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 待ちに待っていた特別展「運慶」の開幕日、9:30くらいには東京国立博物館(東博)の正門までと考えていたのだが、あいにく用事ができ、1時間ほど遅れた。平成館の前には日除け・雨除けのテントを張っているが、行列はない。開館当初は列ができたということだ。結果オーライとばかりに直ぐに入館できた。また、館内も前回の特別展「インドの仏像」程度の混雑振りだ。要は、特別展としてはここ最近にはない人出のなさだ。<br /> 館内の展示では、まず最初にあった大日如来坐像に気を引かれる。奈良・円成寺(えんじょうじ)(https://4travel.jp/travelogue/10454374)では鉄筋コンクリート造の多宝塔の中に安置されている大日如来坐像を外から眺めて拝むので、衣に模様があることなど気が付かなかった。それが、身近に見られるのであるから、こうした東博の特別展は有難いことだ。<br /> 次に、嬉しかったのは京都・高山寺の子犬像に再会できたことだ(https://4travel.jp/travelogue/10515217)。特別展「鳥獣戯画-京都 高山寺の至宝-」では展示がなかった。湛慶作とされるこの犬っころの像は愛らしく誰もが愛おしく感じる秀作であろう。隣で見ていた人が、「こんなのが手の届く場所に置いてあったら、持って帰る人がいそう。」と言う。現実にはこの犬っころは石水院のレプリカの鳥獣戯画図が展示されているガラスケースがある部屋の床の間に置いてある。実際に手を伸ばせば届く場所に置いてあるのだ。「これは?」と鳥獣戯画図のレプリカを眺めていた中年男性に尋ねると、「住職が手慰みに作ってもらったのだそうです。」と答えてくれた。子犬の像は最近のものではなかったので数代前の住職だと思っていたのだが、後で調べると、住職とは開山の明恵上人で作ったのは運慶では?とあったが、その後は、その子の湛慶だと確定したようだ。鎌倉時代の作像である。国指定重要文化財の子犬像がさりげなく置いてあるのは、お宝だらけの高山寺ならではのことだろう。<br /> それ以外では5等身の立像が多いなかに6等身の立像や4等身の立像もある。4等身の立像には、龍燈鬼(康弁作)と天燈鬼の他に(明治以降に彩色が施されてしまい、)色彩鮮やかな瀧山寺(愛知県岡崎市)の聖観音菩薩立像もある。これは運慶・湛慶作とされるが4等身では違和感を感じてしまう。<br /> 運慶(生年不詳~貞応2年12月11日(1224年1月3日))作の仏像は「一般的には31体とする見解が多く、」「像内納入品や付属品に運慶の名が記された像が17体、同時代の史料から確認できる像が1体で、ほかの13体は像内納入品のX線写真や作風から推定されているので、異論もあるのだ。最近は興福寺南円堂の四天王立像を運慶作として35体とする意見もあり、一方、30体に満たないとする意見もある。」今回の特別展では、開催期間中に展示替えをして、このなかの22体を展示する。しかし、31体であれ、35体であれ、あるいは22体を展示しても、その中で実際に運慶が手を入れた仏像は一体何体あるのだろうか?1体、2体。それ以上の数?<br /> 何よりも江戸期に伝運慶作の仏像が大量に出現し、現在でも鎌倉中には17体現存している(https://4travel.jp/travelogue/11040584)。しかし、真作とされるものは1体もない。鎌倉周辺の横須賀市や横浜市には6体も存在しているのに、中心であった鎌倉中には伝運慶作ばかりで真作は1体もないなどということが有り得ようか。また、『吾妻鏡』によれば、源実朝の持仏堂の「釈迦如来像」、大倉薬師堂の「薬師如来像」、勝長寿院の「五大尊像」が運慶作であったという。これらの仏像は一体どこに?全てが灰塵に帰した訳でもあるまい。全国ではその何10倍もあるのだろうか?<br /> 平安中期から、主管(長上工、棟梁)である工房の長を大仏師、その下で働く者が小仏師と呼ばれている。運慶は仏師デビューから大仏師まで半世紀弱の間、活動した。<br /> また、運慶が率いる運慶工房(運慶一派)で造像された仏像は寄木造が主である。仏像を規格化し、分業・流れ作業で、大量生産が可能になったはずだ。1体/月で47年では564体、2体/月で1,128体、5体/月では2,820体。では一体、その数は3桁を超え4桁?2,000体を超えていても不思議ではない。<br /> 日本国内でつとに名声が高い運慶。その工房に作像の依頼が山のように舞い込んでもおかしくはない。運慶の下に数人の大仏師、それぞれの下に小仏師を抱え込んで運慶工房を運営していたのなら、運慶工房作の仏像は売れるだけ(発注があるだけ)作ることになる。では一体、その数は?<br /> 日本各地に鎌倉時代から、あるいは江戸期から伝運慶作と伝わる仏像の遥か何倍もの仏像が運慶工房で作像され、仏像は大事にされたこともあり、そのほんの一部が現在まで残っていたとしたら、日本各地に残る伝運慶作と伝えられてきた仏像の数をも超えてしまっていようか。<br /> いっそ、今回の22体の運慶作の仏像の総選挙でもやったらどうでしょうか?<br /> 次は伝運慶作の仏像展を開催し、これも総選挙で上位何体かを優先して調査・研究を行い、ひいてはその真贋を明らかにしたら面白いのでは?<br />(表紙写真は特別展「運慶」会場入口)<br />

