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10年振りにベルリンを訪れ、フィルハーモニーザールでベルリンフィルを聴くことができた。この日の指揮は1929年生まれのオランダの巨匠、ベルナルト・ハイティンク、前半にワーグナーの「ジークフリート牧歌」、「ヴェーゼンドンクの歌」(ソプラノのソロは藤村実穂子)、メインがベートーヴェンの「英雄交響曲」、というものだ。<br /><br />サンクトペテルブルクを早朝に発ち、ヴィッテンベルクとデッサウの世界遺産を歩いてきて疲労の極にあったが、10年振りに聴くベルリンフィル、まずは音響の素晴らしいことに今更ながら目が覚める思いがした。とにかくこのホールは音が鮮明に響く。プログラムを開く小さな物音やせき払い、携帯の音などもっての外であるが、ホール中に響いてしまって相当緊張する。そして、さすがに天下のベルリンフィルの聴衆は静かであるし、曲が終わってからもきちんと残響を楽しんでから拍手やブラヴォーが始まり、気持ちがよい。日本の聴衆も大いに見習うべきである。<br /><br />ベルリンフィルハーモニーザールの設計者はハンス・シャロウン。カラヤンの絶頂期に設計コンペで選ばれ1963年に竣工した。5角形のワインヤード型ともアリーナ型とも言われる斬新な設計で、大ホールの収容人数は2,440席(座席は2,218席)、この先進的なホールの成功後、全世界にサントリーホールなど同様のスタイルのホールが作られることになった。<br /><br />ジークフリート牧歌は13人の室内楽であるが、全員が相当の音量の出せる名手でないとバランスが取れない。その意味でベルリンフィル以上のアンサンブルはあり得ない。冒頭の弦の音を聴いただけでその違いは歴然としている。痺れるような幸福感に包まれてしまうアンサンブルだ。<br /><br />2曲目に登場した藤村実穂子は初めて聴いた。世界的なメゾソプラノとは聞いていたが、ハイティンクの信頼も厚くベルリンフィルのバックに堂々たる表現で説得力があった。それにしても日本人の活躍は目を見張るものがあり、コンマスの樫本大進はこの日は降り番だったが、ヴィオラの清水康子はマスコミに常時登場する売れっ子、天下のベルリンフィルを支えている。<br /><br />「英雄交響曲」は小生が初めてカラヤンの指揮でベルリンフィルを聴いた思い出の曲であり思い入れがある。20数年も昔に、このホールの一番後ろの立ち見席でこの曲を聴いた。カラヤンはこの曲の素晴らしいコンサートのライブ映像を残しており、実際の記憶はこちらの方から醸成されてしまっている。全員がソリスト級の最強のメンバーを自在にコントロールして、しかも全員が全身で引きまくっていながら、完璧なアンサンブルと理想的なバランスを保った超絶的なコンサート映像だ。この演奏を現在のハイティンク/ベルリンフィルに求めることはできないが、思い出の中の演奏会を垣間見ることはできた。<br />★追記<br />このカラヤンの英雄は、1982年のベルリンフィルの創立100周年記念記念コンサートのライブ映像である。映像の中にはシュミット首相夫妻も臨席し、カラヤン夫人と並んで座っている姿も見られる。カラヤンのDVDの多くは彼の美意識から理想化された、つぎはぎだらけの所謂「作り物」であるが、この100周年記念コンサートは全く手の入れられていない、「汗を滴らせたカラヤン」など珍しい映像も収められた素晴らしいコンサートライブだ。それにしてもこのフィナーレが鳴り終わった後の「ブラヴォー」の連呼はどうだ!心の底から湧き出てくる本物のブラヴォーが聞こえてくる演奏会も極めて稀である。<br /><br />なお、チケットはオンライン予約で82ユーロの席を購入しておいた。この日も完売で、「Suche」(チケット求む)が多数いたが、オンライン予約のおかげで安心して遠路出掛けることができる。本当に便利になったものだ。ご参考に、このホールでは、完売になった場合のみ24枚の立見席が売り出される。1人2枚まで購入可能なので、12番目までに並べば入場できるルールは昔から頑固に守られている。この方法でカラヤン、ジュリーニ、バレンボイム、ラットルなどを聴いてきたが、今は昔である。<br /><br />翌日にはバレンボイムの指揮でベルリンシュターツオーパー、ワーグナーの楽劇「ヴァルキューレ」を観た。はからずも先週のゲルギエフ/マリインスキー劇場の「ジークフリート」、「神々の黄昏」と聴き比べることになった。と言っても東ベルリン側のウンター・デン・リンデンにある実際のシュターツオーパーは現在全面改築中で、この間の公演は西側のベルリン・ドイツオペラに近いシラー劇場で行われている。シラー劇場の内部は装飾の少ない簡素な建物で、マリインスキー劇場に比較してキャパも小さくフェアな比較にはならないが。<br /><br />バレンボイム/ベルリンシュターツオーパーは現在絶頂期にあると言われ、コンサートでも世界中で引っ張りだこだ。ベルリンフィル以上、という批評家もいる。「ヴァルキューレ」は4部作の中でも聴きなれたメロディーが多く、比較的なじみやすい。さすがに最高峰の歌手陣を擁し、その迫力に圧倒された。残念ながらフライトの都合で3幕は観ることができなかったが、2幕まででもオンライン予約の59ユーロの価値は十分だった。

