらなどの日本食に舌鼓を打ち、午後の観光に繰り出します。
アメリカ領事館は、高級ホテルやカフェ、ブティックなどが立ち並ぶ華やかなヴェネト通りに立地しています。しかし、その華やかさとは裏腹に、日本人としては身につまされる悲しい事実が刻まれています。
１９８７年のヴェネツィア・サミット開催中、このアメリカ領事館にロケット弾が発射されました。レンタカーから元日本赤軍の奥平純三の指紋が検出され、イタリア当局から奥平の犯行と断定されています。現在生死不明で、国際指名手配されているそうです。

蜂の噴水（車窓）
バルベリーニ広場のはずれ（北側）には、蜂の噴水があります。これもまたベルニーニの作品です。３匹の蜜蜂はバルベリーニ家の紋章で、当家出身の教皇ウルバヌス８世のために造られました（１６４４年）。
白の帆立貝を垂直に立てたデザインが斬新です。貝は命と豊饒の象徴、これとバルベリーニの丸みを帯びた密蜂の紋章の組み合わせは違和感がありません。

クアットロ・フォンターネ（車窓）
４つ辻にそれぞれ泉があるので「４つの泉」 と直球なネーミングです。トレビの泉や四大河の泉のような記念碑的なものではなく、生活に密着して自然に存在している泉で、普段着のローマの街角の風情を今に伝えています。水を汲んでいる叔父さんの仕草も日常風景のひとつなのでしょうね。
この辻の一角には、サン・カルロ・アッレ・クワトロ・フォンターネ聖堂という小さな聖堂が佇んでいます（この泉の反対側）。ボッロミーニが独立後初めて手掛けた建築であり、彼のライフワークとなった作品です。

サンタ・マリア・マッジョーレ大聖堂　後陣側（車窓）
教皇が建造させたローマの４大バシリカのひとつに数えられ、５世紀に古代キュベレ神殿があった場所に築かれました。ローマのバシリカ様式の聖堂では唯一原構造を遺しています。「サンタ・マリア・マッジョーレ」という名称は２つの意味を有します。第一に、世界の聖堂の中でも重要な、まさに母なる教会であるということ。第二に、聖母マリアへの崇敬を表す聖堂であり、そのうちの世界最大の大聖堂ということです。
３５２年８月４日、教皇リベリウスとその父ジョヴァンニの夢に聖母が現れ、「エスクィリーノの丘の雪に覆われた所に聖母に捧げる教会を建てよ」というお告げを受けました。そして翌日丘に行くと、真夏にも関わらずお告げ通りに雪に覆われた所があり、そこに教会を建てたと言う伝説があります。しかし、これは同じエスクィリーノの丘にかつて存在していた「サンタ・マリア・デッラ・ネーヴェ（雪の聖母マリア）教会」にまつわる伝説を混同したもののようです。
ここも翌日訪ねる予定でしたが、没になりました。

古代ローマの裁判所跡だと説明がありました。
フォロ・ロマーノにあるマクセンティウスとコンスタンティヌス帝のバジリカの一画だと思います。

ローマ松
遺跡前の松並木を見ると、かつてのローマ軍の進軍の足音が聞こえてきそうな壮大なロマンが呼び醒まされます。古代都市のそこかしこに聳え立つローマ松は、コウモリ傘のような独特な形でとても印象的です。決して剪定されている訳ではなく、自然にこうした形になるそうです。直球なネーミングですが、トスカーナ地方では「傘松」と呼び、世界に分布する数百の松の種類の中でもイタリア傘松はシチリアから南仏、スペインと地中海沿岸によく見れる松だそうです。ローマ特産という訳ではないのですが、古代ローマの時代からローマ人は格別の愛着を持って接していたようです。因みに、豊穣と繁栄のシンボルであり、最高２５ｍにもなるそうです。
オットリーノ・ レスピーギによって１９２４年に作曲された管弦楽曲｢ローマ三部作｣の内の交響詩「ローマの松」には、各楽章毎に「ボルゲーゼ荘の松」、「カタコンブの松」、「ジャニコロの松」、「アッピア街道の松」が表現されています。それぞれに拘りがあり、感ずる所が違うのでしょうね。

コンスタンティヌス凱旋門
コロッセオの傍らに威風堂々と建つ凱旋門。３１２年に元老院がコンスタンティヌス帝の勝利記念に造らせたもので、その圧倒的な存在感と装飾の美しさで１７００年以上経った今でも観光のメッカです。しかし、この凱旋門は、対外的な戦争ではなく、同胞のマクセンティウス帝との内戦での勝利を讃えた異質の存在です。元々、元老院はマクセンティウス帝を支持していたのですが、コンスタンティヌス帝がミルヴィオ橋で勝利を収めるとあっさり鞍替えしたのです。この凱旋門は、元老院のコンスタンティヌス帝に対する贖罪の意も込められたものでした。

コンスタンティヌス凱旋門
この凱旋門については塩野七生著『ローマ人の物語?　最後の努力』に詳しいのですが、著者は「パッチワークの凱旋門」と形容しています。なぜかと言うと、ハドリアヌス帝時代を含め、４時代の既製品の資材や装飾を寄せ集めたからです。当時、ローマ帝国は衰退の一途をたどり、建築資材が不足していました。最上部はコンスタンティヌス帝時代の碑文、柱を飾るレリーフや彫像はトラヤヌス帝時代のダキア人の捕虜の群像、そして柱の横の円形のレリーフはマルクス・アウレリウス帝時代のもので皇帝が蛮族の捕虜たちに謁見している様子が描かれています。しかし、４つの時代を象徴するこの凱旋門は見事に各時代を超越し、ローマ帝国の黄金期〜後期に於ける芸術の粋を結集した記念碑的存在として融合しています。

コロッセオ
ヴェスパシアヌス帝（ティトゥス・フラヴィウス・ヴェスパシアヌ）が７２年に着手し、ティトゥス帝時代の８０年に落成され、正式名は「フラヴィウス円形競技場」と言うそうです。コロッセオと呼ばれるようになったのは８世紀頃で、ネロ帝の巨大な像（コロッスス）があったことが由来。ここでは、醜聞に事欠かない剣闘士の決闘や猛獣との死闘、模擬海戦など様々な血湧き肉躍るエンターテインメントが繰り広げられていました。落成を祝った式典は１００日間も続き、２０００人の剣闘士と９０００頭の動物の命が犠牲となったそうです。収容規模は５万５千人、５トン／個のトラバーチンを３０万個使用、地上３階建てで高さ４８．５ｍの建物です。飾り柱は下からドーリス、イオニア、コリント様式を採用し、外側から見える各アーチには彫像が並び、ローマ建築技術の粋を集めた壮麗な造りになっています。西ローマ帝国崩壊後は廃墟となり、８４７年の地震で南側が崩壊。その後は不幸にも採石場と化してしまいました。貴重な彫像や大理石は、長い時間をかけて収奪され、現在の姿を留めています。

コロッセオ
「コロッセオがある限り、ローマは存在する」、「ローマが滅びる時、世界は滅ぶ」という言葉があります。ここで言われる「ローマ」の真意とは、ローマ帝国そのものではなく、連綿と引き継がれるローマ文化や文明の根源を意味するように受け取れます。

