2022/10/29 - 2022/10/29
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gianiさん
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知っているようで知らないことの多い和食。
道具や風土、宗教などの切り口で見えて来る日本食の成り立ち。
小浜・若狭の郷土料理の背景から、日本史・食文化が見えてきました。
- 旅行の満足度
- 5.0
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小浜の漁港へ到着。
市場と水産加工工場の団地が隣接する臨海エリア。
鮮魚店と食文化を学べるスポットに潜入します。
御食国若狭おばま食文化会館といいます。 -
道具が語る食文化
食のアプローチは多々ありますが、興味深い発想です。
付喪(つくも。九十九の読みを意識したネーミングと思われる)神:道具は100年を超えると妖怪になると考えられていました。 -
搗(つき)臼・杵:搗く
搗き臼や杵は、稲作と共に大陸から伝来。臼に脱穀した籾を入れ、杵で搗いて精米しました。小麦や蕎麦の籾の精白にも使用しました。機械化に伴い、餅つきの道具へ用途が限定。 -
石臼:挽く
石臼は、鎌倉時代に中国から伝来し、江戸中期以降に普及。蕎麦の実や小麦を挽いて製粉し、そばやうどん・素麺を食した。茶臼は抹茶、規格外の米を米粉にして団子、大豆を挽いて豆腐・味噌醤油きなこ等、味覚が広がった。
臼のルーツ中国では搗臼を意味し、ひき臼は「磨」と表記します。 -
マニアックな話:米食と臼
精米用に先に普及したのは、平安時代の摺(すり)臼(写真左上段)。粉砕する挽臼よりも、ずっとソフトな圧力です。名前のとおり、摺る程度の圧です。2人以上で運用します。
江戸時代に登場した搗き臼(写真左中段)は、別名唐臼とも呼ばれ、シーソー原理の足搗き式で、1人で作業出来、かつ省力。自動精米機出現までのロングセラーでした。
世界の主食は粉食で、粒食はマイナーな食文化です。 -
石臼を使った小浜の郷土料理
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擂る:擂り鉢・擂りこぎ
平安時代に日本に伝わり、鎌倉時代に寺院(精進料理)、室町時代に庶民に広まりました。臼と杵の変化形で、擂こぎは「擂粉杵」の語尾を短縮した名称。
魚のすり身、蒲鉾、ゴマ、味噌汁(自家製味噌は豆粒が残っていたため)、和え物等を作る際に使用しました。
擂り鉢の内側を掃除する際には「せっかい」という棒を使用し、慣用句「おせっかい」の語源となっています。 -
擂り鉢・擂粉木を使った小浜の郷土料理
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すりおろす:おろしがね・おろし皿
ワサビ、大根、生姜等の薬味を作る。薬味には防腐効果もあり、刺身等の生食に重要なアイテム。 -
おろし器を使った小浜の郷土料理
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海の幸
リアス式海岸の若狭湾は、波の穏やかな入り江を造りました。湾内は汽水域が多く点在するために養分が高く、沖は日本海の深層部の冷水と対馬暖流が混じるために水温の幅が広く、多種多様な魚が生息する漁場となっています。
写真は、カレイの一夜干し、めかぶの煮物、牡蠣飯です。 -
山の幸
豊かな森は、春の山菜、秋の木の実、冬の獣肉を育みます。
左より牡丹(猪)鍋、ぜんまいの煮物、栗飯。 -
里の幸
左より、いさざの卵とじ、鮎の塩焼き、筍飯。
*学術的ないさざは琵琶湖の固有種。シロウオ。 -
発酵食品:保存食・微生物の力を借りる
古来より、人間に有用な微生物を選別・活用した。食材を餌にして、様々な化学変化を引き起こす。長期保存を可能にした。
カビ:鰹節、チーズ等
酵母:アルコールと二酸化炭素を生み出すサッカロミセス属を培養。
細菌:乳酸菌等。漬物(キムチ)等。ちなみにヨーグルトは動物性乳酸菌。 -
酒・酢
酵母の作用で、糖分をエタノールと二酸化炭素に変える。
酢酸菌は、アルコールを酢酸に変える。
日本酒
麹菌を加え、麹が出す酵素で、澱粉→ブドウ糖、たんぱく質→アミノ酸(旨み)に分解する。酵母はアルコール発酵させるだけでなく、良い香りを出す。
