それゆけ！日本語教師 from ペトロパヴロフスク・カムチャツキー　Vol.8

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◆食生活いろいろ◆

　毎年9月下旬は、じゃがいもの収穫期です。この時期は学生の顔が何だかとても疲れていて、宿題の提出率も悪いし、「階段を上がるのが辛いので、授業の教室は3階は嫌だ」と情けない台詞まで飛び出します。「イモ掘り」というと、日本人の私には幼稚園のイモ掘り遠足の楽しいイメージなのですが、ここの人にとってはこの時期掘ったじゃがいもが家族の1年間の主食となるので真剣です。宿題未提出や欠席のチェックも「じゃがいも…」と言われると、こっちも「ああ、そうでしたか。ご苦労様です」と言わなければならないムードです。

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　ロシアの家庭菜園ダーチャについては知識としては知っていましたが、ここまで人々の生活に密着したものとは思いませんでした。課題の日本語作文でもよく登場する話題です。いきなり「鋤（すき）」や「畝（うね）」などのなじみがない漢字を見せられ、「この言葉は正しいですか」と問い詰められて、こっちがたじろぐこともあります。

　またこの時期はラズベリーやコケモモ、すぐりなどを収穫して自家製ジャムを作り、ビタミン不足の冬に備える時でもあります。日本にいたとき、これらベリー類は「高原で売っているジャム」でしかお目にかかったことはなく、その種類の多さに圧倒されました。3年経った今、私もやっと名前を全部覚え、自分で怪しげなジャムまで作るようになりました。

　ダーチャでの仕事もそうですが、こちらの学生は概して家の手伝いをよくやっているようです。共働きの家庭が多いので、小さい頃から自然と手伝う習慣になっているのかもしれません。

　男子学生でも、簡単な料埋はたいてい出来ます。また流行のファッションに身を包み、モデルのように華奢な体型の女子学生も、家に帰ればダーチャで鋤をふるい、部屋の改築とあらば、自分で壁を塗ったり、電動ドリルで穴を開けたりなどは軽いものです。

　2年生の作文の課題に「料理のレシピ」というのがあります。このテーマは案外初歩的な文法だけで書け、かつ面白いので気に入っています。特製ボルシチやピロシキをはじめ、「おばあちゃん秘伝のオラージヤ（お焼き）」などユニークな物もあります。釣り好きの男子学生はウハー（魚のスープ）の作り方を披露。お湯に魚とじゃがいもを入れ、塩コショウとウオッカを入れるだけのごく簡単なレシピが、かえっておいしそうに思えたりします。

でも中には料理を得意としない女子学生もいて、レシピは題して「卵とトマト」。卵をスクランブルし、トマトを切って添えるだけのプロセスが丁寧に書かれています。聞けばアパートに一人暮しで、普段は冷凍のペリメニとオートミールの2種類のメニューを交互に食べ、週末には実家か友達の家で栄養補給をするとか。

　最近は冷凍食品や半加工食品が増えてきたので、このような人が多くなっていくかもしれません。

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　私がロシアの食生活に驚かされるのと同様に、ロシア人にとっても、日本人の食生活はまだ未知のものです。日本料理と言えば、長寿の国だけになにやらヘルシーで、海産物中心で、肉はあまり食べない。やたら醤油を使い、油は使わない。生の魚やタコを食べる。一言で言うと「体に良さそう。でもあまりおいしくなさそう。」

　見たことも殆どないので、例えばテキストに「お茶漬け」という言葉が出てきて「炊いたご飯にお茶を入れたもの」と解説したら、「えー、ご飯とお茶！」とえらく気味悪がられました。

「お茶は勿論紅茶じゃなくて、日本の緑茶です。焼いた鮭なんかと一緒に食べたら最高ですよ」と説得しても「気持ち悪いです。例えばお茶にマヨネーズを入れたり、スープにジャムを入れたり、と同じくらい気持ち悪い」と言われてしまいました。

　まさに食わず嫌いのこの誤解をとくため、いろいろな写真集やビデオを見せたり、ついには私のアパートで「手巻き寿司と日本酒の夕べ」も企画しました。これらについても、また機会がありましたら、レポートします。

（JICインフォメーション　第105号　より転載）