2006/05/08 - 2006/05/20
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ハイペリオンさん
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前日まで、ブツ切れの睡眠しか取っていなかったので、思いっきり熟睡したようだ。シャワーで眼を覚まし、ホテルで朝食を摂った。なぜか甘くて小さいトーストと目玉焼き、バナナ、そしてコーヒー。トーストは甘くていただけないが、バナナはうまかった。日本で売られているフィリピンバナナに比べると小ぶりで真っ直ぐで、フランクフルトのように極太。でもすっきりした甘味がけっこういける。
あんまりゆっくりともしていられない。ウィンウィンとは8時に待ち合わせをしているのだ。今日は、ウィンウィンのおばあちゃんの家の近くにある小学校へ文房具を寄贈しに行くのだ。今回のバガン訪問はこれが最大の目的と言っていい。小学校の子供たちに文房具をあげるようなことを始めたのは、元々はカメラマン氏が近くの村の子供たちと話ていて、お金がないから学校へ行けないという話題になり、それならおれが出してやるということになって、ウィンウィンの協力を仰いで始めたものである。これを聞いた僕は、彼がバガンを訪れる時にいくらかの米ドルを渡すことで、この活動に参加していた。しかし、金だけ渡して人を出さないのは、かつての日本の国際貢献みたいで何となくよろしくないなという後ろめたい気持ちもあった。このままじゃ、湾岸戦争後のニューヨークタイムスに載ったクウェートの感謝の広告に日本の名前が出なかったのと同様、カメラマン氏の名前は掲載されても、おれの名前は出ないかも知れないじゃないか。これはまずい。おれにだってちょっとした名誉心くらいはあるぜ。そんなわけで、今回は自分でやろうと決めてやって来たのだ。こういうことにウィンウィンは店の仕事があるのにもかかわらず積極的に協力してくれる。とても有り難い存在だ。彼女自身も、このような活動に参加することを喜んでいるようなところがある。どうもこの国の仏教的な考え方のようで、かつて手紙にも「無私の行為に参加できて私も幸せです」と書いてきたことがあった。おそらく、こういう行動で功徳を積んだことになるのだろう。彼女はお寺にお参りに行くなんてことはまずしないので、外見はそれほど敬虔な仏教徒には見えないが、心の深い部分ではやはり仏教的な考えが根を張っているようだ。
(写真はエイヤワディ河の眺め。牛、大河、そして彼方に見えるお寺...ミャンマー的風景の三点セット)
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レストランに行くと、ウィンウィンと二人の男がひとつのテーブルを囲んで話をしていた。一人は若く労働者風。外の風景を眺めているだけで全く口を開かない。もう一人は中年の男で身なりもきちんとしている。事務職風で温和な感じだが、眼が鈍い輝きを放っている。こいつかたぎじゃねーな。ウィンウィンがまず最初に「両替する?」と聞いてきた。「ああするよ。どこでできるの? 市場?」「この人が両替してもいいって言ってるんだけど」「この人何? ドライバー?」「違うわ」。なぜかウィンウィンは男の職業を明かさない。気を遣っているんだろうか。ウィンウィンは男と話を始めた。レートは1ドル1250ksで両替してくれるという。近くの旅行代理店と同じレートだ。わざわざ行くのもめんどうだからこの人に頼もう。120ドル両替したいと言うと男は金を取りに行った。数分もしないうちに男は戻ってきて、男は僕の前にチャットの札束を置いた。若い男は相変わらず知らん顔で外を眺めている。チャット紙幣をウィンウィンらと何度も数え直し、確認した後、50ドル紙幣2枚と10ドル紙幣2枚を渡した。男はドル紙幣を受け取った後、ウィンウィンに何か言っている。ウィンウィンによると、紙幣が少額なのがご不満らしい。僕はウィンウィンに、100ドル紙幣にはあるコードで始まるものに偽札が出回っていて、受け取りを拒否されることがあるので、100ドル紙幣は持ち合わせていない、20ドル紙幣も持っていないと告げた。うまく英語で言えなかったが、ウィンウィンはミャンマー語で男に通訳していた。男はなおも納得しないようでウィンウィンに何か言っている。「もしホテルにあるんなら取りに行って来て欲しいと言ってるんだけど」。そこまでしつこく言うんなら取りに行ってやるか。僕はとぼとぼとホテルへ戻り、20ドル紙幣を取りに行った。男に20ドル紙幣を渡し、10ドル紙幣2枚を受け取った。しかし男は相変わらず不満顔だ。「100ドル紙幣ないって聞いているんだけど」。しつこいなあ全く。「ねえっつってんだろ!」とぶち切れたかったが、ウィンウィンに切れてもしょうがないので「持ってないよ」と言った。本当に持っていないんだからしょうがないのだ。男はようやく納得したようで、サンキュー!と上機嫌で出て行った。現金なやつだ。
