2009/05/05 - 2009/05/06
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鯨の味噌汁さん
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さて、鯨と配偶者の海外ふたり旅、今回の行く先は、イギリスである。
現地滞在は8日間。これを全部、まるまる、イギリスに費やしてしまうのである。
つまりは、最初から最後まで、イギリスなのである。
前後左右・上下・タテヨコ・ナナメ・全部イギリス。
なんとゆう、潔さであろうか。
最近のツアーは、
「4日間で5カ国を効率的に回れます」
・・・などという、「国数だけ稼げます」というヤツが多い。
お年寄り夫婦で行ったら、腰痛・疲労骨折・ついでに腹上死までしそうな勢いではないか。
であるから。
このご時勢において、この潔さは称賛されてもよいのではないか。
「4カ国周遊」とか「3カ国周遊」などが「ランチ12カン盛」であるとすれば。
最初から最後までイギリス一国、というのは「アナゴ一本握り」に相当するのではないか。
あるいはまた「サバの棒寿司一本食い」と、ゆっても、よいのではないか。
(いや、本当はね、格安バッタチケットなんで、オープンジョーができなかっただけである)
かつ、今回は、レンタカーも予約し、クルマの運転にも挑戦してしまう。
鯨は、いつの日か、ヨーロッパをクルマで旅してみたい、という野望を持っている。
その野望へのステップとして、「右ハンドル・ひとは右、クルマは左」のイギリスは、格好のトレーニングになるであろう。
ここで、
「そもそも右ハンドル・左通行で、練習になるのか。日本と同じではないか」
と、いっけん、もっともな突っ込みを入れるヤカラは、ネス湖にけり落とされ、ネッシーのエサになるであろう。
さて。
午後4時、飛行機は、大爆睡の配偶者と、映画3本見ても眠れなかった鯨を乗せ、ヒースロー空港に着陸する。
そのまま「ヒースローエクスプレス」で、ロンドン市内へ。
しかし、今回は、ロンドンは見ないのである。通るだけ、なんである。
(今回は、とゆっても、ロンドンは初めてなんだけど)
ロンドン・バティントン駅に到着すると、直線で4キロばかり西の、ユーストン駅まで、タクシーで移動する。
タクシーは、フツーに考えるとゼイタクの極みなのであるが。
ロンドンの地下鉄は初乗り4ポンド(600円!)であるから、二人であれば、短距離の移動はタクシーの方が安い(はずである)。
ユーストン駅からは、西海岸に近い、チェスターを目指す。
古都・チェスターには「英国一古い競馬場」というのが存在し。
今回は、5月6日から、春競馬が開催されるのである。
鯨夫婦は、馬券は買わないくせに、競馬場にはときどき出かける、ヘタレの競馬ファンである。
日本中央競馬会からは「ちっとも貢献してないのネ」と、冷たい視線を浴びせられる「見るだけ」派である。
イギリスに来たのであれば、競馬場ものぞいてみよう、という心づもりである。
列車は18:10発。すでに時刻が迫っている。
が、イギリスというのは、列車の出発ホームが、寸前まで決まらないのである。
で、長距離のお客さんは、みんな、駅の正面にある、電光掲示板を注視しているのである。
老いも若きも、じ〜っと、自分の乗るべき列車のホームが決定するのを、電光掲示板に向かって、待っている。
競馬場のオッズみたいだ。
で、番号が出ると、いっせいに、払戻所、ぢゃなかった、出発ホームへ向かうのである。
やがて、鯨たちの乗るべき特急のホームが確定した。6番線。
みんな、ぞろぞろと移動していく。
二等車の自由席に乗り込むと、隣に座った70歳くらいの白髪の紳士が、ニコニコと話しかけてくる。当たり前だが、英語だ。
「日本人か、どこまで行くんだ」
