晴れの国　岡山（岡山デジタルミュージアム：裸の大将　山下清展?/遺作：東海道五十三次）

2010/09/16 - 2010/09/16

清はヨーロッパから帰国後、個展の全国巡回が忙しかったこともあり、作品の制作活動が徐々に減って行く。その原因は、多忙であったという理由だけではなかった。
晩年の清は、高血圧網膜症の傾向があった為、それまで精力的に行なっていた貼絵から少し離れ、比較的疲れを感じない「ペン画」の制作に積極的に取り組むようになる。一連のヨーロッパ作品でもその技術が高く評価され、頂点を極めた「ペン画」の技術には一層磨きがかかり、人々の心を魅了していった。しかし一方で“なぜ山下清は貼絵をしないのか　彼は貼絵を捨てたのか　彼は貼絵を捨てたのか“などという雑音も聞こえてきてこれらの意見は彼にとって大変な苦痛であったに違いない。
清は周囲からの進めもあり、「東海道五十三次」という大作に挑むこととなった。
清はライフワークとして、素描による「東海道五十三次」に拒み、最終的には貼絵に仕上げる事を夢見ていた。
清は、スケッチ旅行の起点である日本橋へ到着すると『こんなごちゃごちゃしている所ではスケッチはできない』と言いだし、場所を移し結局彼が選んだのは皇居前広場であった。
この皇居前広場を見下ろすビルの屋上からスケッチは始まった。この時清は、飽きることなくビルの上から半日近く皇居を眺めていたと言う。
約５年の歳月をかけて、東京から京都まで取材スケッチを終えた清は、時間を気にすることなくマイペースで素描を仕上げていった。素描の完成度は極めて高く、後に貼り絵にするのが惜しいほど完璧なものでした。そして「熱田神宮」まで描き終えた時、清は軽い眼底出血を起こしてしまう。その後清は、東海道五十三次の政策を一時中断し、静養に入る。
２年後体調も回復しつつあった清は家族との夕食後の語らいで『今年の花火見物はどこへ行こうかな』と云う言葉を残して突然脳出血を起こし、２日後の昭和４６年７月１２日早朝、清は最後の旅へと旅立ってしまった。享年４９歳。
清の死後、今まで家族ですら開けることのなかったアトリエの押し入れの中から、未完成と思われていた京都までの残り１３枚の絵が発見され、静養中だった清が家族に内緒でこっそり描き続けていたものであった。
こうして清の東海道五十三次は、貼絵にこそならなかったが、全５５点が遺作という形で完成したのである。

エリア 岡山市(岡山)

皇居前広場（東京）　版画

『今は冬だな　冬は寒いな　寒い冬でも天皇陛下は寒かないな　みんな大事にして寒かないようにしているんだな　静かだな　東京はやかましいところで　どうしてやかましいかというと　自動車がたくさんいるからだな　ここにも自動車がたくさんいるのにどうしてやかましくないのかな　天皇陛下のそばだからそおっと走ってるのかな　そんなことないな　いい景色をみているとやかましい音が気にならなくなるんだな』

横浜中央通り（横浜）　版画

『横浜の町というのは　旧い町と新しい町の境い目だな　西洋みたいな建物だけど　西洋へ行ってみたらこれは旧式だとわかったな　旧式が悪いとは決まってないな　横浜にも旧式の西洋と新式のアメリカがあって　僕は旧式の西洋町を通って港へ行くのがすきだな　ルンペンしてる時港を見物して　はらがへって飯をもらおうと思ったけど　西洋式の家は　もらいつけないのでもらいにくいな　西洋式の家で困るのはそれだけだな』

富士（吉原）　版画

『富士山は方々からみたことがあるな　もっとよく見ようと思って登ってみたけど　二合目までいったらくたびれてしまって　帰ってきてしまった／・ここの富士山が一番でっかく見えるな　でっかくてりっぱだけど　道を走るダンプがこわくて　ゆっくりみてられないな　ここは変なにおいのするとこだけど　新幹線の窓越しに見ればにおいはしないな　だけど新幹線はいい景色だからといって　ゆっくり走ってくれないな』

牧の原（金谷）　版画

『牧の原ってとこは全部お茶畑だな　日本人はお茶が好きだから　こんなに広いお茶畑がいるんだな　僕はルンペンしてる時　よその家で時々お茶を飲ませてもらったけど　西洋のルンペンはコーヒーか紅茶を飲ませてもらえるのかな　日本でもお茶を下さいと言うと　ルンペンにお茶はぜいたくだ水にしろと言われたので　水はお腹をこわすと悪いですと言うと　勝手にしろといって　それでもお湯をくれたな』

熱田神宮（名護屋）　版画

『名古屋は　みるところがたくさんあるんだな　テレビ塔にはいったし　名護屋城も見たし　名神高速道路の入口にもいってみたな　熱田神宮にきて　やっとのんびりできたのは　ここが昔のままのせいかな　ルンペンしている時　たまにお宮のそばで寝た事があるけど　あんまりりっぱなお宮はねるとこがないな　伊勢神宮だの熱田神宮は　ねるとこがなくて見るとこだと言ったら　よその人に　見るんじゃなくておがむんだといわれた』

石油工場（四日市）　版画

『こんなところ　絵になるかどうかわからんな　石油というのはガソリンのもとだな　石油やガソリンは作るときもつかうときも　煙やにおいが出るもんだな　四日市の人は石油を使ってもうけてるのかな　自分がもうかるんでなけりゃがまんできないもんな』

三条大橋（京都）　版画

『やっと京都にきたな　こんどの仕事はこんでおわりだな　数が多いからいつまでかかるかわからないな　僕は京都は何べんも絵にしたな　冬の金閣寺を貼絵にしたこともあるな　夏は大文字焼をスケッチして　それを焼き物のの絵にしたこともあるな　今度は春の絵を描くんだな　春の感じをだすんだな　柳の芽が風にふかれてるのが春らしいな　これを描くのを忘れないようにしような』