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12月26日、5日目。9時にイルクーツク観光に出発。<br />19世紀の石造りの建物が数多く残る街並はいかにも美しい。今は図書館や博物館として使われているが、かつては貴族の館だったのだろう。「シベリアのパリ」とも言われるがそれほどのことはない。<br /><br />女性が美しいとは聞いてはいたが、なるほど皆端正な顔立ちである。丸いロシア帽、黒や茶の毛皮やブーツに身を包み、控えめな化粧で街を行く彼女たちには「エレガント」と言う言葉がぴったりだ。<br />帝政ロシア時代のデカブリストの乱で首都を追われた貴族達の流刑地でもあったので、その血筋を受け継いでいるのだろうか。<br /><br />デカブリストの墓のあるズメンスキー修道院、ロシア式の十字架を頂いた二つの塔が白壁に映えている。その庭先でマリーナさんの説明が長く続く。雪を踏みしめているのでさすがに寒さが身にこたえる。<br />修道院の中は壁の白さとは対照的にほの暗い。老婆がロウソクに火を灯し、聖像に向かい十字を切って頭を垂れる。私達もロウソクを買い求め火を灯して捧げる。<br /><br />バイカル湖へはバスで約1時間半かかるが、そのバスの飛ばすこと飛ばすこと。道路の大部分は凍結しているのだが、そんなことはお構いなし。特に下り坂ではここぞとばかりにスピードを上げ、その余力で坂を登って行く。仲間の一人が「確かノーマルタイヤだったが・・・」と呟くのを聞いてさすがに恐怖におののいた。<br /><br />針葉樹林が開けた湖畔の一等地には、洒落たログハウス風の別荘が立ち並んでいる。<br />これは一般の労働者向けのもので、月給5か月分で手に入るという。羨ましい限りだ。<br /><br />バイカル湖は暗い曇天だった。まだ氷結していない鉛色の湖面には霧が立ち込めているが、時折雲の合間から一条の陽光が水面を照らし神秘的なコントラストをかもしだす。<br />小高い山々と森、そして底知れない静寂さに抱かれたこの巨大な湖は不気味にも感じる。<br /><br />水辺のホテル「バイカル」で昼食を摂った。幻の魚と言われるオームリのてんぷらとわらびの炒め物に舌鼓を打った。<br /><br />湖畔のリストビャンカ村を訪れた時には、空は雲一つなく晴れ渡っていた。ここはいわば観光村である。雪を頂いた素朴な木造の民家がぽつりぽつりと点在する。青や緑の壁、白く塗り上げられた飾り窓には彫刻が施されている。これがロシアの伝統的建築様式だそうだ。<br />村の中心には屋根付の釣瓶井戸があり今でも使われている。<br />そして200年前に建てられたという無骨な白木造りの村の教会に特別の計らいで入ることもできた。<br />管理をしているおばあさんからローソクや絵葉書を買ったところ、写真撮影も許された。<br />厳かながらも人の顔をもつイコンの数々が心を打つ。どんなイデオロギーも人の信仰心を縛るまでの力は持ち得ないのだと実感する。<br /><br />この村には私達の忘れている何かがある。<br />歩みはゆっくりでいい、言葉も朴訥で構わない。日々の暮らしそのものが内省的で、そしてこの上なく静かだ。「年を取ったら永住するか。」などと思ってみる。<br /><br />15時、イルクーツク市街に戻り数人の仲間と国営商店、デパート、露店を見て回った。<br />デパートと言っても3階建で、商品は少なく質も良いとは言えない。特に近年、食料品や日用品の不足が深刻だそうだ。「ペレストロイカによってソ連から行列は消えた。行列するだけの物資が無くなったからだ。」と言うジョークさえある。<br />しかしそのデパートで仲間の一人が日本でも手に入らなかったヴァイオリンの特殊なパーツを見つけて買い込んだ。やはり芸術の国だとほっとする。<br />粉雪の舞うアンガラ川のほとりを歩いてホテルを目指した。対岸には夕餉時の民家がぼんやりと霞み、まさに墨絵の境地だ。<br /><br />19時に再びシベリア鉄道「ロシア号」に乗り込んだ。もうコンパートメントの狭さは感じない。モスクワまで更に3泊4日の旅である。<br />ハバロフスクで買い込んだウォッカにも飽きたので、仲間から日本酒を分けてもらう。<br />急に酔いが回って暑くなり、零下20度のデッキで酔いを冷ます。不健康極まりない。

シベリア鉄道の車窓から=35年前の真冬の冒険 ⑥ バイカル湖は曇天だった

9いいね!