「チェルシーある。ここは指定席あるか」
鯨の英語がネアンデルタール人級の素晴らしさであることが、瞬時に紳士には伝わったらしい。
なおかつ、その紳士は、日本人が好きであるらしい。
いろいろ話しかけてくる。
で、鯨のレベルに合わせた「ネアンデルタールでもわかる英会話」が展開される。
「おれは1964年にトーキョーに行った。
次に行ったのはサッポロで、次はナガノだった」
うんうん。わしでも、これくらいならわかるぞ。
どうやら「イギリス版オリンピック大好きおじさん」らしい。
ひょっとしてスポーツ関係者かもしれない。
さて、車窓は、行けども行けども牧草地である。基本的に牛と羊だ。
全体に北海道の景色に似ていないこともない。
切り立った山地、なんてのはなくって、おだやかな、丸みを帯びた丘陵が続く。
それぞれの土地は、何百年も前に開墾されました、という風情である。
小高い丘があると、たいていその上にはお城がある。中には廃城らしきものもある。
特急は、300キロを約2時間で走る。
日本の上越新幹線あたりと、いい勝負だ。
ただ新幹線と違うのは、在来線をそのまま、走っているということだ。
これは、在来線の整備がきちんとできている、ということである。
さすが、鉄道王国イギリス、なのである。
オリンピックおじさんは、あくまでも親切で「次はチェスターだ」なんて教えてくれる。
「サヨナラ。アリガトウ」
とゆって、握手をして、チェスター下車。20時15分。
ロンドン晴れていたが、こちらでは小雨が降っている。肌寒い。
駅前でタクシーを拾って、宿(日本で予約)に落ち着くと、9時を回っていた。
あーやれやれ。
一日で、
埼京線⇒
京浜東北線⇒
京成線⇒
ヒコーキ⇒
ヒースローエクスプレス⇒
タクシー⇒
チェスター行き特急⇒
・・・乗り継いで、やっとこさ、イナカのホテルにたどりついたわい。
へとへとであるが、まだ夕飯を食っていない。
シャワーを浴び、小雨の降る街に出かける。
ここはローマ帝国が築いた古都のひとつである。旧市街をぐるっと城壁が囲っている。
その城壁の上を歩くのが、どうやら、この町の観光であるらしい。
とはいえ、時間が時間であるから、旧市街のメイン・ストリートを歩いただけで引き返す。
イナカでも、夜遅くの外出は、できるだけ控えるのが正しい。
なぜといって、イナカ町にも、外国人に絡むのが大好きな兄ちゃん、というのは存在するから。
木造建築の旧市街の町が、街灯に照らされて、光っていた。
唯一、営業していたイタリアンレストランで、ピザをかじり、ホテルに戻る。
旅の二日目の朝。
朝食を取りに、一階のレストランへ降りて行く。
メニューを手にとっていると、50年前はさぞかし美人であったろうメイド嬢が、老眼鏡を引き上げつつ、
「トラデッショナル・ブリティッシュ・ブレックファスト」
などと言う。
ふむむ。
目玉焼きにベーコンにソーセージにマッシュルームか。
おまけがブラック・プディングか、なるほど。
運ばれてきたのは、ワンプレートに乗っかった、モーニングセットであった。
マッシュルームは、傘が完全に開ききった、直径10センチくらいのヤツである。
マッシュルームというよりは、猛毒系・イッポンシメジに似ていた。
が、恐る恐る食べてみるとおいしい。
ブラック・プディングは、その名の通り、真っ黒クロスケである。
で、口に入れると、ざらざらしたソーセージの食感。
・・・が、飲みこむときに独特の香りが来て、正体が知れる。
何かとゆうとですね。
鼻血ブーのとき、のどの奥で感じる、血の匂いなのである。
つまりは、ブタやウシの血を固めたソーセージなのだ。
鯨は一口チャレンジし、ウッとなってしまう。
「うーん。厳しい。厳しいぞぉ」
といいながら、配偶者の皿に、むりやり、ブラック・プディングを移籍させてしまう。
