湯川家（湯川秀樹）の墓

2008/01 - 2008/01

　湯川秀樹の墓は京都知恩院にあるという。知恩院で受付のおばさんに聞くと個人の墓なので教えられないとのこと。なるほど。別のところでも聞いたが教えてくれない。千姫のお墓のあたりで観光客に聞いてみる。「知恩院に湯川秀樹の墓があるそうなのですが、ご存知ないですか？」返ってくる返事は、「あら、私もお参りしたいわ。」初日2時間ほど探したが見つからない。知恩院の裏山には何千ものお墓が並んでいる。日没になり、墓地への門を閉めに来た年配の人に尋ねると、勢至堂の裏にあるとのことだ。ここならお墓の数は数百程度だ。翌日また探そう。次の日は千姫のお墓のある墓地から下の墓地への扉が開いており、見ると親子4人で墓掃除をしている。降りて行って、「お墓参りですか？」と声を掛けると、母方の実家のお墓だそうだ。「湯川秀樹博士のお墓はご存知ですか？」「私もお参りしたことがあります。下のあそこです。」指指したあたりを見回すと大きな墓石の横に湯川家の墓があった。墓碑はスミ夫人が亡くなった後に書き換えられたのか。残念。森嶋通夫（ロンドン大学教授、故人）の本によれば「秀樹は湯川家に養子に入り、湯川家の援助もありノーベル賞を取ることができた。」と書いてあったのだが。湯川家頌徳碑には「秀樹を迎え物心ともに後援。」とあるが、これのことか。碑の末に「湯川スミ之を誌す」とあるから夫人が建立したままのはずだ。これなのか。素粒子物理学といえば加速器などの超大型の実験装置、例えばJR山手線程度の径を持つ、が必要で、建造費は何千億円も掛かるのだが、秀樹の頃は理論物理学であり、紙と鉛筆、勿論鋭い発想とそれを検証できるだけの頭脳が必要であるのは言うまでもないが、「物心」の「物」は今なら幼稚園に通う園児程も掛からないだろう。思わず微笑んでしまう。むしろ「心」の方が大変だったのではないだろうか。大阪帝国大学設立の頃、理学部のボスの八木博士（八木アンテナの発明で著名）から学位論文を急かされ、家に帰れば入り婿でスミ夫人に頭が上がらない、秀樹の心境はまるで針の筵ではなかったか。しかし、秀樹の身近なところで家系を辿ると、父小川琢治（地質学者、京大名誉教授）は浅井家に生まれ、田辺市御坊の小川医師の娘である小雪さんと結婚し婿養子となった。次兄貝塚茂樹（東洋史学者・京大名誉教授、文化勲章受章）も後年貝塚姓になっている。42歳で養子にでも入ったのだろう。まあ父を見て育ってきたのだから、養子の悲哀は承知していたはずだ。付け加えると、茂樹共書「古代中国―原始・殷周・春秋戦国」(講談社学術文庫)は読んで感動した。人を唸らせるとはこのことだ。小川4兄弟（長兄小川芳樹（冶金学者、東大教授）、弟環樹（中国文学者、京大名誉教授））は秀才揃いで知られているが、秀樹よりも茂樹の方がより優秀だと思った。
　また、御所横の梨木神社境内で秀樹の歌碑を見つけた。「千年の昔の薗もかくやあ里志木の下かげに乱れさく萩」京都の萩の名所といえば，まず梨木神社が挙げられます。赤い萩の花を付けます。
　ほかにも、京都大学基礎物理学研究所（湯川記念館）前（京都市左京区）に湯川秀樹胸像があり、国立京都国際会館の入口には秀樹の「世界は一つ」の碑文がある。

エリア 東山・祇園・北白川(京都)

湯川家の墓（裏側）。「1985年　湯川スミ建之」と彫られている。

「湯川家頌徳碑

　湯川家は湯川城主の末裔。玄洋医学博士は初代湯川胃腸病院長。専門書を著述出版。秀樹を迎え物心ともに後援。高秋理学博士は湯川スミの次男。秀樹理学博士は一九三四年、湯川粒子を予言。ノーベル賞、（賞金はすべて寄贈）服部報公賞、学士院恩賜賞、野間賞、文化勲章、パリー大学名誉博士、アカデミー勲章、ロモノソフ・メタル、プール・ル・メリット勲章、勲一等旭日大綬章を受け、京大教授、コロンビア大教授、湯川記念館長。
　一九四八年以来　アインシュタイン博士と供に核兵器出現を憂い、「ラッセル・アインシュタイン宣言」の共同署名者、「パグウオッシュ会議」WAWF会長などにより、世界の世論をまきおこす。
　　湯川スミ之を誌す」。

湯川家墓誌

知恩院に母方実家の墓掃除に来ていた親子4人（父は写っていない）

湯川秀樹の歌碑（梨木神社境内）
「千年の昔の薗もかくやあ里志木の下かげに乱れさく萩」

秀樹は博士号の学位は大阪帝国大学から授与されている。出身大学の京都帝国大学からではない。以降、多くの日本人が物理学、化学、医学生理学のノーベル賞を受賞するが、田中耕一氏以外は全て博士である。その最初の博士が秀樹であった。