1989/12/26 - 1990/01/05

55位(同エリア72件中)

2

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かちかち山たぬ吉

かちかち山たぬ吉さん

12月26日、5日目。9時にイルクーツク観光に出発。
19世紀の石造りの建物が数多く残る街並はいかにも美しい。今は図書館や博物館として使われているが、かつては貴族の館だったのだろう。「シベリアのパリ」とも言われるがそれほどのことはない。

女性が美しいとは聞いてはいたが、なるほど皆端正な顔立ちである。丸いロシア帽、黒や茶の毛皮やブーツに身を包み、控えめな化粧で街を行く彼女たちには「エレガント」と言う言葉がぴったりだ。
帝政ロシア時代のデカブリストの乱で首都を追われた貴族達の流刑地でもあったので、その血筋を受け継いでいるのだろうか。

デカブリストの墓のあるズメンスキー修道院、ロシア式の十字架を頂いた二つの塔が白壁に映えている。その庭先でマリーナさんの説明が長く続く。雪を踏みしめているのでさすがに寒さが身にこたえる。
修道院の中は壁の白さとは対照的にほの暗い。老婆がロウソクに火を灯し、聖像に向かい十字を切って頭を垂れる。私達もロウソクを買い求め火を灯して捧げる。

バイカル湖へはバスで約1時間半かかるが、そのバスの飛ばすこと飛ばすこと。道路の大部分は凍結しているのだが、そんなことはお構いなし。特に下り坂ではここぞとばかりにスピードを上げ、その余力で坂を登って行く。仲間の一人が「確かノーマルタイヤだったが・・・」と呟くのを聞いてさすがに恐怖におののいた。

針葉樹林が開けた湖畔の一等地には、洒落たログハウス風の別荘が立ち並んでいる。
これは一般の労働者向けのもので、月給5か月分で手に入るという。羨ましい限りだ。

バイカル湖は暗い曇天だった。まだ氷結していない鉛色の湖面には霧が立ち込めているが、時折雲の合間から一条の陽光が水面を照らし神秘的なコントラストをかもしだす。
小高い山々と森、そして底知れない静寂さに抱かれたこの巨大な湖は不気味にも感じる。

水辺のホテル「バイカル」で昼食を摂った。幻の魚と言われるオームリのてんぷらとわらびの炒め物に舌鼓を打った。

湖畔のリストビャンカ村を訪れた時には、空は雲一つなく晴れ渡っていた。ここはいわば観光村である。雪を頂いた素朴な木造の民家がぽつりぽつりと点在する。青や緑の壁、白く塗り上げられた飾り窓には彫刻が施されている。これがロシアの伝統的建築様式だそうだ。
村の中心には屋根付の釣瓶井戸があり今でも使われている。
そして200年前に建てられたという無骨な白木造りの村の教会に特別の計らいで入ることもできた。
管理をしているおばあさんからローソクや絵葉書を買ったところ、写真撮影も許された。
厳かながらも人の顔をもつイコンの数々が心を打つ。どんなイデオロギーも人の信仰心を縛るまでの力は持ち得ないのだと実感する。

この村には私達の忘れている何かがある。
歩みはゆっくりでいい、言葉も朴訥で構わない。日々の暮らしそのものが内省的で、そしてこの上なく静かだ。「年を取ったら永住するか。」などと思ってみる。

15時、イルクーツク市街に戻り数人の仲間と国営商店、デパート、露店を見て回った。
デパートと言っても3階建で、商品は少なく質も良いとは言えない。特に近年、食料品や日用品の不足が深刻だそうだ。「ペレストロイカによってソ連から行列は消えた。行列するだけの物資が無くなったからだ。」と言うジョークさえある。
しかしそのデパートで仲間の一人が日本でも手に入らなかったヴァイオリンの特殊なパーツを見つけて買い込んだ。やはり芸術の国だとほっとする。
粉雪の舞うアンガラ川のほとりを歩いてホテルを目指した。対岸には夕餉時の民家がぼんやりと霞み、まさに墨絵の境地だ。

19時に再びシベリア鉄道「ロシア号」に乗り込んだ。もうコンパートメントの狭さは感じない。モスクワまで更に3泊4日の旅である。
ハバロフスクで買い込んだウォッカにも飽きたので、仲間から日本酒を分けてもらう。
急に酔いが回って暑くなり、零下20度のデッキで酔いを冷ます。不健康極まりない。

旅行の満足度
5.0
観光
4.0
ホテル
4.0
グルメ
4.0
交通
4.0
同行者
一人旅
一人あたり費用
30万円 - 50万円
交通手段
鉄道 観光バス 徒歩 飛行機
航空会社
アエロフロート・ロシア航空
旅行の手配内容
ツアー(添乗員同行あり)
9いいね!

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この旅行記へのコメント (2)

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  • Emmyさん 2024/12/17 05:19:29
    イルクーツクのデパート!
    かちかち山たぬ吉さん、こんにちは!

    旅行記を楽しく拝読しております。私はイルクーツクには何度か行ったことがあります。一番記憶に残っているのは1987年夏に一週間ほど滞在した時でしょうか。小さな町ですることもないので何もないデパートでも何度も通いましたよ。懐かしすぎてコメントさせていただきました。

    真冬のバイカル湖は綺麗ですね。夏とは全く違う風景です。それにしても寒そう。

    Emmy

    かちかち山たぬ吉

    かちかち山たぬ吉さん からの返信 2024/12/17 05:50:10
    Re: イルクーツクのデパート!
    コメントありがとうございます。
    1987年夏ですか、確かに綺麗ではありますが、小さな町でこれといった娯楽もありませんね。「シベリアのパリ」はちょっと大げさに感じました。
    曇天のバイカル湖には不気味さを感じましたよ。人は我々以外にいないし。

    確かにデパートに通う他ないかもしれませんね。
    帰路のハバロフスクでのことですが、零下30度を体験しましたよ。あの頃は若かったなあ・・・。

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