フォア・ロマーノ
コロッセオの反対側には、ローマ帝国時代の政治・経済・宗教の中心であったフォア・ロマーノが威風堂々とその雄姿の一部を顕にしています。ここからは、女神ウェヌス（ヴィーナス）と女神ローマの神殿方面を望むことができます。
皇帝ハドリアヌスが意図的にギリシア建築に倣った形式で設計した神殿で、わざわざ小アジアから職人を招集して建造させたそうです。高い塔が目印です。

コロッセオ
コロッセオ内部からの出口なのか、アーチから内部が少しだけ覗けました。

４０４年にテレマクスという修道士が観客席からフロアに飛び降り、剣闘士の間に割入って殺し合いをやめさせようとしました。観客はせっかくの娯楽を邪魔されたと激高し、皆で石を投げつけてこの修道士を殺してしまったそうです。その知らせを受けたホノリウス皇帝はショックを受け、殺し合い禁止令を厳重に執行し、これを最後に剣闘士同士の真剣勝負だけは廃止されました。見世物として動物を殺すのは、５２３年、東ゴート族の王テオドリックの時代に行われたのが最後となります。その後はサーカスのような動物ショーが行われていたとの記録もあります。

コロッセオでのフリータイム（３０分程）の後、徒歩５分強の距離にある「マルコ・アウレリオ」という店でショッピングタイムとなりました。さて、ショッピングタイムは例によって潤沢な４０分。ここには、革製品をはじめ、ＢＡＢＢＩのチョコレートもありました。このショップのいい所は、ウォーター・サーバーがあって自由にお水がいただけるところです。
貴重な４０分をムダにできませんので、主人は周辺散策に勤しみます。事前に場所を確認できていたので、近隣にある教会を２つピックアップしてありました。

ショップのＨＰがなかったため、ツアー会社に確認した「マルコ・アウレリオ」の住所です。Google Mapで場所を確認してください。コロッセオ東端から２００ｍ程の徒歩圏内です。警察署のお隣です。
Via Marco Aurelio 35/A　00184 Rome　Italy

サント・ステファノ・ロトンド教会
ローマ郊外にあり、田舎が始まる境界線上に佇む教会です。
サンタ・マリア・イン・ドムニカ教会に向かう道を左に折れて小道に入ると、「え〜？」と思わず叫んでしまう程、緑深い田舎の風景に一変します。そして、いきなり壁の一部が開いていて、確かに教会の名前が掲げられているのですが、まるで普通のお宅のお勝手口のような質素な感じで戸惑います。

サント・ステファノ・ロトンド教会
この教会はキリスト教の最初の殉教者（石打ちの刑）聖ステファノに捧げられました。５〜６世紀に創建されたローマでは最も古い初期キリスト教期の教会です。入口のアトリウムは、ロマネスク時代の１２世紀に付け加えられたものだそうです。 後にルネッサンス期の巨匠レオン・バッティスタ・アルベルティによる大規模な改修を経て現在の姿があります。アルベルティと言えば、フィレンツェのサンタ・マリア・ノヴェッラ教会が有名ですが、この聖堂も異質ながら趣があります。

サント・ステファノ・ロトンド教会
入口の天井にあった紋章です。聖ペトロの鍵らしきものが描かれていますが、聖ステファノとの関係はよくわかりません。「古代後期のミトラ教の秘儀では、鍵と杖を持つアイオーンが門を守る」という記述もありますが、後述するように、ミトラ教の遺跡はこの教会の地下にあるものですから無関係でしょう。ウィキペディアのアイオーン像は次のサイトでチェックしてください。
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%A2%E3%82%A4%E3%82%AA%E3%83%BC%E3%83%B3
聖ステファノは、慈善活動に加え、同郷人いわゆる「ギリシャ語を話すユダヤ人」への福音宣教の務めも果たしていました。実際、聖ステファノは、イエスの名によってモーセと神の律法についての新しい解釈を示し、イエスの死と復活に照らして旧約聖書を再解釈したそうです。この旧約聖書の再解釈、すなわちイエスを主とした再解釈がユダヤ人の反発を引き起こし、石打ちの刑に処されました。何故なら、ユダヤ教の聖典はユダヤ教聖書＝旧約聖書ですから、聖典を冒涜したと思われたのでしょう。

サント・ステファノ・ロトンド教会
エルサレムの聖墳墓教会をモデルに築かれたため、円形（ロトンド）の聖堂になっています。円形の建物は、今でこそサンタンジェロ城やパンテオンなど超レアな存在ですが、４世紀頃はポピュラーな形だったそうです。直径２４ｍの円形の身廊の外側に幅１０ｍの側廊がある２重構造です。身廊内部にはアーチ状の開口部を持つ壁が配されています。そして身廊の天井は側廊のものよりも一段高く、ハイ・サイドから採光する構造になっています。このため、身廊を囲む円形に配された列柱はシルエット、内部の壁は光を浴びて白く輝き、コントラストが絶妙で、外観からは想像できない幻想的で美しい空間が広がっています。

サント・ステファノ・ロトンド教会
入口左手のサンティ・プリモ・エ・フェリチアーノ礼拝堂の祭壇の後陣には、７世紀の黄金のモザイク画があります。小ぶりですが手の届くような低い場所にあり、身近に眺められる分、細部がよく見えて美しさが迫ってきます。

サント・ステファノ・ロトンド教会
ところで、この地下には１７世紀に発見された遺跡が密かに眠っています。「カストロ・ペレグリーナ」と呼ばれ、古代ローマ帝国時代の兵舎です。それが、２〜３世紀にはミトラ教の集会場として使われていました。ミトラ教には胡乱な密儀宗教的イメージが付き纏いますが、それは皇帝テオドシウス１世によって４世紀に滅ぼされ、全貌が明らかでないためです。ミトラ教は、ヘレニズム・ローマ世界でキリスト教と並ぶ救済宗教として絶大な支持を集めた、キリスト教徒が最も触れられたくない異教のひとつ。理由は、キリスト教のルーツであり、ユダヤ教以外でキリスト教オリジナルとされる儀礼、例えば洗礼や聖餐などを生み出しているのがミトラ教だからです。イエスに当たる救済者メシアは、ミトラ神そのもの。キリスト教が備える救済宗教としての神話も神学も密儀も全て備えたこの密教を、初代キリスト教会は近親憎悪の如く弾圧したそうです。宗教史家エルネスト・ルナン著『マルクス・アウレリウス伝』には、「もしキリスト教が何らかの致命的な病によってその成長を止められていたならば、恐らく世界中がミトラ教になっていただろう」と記されています。と言うことは、密儀宗教の類ではなかったということでしょう。キリスト教最初の殉教者を祀る教会の地下に密かに眠るミトラ教の遺跡。ミステリアスのベールに包まれています。

