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それゆけ!日本語教師 from ペトロパヴロフスク・カムチャツキー Vol.10

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1997/09/01 - 2002/09/01

50位(同エリア53件中)

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JIC旅行センター

JIC旅行センターさん

 97年9月から5年余りお付き合いいただいたこの連載も今回で最後になりました。短いような長いような5年間、当初日本人教師2人、学生は2学年合計25人のささやかなコースだったのが、今や学生5学年100人、日本人教師2人ロシア人教師3人の大所帯です。新米ほやほや教師だった私も、もう6年目のちょっとした古株になり、一番最初の学生(当時入学したての一年生)は今年の6月にめでたく卒業しました。卒業生は漁業会社や旅行会社やホテル、語学学校(日本語講師)などに就職し、程度の差こそあれ何らかの形で日本と関わりのある仕事に就いた人も多く、たまに会うと成長した姿が頼もしいです。

 時が流れ、学生たちの顔ぶれが変わるとともに、彼らの生活スタイルもだんだん変わってきました。もちろんその変化には、今まさに転換期のロシア社会の変動も少なからず反映されているのでしょう。最近では携帯電話を持つ学生なども増えてきて、「授業中は緊急以外は禁止!厳禁!」と注意しつつ、「ああ、ついにカムチャカにもこんな時代が・・」としみじみ感慨にひたってしまいます。また辞書と言えばボロボロの古い辞書が大学に数冊という状態だったのが、最近では電子辞書をポケットにしのばせている学生も少なくないです。

 一方、我が大学のおなじみの問題、暖房がなくて教室が寒い、黒板が使えない、コピーがどこも壊れているなどの状態は5年間全く変化なしで、今も続行中です。恐らくこれからもずっと続くのでしょう。

 そんなわけでこの最終回では、今までの連載のテーマの中から幾つか選び、それぞれの“その後の話”を、変わったこと、変わらないことを織り交ぜながらお届けしたいと思います。


■日本語の歌

 昔も今も学生は歌の授業が大好きですが、歌の好みに変化が現れました。「ロシア人の心を揺さぶるメロディー!」と大好評だった「津軽海峡冬景色」や「兄弟船」はここ数年は人気ダウン。若い世代にとって演歌の情熱的なメロディーは、ちょっと大げさすぎに感じられるようです。もっと今風な歌をというリクエストに答え、演歌好きの私もやむをえず方向転換。ここ数年で好評だったのはサザンオールスターズの「TSUNAMI」やスマップの「らいおんハート」などです。宇多田ヒカルはやはり前奏を聞いた時点から、何だかどよめきがありました。今学期の最新曲は「おさかな天国」です。これはサハリン大学の日本語の先生に薦められたのですが、曲は楽しいし、「魚を食べると、頭が良くなる」という「?と、?なる」を使った文法の導入にもバッチリ、おまけに魚の名前(極東の学生には必須です)も覚えられるという一石三鳥で、学生たちもよく「サカナサカナサカナ?」と踊りながら歌っています。


■漢字で名前を作る

 着任当初から「露馬(ローマ)」「杏菜(アンナ)」「茶車(サーシャ)」「美久取(ビクトル)」など、いろいろな当て字の名前を、頼まれて私が作っていましたが、最近では辞書を片手に自分で自分の名前を作る学生が現れてきました。友達や下級生にオーダーメイドで作ってあげている人もいて、ちゃんと「こういうイメージの漢字で」と顧客(?)の注文まで受けているのには感心してしまいます。また一部男子の間では「魔苦死夢(マクシム)」「死霊我(シリョーガ・・セルゲイの愛称)」など、おどろおどろしい当て字を考えて自分たちで見せ合って悦に入る、というのが流行しています。


■日本の料理

 百聞は一見に如かず。少しでも日本料理を、できればカムチャッカにある材料で作れるようなものを紹介したいと考え、何回か「巻きずしパーティー」をしました。これなら海苔だけあれば、具は現地で手に入るものだけでできます。私は味付けに日本から持ってきた粉末の「すしのこ」を使っていますが、もちろんこれも砂糖とお酢で大丈夫です。具のメインは地元産のイクラやカニ、塩漬けニシン、それからニンジンやわらびのキムチ(市場で朝鮮系のおばちゃんが売っている)などです。ウイキョウやイタリアン・パセリなどの香菜を三つ葉の代わりにします。

あと、卵焼きは簡単に作れますね。最初に私が見本を見せてから、学生に一人一本ずつ巻いてもらうのですが、中身をたくさん入れすぎて海苔巻きが崩壊してしまう人、ものすごく時間をかけて丁寧に作る人、海苔巻きを包丁で切るのがやたら上手な人、「一番美味しいのは切れ端のしっぽの部分!」と断言する人など、いろいろな個性が見えて面白いものです。


■カムチャッカ学生日本語弁論大会

 97年に始まったこの大会も、今年で第5回を迎えました。スピーチのテーマも多様化し、内容もより豊かに面白くなってきました。テーマにはなぜかその年々の流行があり、最初は日本伝統文化、特になぜか根付けが大ブームで、それから若者と麻薬、子供の健康、環境問題などのテーマの流行を経て、今年はより個人の体験、嗜好に根ざしたものが増えました。私たちのカムチャッカ国立工科大学は、第1回に2年生の学生が第2位になりましたが、それ以降はなかなかベスト3に食い込めませんでした。

しかし今年は学生の間での機運がなぜか高まり、3年生のディミートリー・イサエフ君(テーマ「刀と剣術、私の憧れ」)が優勝、準優勝も2年生のビクトル・ルミャンツェフ君(テーマ「日本人とロシア人のジェスチャー」)で、ついに5年目にして念願の勝利を手にしたのでした。優勝者のディミートリー君は人前で緊張しやすいタイプで、ギリギリまで出場を躊躇していたのですが、実は自他ともに認める重度の「刀剣マニアの侍オタク」。その内面にたぎる刀への情熱で自分をなんとか律して、予想外の好結果を生み出しました。教師としては弁論大会の結果はもちろんですが、こういう過程に立ち会えることが一番の大きい喜びなのかもしれません。


 さて、この原稿を書き終るとすぐ、明日の予習が待っています。作文の添削もしなくては。教室がない、電気、寒さ、水漏れ・・・と、アクシデントがしょっちゅうの環境ですが、明日は何もないことを祈りながらせっせと十数人分の作文(好きなおとぎ話の日本語訳)の添削です。こうして日本語教師の奮闘の日々は続いていきます。


 最後に、このカムチャッカのこの大学に偶然集まり、一緒に楽しみながらも悪戦苦闘することになった学生や同僚教師の皆さんへ、この日々が明るい未来に少しでもつながることを願っています。そして読んでくださった皆様、ありがとうございました。


(JICインフォメーション 第117号 より転載)

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