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12月25日、4日目。私はこのチタ駅で大変恐ろしい思いをした、結局は勘違いだったのだが。<br /><br />午前4時、仲間数名と極寒のホームに降りた。私はかなり先の駅舎の写真を撮りに行った。こんな時間でも多くの乗降客がいる。<br />停車時間は15分あるはずだ。しかし何枚か撮っているうちに駅の放送が始まった。内容は分からないがしきりに何かをせかしている感じだ。<br />ホームを振り返ってみるともうほとんど人影が無い。どうやら出発らしい。この国では発車のベルが鳴らないのを思い出した。<br />私は慌てて一番近い車両に飛び乗った。が、デッキに立ちはだかったおばさん車掌がすごい剣幕で怒鳴りたて、「降りろ」身振りで示す。どうやら外国人禁制のハードクラスの車両らしい。<br />私は仕方なく自分の10号車へと雪で凍てついたホームを必死に走った。<br />私のかなり先をロシア人らしい男女がやはり慌てて走ってゆく。ホームの人影はもうこの二人だけだ。そして列車のドアはもう皆閉まっている。<br />放送の声が私の背中にますますせわしなく浴びせかかる。と、男女の姿が忽然と消えた。どこかに飛び乗ったらしい。でも開いているドアは見当たらない。10号車もやはり閉まっている。万事休すか。<br />いや、次の車両だけは開いている。だがステップが出ていない。私は両腕と膝で必死にデッキに這いあがった。<br />目の前で美人の車掌がゲラゲラ笑いながら何か言っている、それも指をさして。<br />「あれあれお行儀の悪いこと、コートが汚れちゃうでしょ。」きっとそんなところだろう。大きなお世話だ。<br />仲間の所に戻ってみると皆歓談している。悲しいかな私がいなかったことを誰一人気づいていなかったのだ。<br />そして実際に列車が発車したのはその5分後のことだった。ではあのせわしない放送はいったい何だったのだろう。未だに謎である。<br /><br />私が凍てついたホームを滑らずに走れたのは、靴底に軽アイゼンを取り付けていたからだ。それを勧めてくれたキャンピングクラブのボスに心から感謝した。<br />彼の本業は写真家でこの国に何回も来ている。写真嫌いのピアニスト、リヒテルも彼だけには写真を撮らせており、写真集の発刊も許可している。<br /><br />8時、今日の朝食は遅いのでカップの天そばを食べた。各車両の端にサモワール(給湯器)があっていつでも熱湯が得られる。<br /><br />14時、これまでの雪原・白樺林に代わってバイカル湖が車窓に迫ってきた。傾きかけた陽光がまだ凍結していない湖面を金色に染めている。<br />やがて通路で同じ車両の精悍な顔つきのロシア紳士と話が始まった。言葉は解らなくても不思議に意思は通じるものだ。工場労働者でイルクーツクの手前のスリュジャンカ働いているという。<br />列車を降りる際に瓶入りの飲み物を何本も差し入れてくれた。私はお礼にタバコと電子ライターを渡した。大変な喜びようだ。<br />カメラを向かると毅然と胸を張って答えてくれた。別れ際にサインを書き交わしコインを何枚か交換した。<br /><br />スリュジャンカ駅、ホームにピロシキ売りのおばさんがいた。皆で立ち食いしたがお世辞にもおいしいとは言えない。カメラを構えると顔を背け露骨に拒否された。人それぞれだ。<br />楽しみにしていた物売りに会ったのはこの時だけだった。<br /><br />19時、ロシア号はイルクーツク駅に滑り込んだ。乗降客多数、スーツケースをバケツリレーしてやっとの思いで降りる。<br />さすが大きな駅だ。プラットホームには貨物を運ぶ電動車が我が物顔に行き交い大混乱だ。中には堂々とスーツケースを跳ね飛ばしてゆく者もいる。この国では仕事は単なる義務でしかないらしい。<br /><br />アンガラ川沿いのホテル「インツーリスト」にチェックイン、明日はいよいよバイカル湖を訪れる。