10年振りのベルリン滞在記No.1:ハイティンク/ベルリンフィルとバレンボイム/国立歌劇場を聴く(改訂版)

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2012/10/06 - 2012/10/07

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ハンク

ハンクさん

10年振りにベルリンを訪れ、フィルハーモニーザールでベルリンフィルを聴くことができた。この日の指揮は1929年生まれのオランダの巨匠、ベルナルト・ハイティンク、前半にワーグナーの「ジークフリート牧歌」、「ヴェーゼンドンクの歌」(ソプラノのソロは藤村実穂子)、メインがベートーヴェンの「英雄交響曲」、というものだ。

サンクトペテルブルクを早朝に発ち、ヴィッテンベルクとデッサウの世界遺産を歩いてきて疲労の極にあったが、10年振りに聴くベルリンフィル、まずは音響の素晴らしいことに今更ながら目が覚める思いがした。とにかくこのホールは音が鮮明に響く。プログラムを開く小さな物音やせき払い、携帯の音などもっての外であるが、ホール中に響いてしまって相当緊張する。そして、さすがに天下のベルリンフィルの聴衆は静かであるし、曲が終わってからもきちんと残響を楽しんでから拍手やブラヴォーが始まり、気持ちがよい。日本の聴衆も大いに見習うべきである。

ベルリンフィルハーモニーザールの設計者はハンス・シャロウン。カラヤンの絶頂期に設計コンペで選ばれ1963年に竣工した。5角形のワインヤード型ともアリーナ型とも言われる斬新な設計で、大ホールの収容人数は2,440席(座席は2,218席)、この先進的なホールの成功後、全世界にサントリーホールなど同様のスタイルのホールが作られることになった。

ジークフリート牧歌は13人の室内楽であるが、全員が相当の音量の出せる名手でないとバランスが取れない。その意味でベルリンフィル以上のアンサンブルはあり得ない。冒頭の弦の音を聴いただけでその違いは歴然としている。痺れるような幸福感に包まれてしまうアンサンブルだ。

2曲目に登場した藤村実穂子は初めて聴いた。世界的なメゾソプラノとは聞いていたが、ハイティンクの信頼も厚くベルリンフィルのバックに堂々たる表現で説得力があった。それにしても日本人の活躍は目を見張るものがあり、コンマスの樫本大進はこの日は降り番だったが、ヴィオラの清水康子はマスコミに常時登場する売れっ子、天下のベルリンフィルを支えている。