サント・ステファノ・ロトンド教会
側廊の外周を覆うフレスコ画は、見た目は美しいのですが、キリスト教徒迫害時代の殉教の壮絶シーンを描いた残酷な内容です。教皇グレゴリウス１３世の指示により、ポマランチョ（ニッコロ・チルチニャーニ）の手によるものです。美しい絵と残虐な内容に時間を忘れて見入ってしまいました。聖女アガタは、両胸を切断されています。その他、犬に食われていたり、舌を抜かれていたり…。そんな様々な拷問に耐えながらも笑みを湛えている殉教者たち。一見の価値があります。掲載写真は、比較的おとなし目のものを選りすぐりました。

サンタ・マリア・イン・ドムニカ教会
お昼休みなのでしょうか、入口が施錠されて内部見学は叶いませんでした。この教会は、遅くとも７世紀に創建され、９世紀に再建され、１６世紀に改築されたのが今ある姿です。この教会も外観からは想像できない世界が広がっているそうです。
以下は、事前に調べた内部の様子です。
９世紀のバジリカ様式が残され、後陣とその周辺にはモザイク画が燦然と輝いているそうです。中でも有名なのが、「天使のウロコ」というモザイク画。天使たちの光背を形容した言葉で、光背が幾重にも重なって鱗のように見えるそうです。
こちらがチェックしたサイトです。
http://belcanto.music.coocan.jp/2011/2011-5-v-roma.htm

サンタ・マリア・イン・ドムニカ教会
属性の「Navicella」は、小さな舟を意味し、教会の前には小舟の形をした噴水が置かれています。
「Navicella」は、サン・ピエトロ大聖堂のアトリウムにあったジョット作のモザイク画と同じ名前です。

チェリモンターナのオベリスク
サンタ・マリア・イン・ドムニカ教会の内部見学が叶わず、時間が空いたのでチェリモンターナ公園へ足を踏み入れます。
ここにはローマで一番判り難い場所にあるオベリスクがあります。ビラ・チェリモンターナ（チェリモンターナ公園）への入口は二つありますが、このサンタ・マリア・イン・ドムニカ聖堂の横にあるアーチを潜る方をお勧めします。

チェリモンターナのオベリスク
アーチを潜って細い小道を１５０ｍ程進むと、左側の少し開けた広場のような所に、ひっそりと、されど凛々しく、オベリスクが聳え立っています。
このオベリスクは、上の褐色の部分だけがオリジナルのものだそうです。

チェリモンターナのオベリスク
このオベリスクを造らせたのはラムセス２世（紀元前１３世紀）。元は、カイロ郊外のヘリオポリス太陽神殿にあった、ラー神殿の前に立てられていたオベリスクの一対のうちの１本です。もう１本はパンテオン前のロトンダ広場に立っています。
ところが、２本とも古代ローマのイシス神を祀った「イセウム神殿」に運ばれて立てられたことまでは記録にありますが、その後の詳細は不明です。
そして１４世紀頃、１００年間カピトリーノの丘の上のアラコエリのサンタマリア教会の傍に建立っていましたが、その後倒れてどこかへ運び去られてしまったようです。１６世紀後半、チリアコ・マッティ公爵がローマ上院議員たちからのプレゼントとして貰い受け、ビラ・チェリモンターナ内の競技場に立てました。しかし、１８世紀にビラが荒廃し、オベリスクも倒されてしまいました。
その後、スペインの政治家マニュエル・ドゥ・ゴドイが一時期ここに住み、ビラを修復し、オベリスクを今の位置に立て直しました。

チェリモンターナのオベリスク
波乱の遍歴を経たために下方が折れて失われ、ロトンダ広場のものに比べて随分短いものに成り果てています。しかし、その分、歴史の重みが感じられるオベリスクです。

トイレ休憩を兼ねたショッピングタイムの後は、人気観光スポット巡りのスタートです。初めに「真実の口」のあるサンタ・マリア・イン・コスメディン教会へ向かいます。ここへ連れて行ってくれるツアーはそれ程多くはないので、準プレミアムと言えるのでは…。この教会は、交通アクセスがあまり良くない立地です。でも、写真撮影のための待ち時間がもったいないですね！？

サンタ・マリア・イン・コスメディン教会
教会の創建は６世紀頃、８世紀の教皇ハドリアヌス１世が現在の規模に拡張しました。当時、東ローマ帝国の聖画像破壊主義（イコノクラスモ）を逃れてきたギリシャ人たちが、この地区で「スコラ・グレカ（ギリシャ人組合）」を形成しました。そのギリシャ人たちに教皇はこの教会を提供し、ギリシャ語で「すばらしい装飾」を意味する「コスメディン」という愛称で呼ばれるようになり、「コスメティック」の語源になっています。往時の伝統は引き継がれ、今でもギリシャ正教の典礼に則ったミサが行われているそうです。背の高い７層の美しい鐘楼が目印です。
また、教会の前にはボッカ・デッラ・ヴェリタ広場があり、海神ポセイドン（ネプチューン）が支えるバロック様式の噴水の前を自動車の洪水が流れていくという、まさに長い歴史が折り重なるローマを象徴するような場所です。

サンタ・マリア・イン・コスメディン教会　「真実の口」
２０分程並んで写真が撮れました。これでも比較的すいていた方だそうです。
生憎、「真実の口」の写真はこれ１枚しかなく、主人はこのブログ初登場となります。（基本的にカメラに写りませんので…。）
映画「ローマの休日」のジョーの仕草を真似て、大袈裟な表情で噛みちぎられたかのように手首を隠している様子ですが、さまになっていませんね。
因みに、オーソドックスな口だけでなく、鼻の穴や目にも手を入れることができます。

「ウソつきがこの口の中に手を入れると噛む」という言い伝えがあるため「真実の口」と呼ばれています。「ローマの休日」でジョーが上着の袖に手首を隠す場面は、グレゴリー・ペックのアドリブだったそうです。オードリ・ヘップバーンには全く知らされず、彼女はとても驚いたそうです。
「真実の口」の正体は、海神トリトンの顔が彫られた、古代ローマの下水施設クロアカ・マキシマ近くにあった大理石製のマンホールの蓋です。中世のローマ巡礼ガイドブック「Mirabilis Urbis Romae（「驚異の首都ローマ」）」には、既にこの大きな顔が紹介されていたそうです。また、神託説もあり、虚偽の宣誓をしたユリアヌス帝の手が抜けなくなったそうです。また、犯罪の容疑者が「真実の口」に連行され、有罪なら手を切断されたそうです。その恐ろしい判決は、姦通の審問にも用いられたそうです。
有名なお話があります。ある不貞を働いた妻が、夫に浮気をしていないことを証明させられました。不貞の事実は明白でしたが、助かりたい一心で、証明する日に愛人に狂人を装わせて衆目の前で彼女に抱き付いてキスをさせました。こうして彼女は真実の口に手を差し入れ、無実を証明しました。「私の夫と先程の狂人以外、私に抱擁とキスをした人間はいません」と。こうして彼女は手を失うことなく面目を保ったのですが、「真実の口」は馬鹿にされて憤慨し、この日から役目を放棄し、魔力も失ってしまたそうです。