「なにこれ」
「プリン、甘くないプリン」
「ああ、これがブラック・プディングね」
イギリスの長い冬。
ヒトが飢えをしのぐべく、ともに住む家畜の血を、少しだけ抜いて、それを煮詰めて作ったのが始まりだという。
つまりは家畜の血の一滴で、冬を生き抜いた民族の食べ物なのだ。
彼女は、食べ物に関しては事前の下調べをしているので、その正体を知っていた。
好き嫌いの多いオナゴなのだが、同時に好奇心も強い。
でなければ、こんな旅行についてくるわけがない。
「あ、私はダイジョブね」
と、パクパク食べる。
配偶者の遠いご先祖は、モンゴルあたりで羊を追っていたのかもしれぬ。
小雨が降ったりやんだりの中、チェスターの町を見て歩く。
城壁の内側は旧市街になっており、商店街には木造建築が多い。
壁は白、柱は黒。見事なモノトーンだ。木造四階建て、なんてゆうのもある。山形の銀山温泉みたいだ。
で、一階部分は庇が張り出し、その下が歩道になっている。
いわゆるアーケードなのだが、新潟でいうところの「雁木(がんぎ)」そっくりである。
町は、今年初めての地元競馬開催なので、日本で言う、村祭りの当日、みたいなものである。
商店街のオッサンが、パリっとした背広とネクタイを着込み、着飾った奥様を連れて、競馬場に向かうのだ。
「普段はパンクしてます」
風の若いヤツらも、みんな背広にネクタイである。
で、女の子たちも、それぞれ精一杯、フェロモンを出している。
競馬場にたどりつき、受付のお姉ちゃんに、
「チケット売ってほしいあるよ。いい席欲しいあるよ」
と叫ぶと、
「予約をしていますか」
「・・・してないある」
お姉ちゃんは首をすくめてしまう。
「日本から来たある。入場券欲しいある」
欲しいある〜、欲しいある〜、とゴネル。
お姉さん、ウケてくれると思ったが、いっこうにそんな気配はなく、怖いおじさんにバトンタッチされてしまう。
わしに負けず劣らず目つきの悪いオヤジだったので、こりゃーつまみだされるかナと思ったが、存外やさしい。
「東洋人よ、なんとかしてやりたいが、お前はネクタイをしていないから、一番いい席は入れないんだ」
マジメに説教される。
「じゃあ、フツーの席でもなんとか」
と頼み込むと、しばらく難しい顔をして端末を叩いていたが、
「OK」
といって、チケットを2枚くれる。
値段を見ると、ひとり26ポンド。ふたりで52ポンド。ちょうど安ホテル一泊分のオネダンである。
鯨は「あいたたたたたた」とココロで叫んだが、無論顔には出さない。
一番いい席だったら、100ポンドくらいはしたのかもしれぬ。
つまりは、ネクタイをしてこなくて、よかったのである。
競馬場は、男性は全員背広、女性もドレス。
みんな色とりどりの帽子をかぶって、なんとも華やかだ。
おじいちゃんとおばあちゃんが、二人仲良くパドック(馬の下見所)に座っている。
かと思えば「幼馴染のままいっしょにこの町でトシを取りました」という老嬢ふたり、いずれもパステルカラーの帽子をかぶって、楽しそうにおしゃべりをしている。
いい雰囲気だなぁ。
日本の競馬は、戦後、馬券の販売を軸に成長した。要はバクチだ。
これに対し、イギリスの競馬は、貴族の名誉から始まり、それが地域ごとの「馬比べ」になった。
だから、自分のひいきのウマを、サッカーのチームを応援するように、応援する。
メインレースのひとつ前まで見て、鯨たちは競馬場を後にした。
きょうは、このあとレンタカーで、ブロンテの名作「嵐が丘」の故地、ハワーズまで行くことにしているのだ。
国道と高速道路を乗り継いで、約300キロの行程である。
いったんホテルに戻り、荷物をまとめてタクシーを呼び、レンタカー屋さんに向かうことにした。
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