鄭成功：漢民族の英雄が生まれ育ったのは平戸島だった？！

2025/05/17 - 2025/05/17

中野地区の川内(かわち)町は、カマボコで有名な地区です。
海外との交易というと長崎が思い浮かびますが、日本で最初に西洋との貿易が始まったのは平戸でした。明との交易拠点としての歴史は1542年まで遡ります。
そんな背景が鄭成功を生み出す土壌となりました。出島/唐人屋敷での長崎貿易のルーツも見えてきます。

エリア 平戸・生月島(長崎)

• 旅行の満足度: 5.0

西肥バスの平戸高校行に乗って、鄭成功記念館前で下車。
海沿いの立派な門がお出迎えです。

記念館の前には、母子像が立ちます。
鄭成功は、田川マツと鄭芝龍の婚姻関係の下で誕生した嫡子です。弟も生まれています。遊女との行きずりの関係とかではありません。

鄭成功記念館 名所・史跡

父の鄭芝龍(1604-61)は、福建省南安出身の海商です。
20歳で平戸を拠点に活動し、朱印船貿易に関わって頭角を現していきます。平戸藩主松浦隆信にかわいがられ、藩士田川七左衛門の娘マツと結婚します。川内に喜相院をいう屋敷を与えられて、自宅を設けました。出島での長崎貿易は外出の自由や結婚が禁止されていたので、大きな違いがありました。

鄭成功誕生(1624/07/24)
身重のマツが供の女性を連れて貝拾いへ行くと、その場で産気づき男の子を産みました。福松と名付けます。後の鄭成功です。

息子の誕生を喜んだ鄭芝龍は、自宅の裏に祠を造り媽祖像を祀りました。写真は実物で、船中に携行したもののようです。媽祖は道教の神で、航海安全を願います。両側には、隋神千里眼と順風耳を従えています。

鄭成功記念館は旧宅の跡に立っており、地下からは鄭成功親子が生活していた頃の明の磁器が出土しています。

鄭成功居宅跡 名所・史跡

職場と社会の変化
父は東アジア最大の海商船団幹部でしたが、1625年に頭領の李旦が死ぬと、鄭芝龍がリーダーとなります。母国の明は後金(後の清国)に悩まされ、皇帝の命を受けて様々な任務を受けて国難に臨みます。本拠地も台湾/福建へ移ります。

単身中国へ渡る
1630年、７歳だった福松は自らの意思で、父の居る福建へ単身渡海します。写真は、福松が自ら植えたナギノキ。海が凪ぐ、苦難をなぎ倒すと航海の安全と結び付けられます。

鄭芝龍の海商団は東シナ海一帯を航行するために武装しており、明朝は武力を重視し、1640年には福建総兵/1643年には福建都督に任命されます。このようなジャンク船で航海しました。
1644年に明朝は都の北京を捨てて、南京に亡命政権を樹立します(南明)。農民反乱で、明はあっけなく倒れました。まもなく北京は、如真族のヌルハチ率いる後金に征服されます。国号を清に改めます。

少年期
福松は名前を森と改め、1638年(15歳)には科挙の予備資格を取得、1644年(21歳)には南京の国子監太学へ入学します。1645年には隆武帝に謁見し、国姓の朱と成功の名を賜ります。こうして鄭成功も、祖国のために戦うことになります。日本では島原の乱が起き、鎖国制度によって窓口が長崎に限定され、鄭親子は長崎貿易を行います。

写真は、鄭成功へ送られた称号の印。皇帝と同じ姓を名乗るのは畏れ多いと、成功の名は拝領するも、姓は鄭のままで鄭成功と名乗りました。

弟と母
弟は母の実家を継ぎ、田川七左衛門を名乗り、長崎で商売を行って兄を経済面で支援します。手紙のやり取りもしていました。1645年に母を泉州へ呼び寄せますが、翌年に清に攻められ、マツは降伏せずに自害します。武士の娘らしい最期です。

父
隆武帝と共に清征伐に向かいますが、捕らえられ皇帝は自害、芝龍は降伏を選びます。捕虜として生活します。

鄭成功は1648年に江戸へ赴き、徳川家光へ軍事援助の交渉へ赴きますが、幕府はNoを突きつけます。明の末裔は清に一掃され、鄭は明の遺臣として福建の厦門と金門島を拠点に復興を目指します(1650年)。
※幕府へは、1651，58，60年にも要請をしています。