サンタ・マリア・イン・コスメディン教会
内部はこじんまりとした三廊のバジリカ形式。小さな窓が壁の高い位置にあり、陽光が燦々と差し込む明るい印象の教会です。しかし、お天気が良くない日や朝夕は、小暗い感じになるかもしれません。
モザイクの床、司教座、主祭壇の天蓋は、コスマーティ様式で装飾されています。
主祭壇の天井には元々は旧サン・ピエトロ大聖堂にあった６世紀のモザイク画があります。また、あまり知られていないのですが、この教会にはセント・バレンタイン・デーで有名な聖バレンタインの遺骨が祀られています。
ご多聞に洩れず、流れ作業のように写真を撮り終えると教会の主祭壇をちらりと横目で見て次の目的地へ赴きます。

トレビの泉
紀元前１９年頃、ローマ帝国初代皇帝アウグストゥスの腹心アグリッパは、ローマ郊外から２０ｋｍに亘るヴィルゴ水道（アクア・ヴェルジネ＝乙女の泉）の終着点としてこの泉を造りました。以来、この水道は市民の喉を潤しましたが、ローマに侵攻してきた蛮族により破壊されました。現在の泉は、教皇クレメンス１２世の命により、建築家ニコラ・サルヴィが設計し、彼の没後の１７６２年に落成したものです。三叉路（トレビオ）に位置するためこの名があります。別の伝説では、水を探し求めていたローマ兵士たちの前にひとりの乙女が現れ、その水源まで道案内をしたと言い伝えがあります。
余談ですが、ニコラ・サルヴィの設計は、以前この事業に関わっていたベルニーニ が残した案を基にデザインされたという見方が今でも根強いそうです。世界的に有名な泉なのに盗作疑惑とは、お気の毒なことです。

トレビの泉
ローマ最大のバロック時代の人工の泉で、「ローマの休日」の舞台にもなった場所。泉の後方にある凱旋門を模したポーリ宮殿の壁と一体化したデザインで、中央に水を司る海神ポセイドンが貝殻の形をした凱旋車に乗っています。その車を牽くのは２頭の海馬。ポセイドンの息子トリトンは、ラッパのように吹く法螺貝で波を立てたり鎮めたりして海馬を操ります。一頭は従順で落ち着き払った静かな海を表し、もう一頭は手に負えない反抗的で荒れ狂った海を表しています。
この泉のテーマは、「動きの変容」であり、そのテーマをシンボル化しているのが「水」即ち「海」です。海は万物の源泉であり、トリトンは創造の源をあらゆる場所に運び、そしてその源を海に戻す役割を表しています。
左右の壁龕の彫像は「豊穣の女神ケレス」と「健康の女神サルース」を表し、上部のレリーフは左手に古代ローマの将軍アグリッパ、右手に古代ローマ兵に泉の場所を教えたとされる伝説上の乙女が彫られています。ポーリ宮殿の頂上にはクレメンス１２世の出身コルシーニ家の紋章が飾られ、その下には左から春、夏、秋、冬を表わした彫像が並んでいます。

老朽化が激しく、イタリアの有名ファッションブランド フェンディ社の支援で修復されることが決まったそうです。総工費約２億６千万円を同社が寄付するそうです。工事開始日は未定ですが、２０１３年６月頃から着手するようです。噴水や背後の建築物、彫刻などの清掃や修復を２０１３年６月から２０１５年まで２０ヶ月かけて完了させる計画です。修復中も公開されるそうですが、工事の足場を隠すため実物大の写真を使った垂れ幕を部分的に用い、景観をできるだけ損なわないように配慮するそうです。

トレビの泉
後ろ向きに泉にコインを投げ入れると願い事が叶うと言われていますが、コインの枚数によって願いが異なります。１枚なら再びローマを訪れることができ、２枚なら大切な人とずっと一緒に暮らせ、３枚なら恋人や配偶者と決別できるというもの。最後の願いは、キリスト教が離婚を禁止していた時代の名残だそうです。正しい作法は、泉に背を向け、右手に持ったコインを左肩越しに放り込むのだそうです。古来より、噴水にコインを投げ入れること自体が神聖な行為で、そこに祀られた神々を鎮めたという風習に由来するそうです。因みに、投げ入れられたコインは、半分がカトリック系チャリティ団体に寄付されるそうです。効率よく収穫できるので窃盗も多いそうです。
コイン伝説以外にも逸話があります。かつてこの泉の水が飲料水とされていた頃のお話。女性たちは、戦に出かける恋人に、離れている間の誠実さの証としてコップにこの水を汲んで飲ませ、その後コップを割って未来の幸福への願掛けをしたそうです。それが起源となり、今では泉の右側にある小さな水飲み場でカップルが水を飲むと永遠に別れないと言われています。ここの水は別名「愛の水（L'acqua dell'amore）」と言われています。

トレビの泉
あまり知られていない逸話です。
泉の右側の壁に「Asso di Coppe」と呼ばれる、イタリアの伝統的なカードゲームの絵柄とそっくりな壺の彫刻が置かれています。これは設計者サルヴィが泉の制作中に床屋に通っていた頃、店主が泉の建築について口出しをし続けたため、この店から泉が見通せないように置いたブラインドだそうです。

２００７年には、観光客数十人が泉を眺める中、何者かが赤い塗料を泉に投げ込み、噴水が真紅に染まるという事件が発生しました。「灰色のブルジョア社会を朱に染めてやる」という犯行声明ビラが残されていたそうです。幸い、その後の洗浄作業により大理石への被害は免れたそうです。洋の東西を問わず、こうした犯罪は何処ででも起こり得ます。しかし、自分の主張を発信する方法を心得なければ、民主主義とは言えず相手の心に響きません。

スペイン広場
奇妙な形のバルカッチャの噴水、映画「ローマの休日」で有名なスペイン階段、階段上のフランス教会、教会前に立つ１８世紀のオベリスク、広場の前から延びるショッピング・ストリートなど、１つの広場でこれだけバラエティ豊かに楽しめるスポットは希です。
スペイン階段の正式名はスカリナータ・ディ・トリニタ・デイ・モンティと言い、１７２５年にフランス外交官の寄付で完成しました。近くにスペイン大使館があったためにこの愛称が付けられたのですが、その費用の出所を知るとフランス階段と呼んであげたい気もします。バロック時代の特徴的意匠の波打ちながら流れるというドラマチックなデザインが取り入れられ、最上段まで１３５段あります。

スペイン広場
階段上にはトリニタ・デイ・モンティ教会が建っています。ゴシック様式のこの教会は１６世紀末に落成しました。当時は丘の上のこの教会と下のスペイン広場は崖で区切られ、往来はとても不便だったそうです。そこでフランス外交官の寄付により、ここに大使館があったスペインとフランスの両国間の平和を願って１７２５年に大階段が建設されました。教会のファサードのデザインは、フランス様式（左右対称）でシンプルかつ華麗に整っています。かつて２つの鐘楼にはそれぞれ時計があり、ひとつはローマ、もう一つはパリの時間を示していたそうです。現在は左側しか遺されていません。

絵葉書でもお馴染みの、この風景…。訪れた人を一瞬にして映画の主役に変身させてしまう、ローマの魔法…。この時期は、スペイン階段がピンクのアザレア（西洋ツツジ）の花で満開です。やっぱりローマには青空（イタリア語で言うazzurro）が一番似合いますね。