「英雄交響曲」は小生が初めてカラヤンの指揮でベルリンフィルを聴いた思い出の曲であり思い入れがある。20数年も昔に、このホールの一番後ろの立ち見席でこの曲を聴いた。カラヤンはこの曲の素晴らしいコンサートのライブ映像を残しており、実際の記憶はこちらの方から醸成されてしまっている。全員がソリスト級の最強のメンバーを自在にコントロールして、しかも全員が全身で引きまくっていながら、完璧なアンサンブルと理想的なバランスを保った超絶的なコンサート映像だ。この演奏を現在のハイティンク/ベルリンフィルに求めることはできないが、思い出の中の演奏会を垣間見ることはできた。
★追記
このカラヤンの英雄は、1982年のベルリンフィルの創立100周年記念記念コンサートのライブ映像である。映像の中にはシュミット首相夫妻も臨席し、カラヤン夫人と並んで座っている姿も見られる。カラヤンのDVDの多くは彼の美意識から理想化された、つぎはぎだらけの所謂「作り物」であるが、この100周年記念コンサートは全く手の入れられていない、「汗を滴らせたカラヤン」など珍しい映像も収められた素晴らしいコンサートライブだ。それにしてもこのフィナーレが鳴り終わった後の「ブラヴォー」の連呼はどうだ!心の底から湧き出てくる本物のブラヴォーが聞こえてくる演奏会も極めて稀である。

なお、チケットはオンライン予約で82ユーロの席を購入しておいた。この日も完売で、「Suche」(チケット求む)が多数いたが、オンライン予約のおかげで安心して遠路出掛けることができる。本当に便利になったものだ。ご参考に、このホールでは、完売になった場合のみ24枚の立見席が売り出される。1人2枚まで購入可能なので、12番目までに並べば入場できるルールは昔から頑固に守られている。この方法でカラヤン、ジュリーニ、バレンボイム、ラットルなどを聴いてきたが、今は昔である。

翌日にはバレンボイムの指揮でベルリンシュターツオーパー、ワーグナーの楽劇「ヴァルキューレ」を観た。はからずも先週のゲルギエフ/マリインスキー劇場の「ジークフリート」、「神々の黄昏」と聴き比べることになった。と言っても東ベルリン側のウンター・デン・リンデンにある実際のシュターツオーパーは現在全面改築中で、この間の公演は西側のベルリン・ドイツオペラに近いシラー劇場で行われている。シラー劇場の内部は装飾の少ない簡素な建物で、マリインスキー劇場に比較してキャパも小さくフェアな比較にはならないが。

バレンボイム/ベルリンシュターツオーパーは現在絶頂期にあると言われ、コンサートでも世界中で引っ張りだこだ。ベルリンフィル以上、という批評家もいる。「ヴァルキューレ」は4部作の中でも聴きなれたメロディーが多く、比較的なじみやすい。さすがに最高峰の歌手陣を擁し、その迫力に圧倒された。残念ながらフライトの都合で3幕は観ることができなかったが、2幕まででもオンライン予約の59ユーロの価値は十分だった。

旅行の満足度
5.0
観光
5.0
ホテル
5.0
グルメ
4.0
ショッピング
4.0
交通
5.0
同行者
一人旅
一人あたり費用
5万円 - 10万円
交通手段
鉄道 タクシー 徒歩 飛行機
旅行の手配内容
個別手配
  • ベルリンフィルハーモニーザールのエントランス、心ときめく瞬間だ

