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お金はなくても子供は育つ - ロシアの出産、子育て事情 -(3)

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1998/01/01 - 1998/12/31

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JIC旅行センター

JIC旅行センターさん

■いよいよ出産

 出産が近くなると地区の子供診療所での母親学級にお誘いがかかる。私は一度予約をしたのだが、その日がくる前に生んでしまった。

 父親の立ち会い分娩は原則的には行われていない。お金を払えば許可が出る。産院によって違うが、200ドルぐらいだったと思う。立ち会いを希望しなかった私は、二週間前に越して来たばかりのクロンシュタットの島に一人きりだった。分娩室に入るにあたって、白い木綿の、頭からすっぽりかぶるワンピースに着替えさせられた。隣の分娩台には誰もいなかった。ベルトコンベア方式も、小さな島の産院では成り立たないらしい。まず助産婦さんが来て自分の名前を告げ、「よろしくね」とほほ笑んで私の手をにぎってくれた。

看護婦さんが三人集まり、最後に宿直のドクターがやってきた。この女ドクターも名を名乗り、さっそく私のカルテに目を通し始めた。「いよいよ」という時までのしばしの時間を、日本の医師たちがどう過ごしているのか知らないが、こちらではだいたいすぐ横の部屋でお茶を飲んだり、タバコを吸ったりしながらスタッフと談笑していることが多いようだ。私の時もそうだった。「オッター」で産んだ知人などは、陣痛の激しさに叫び声を上げると、「ドクターがお茶を飲んでるんだから静かにしなさい!」と叱られたという。

 しゃべるとタバコの匂いがした私の女医さんは、呼吸法の練習すらしたことがなかった私を適切にみちびいてくれた。出かかった赤ちゃんの頭がまた引っ込むたびに「あーあ、もう!」とスタッフが声をそろえて本当に残念そうに言うのがおかしかった。臍の緒のついたドロドロの赤ちゃんは、出てくるとまず私の胸の上に置かれた。臍の帯を切られ、赤ちゃんが産湯を使っている横で、私は切られた会陰の縫合をしてもらっていた。ドクターは「日本はどうだか知らないけどね、ロシアじゃみんなこうしてるんだから、ちょっと痛いけど我慢してね」と前置きして縫い始めた。それは確かに針の運びが肌で感じ取れるほど痛かった。

日本ではきっと麻酔が使われているのだろうとぼんやり考えていると、助産婦がさっぱりした赤ちゃんを抱えて近づいてきて、「お乳あげてみましょう」と私の乳首をぎゅっとひねりあげた。にじみ出た黄色い発乳に、助産婦が子供保口をくっつけた。そのときはそれ以上何も出なかったのでおしまいになったが、分娩台に横たわっているときから授乳するなんて考えても見なかったので面食らってしまった。看護婦がシャンパンのビンを持ってきて、縫合が終わったばかりの私の両足の間においた。凍らせてあったらしく、ビンはとてもつめたかった。おなかの上にも氷枕がおかれ、こうすると痛みがやわらぎ、会陰と子宮の回復が促されているのだと説明を受けながら急に眠気に襲われたが、下半身がこう冷たくては寝入るのも無理だった。


■ロシアは甘やかしてくれない

 産後は、日本よりかなりワイルドだったろうと思う。悪露の処理をするのに、日本の出産本によると、「2%のホウ酸水に煮沸消毒した脱脂綿を浸し、尿道口のほうから肛門の方へ向けて拭く、同じ脱脂綿での二度ぶきはしない、これを毎回排便、排尿の後、そのほか3?4時間おきに繰り返す、その後はお産用の大きなナプキンを当てておく」とあるが、私は「トイレに幾たび石鹸をつけて手で洗っておけば十分」と指導され、大きなナプキンをあてがっておいたら、「ばかねえ、そんなことしたら幹部の回復が遅れるだけよ。風通しを良くしておくのが一番なんだから、パンツもはかなくてよろしい」といわれ、私はそれに従ったので、病院の床には私の血液のあとがポトポトとついた。お掃除のおばさんがそれを雑巾で拭いてくれた。

二つの育児書を較べて見ると、全体的にロシアのほうが、母親にも子供にも、あることをするのに許可が出る、あるいはそうすることを要求する時期がかなり早い。つまり日本で「街きよくは生後三週目ごろから少しずつ外の空気に慣れさせてください」とあるのが、こちらでは「退院した日から毎日出来るだけたくさんお散歩させてください」となる。それはまだ体力の回復していない母親にとってはキツイが、私は5月初旬に退院したので気候がよかったせいもあって、毎日何時間でも散歩した。やわらかな太陽を浴び、若葉の緑につつまれ、海の匂いをかいで、こどもはスクスク育った。おむつをとるのも歯磨きを始めるのも、ロシア人の子供のほうが早くできなければならないのである。そして昼間のお散歩は、外がマイナス10度でも行かなければいけないとされている。冬は赤ん坊を着替えさせるだけで一苦労だ。