スペイン広場
階段下の広場には、１６２７年制作の「バルカッチャの噴水」があります。噴水にしては風変わりな形で、小船が沈みかけているように見えるのでバルカッチャ（破船）と命名されたそうです。テヴェレ川の氾濫で大洪水に見舞われた際、一艘の船がここまで流されてきたのを制作者ピエトロ・ベルニーニが目の当たりにし、そこからインスピレーションを得た作品と言われています。当時、この辺りはヴィルゴ水道の水圧が足りず、噴水から勢いよく水を噴き出させたり滝のように流すことが困難でした。そこでベルニーニは地面よりも少し低くした水槽に船を半分沈め、サイフォンの原理で船首や船尾から水が湧き出るように工夫しました。船には発注主バルベリーニ家の紋章である蜜蜂の装飾がされています。

サンタンドレア・デッレ・フラッテ教会
スペイン広場にて解散し、ここからフリータイムです。旅程では約２時間となっていましたが、朝のバスのトラブル等が尾を引いて時間が削られ、８０分に短縮されました。急遽予定を変更し、パンテオン、ナボーナ広場、サンタゴスティーノ教会はスキップし、明日の午前中のオプション（団体行動）で見学することにします。本来、明日の午前中はテルミニ駅周辺（サンタ・マリア・デッラ・ヴィットリア教会、サンタ・マリア・マッジョーレ大聖堂、サンタ・プラッセーデ教会）を回る計画でしたが、仕方ありません。添乗員さんは、最終日も全員団体行動となったことでホッとされていましたが…。

この教会は、１２世紀に建造され、１６０４年に再建。１６５３年には独創的な鐘楼とクーポラをボッロミーニが付け加えました。見所は、祭壇の両脇に佇むベルニーニ作の天使像。テヴェレ川に架かるサンタンジェロ橋の欄干を飾る天使像のオリジナル作品２体を擁しています。
天使像以外にも、祭壇や、天井など至る所に美しい装飾画が描かれ、他のローマの教会同様、さながら美術館の中にいるような気分に浸れる教会です。

サンタンドレア・デッレ・フラッテ教会　「荊の冠を持つ天使」
気品に満ちた顔立ち、少し悲しげに歪んだ表情、風になびく衣類のドレープなど、ハートを掴まれそうな気迫が随所に感じられる彫像です。ドレープが風を受けてはためく様子に、聞こえるはずのない風の音が聞こえてきそうです。そして天窓から差し込む光が天使の表情を微妙に変えていきます。信仰心のない当方でも、思わず跪いて十字を切りたくなるような敬虔な気持ちにさせてくれる天使像です。
教皇クレメンス９世が雨曝しにしておくにはあまりにも美しすぎる天使像であると絶賛し、オリジナル作品２体をこの教会へ移させました。ベルニーニとボッロミーニは、ライバル同士としての確執が取り沙汰されていますが、この教会ではうまく共存しているようで微笑ましいです。

サンタンドレア・デッレ・フラッテ教会　
「カルティーリョを持つ天使」
ベルニーニの真骨頂とも言える天使像のひとつだと思います。「荊の冠を持つ天使」に比べて穏やかなやさしい表情をしています。この天使の周りの空気がやわらかく感じられ、いつまで眺めていても見飽きません。琴線を揺さぶる何かが潜んでいて、深く心に沁み入ってきます。

サンタンドレア・デッレ・フラッテ教会
『「天使と悪魔」秘密結社の謎』 （別冊宝島）は、ベルニーニ自身「敬虔なカトリック信者で、毎日、サンタンドレア・デッレ・フラッテ教会のミサに参加して週に２回聖体を拝領していた」と記しており、この教会は彼が熱心に通った教会だったようです。ダン・ブラウン著『天使と悪魔』では、彼はイルミナティの会員という設定で展開されますが、上記文献は次のように検証しています。「ベルニーニに関する多くの資料の中では、ベルニーニが反キリスト教、反ヴァティカンの組織（イルミナティ）に加担した形跡は全く見あたらない。しかし、熱心な信者であることを装い、それを隠れ蓑にするなら、逆にイルミナティとしての暗躍は容易だっただろう」。 しかし、彼がイルミナティだったとはとても思えません。この作品は、無信仰な当方をも敬虔な気持ちにさせる、神々しい純粋な彫像だからです。

サンタンドレア・デッレ・フラッテ教会
どのガイドブックもベルニーニの天使像だけにスポットが当てられていますが、それ以外にも祭壇や天井など至る所に美しい装飾画が描かれ、まるで小さな美術館の中にいるような贅を凝らした造りになっています。見所たっぷりの教会ですので時間配分に留意してください。

サンタンドレア・デッレ・フラッテ教会
クーポラに描かれた天井画です。
ボッロミーニは、１６５３年から１６６７年に自殺するまでこの教会の改修に従事し、クーポラと鐘楼を造りあげました。

サンタンドレア・デッレ・フラッテ教会　聖アンナ礼拝堂
トラステヴェレのサン・フランチェスコ・ア・リーパ教会にあるベルニーニ晩年の作品「福者ルドヴィカ・アルベルトーニ」にそっくりな作品で驚きました。この彫像は１７５０〜１７５２年にジョヴァンニ・バッティスタ・マイニが制作した「瀕死の聖アンナ」で、ベルニーニの作品を図像学的に模造した作品だそうです。一見の価値があります。
ベルニーニの最高傑作のひとつに「聖テレジアの法悦」がありますが、それと同じようなモチーフの彫像です。最初はこうした恍惚の表情をした官能的な彫像が教会に置かれていいのかという疑念が過ぎりましたが、全体像を読み解くに従い、その思いは鎮まり、敬虔な気持ちへと変貌を遂げました。神に魂を触れられることで浮かべる甘美なエクスタシーの表情にも拘らず、聖性を感じさせる彫像の表現力はすばらしいの一言です。
因みに、ルドヴィカ・アルベルトーニは、１５世紀に宗教生活を送り、貧者に対する献身で人々に福者と崇められたという女性。１６７１年に教皇庁が彼女を福者として正式に認めたため、アルベルトーニ枢機卿は自宅の礼拝堂を飾る彫刻をベルニーニ（当時７１歳）に依頼したそうです。

サンタンドレア・デッレ・フラッテ教会
フリータイムを有効に使うには、あらかじめトイレ休憩の場所を決めておくと重宝します。バールは、コーヒー等を注文するのが礼儀なので少し時間がかかります。公衆トイレは、大概地下にあり見つけるのが困難なことが多く、時間によっては開いていないこともあります。気軽なのはマクドナルドなどのファストフード店ですが、同類が多いので並ぶ可能性大。その他、ローマの共和国広場にある三越や各地にあるリナシャンテというデパートなども利用できます。適当なショップがなければ、４〜５星のホテルをチェックします。「ポッソ　ウザーレ　イルバーニヨ？（トイレを借りていいですか？）」とフロントで一言えば断られることはありません。３星以下は、断られることが多いそうです。以下は、トイレ・マップです。