    ベルリンフィルハーモニーザールのエントランス、心ときめく瞬間だ

  • ホールのホワイエ

    ホールのホワイエ

  • 完売であるにもかかわらずチケットを求める人々

    完売であるにもかかわらずチケットを求める人々

  • ホールの内部は複雑で、席にたどり着くことはなかなか難しい

    ホールの内部は複雑で、席にたどり着くことはなかなか難しい

  • このホールはステージ上の反響板が効果的に機能しているようで、大空間の中でもバランスの良い音が響く

    このホールはステージ上の反響板が効果的に機能しているようで、大空間の中でもバランスの良い音が響く

  • オーケストラが引き上げた後、スタンディングオベーションにこたえるマエストロ ハイティンク

    オーケストラが引き上げた後、スタンディングオベーションにこたえるマエストロ ハイティンク

  • ホールの右手

    ホールの右手

  • ホールの左手

    ホールの左手

  • ホールの最後部も特徴的だ

    ホールの最後部も特徴的だ

  • 奏者たちが引き上げたステージ

    奏者たちが引き上げたステージ

  • 奏者たちが引き上げたステージのコントラバス

    奏者たちが引き上げたステージのコントラバス

  • 樫本大進のリサイタルのポスター

    樫本大進のリサイタルのポスター

  • ウンター・デン・リンデンにあるシュターツオーパーは現在全面改築中

    ウンター・デン・リンデンにあるシュターツオーパーは現在全面改築中

  • ウンター・デン・リンデンにあるシュターツオーパーは現在全面改築中

    ウンター・デン・リンデンにあるシュターツオーパーは現在全面改築中

  • 西側のベルリン・ドイツオペラに近いシラー劇場のファサード

    西側のベルリン・ドイツオペラに近いシラー劇場のファサード

  • シラー劇場の内部は装飾の少ない簡素な建物だ

    シラー劇場の内部は装飾の少ない簡素な建物だ

  • シラー劇場の内部は装飾の少ない簡素な建物だ

    シラー劇場の内部は装飾の少ない簡素な建物だ

  • シラー劇場の2階席、ステージはよく見える

    シラー劇場の2階席、ステージはよく見える

  • 「ヴァルキューレ」幕間のロビー、簡素な内装だ

    「ヴァルキューレ」幕間のロビー、簡素な内装だ

  • 「ヴァルキューレ」幕間のロビー、簡素な内装だ

    「ヴァルキューレ」幕間のロビー、簡素な内装だ

  • ピットの中のオーケストラ

    ピットの中のオーケストラ

  • 2幕のカーテンコール

    2幕のカーテンコール

  • シラー劇場の夜景

    シラー劇場の夜景

  • 西側のベルリン・ドイツオペラの夜景

    西側のベルリン・ドイツオペラの夜景

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この旅行記へのコメント (3)

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  • さなぁさん 2012/11/02 23:46:09
    来夏はベルリンに行こうかな・・・
    ハンクさん お久しぶりです

    ベルリン旅行記、とても楽しく読ませてもらいました!
    私はベルリンフィルの大ファンですが、簡単にはペンタゴンホールに行けないので普段はデジタルコンサートで楽しんでいます。バレンボイムもここ最近来日がないので、シュターツオーパーも観に行きたいです。劇場の完成を待っていてもなぁ、って最近思うようになりました。
    バレンボイムとゲルギエフを比してどうだったでしょう?とても気になります。

    ジークフリート牧歌、ベルリンフィルのメンバーで聴けるなんて!
    あぁ!うらやましい限りです・・・

    最近は日本でティーレマン率いるドレスデン歌劇場、クレーメル、ゲルギエフ率いるマリインスキー劇場の来日に通う日々ですが、まだ指揮者の手が下りないうちに拍手のフライングがあったり、残念なことが多いです。イタリアオペラじゃあるまいし・・・本当にベルリンの聴衆を見習うべし!ですよね。

    ハンクさんに触発され、来シーズン始まりの9月あたりにでも行こうかなぁ。まだ1年も先ですが!


  • ペコリーノさん 2012/10/25 18:32:44
    ベルリン・フィルハーモニー
    ハンクさん
    はじめまして。

    私は10月7日(日)にフィルハーモニーへ行って、同じコンサートを聞きました。ハンクさんの素晴らしい解説で、私自身の感動も新たになりました。
    私の席の横の列も、後2列ぐらいは日本人のツアーの人たちでした。
    日本人のソロがあったからなのでしょうかね。
    ドイツ人の女性が「ヤーパン、ヤーパン・・・」とつぶやいていました。
    ドイツでの日本人の活躍はめざましいものがありますね。

    まだ、旅行記はできていないのですが、同じコンサートに行かれた方がいらっしゃったのを知って、コメントさせていただきました。

    ペコリーノ

    ハンク

    ハンクさん からの返信 2012/10/29 00:58:51
    RE: ベルリン・フィルハーモニー
    ペコリーノさん、こんばんは。

    メッセージを頂きましてありがとうございました。同じコンサート会場にいらっしゃったとは奇遇ですね。何と言ってもこれ以上はないオーケストラですから、最高の贅沢です。何度でも行ってみたいところですね。

    ドイツがお好きとのこと、私もいつかドイツ語をマスターして、ドイツに住んで、毎日コンサートに出かける日を夢見ています。

    それではペコリーノさんのベルリン旅行記を楽しみにしています。

    ハンク

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