■ロシア人のスタイルがいいのは

 ロシアでは基本的に出産当日から母子同室。すぐに授乳指導員がやってくる、おむつの当て方を指導する係員もやってきた。日本のようにおむつカバーに布おむつをセットというのはこちらでは生後何ヶ月かたってからだ。こちらの産院で指導されたものにはいくつかバリエーションがあったが、一枚の正方形の布を使って三角形を作り、まるで折り紙のようにひっくり返したり畳んだりして上手にお尻を包み込む方法だ。

そしてここからがロシアの伝統的な「新生児ラッピング法」なのだが、おむつより少し大きい正方形の布で、首からつま先までミノムシのようにくるくるとタイトに巻き上げる。上手になると、ベビー毛布でも綿布団でも、同じ要領でくるくる巻ける。しばらくの間ベビー服はいらない。この巻き方だと、赤ちゃんは手足をまっすぐに伸ばしたままで、動かせない。ここに体型矯正の意図があるのかどうかわからないが、こちらでは生まれてすぐから、矯正する。ガニ股にもO脚にもなれない。私の息子は生後2日目に、「首が曲がっている、足もだ」と言われ、首は確かに私が見ても曲がっているのが分かったが、足はどう見てもまっすぐに見えたのにギプスをはめられた。おまけに「耳が横に広がりすぎている」と言われ、「耳が後ろに向かうようにセロテープで頭に貼り付けておくと早いうちになおる」と忠告された。


■紙おむつインポ説

 使い捨て紙おむつは奨励されていない。産院にいるときから使うなんてまさに「ぐうたらママ」だと言われそうな雰囲気だ。特に私は男の子が産まれたので、「パンパースで育った男の子は将来インポになる」とまことしやかにささやかれているこの地でパンパースを使うことは、「子供の将来を考えていない、自分がラクしたいママ」の烙印を押されることを意味している。「そんなバカな」と読者の方は思うだろうが、これはロシアの著名なドクターが医学会で発表した説なのだそうだ。

つまり、陰嚢は体温より低い温度でなければならないのに、紙おむつの使用によって陰嚢が蒸れた場合、温室効果で温度が上がる。その状態が長期にわたって継続されると生殖機能に異変をきたし、将来的には精液の生成に障害がでる、というもの。この「紙おむつインポ説」はこの先も行く先々で、「まあ、紙おむつなんてあてて!赤ちゃんがかわいそう」だとか、「1歳すぎてまだパンパース?」と嫌みを言われたり、新米ママの神経を逆なでする大きな原因になっている。


■子供診療所のシステム

 産後4日か5日で退院すると、次の日に子供診療所の小児科医と看護婦が自宅を訪問してくれる。住所によって診療所と担当医が振り分けられているので、今後もずっとこの二人にお世話になることになる(ヤブ医者にあたった場合や、治療法をめぐって医師と意見が対立したときは悲劇だ。代わりがいない)。最初の訪問の後も、週に2回、週に1回、と回数を減らしながら何度か訪問指導が行われる。

この訪問指導の際に、「母乳の出が悪い」と訴えると、子供診療所に呼ばれ、母乳の量を計られる。計る前に子供を体重計に乗せ、30分間授乳をしてからもう一度体重計に乗せ、その間におしっこをした場合はそれも考慮して、子供が何グラムお乳を飲んだかをはじき出すのだが、それが本当に少量なら「人工乳許可証」が発行され、一歳になるまで無料で粉ミルクがもらえる。満一歳から二歳まではその他の乳製品が支給される。

このシステム自体はソ連時代から続いていて、十分な量が支給されるが、誰にどれだけ支給したかというのは現在では大変厳しく管理されている。というのも実は粉ミルクは海外からの人道援助物資で、援助元がそれを要求しているらしく、毎月受領書に商品名と数量を書かされ、サインを求められる。それももっともで、実際ミルクが余ったロシア人は、それを売りさばいている。

 16歳までの子供を診る「子供診療所」には各科の医者が全部そろっていて、予防接種もここでする。保険証があれば診察も治療ももちろん無料だ。子供が急病になると、真夜中でも電話一本で家までドクターを派遣してくれる。そして翌朝には自分の担当医にちゃんと連絡がはいっていて、担当医が子供の様子を見にやってくる。あるいは必要ならその場で入院の手続きをし、「子供病院」まで運んでくれる。すばらしい連携プレーだと思う。私のように、まわりにおばあちゃんがいない、どんな薬を買えばいいか分からない、車の運転をしない、といった人にはこんな心強い制度はない。

(つづく)

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