＜スペイン広場周辺＞
・カフェ・グレコ内のトイレは混んでおり、チップが必要。
・コルソ通りのホテル・プラザ。
・Hotel d'Inghilterra（Via Bocca di Leone 14）　
・階段を背にして左へ１００ｍの距離右手にマクドナルド。（最初の分岐を左へ）
　入口を進むと大きなホールに出ます。ホールの左奥のレジの前を通過し、すぐ　　左に折れた奥がトイレ。混んでいるので急ぎの人にはお勧めしません。
　ローマのマクド・マップです。cittaに都市名を入力（firenze、veneziaなど）
　すれば、各地のマクド・マップが見られます。
　http://www.mcdonalds.it/ristorante?address=roma
・階段を背に右５０ｍに無料の市営トイレ。AMA W.Cの看板あり。地下にあり、男女　別。お掃除のおばさんなどがいますが、チップ不要。
http://maps.google.co.jp/maps?q=41.906649,12.482352&num=1&sll=36.5626,136.362305&sspn=21.648293,28.344727&brcurrent=3,0x0:0x0,0&ie=UTF8&ll=41.906433,12.482486&spn=0.002048,0.008562&z=18
＜ナボーナ広場付近＞
・Hotel Raphael（Largo Febo, 2）　
・徒歩３分圏内に市営無料トイレ有り。VIa Cesere ZanardelliのPiazza Tor Sa　n　guiguna寄りのタクシー乗り場近く。AMA W.Cの看板有り。地下。
http://maps.google.co.jp/maps?q=41.900704,12.47254&num=1&sll=41.900628,12.473457&sspn=0.002048,0.006528&brcurrent=3,0x34674e0fd77f192f:0xf54275d47c665244,0&ie=UTF8&ll=41.900225,12.47371&spn=0.004097,0.013057&z=17
＜パンテオン付近＞
・Grand hotel Minerva (Piazza della Minerva, 69) 教会に向かって右手。
＜トレビの泉＞
・トイレを貸してくるホテルはありません。バールのトイレを利用。
・コルソ通り（Via del Corso）のデパートＬａ Ｒｉｎａｓｃｅｎｔｅ。

また、行きたい場所が決まったら、目的地がその時間帯に営業しているかどうかをネットでチェックしておきます。通常、教会は１２時から１５時３０分くらいまでクローズする所が多く、日曜日の午前中にはミサがあります。ミサ中でも入れる所もありますが、写真撮影はできません。

サンタ・マリア・ソプラ・ミネルヴァ教会
サンタンドレア・デッレ・フラッテ教会からトレビの泉経由で徒歩１５分程で到着。教会前の広場には、オベリスクを背負った子象のユニークな像があり、「ミネルヴァのひよこ」と呼ばれています。これはベルニーニの発案で、知性と教養をその象徴となる象で表現したものです。オベリスクは紀元前６世紀のエジプト第２６王朝時代のものです。なぜ「ひよこ」と呼ぶかと言うと、その愛くるしい外観から「Porcino（子豚）」という渾名が付けられましたが、後に「小さなひよこ」を意味する 「Pulcino」 に変わったそうです。これは、このオベリスクが短いことを意味しているとも言われています。
因みに、この子象の背後に見える奇妙な建物がハドリアヌス帝の遺構、パンテオンです。

サンタ・マリア・ソプラ・ミネルヴァ教会
ローマで唯一と言われるゴシック建築様式教会のファサードは、コテコテ感がなく、さっぱり控えめな四角い面構えです。教会は、エジプトの女神イシスの神殿の基礎の上に建っています（「ソプラ」とは「上」という意味）。しかし、女神ミネルヴァ（ギリシャ神話アテナ＝知恵の女神）の神殿の上に建つとの誤解から今の名があります。

ファサードの右下側には、テヴェレ川が氾濫して洪水を起こした際の水位を表すプレートがいくつも嵌め込まれています。元々この辺りは低湿地で、度々テヴェレ川氾濫の被害を受けたことを如実に物語っています。

サンタ・マリア・ソプラ・ミネルヴァ教会
見所が沢山ありますので、教会内マップを作成しました。
こちらは、参考にした教会の公式サイトです。
http://www.basilicaminerva.it/
中央下にある聖堂の平面図をクリックすると画面が切り替わり内部をバーチャル訪問できます。左側の聖堂平面図をクリックすると別画面が現れ、赤い丸か文字をクリックすると画像とその説明が表示されます。因みに、Statua del Redentoreをクリックするとミケランジェロ作「あがないの主イエス・キリスト」像が現れます。予め、見所を確認しておけば時間の節約になります。

サンタ・マリア・ソプラ・ミネルヴァ教会
内部は三廊式で、交差ヴォールトを鮮やかな赤で塗り、宇宙空間を表す濃紺の天井が目を惹きつけます。金色に煌く綺羅星と聖人が描かれ、色彩絢爛の天井が実に印象的です。外観からはとても想像できない広々とした空間を演出しています。

サンタ・マリア・ソプラ・ミネルヴァ教会
尖塔アーチで覆われた身廊は極めてゴシック的であり、ローマでは珍しい建築様式です。１３世紀のゴシック様式の身廊に、サン・ピエトロ大聖堂のファサードを設計したカルロ・マデルノがバロック様式の要素を加えたことで、独特の雰囲気を醸しています。

ゴシック様式というと「森の象徴」であるパリのノートル・ダム大聖堂を連想してしまうのですが、「ひたすらより高く上に伸びる」ことを求めた巨列柱のゴシック様式とは趣を異にし、天井の交差ヴォールトや側廊の尖頭アーチにその面影を残す程度で全くの異空間です。あえて言うなら「宇宙の象徴」でしょうか。比べるのもではなく、イタリアナイズされた、華やかな雰囲気が滲み出るイタリアン・ゴシック様式と讃えてよいのではないでしょうか？

サンタ・マリア・ソプラ・ミネルヴァ教会
右翼廊の一番奥には１５世紀のカラファ家礼拝堂があり、教会の祭壇はさながら美術館の相貌です。フィリッピーノ・リッピ作のフレスコ画で受胎告知や聖母被昇天のシーンが描かれています。この礼拝堂は、ドメニコ会の保護者であったナポリ出身の枢機卿オリヴィエーロ・カラファのコミッションにより建てられたものです。

祭壇画の背景となり、同時に天から祝福を与えるかのように描かれているのが「聖母被昇天」。上部の半円をルネッタに区切らずに水色の空を一続きにすることで、天に浮かぶ聖母と下から見上げる人々との間の距離を表現し、聖母の昇天を強調しています。

天井画は、ラファエッリーノ・デル・ガルボという画家による「預言者（巫女）たち」。

サンタ・マリア・ソプラ・ミネルヴァ教会
中央の祭壇画は、フィリッピーノ・リッピ作「聖トマス・アクィナスの勝利」。まるでそこだけ別の絵画を嵌め込んだように見えますが、額縁を除き、絵の部分は周りと同じフレスコ画です。受胎告知を受ける聖母に、枢機卿カラファを紹介する聖トマス・アクィナスが描かれています。
聖トマス・アクィナスとは何者かと言うと、１３世紀の神学・哲学者。彼の思想は、著名な「神学大全」他いくつかの著書にまとめられ、中世以降、キリスト教会のドグマとされるスコラ哲学の礎となっています。
このように時空を飛び越え、聖母の前に聖人が統治者やコミッショナーを紹介する図像は、しばしば好まれたモチーフだそうです。