※麹を加えると記述したが、実際は酒蔵の柱や壁に住み着いている麹菌が餌(蒸米)に付着(寄生)するというのが正確な表現。 -
出汁:素材を引き出し、風味を与える。
料理に旨味を添える。和食で麹の果たす役割は、とても大きい。 -
味噌・醤油
味噌は、遅くとも飛鳥時代に伝来した醤(ひしお)がルーツ。平安時代には貴族・僧侶、室町時代には庶民にも普及しました。主原料は豆で、蒸米に寄生する黄麹(ニホンコウジカビ)の力で発酵させる。
醤油は、味噌の溜(たまり)がルーツ。
小浜では、切り身をさっと醤油に通し、軽く干す「醤油干し」が食卓の定番。 -
漬物
塩や酢・砂糖等に漬けて、浸透圧やphの作用で腐敗菌の繁殖を抑える。浅漬と古漬に大別。キムチのように、乳酸菌発酵させるものもある。なれずしも、その一つ。 -
寿司
想像が付きにくいですが、寿司のルーツは発酵食品です。その点を詳説。 -
なれずし:寿司のルーツ
水田耕作における淡水魚利用の一環として、魚醤造りと共に大陸から伝来。中国では宋の時代まで一般的で、日本でも鮎や鮒が一般的でした。
ご飯と塩と淡水魚を混ぜて、乳酸菌発酵させます。長期保存が可能な食品です。
強い酸味が特徴で、魚の部分だけ食用にします。寿司の語源は「酸し」という説もあります。 -
琵琶湖の鮒ずし
子持ちのニゴロブナを用います。3月に塩漬けしたものを7月に塩抜きし、身に飯を詰め、再度漬け込み、翌年の冬に食します。数年熟成させる家庭も多いとのこと。 -
なまなれ・半なれずし
なれずしは室町時代に独自の変化を遂げ、漬け込んで1か月位の酸味が出るか出ないかのタイミングで食べる半なれずしが登場します。保存期間は短くなりますが、飯の部分も食するようになります。海水魚も用いられるようになりました。
左:鯖のなまなれ
背開きや三枚におろした鯖を一か月塩漬けにし、塩抜き後、塩と一緒に軟らかめに炊いた飯の上に載せ、2週間漬け込みます。
右:秋刀魚のなまなれ
背開きの秋刀魚を塩水で1時間血抜きし、一か月塩漬け。3時間の塩抜き後、塩と一緒に軟らかめに炊いた飯に載せて3週間漬け込みます。漬け込む際は、殺菌作用のあるシダの葉の上に載せます。 -
飯寿司(いずし)
なまなれの一種で、塩魚に飯と麹で発酵させて作ります。麹による発酵は、甘みを与えます。野菜も一緒に漬け込むことも多いです。なまなれと同じく、保存性は良くなく(食べ時)、飯も食します。
鰰のなれずし
3日ほど塩漬けした鰰・麹・飯・野菜(人参大根等)を2週間ほど漬け込みます。防腐目的で酢を添加することも。 -
小浜のいずし
左:鯖のなれずし
1か月塩漬けしたものを、糠に半年漬けます。塩出しした鯖で飯を挟み、2週間発酵させます。昭和以降は、麹も加えて甘みを出しています。
右:鰊(にしん)のなれずし
身欠き鰊を米のとぎ汁に一晩漬け、麹と塩、大根と人参、鷹の爪の順で層にし、重しをして2週間ほど漬けたもの。鰊の麹漬けとも言われ、正月の御馳走。 -
へしこ
春鯖を背開きにして1か月ほど塩漬けにした後、糠漬けにします。夏を越し、且つ半年以上糠漬けしたものを「へしこ」と呼びます。へしこは、刺身や網で焼いて食べるのが一般的です。
なれずし
へしこを水洗いして薄皮を剥ぎ、水に漬けて塩抜きします。鯖に飯と麹を挟み、桶に重ねていきます。重しをして2週間ほど漬け込んで完成です。乳酸発酵を抑え、麹菌の発酵作用で甘みが出るのが特徴です。 -
緑:いずし文化圏
橙:なまなれ文化圏
現在は帯状ではなく、点在する状態。いずしは、麹の熟成に最適な寒冷な時期を含む気候帯で、伝統的な日本酒の酒蔵の分布と重なる部分があります。 -
はやずし
時間をかけて発酵させるなれずしとは対照的に、時間をかけずに魚と飯に調味料を添える。飯には酢を加えます。現在の寿司の主流。保存性は著しく低いです。 -
姿ずし
魚の外見を残すところは、なれずしの名残。塩で締めた魚を酢で締めて、酢飯に包みます。布巾や巻きすで成形し、昆布で包みます。発酵を待たず、半日ほど寝かせてから食します。 -
巻きずし
酢飯で魚の身を巻いた姿が姿ずしの真逆なので、姿ずしの派生形と考えられます。海苔で巻きます。関東は細巻、上方は太巻が主流です。 -
箱ずし
酢飯の上に切り身をのせ、箱に入れて圧を掛けます。押ずしも含まれます。上方が主流で、江戸前の対義。柿の葉で巻いて圧を掛けた柿の葉ずしは、柿の葉の防腐作用が特徴です。 -
握りずし