ウィンウィンにもう一度「あれ誰?」と尋ねると、近くにいた妹のエティダが引き受けて答えた。「軍の将校よ」「将校?」「将校、わかんない?」なるほどな。なんか雰囲気が違うと思った。ヤンゴンから出張で来ているという。レストランと道路を隔てて斜め向かいに軍の法律事務所があるが、そこにいるそうだ。レストランにはしばしばそこから弁護士や軍関係者がやってくる。あの男もたまに来る客の一人なのだろう。
両替が済んだ、さあ市場で文房具の買出しだ。若い男は立ち上がり、店の前に停めていた日本車に乗り込んだ。 -
車を発進させてしばらくすると、運転手がしゃべりだした。今までひと言も喋らなかったのに、クェンヤで真っ赤になった歯をむき出しにして助手席のウィンウィンにまくし立てている。ウィンウィンもそれに応じ、身振り手振りさらにはげんこつを作ったりしている。二人がけんかしているのかというとそんな感じでもない。後で聞いてみると、さっきの将校の悪口を言い合っていたらしい。
「何なんだあの野郎、金の種類で何べんもぐだぐだ言いやがって。客に金取りにいかせてんじゃねーよ」(かなり意訳)
「頭おかしいのよ。この人が戻って来たら、もっとお金を持ってきてくれると思ってたみたいよ」
「バッカじゃねーの! あんなうんこ野郎一回死にゃいいんだ」(かなり意訳)
とまあこんな調子だったらしい。とかくこの国では軍人さんは評判が悪い。おれもあいつが軍人とわかっていたら、両替なんかしてやんねーよ、バーカ(かなり意訳)。
車は数分もしないうちに市場に到着。通りに面した文房具屋に到着した。薄暗い店内は客で一杯で女性の店員が忙しそうに働いていた。
ノートや鉛筆を見せてもらい、予算に合う種類を選ぶ。今回はノート2冊に鉛筆5本、ボールペン1本を配布することにした。生徒数が200名だというから結構な量になる。
女性の店員が感心するほどてきぱきとウィンウィンに説明しながら文房具を揃えていった。
クェンヤ
ミャンマーの嗜好品。檳榔子、葉タバコ、2〜3種類の香料をキンマという植物の葉で包んだもの。これをくちゃくちゃと噛む。清涼感があるらしいが、檳榔の実のおかげで口の中は真っ赤になり、習慣化している人は歯と歯の間がまるでタバコのヤニのように赤黒くなっている。女性はまず口にしないが、田舎に行けば男性の半分近くはこれを噛んでいるようだ。
ちなみに、檳榔の実は台湾人も好きで、眠気覚ましになるということで、トラックの運転手たちが好んで噛んでいる。 -
これが領収書。外国人客への気遣いからか、品名は英語で書いてくれた。普段丸っこいビルマ文字を書いている影響か、数字もころころしていてかわいい。
合計で97900ks(80ドル弱)。うまい具合に予算内に収まった。しかし、この後買っておいた方がいいものがあったことをウィンウィンから知らされる。
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よっこらしょと。女性店員3人がノートや鉛筆が詰まった重いずた袋を車のトランクに積み込んだ。男2人(僕とドライバー)は何もしない。というか手出しをさせないのだ。ドライバーはともかく、日当が200円程度のこの国で、一度に1万円近い買い物をしたぶっとい客の僕に手伝わせるなんて失礼とでも思ったのか。
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車で30分は走っただろうか。エイヤワディ河沿いのレッパンチバウ村に着いた。ウィンウィンのおばあちゃんがいる村である。車一台がせいぜいの狭い路地を通ると、周囲の住民の注目を浴びた。村自体は家屋もきれいだし、道路も掃除されていて、ニャウンウーの周辺にある標準的なレベルの村と同じくらいに見えた。
おばあちゃんの家は土間と床に分かれていて、そこそこの広さだった。電気はなかったようだ。
手前の右がそのおばあちゃん。齢80を越えている。ミャンマーでは珍しく長生きと言えるだろう。後ろは妹。このおばあちゃん、実は子供を12人も産んでいる。そして、その娘の一人でウィンウィンの母親は8人も子供を産んでいる。超多産系の母娘だ。少子化対策大臣に引き合わせてやりたい。それだけ丈夫だから長生きもできるんだろう。
ここでひとまず一服し、近くの小学校に生徒が揃うのを待つという。僕は金しか出していないので、その辺の手配はウィンウィンにまかせっきり。結局、現地まで来ても金しか出さない国際貢献なのだ。これではまたまた国民の批判を浴びそうだ...ってこれはおれの金なんだよ。
お茶とお結び型の春巻きを出された。春巻きは、まあ普通の春巻きの味がした。ドライバーも中に入ってきて、床に腰掛けている。家族が時折「あんたもどう?」とすすめるのだが、「いや、いいです」とかしこまっている。
ここで15分ほどいて、再び車に乗り込み、近くの小学校へ行った。
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学校に着くと、既に生徒たちが運動場に整列していた。学校に行っても、生徒たちが集まるまでばたばたしたりするんだろうと思っていたが、全くの杞憂だった。ウィンウィンの段取り、完璧じゃないか! 持つべきは良き秘書哉、である。