サンタ・マリア・ソプラ・ミネルヴァ教会
１３世紀末に没したメンデの司教ウィリアム・デュランのお墓です。
一見モザイク画のようですが、下の方が剥がれているのでフレスコ画なのでしょう。ジョヴァンニ・ディ・コスマ作で、玉座に座る聖母子とそれを囲む２人の聖人（右側は聖ドメニコ）を描いています。

サンタ・マリア・ソプラ・ミネルヴァ教会
十字架の礼拝堂
祭壇には木製の精巧なイエス磔刑像が置かれています。この磔刑像は、かつて主祭壇を構成していたゴシック様式の木材の一部を利用して作られたのもだそうです。

サンタ・マリア・ソプラ・ミネルヴァ教会
ゴシック建築と言えばステンドグラスが売り物ですが、妙にリアルなステンドグラスがあります。総体的にイタリアのものは極めて牧歌的なものが多く、フランスのものとは趣が違うように思います。

サンタ・マリア・ソプラ・ミネルヴァ教会
豪華絢爛な主祭壇です。

サンタ・マリア・ソプラ・ミネルヴァ教会
主祭壇の下には、シエナの聖カテリーナの遺体が葬られています。彼女は、１３４７年にシエナの裕福な染物屋に生まれ、両親の反対を押し切りドミニコ会に出家。人生の大半を病人や貧者を助けることに捧げ、１３８０年にローマで亡くなりました。シエナの人々は遺体を町に戻そうと画策しましたが、検問が厳しく、頭部だけを持ち帰えろうとします。しかし警護兵に見つかり、鞄を開けざるを得なくなった時、奇跡が起こりました。頭部はバラの花びらに変わり、シエナに着くと元の頭部に戻ったのです。この伝説のため、カテリーナはバラの花を持った姿で描かれています。と言う訳で、頭部のない遺骸です。頭部は、シエーナのサン・ドメニコ教会にあります。

サンタ・マリア・ソプラ・ミネルヴァ教会
左奥から２本目の柱にあるベルニーニ作「修道女マリア・ラッジの記念碑」の装飾メダル。驚かされるのが、黒大理石の垂れ幕が風になびいてやわらかく折れ曲がっている様の表現力。堅固な大理石を用いてこれほどリアルな質感を表現できるとは、まさに「ゴッド・ハンド」です。ベルニーニは、大理石による布やドレープの表現の巧みさに自己陶酔していたのでしょうね。

サンタ・マリア・ソプラ・ミネルヴァ教会
主祭壇の左の柱前にはミケランジェロ４６歳の時の傑作「あがないの主イエス・キリスト」像があります。彼の作品にしては珍しく、サン・ピエトロ大聖堂の「ピエタ像」同様に表面がピカピカに磨かれています。清らかなアポロを思わせる美しいプロポーションが魅力的です。
それにしても大理石像とブロンズ製の腰布の組み合わせには違和感を覚えます。それもそのはず、彫刻や絵画の裸身を隠そうという芸術史上で悪名高い「イチジクの葉運動」は、ミケランジェロの作品が引き金となって始まったそうです。この彫像にも後世になってから腰布が付け加えられていたのです。
このようなルネッサンス期の巨匠のオリジナル作品を、ほほ独占状態で間近に見られるところがイタリア芸術の奥深さを感じさせます。

サンタ・マリア・ソプラ・ミネルヴァ教会
バラ窓が正面上部にあり、聖母マリアの周りには純潔を表す白百合のステンドグラスが嵌め込まれ、厳かな雰囲気を醸しています。
この教会のステンドグラスの多くは、１９世紀のものだそうです。

サンタ・マリア・ソプラ・ミネルヴァ教会
その他、この教会に絡むエピソードとしては、近代天文学の父ガリレオ・ガリレイが有名です。異端審問後、彼が自らの科学的命題を否認したのがこの教会です。知の権化も、生きるためには世の潮流に抗うことができなかったのでしょう。彼の心境を慮るに複雑な気持ちになります。

サンタ・マリア・ソプラ・ミネルヴァ教会
「聖トマス・アクィナス礼拝堂への前庭」
これでもかと言うくらい沢山の彫像が置かれています。

サンタ・マリア・ソプラ・ミネルヴァ教会
「聖トマス・アクィナス礼拝堂への前庭」
右側の壁には、ベルニーニによって設計され、フェラーによって制作された枢機卿ドメニコ・ピメンテルのエレガントな像があります

サンタ・マリア・ソプラ・ミネルヴァ教会　カプラニカ礼拝堂
内陣左の礼拝堂は「ロザリオの礼拝堂」とも呼ばれ、化粧漆喰の天井は１５７３年にマルチェッロ・ヴェヌスティが制作しました。ここには当地で亡くなったドメニコ会の修道士フラ・アンジェリコの墓があります。ここはドメニコ修道会が建てさせた教会だからでしょうか？
天使のような僧侶と呼ばれた彼の清廉な宗教画はフィレンツェで目にすることが多いのですが、ローマにお墓があるとは意外でした。

サンタ・マリア・ソプラ・ミネルヴァ教会
マッダレーニ・カピフェロ礼拝堂には、ベノッツォ・ゴッツォリ作の穏やかな表情の「祝福を受ける聖母子」が飾られています。ウェブ情報ではフラ・アンジェリコ作「聖母子像」となっているのものが散見されますが、間違った情報のようです。

サンタ・マリア・ソプラ・ミネルヴァ教会
ジョバンニ・ヴィジェヴァーノの墓碑でベルニーニ作。
巨大な大理石で作られています。

近代的設備が完備された美術館の明るい採光の下で見る美術品も趣あるものですが、静謐かつ荘厳な雰囲気の中、本来飾られるべき場所で芸術品を間近にしかも無償で観賞できるというのは、イタリアならではの醍醐味であり贅沢でもあります。

サンタ・マリア・ソプラ・ミネルヴァ教会
ジョバンニ・ヴィジェヴァーノの墓碑の髑髏のズームアップです。バロック期には死の象徴の骸骨や棺のモチーフは普通に用いられ、「メメント・モリ（死を想え）」を表しています。
少し気になったのは、髑髏そのものではなく、その下の大理石が打ち砕かれたように見える箇所です。誰がどんな目的でこのような行為に及んだのか、気になるところです。

これはローマにある著名な建物なのですが、何だか判りますか？
正解は、「パンテオン」です。
パンテオンと言うとコリント式の円柱を思い浮かべてしまうのでは？
裏側からドームを見るとこんな風になっています。

パンテオン
正面に回り込み、漸く見慣れたパンテオンになりました。
サンタ・マリア・ソプラ・ミネルヴァ教会で予想外に時間を費やしたので歩くペースを速めないと集合時間に遅れそうです。
因みに、集合場所は、スペイン広場のオベリスクのある所。つまり、階段を登り切った所です。