台湾奪還
1659年に南京奪還を試みるも失敗しますが、1661年にオランダ東インド会社の拠点ゼーランディア城を２万５千の大軍で攻撃、10か月後に落城させ台湾を奪還します。

台湾を奪還した1662年に鄭成功は、病死します。39歳でした。
1683年に清が征服するまで、鄭氏は台湾を統治しました。

鄭成功は現在の台南市に埋葬されましたが、鄭氏が清朝へ降伏した事へ伴い、1699年に本土の南安市に改葬され現在に至ります。

台湾では、孫文/蒋介石/鄭成功が三国神とされます。あくまでも漢民族の物差しです。
※厦門沖２kmの金門島は、現在も台湾領です。

鄭成功を記念し、生家跡には2024年に鄭成功廟が移設されています。

鄭成功廟 名所・史跡

生家には、明治の廃仏毀釈で金比羅神社が併設されています。祭神は天照大神の甥に当たる大国主神で、海上守護の定番です。
では、屋外へ繰り出します。

現在の川内
カマボコの名産地で、かまぼこ店が林立します。

川内は深い入り江です。

川内の湾沿いに進むと、

オランダ商館倉庫跡
大型帆船の母港としては、平戸港よりも良好な川内が副港として機能しました。オランダ商館の倉庫/番人小屋/貯木場などが設置され、石垣や石畳が昭和初期まで残っていました。

オランダ商館倉庫から見た川内浦
外海からの波除/風よけとして適切な地形です。しかも水深もあるので、浅くて狭い平戸港よりも大型船停泊に適していました。

オランダ商館員による証言からも、船の修繕/係留など船団の基地として機能していたことが分かります。
三浦按針ことウィリアムアダムスも、イギリス商館長の命令で1614年に川内からシーアドベンチャー号の船長としてタイへ向けて出航しています。

1619年には、スペイン/ポルトガルに対抗するための東アジアの英蘭連合艦隊が川内を拠点にしていたことが記録されています。

オランダ商館の横の丸山頂上からの光景
川内浦の港としての卓越性が良くわかる眺めです。

反対側は千里ヶ浜です。

丸山の歓楽街跡
朱印船貿易時代に、丸山の麓には遊郭などの歓楽街がありました。
長崎の歓楽街が丸山と呼ばれるのは、ここから移転したことによります。歴史って、本当に面白いです。

千里が浜の入口には、産気づいた田川マツが掴まって出産した石が残っています。

鄭成功児誕石 名所・史跡

満潮時は海に沈むので、波で浸食されないよう保護されています。

海岸沿いを進むと分かれ道。
分かれ道を進むと、日本初のサツマイモ畑(コックスの菜園跡)があります。

先ほどの三浦按針を船長とするシーアドベンチャー号は、帰路で修理のために琉球に立ち寄り、その際にサツマイモの苗を持ち帰りました。商館長コックスは日記に、1615年６月２日に500苗を菜園を借りて植えたと記録しています。薩摩に伝わる83年前の出来事です。

千里が浜には、1852年に松浦藩主が鄭成功の事跡を記念した顕彰碑が建ちます。

千里ケ浜 ビーチ

173年経っても、立派に証しています。

おまけ
平戸市街には、交易の証が残ります。
1541年に明の王直は、ここを拠点に交易を行いました。1550年に日本初のポルトガル船(交易目的)が平戸に寄港したのも、王直の手配によるものでした。

王直屋敷 天門寺跡 名所・史跡

1600年に英国船リーデフ号が豊後に漂着しオランダ人乗組員ウィリアムアダムスらが家康と謁見。
これを機にオランダ貿易が始まり、1609年に平戸にオランダ商館が設置されました。

平戸オランダ商館1639年築造倉庫(復元) 名所・史跡

1613年には、イギリスも平戸に商館を置いて貿易を開始します。

イギリス商館遺跡碑 名所・史跡

松浦史料博物館には、鄭芝龍が使用した糸印(右)と香炉が伝わります。明の生糸を日本へ輸出する際、一斤ごとに検印として押しました。
次は、平戸のキリシタン信仰を追いかけます↓
https://4travel.jp/travelogue/11996907

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