箱ずしの派生形。文政(1818-30)年間に江戸の華屋与兵衛が完成させる。ネタは酢や醤油に漬ける。現在の握りの倍の大きさがあった。関東大震災で仕事を失った東京の寿司職人が各地に散り、江戸前として知られるようになった。流通の進化に伴い、生身をネタにするようになった。 -
酒ずし
古くは、地酒で1週間ほど発酵させたなれずしでしたが、現在は7時間~1日ほどで食します。酒は、味醂に近い甘いものを用います。卵、山の幸など具だくさんです。 -
御食(みけつ)国:天皇の台所
若狭国は、天皇家の食卓に上る食材を献上する御食国(ほかに志摩・淡路)でした。平城京等からは、若狭の鯛やイガイのなれずしを献上した木簡が見つかっています。 -
古代の庶民の食事
一方で庶民は、雑穀と菜物と塩といった粗末な食事でした。 -
献上品と名産品
室町時代以降、それまでの義務的に献上から、歳暮・年始・初物を贈るスタイルに変化します。時の権力者は、若狭の豊かな海産物を公家、幕府、朝廷に贈りました。 -
若狭ぐじ
若狭国の名産として名高い海産物。江戸時代の書物にもその旨の記載がある。学名アカアマダイ。現在は、若狭産且はえなわ漁で体重500g以上のものが名乗れる。 -
若狭がれい
一夜干しにする。現在も、毎年皇室に献上されている名産品。 -
いさざ
シロウオ。春に産卵のために遡上する際に捕獲。卵とじや踊り食いで食す春の風物詩。現在も、毎年皇室に献上されている。 -
昆布
中世から名物。北前船以降は、関西向けの松前産昆布は小浜・敦賀に荷揚・加工された。現在も敦賀は、手すきとろろ昆布の8割以上を生産する。 -
鰊(にしん)
北前船でもたらされた食材。関西向けの商品は敦賀・小浜で荷揚げされた。
左:にしんすし
夏に荷揚げされる身欠き鰊を大根と麹で漬け込む。秋~正月が食べごろ。
中央:昆布巻(鰊・鮎)
右:にしんとなすの煮物
夏に手に入る食材の組み合わせ。 -
鯖
傷みやすいので、若狭産の生鯖に塩を振って京都まで運びました。その頃に絶妙な塩梅になり、鯖寿司は京都の名物に。住民はハレの日(特に祇園祭)に鯖寿司を食べるようになりました。小浜と京都を結ぶルートで大量輸送され、鯖街道と呼ばれるようになります。 -
葵祭では、神前に捧げられる五魚の一つとして、若狭の鯖があります。
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乱獲
若狭名産の鯖は、20世紀に始まった巻き網漁で乱獲のスイッチが入り、多分に漏れず昭和50年代以降に不漁期を迎えます。
鯖食文化
京都の鯖寿司は、小浜や若狭に逆輸入されます。地元では醤油や味醂に漬けて干物にして、保存性を高めました。焼鯖寿司、鯖おでん、鯖バーガーなど、日々進化しています。 -
へしこの刺身
塩と糠に漬けて一夏を越し、半年以上熟成させて初めて「へしこ」を名乗れます。越冬させると、さらに風味が増します。小浜のソウルフードです。 -
左:さばのなれずし
へしこを塩抜きし、飯と麹を合わせて2週間漬け込みます。正月の御馳走として、田島地区などで伝承。
右:醤油干し
醤油にさっとくぐらせて、軽く干す。身近な家庭料理。鯖以外の魚でも行う、小浜定番の加工法。 -
左:焼鯖すし
醤油をかけて焼いた鯖の半身と酢飯をコラボした棒寿司。ジューシーさが魅力で、近年人気高騰。衛生面でも扱いやすく、みそ焼きなど派生形も誕生。
右:鯖寿司
〆鯖、酢飯、昆布の三味一体は、永遠不滅の国宝。京都には有名専門店が。 -
向かいのレストランは別館扱いになっており、展示で学んだ小浜の郷土料理を実際に味わえる人気店です。
鯖尽くしを注文。手前は竜田揚げ。焼鯖よりも更にジューシー、初見です。お食事処 濱の四季 グルメ・レストラン
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ブランド化された酔っ払い鯖の刺身。酒粕を含んだ餌を与えた養殖魚。
手前はへしこの刺身。大根で隠れていますが、一切れで飯一杯行けるほど塩辛いです。お茶漬けにするのが一般的とか。
最後にアップしましたが、時系列では最初に食べてから見学しました。
小浜の浦では、鮭、フグ、牡蠣も養殖しています。 -
おまけ
食文化館の創作キャラ「魁十八(さきがけじゅうはち)」氏。
小浜~京の18里の行程を僅か一日で走り抜けた韋駄天たちに敬意を表しています。
次の旅行記↓
https://4travel.jp/travelogue/11792586
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