職員室に荷物を持ち込み、ノートや鉛筆の束をばらした。今回各生徒に配布するのは、ノート2冊、鉛筆5本、青ボールペン1本。そして、カメラマン氏がウィンウィンに託していたハンドタオルと歯ブラシ。ハンドタオルと歯ブラシは合計で196あった。全校生徒数200名なので、今日受け取りに来られなかった生徒たちにはあきらめてもらうことにした。
右から、おばあちゃんの家にいた女の子、校長先生、そして先生たち。 -
これが生徒名簿。生徒の名前を読み上げ、職員室で渡すことにする。何せ外は暑いし、大勢のなかでやると混乱が起きそうだから。
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配布を待つ子供たち。みんな申し合わせたように腕を前で組んでいる。これが整列の姿勢なのか。
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僕と女の子が文房具を揃えてウィンウィンに渡し、彼女が生徒たちに渡すということになった。鉛筆を箱から取り出し、5本数え、女の子が持つノートの上に置き...と繰り返していると、数分で汗だくになった。生徒たちは一人一人、恭しく受け取っていった。時折数人の生徒がなだれ込んで来たりしたが、そのたびに先生が追い出していた。
配布はスムーズに終わり、子供たちはそのまま帰っていった。何人かは、僕のことが珍しいのか、じっと僕の一挙手一投足に注目している。なんか居心地が悪い。
配布が終わったあと、先生に教室の中を見せてもらった。質素な長いすと机が並んでいた。先生になにか必要なものはあるかと尋ねると、やはり椅子と机が足りないと答えた。全部揃えるのに必要な費用を尋ねると、100ドルにも満たない。今度は、机と椅子を援助してやろうか。
ウィンウィンが独り言のように「前来た時は、校舎も椰子の木で作っていたけど、随分立派な校舎になってる」と言った。確かに、田舎の小学校の割にはモルタル造の立派な校舎だ。「でも、椰子の木の校舎の方が涼しいし、いいんじゃない?」「3年に一度は建て替えなきゃならないから大変よ」「でも、よくこんなお金が出たね」。ウィンウィンを通じて、先生にこの校舎はどこかの援助なのか聞いてもらった。「日本人旅行者だって」。まさか旅行者が...。おそらく、民間の援助団体あたりだろう。
ミャンマーに興味を持つようになって数年になるが、このように学校や子供たちに援助の手を差し伸べる日本人がけっこう多いのには驚かされる。カメラマン氏もそうだし、僕がよく出入りしているミャンマー関連のサイトのオフ会に出たときも、シャン州で校舎を建てたという年配の方と会ったことがある。そして、こうした援助をしている年配の方々に共通しているのは、親、兄弟、あるいは親戚の誰かがこの地で戦死しているということだった。せめてもの罪滅ぼしと考えているのか、あるいは何らかの縁を感じているのかわからないが、彼らにとってこの地に生きる人々は、特別な存在なのだろう。
校長先生に挨拶をし、車に戻った。ドライバーは「アツイ?」と日本語で聞いてきた。彼にはあちこちで随分待たせて悪いなという気持ちが強くなってきた。
帰りは、配布を手伝ってくれた女の子ともう一人の幼い女の子が乗り込んできて、一緒にニャウンウーに戻ることになった。この村からはニャウンウーへの車はあまりないらしいので、これ幸いにと久しぶりに町へ行くのを楽しんでいた。
帰りの車中ウィンウィンはとんでもないことを言った。「前に来た時には、カメラマン氏は教科書も配ったの」。げっ、今頃なんちゅうこと言うねん。100パーセント完璧だと思ってたのに。確かに、カメラマン氏は前回100ドル以上使ったと言っていたけど、変に安く上がったなと喜んでいたのに、教科書があったとは...。また市場で買うにも金がない。しょうがない、教科書は各自買ってもらうしかない。ウィンウィンもへんなところが抜けていたりする。 -
アウンヤダナーレストランに帰り、ドライバーに往復の費用として1万4千ksを渡し、チップとして2千ksを渡した。
口数が少なく無愛想だが、その分真面目な仕事ぶりが気に入って、明日のポッパ山行きも彼に頼むことにした。
昼を過ぎていたのでビールを飲み、ついでに昼飯も頼んだ。慈善事業家のまねごとみたいなことをしているが、実態は海外へ出れば真昼間からビールを飲んでいるだらしないおやじなのだ、僕は。
ウィンウィンは疲れたようで奥で休んでいた。ご苦労さん、ゆっくり休んで。僕やカメラマン氏がこういうことができるのも君が積極的に協力してくれるからだよ。
上段でミャンマーで教育援助活動をしている日本人がけっこういると書いたが、彼らはどのくらいの費用でやっているんだろう。僕らにはウィンウィンという信頼できる協力者がいて、一銭も取らずに手配をしてくれるが、他の人たちは意外とお金がかかっているのではないだろうか。
今回の旅行の重大なイベントがスムーズに終わり、僕はちょっと薄いマンダレービールと安堵の思いを一気に喉へ流し込んだ。清涼感のある刺激とともに、小さな満足感が胃の底にたまって行くのを感じた。
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