06 Sep.2012 from Pyongyang
……平壌から北京へかえる越境寝台列車での出来事である。
私は北朝鮮内でお金を使いすぎ、帰路にたった時点での残金はごくわずか。そ手持ちにはホテルの客室から持ち帰った数本の水のみしかなかった。平壌から北京までは約22時間の鉄道の旅、水さえあればなんとかしのげるだろう、そう思い列車に乗った。
しかし食事の時間になるとやはり空腹にはかなわない。どうしようか。とにかく寝てごまかそう、22時間なら寝て入いればなんとかなるであろう、そう思って寝ることにした。そこで寝ていた見ず知らずの私を突然叩き起こして「Lunch!」と声をかけ、自前の弁当をくれたのが目の前の座席に座っていた男性である。彼の左胸の位置についていた「バッチ」からすぐに北朝鮮の方だと察しがついた。
このバックパック中において私に「Lunch」と声をかける人など予定上いるわけがなく、当然ながら驚きを隠せなかった。そしてよくわからなかった。私と彼は国籍も違うし、ましては話したこともない初対面。しかも同室していた彼は団体の観光客ではなく、単身で乗り込んでいるので大勢分の食事など持ち込んでいるわけがない。私は状況がうまく呑み込めず、そんなとまどっている私を彼は見ながら箸を持って口へ移す行為を見せた。ご飯を食べろ、という意味であろう。
当然、食事を持ち合わせてなかった私にとってありがたい事この上なかった。とにかく言われるがまま食事をいただいた。キムチをはじめとした朝鮮料理が並んでおり、彼は箸を進めながら「My wife cooked」、と言った。
それ以上は私も彼も公用語が違うため言語での疎通が極めて困難であり、限られたボキャブラリーで会話するしかなかった。私は日本人だ、そう告げるととりわけ驚くこともなく私は平壌に住んでいるものだ、といった。私への警戒心は一切なかった。
列車が駅に停車するたび、彼はホームに降り立ち知り合いと思われる人に会い、何かをもらっていた。国境を越えて中国に入り、最初の停車駅である丹東駅でも知り合いと会い、何かをもらっていた。
夜になり、また食事を提供してくれた。おそらく停車駅で知り合いからもらった料理であろう。中国に入国したので最初に頂いた朝鮮料理とは異なり、食事は中華料理であった。しかし私はここで日本人特有の遠慮をしてしまった。その日の夜はおなかが空きなかなか寝付けなかったが、中国の郊外地を走る車窓からは満天の星空が広がっていた。
朝起きると、朝食がおいてあった。食べよう。そういい箸を渡された。そして北京駅に着くと彼は上海へ、私は日本へと別れた。
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