特別展「運慶」

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2017/09/26 - 2017/09/26

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ドクターキムル

ドクターキムルさん

 待ちに待っていた特別展「運慶」の開幕日、9:30くらいには東京国立博物館(東博)の正門までと考えていたのだが、あいにく用事ができ、1時間ほど遅れた。平成館の前には日除け・雨除けのテントを張っているが、行列はない。開館当初は列ができたということだ。結果オーライとばかりに直ぐに入館できた。また、館内も前回の特別展「インドの仏像」程度の混雑振りだ。要は、特別展としてはここ最近にはない人出のなさだ。
 館内の展示では、まず最初にあった大日如来坐像に気を引かれる。奈良・円成寺(えんじょうじ)(https://4travel.jp/travelogue/10454374)では鉄筋コンクリート造の多宝塔の中に安置されている大日如来坐像を外から眺めて拝むので、衣に模様があることなど気が付かなかった。それが、身近に見られるのであるから、こうした東博の特別展は有難いことだ。
 次に、嬉しかったのは京都・高山寺の子犬像に再会できたことだ(https://4travel.jp/travelogue/10515217)。特別展「鳥獣戯画-京都 高山寺の至宝-」では展示がなかった。湛慶作とされるこの犬っころの像は愛らしく誰もが愛おしく感じる秀作であろう。隣で見ていた人が、「こんなのが手の届く場所に置いてあったら、持って帰る人がいそう。」と言う。現実にはこの犬っころは石水院のレプリカの鳥獣戯画図が展示されているガラスケースがある部屋の床の間に置いてある。実際に手を伸ばせば届く場所に置いてあるのだ。「これは?」と鳥獣戯画図のレプリカを眺めていた中年男性に尋ねると、「住職が手慰みに作ってもらったのだそうです。」と答えてくれた。子犬の像は最近のものではなかったので数代前の住職だと思っていたのだが、後で調べると、住職とは開山の明恵上人で作ったのは運慶では?とあったが、その後は、その子の湛慶だと確定したようだ。鎌倉時代の作像である。国指定重要文化財の子犬像がさりげなく置いてあるのは、お宝だらけの高山寺ならではのことだろう。
 それ以外では5等身の立像が多いなかに6等身の立像や4等身の立像もある。4等身の立像には、龍燈鬼(康弁作)と天燈鬼の他に(明治以降に彩色が施されてしまい、)色彩鮮やかな瀧山寺(愛知県岡崎市)の聖観音菩薩立像もある。これは運慶・湛慶作とされるが4等身では違和感を感じてしまう。
 運慶(生年不詳~貞応2年12月11日(1224年1月3日))作の仏像は「一般的には31体とする見解が多く、」「像内納入品や付属品に運慶の名が記された像が17体、同時代の史料から確認できる像が1体で、ほかの13体は像内納入品のX線写真や作風から推定されているので、異論もあるのだ。最近は興福寺南円堂の四天王立像を運慶作として35体とする意見もあり、一方、30体に満たないとする意見もある。」今回の特別展では、開催期間中に展示替えをして、このなかの22体を展示する。しかし、31体であれ、35体であれ、あるいは22体を展示しても、その中で実際に運慶が手を入れた仏像は一体何体あるのだろうか?1体、2体。それ以上の数?