モンテチトーリオ広場
コロンナ広場の奥にある、モンテチトーリオ広場。エジプトから運ばせた紀元前６世紀初頭のオベリスクが中央に聳えています。背景は、モンテチトーリオ宮殿。この宮殿は、１６０５年にベルニーニが設計し、１６９４年にカルロ・フォンターナが完成させました。現在はイタリア下院が置かれています。ベルニーニが初めて手掛けた一般建築でしたが、教皇の死去により工事は一時中断しました。工事再開に当たって、フォンターナはベルニーニの設計を忠実に再現したそうです。

この日は、報道陣以外は立ち入り禁止になっていました。日本の政治と同じでイタリアも「ねじれ国会」が続いていますので、何か進展でもあったのでしょうか？

コロンナ広場
コロンナとは、円柱の意味。広場の真中に聳え立つのは紀元前２世紀ドイツ遠征勝利を讃える高さ３０ｍのマルクス･アウレリウスの記念柱。頂点に立つ青銅像は、聖パウロです。建造当初は皇帝像でしたが、教皇シクストゥス５世がこれを聖者に取り替えました。円柱の外周には螺旋状に皇帝のゲルマン人との戦いの様子が彫られています。ローマ帝国滅亡の端緒となったゲルマン民族大移動は有名ですが、ゲルマン人との小競り合いは昔からあったようです。長い時間オペラグラスで見ていると警官がやってくるとか…。なんせ、記念柱の右後方はキージ宮（首相官邸）ですから…。

マルクス・アウレリウスは、ローマ時代５賢帝のひとり。共和制、内乱の時代を経て、紀元前１世紀後半のアウグストゥスが統治する時代以降、元首制を確立し、１〜２世紀には５賢帝の安定期を迎えました。その最後がマルクスです。大きな変化の時代、次のパラダイムへの繋ぎの時代を駆け抜けました。ゲルマン民族の侵略、疫病の蔓延など困難が襲った時代である一方、彼は中国に使者を遣わしたとされます。
自書伝『自省録』に次の一節があります。「生きる技術は、次の点でダンスの技術よりもむしろレスリングの技術に似ている。すなわち、不意に襲い掛かる予測されない出来事に備えながら、ふらふらしないでしっかり立つという点」。分かり易い例えを使い、「先の読めない変化の中、『ブレずにしっかり立つ』能力がリーダーにとって大事」と語っています。彼は、弁論、法律、哲学などの「帝王学」を学び、その中でも師ルスティクスを通じて学んだストア哲学に傾倒したそうです。「ブレずにしっかり立つ」には、マクロ環境の変化に揺れない「軸」が不可欠。彼の場合は、基礎教養としての諸学、中でもストア哲学とそれを礎にしたたゆまぬ自省が「軸」となりました。
これは現代の「変化の時代」のリーダーにも当て嵌まります。変化を冷静に受け入れ、その中で「ブレない」判断・行動を執るには、リーダーの中に「変わらないもの」、「判断の軸となるもの」が不可欠です。その礎となるものが「広い意味での教養」に他なりません。当然倫理感も含まれます。明治維新の頃の吉田松陰、高杉晋作、福沢諭吉にどこか通じるものがあるようにも思えます。何時の時代もリーダーとはかくあるべきものでしょう。

コロンナ広場　イルカと貝殻の噴水
ジャコモ・デッラ・ポルタ作の１６世紀の噴水。グレゴリウス１３世の命によって造られた噴水は、イルカと貝殻がモチーフになっています。イルカの口から水が流れています。ポルタ作の噴水としては、ナヴォーナ広場のネプチューンの噴水の方が知名度が高いですね。

トリニタ・ディ・モンティ広場からの眺望
なんとか、集合時間の３分前にスペイン広場の階段の下まで辿り着きました。
ここから息を切らせながら１３５段ある階段を一気に登り、オベリスクのあるトリニタ・ディ・モンティ広場へ。映画「ローマの休日」では、アン王女がジェラートを食べながら座っていた階段なのに…。あまりのギャップに泪（実は汗）しながら登ります。

集合場所のテラスから眺める斜陽
トリニタ・ディ・モンティ広場はローマ市街を見下ろす展望台になっています。中央にドカ〜ンと構えるクーポラは、オペラ「トスカ」の舞台になったサンタンドレア・デッラ・ヴァッレ教会。右側後方のクーポラがサン・ピエトロ大聖堂です。
この景色にローマが背負った歴史をオーバーラップさせ、様々な人が辿った人生に思いを馳せて黄昏てみるのも一興です。

トリニタ・ディ・モンティ広場　オベリスク
このオベリスクは、由来がはっきりしていません。サルスト庭園の土中から発見されたものですが、碑文がポポロ広場にあるフラミニオ・オベリスクと同じなので、１〜２世紀頃のローマ皇帝がそのオベリスクをコピーさせたものと考えられています。
多くのローマ市民は、高台で地盤が不安定なので倒れるのではないかと心配し、また美しい景観を台無しにするのではと、ここに立てるのに猛反対したそうです。

トリニタ・ディ・モンティ教会のファサード
ニョモーネ（当時使われていた暦）らしきものがありました。

イタリア旅行「最後の晩餐」ということで、カンツォーネを鑑賞しながらのディナーとなりました。ハウスワインは飲み放題です。
「アヴェ・マリア」がカンツォーネと言えるのかどうかは別として、一番歌い上げていた曲がこれです。つまり、「受胎告知」を祝う聖歌です。ガリラヤのナザレに住むマリアのもとに大天使ガブリエルが降臨し、「おめでとう（＝アヴェ）、マリア。あなたは神の子を宿った」と告げる場面です。

ご当地キティちゃん（ローマ三越限定商品）の携帯ストラップです。ツアーメンバーのＴさんが購入されたものをお借りして撮影しました。フリータイムに共和国広場の一画にある三越まで行かれたそうです。１つ７ユーロするそうですが、マニアにとってはプライスレス・グッズなのでしょうね。
左端は、コロッセオで戦う剣闘士のバージョン。リドリー・スコット監督、ラッセル・クロウ主演の映画「グラディエーター」をイメージしたものです。
左から２番目は映画「ローマの休日」バージョン１。グレゴリー・ペック扮する新聞記者とオードリ・ヘップバーン扮する王女がローマの旧市街をスクーター（べスパ１２５ｃｃ）で走るシーンをイメージしたものです。
その隣は、コロッセオの上からキティちゃんが顔を出している最新バージョン。
右端は、映画「ローマの休日」バージョン２。グレゴリー・ペック扮する新聞記者が真実の口に手を突っ込む、かの有名なシーンをイメージしたものです。
ローマ三越のＨＰです。
http://www.mitsukoshi.co.jp/store/4210/map.html

ローマ編Part.2では、人気観光スポットを早足で巡りました。また、ヴァチカン博物館やサン・ピエトロ大聖堂の不完全燃焼をフリータイムを充実させることで挽回できました。
早いもので、明日はイタリア滞在の最終日。午前中は「もうひとつのローマ観光」というプレミアム・ツアー（無料オプション）に参加し、ナヴォーナ広場やサンタゴスティーノ教会、パンテオンを巡ります。さて、有終の美を飾ることはできるのでしょうか？
この続きは、⑮ローマ編Part.3＜エピローグ＞でお楽しみ下さい。