シベリア鉄道の車窓から=35年前の真冬の冒険 ⑤ チタ駅の戦慄

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1989/12/25 - 1990/01/05

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15

かちかち山たぬ吉

かちかち山たぬ吉さん

12月25日、4日目。私はこのチタ駅で大変恐ろしい思いをした、結局は勘違いだったのだが。

午前4時、仲間数名と極寒のホームに降りた。私はかなり先の駅舎の写真を撮りに行った。こんな時間でも多くの乗降客がいる。
停車時間は15分あるはずだ。しかし何枚か撮っているうちに駅の放送が始まった。内容は分からないがしきりに何かをせかしている感じだ。
ホームを振り返ってみるともうほとんど人影が無い。どうやら出発らしい。この国では発車のベルが鳴らないのを思い出した。
私は慌てて一番近い車両に飛び乗った。が、デッキに立ちはだかったおばさん車掌がすごい剣幕で怒鳴りたて、「降りろ」身振りで示す。どうやら外国人禁制のハードクラスの車両らしい。
私は仕方なく自分の10号車へと雪で凍てついたホームを必死に走った。
私のかなり先をロシア人らしい男女がやはり慌てて走ってゆく。ホームの人影はもうこの二人だけだ。そして列車のドアはもう皆閉まっている。
放送の声が私の背中にますますせわしなく浴びせかかる。と、男女の姿が忽然と消えた。どこかに飛び乗ったらしい。でも開いているドアは見当たらない。10号車もやはり閉まっている。万事休すか。
いや、次の車両だけは開いている。だがステップが出ていない。私は両腕と膝で必死にデッキに這いあがった。
目の前で美人の車掌がゲラゲラ笑いながら何か言っている、それも指をさして。
「あれあれお行儀の悪いこと、コートが汚れちゃうでしょ。」きっとそんなところだろう。大きなお世話だ。
仲間の所に戻ってみると皆歓談している。悲しいかな私がいなかったことを誰一人気づいていなかったのだ。
そして実際に列車が発車したのはその5分後のことだった。ではあのせわしない放送はいったい何だったのだろう。未だに謎である。

私が凍てついたホームを滑らずに走れたのは、靴底に軽アイゼンを取り付けていたからだ。それを勧めてくれたキャンピングクラブのボスに心から感謝した。
彼の本業は写真家でこの国に何回も来ている。写真嫌いのピアニスト、リヒテルも彼だけには写真を撮らせており、写真集の発刊も許可している。

8時、今日の朝食は遅いのでカップの天そばを食べた。各車両の端にサモワール(給湯器)があっていつでも熱湯が得られる。

14時、これまでの雪原・白樺林に代わってバイカル湖が車窓に迫ってきた。傾きかけた陽光がまだ凍結していない湖面を金色に染めている。
やがて通路で同じ車両の精悍な顔つきのロシア紳士と話が始まった。言葉は解らなくても不思議に意思は通じるものだ。工場労働者でイルクーツクの手前のスリュジャンカ働いているという。
列車を降りる際に瓶入りの飲み物を何本も差し入れてくれた。私はお礼にタバコと電子ライターを渡した。大変な喜びようだ。
カメラを向かると毅然と胸を張って答えてくれた。別れ際にサインを書き交わしコインを何枚か交換した。

スリュジャンカ駅、ホームにピロシキ売りのおばさんがいた。皆で立ち食いしたがお世辞にもおいしいとは言えない。カメラを構えると顔を背け露骨に拒否された。人それぞれだ。
楽しみにしていた物売りに会ったのはこの時だけだった。

19時、ロシア号はイルクーツク駅に滑り込んだ。乗降客多数、スーツケースをバケツリレーしてやっとの思いで降りる。
さすが大きな駅だ。プラットホームには貨物を運ぶ電動車が我が物顔に行き交い大混乱だ。中には堂々とスーツケースを跳ね飛ばしてゆく者もいる。この国では仕事は単なる義務でしかないらしい。

アンガラ川沿いのホテル「インツーリスト」にチェックイン、明日はいよいよバイカル湖を訪れる。

旅行の満足度
5.0
観光
5.0
ホテル
4.0
グルメ
4.0
交通
4.0
同行者
一人旅
一人あたり費用
30万円 - 50万円
交通手段
鉄道 観光バス 徒歩 飛行機
航空会社
アエロフロート・ロシア航空
旅行の手配内容
ツアー(添乗員同行あり)
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