 何よりも江戸期に伝運慶作の仏像が大量に出現し、現在でも鎌倉中には17体現存している(https://4travel.jp/travelogue/11040584)。しかし、真作とされるものは1体もない。鎌倉周辺の横須賀市や横浜市には6体も存在しているのに、中心であった鎌倉中には伝運慶作ばかりで真作は1体もないなどということが有り得ようか。また、『吾妻鏡』によれば、源実朝の持仏堂の「釈迦如来像」、大倉薬師堂の「薬師如来像」、勝長寿院の「五大尊像」が運慶作であったという。これらの仏像は一体どこに?全てが灰塵に帰した訳でもあるまい。全国ではその何10倍もあるのだろうか?
 平安中期から、主管(長上工、棟梁)である工房の長を大仏師、その下で働く者が小仏師と呼ばれている。運慶は仏師デビューから大仏師まで半世紀弱の間、活動した。
 また、運慶が率いる運慶工房(運慶一派)で造像された仏像は寄木造が主である。仏像を規格化し、分業・流れ作業で、大量生産が可能になったはずだ。1体/月で47年では564体、2体/月で1,128体、5体/月では2,820体。では一体、その数は3桁を超え4桁?2,000体を超えていても不思議ではない。
 日本国内でつとに名声が高い運慶。その工房に作像の依頼が山のように舞い込んでもおかしくはない。運慶の下に数人の大仏師、それぞれの下に小仏師を抱え込んで運慶工房を運営していたのなら、運慶工房作の仏像は売れるだけ(発注があるだけ)作ることになる。では一体、その数は?
 日本各地に鎌倉時代から、あるいは江戸期から伝運慶作と伝わる仏像の遥か何倍もの仏像が運慶工房で作像され、仏像は大事にされたこともあり、そのほんの一部が現在まで残っていたとしたら、日本各地に残る伝運慶作と伝えられてきた仏像の数をも超えてしまっていようか。
 いっそ、今回の22体の運慶作の仏像の総選挙でもやったらどうでしょうか?
 次は伝運慶作の仏像展を開催し、これも総選挙で上位何体かを優先して調査・研究を行い、ひいてはその真贋を明らかにしたら面白いのでは?
(表紙写真は特別展「運慶」会場入口)

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  • 上野公園にある「運慶」のポスター。

    上野公園にある「運慶」のポスター。

  • 東博本館。

    東博本館。

  • 東博正門横のポスター。

    東博正門横のポスター。

  • 東博正門横の「運慶」のポスター。

    東博正門横の「運慶」のポスター。

  • 赤萩。

    赤萩。

  • 表慶館。

    表慶館。

  • 本館前のユリノキ。

    本館前のユリノキ。

  • 表慶館。

    表慶館。

  • 本館横の金木犀。

    本館横の金木犀。

  • 本館横の金木犀。

    本館横の金木犀。

  • 金木犀。

    金木犀。

  • 金木犀。

    金木犀。

  • 平成館の「運慶」ポスター。

    平成館の「運慶」ポスター。

  • 特別展「運慶」会場入口。

    特別展「運慶」会場入口。

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