欧州バックパッカーの旅【４】　１９７１年のフィンランド・ヘルシンキ

1971/07/26 - 1971/09/20

　レニングラード（サンクト・ペテルブルク）からヘルシンキ行きの国際列車に乗り、まもなく社会主義国の監視体制から解放される喜びで、同じコンパートメントになった日本人学生１人と、ヘルシンキに留学するというレニングラード大学生２人と、楽しく談笑しているとソ連の軍人が来て、「荷物を全部開け」といかめしい顔つきで命令する。リュックサックの中をくまなく調べ、書類も一枚一枚取り出して調べる。同室の日本人学生は胃薬の漢方薬が麻薬ではないかとの疑いをかけられ、没収された。結局検査して麻薬でないことが解った翌朝、その軍人はにこりともせず漢方薬を戻しにきた。レニングラード大学生の荷物検査はさらに厳しいもので、服を脱がされ下着も調べられ、シートの下、ベッドの下までくまなく調べた。まるで容疑者の取調べのようだった。取り調べが終わると礼も言わず仏頂面を崩さず出て行く。旧ソ連の軍人、官僚の横柄さは現在のウズベキスタンでも変わっていないように思ったが、旧ソ連各国では社会主義崩壊後も官僚が国民を抑圧する体質は変わっていないのかもしれない。
徹底した取調べに社会主義国の恐怖体質を垣間見、その後到着した自由主義国のフィンランド・ヘルシンキのプラットフォームに降り立ったときは、ほっとして力が抜ける思いだった。
ヘルシンキでは１９５２年にオリンピックが開催されているが、陸上競技場であったオリンピックスタジアムの中に造られたユースホステルに直行、チェックインを済ませて自分のベッドに横になって初めて自由国に来た喜びが涌いてきた。
翌日は朝市でパン、ジュース、苺を買ってシベリウス公園でささやかな食事をしながら昼寝。ユースホステルに戻ると、さすがにフィンランドだけあってサウナとプールがある。ここではオーストリア、フランス、ドイツ、イギリス、イタリア、オーストラリア、アメリカなど世界中から来た若者と８０度の比較的熱くないサウナで、ゆっくり情報交換をした。夕方からシベリア鉄道で一緒だった日本人三人で監視体制からの開放感からディスコでストレスを発散することになった。私以外のかっこいい２人はすぐにパートナーを見つけて踊っているのに、私はいくら誘っても断られてしまった。失望感と恥ずかしさでうつむいて壁に寄りかかっている私に同情してくれ、パートナーを申し出てくれたかわいい少女が一人いた。その優しい少女はラトビアのリガから夏休みにヘルシンキに遊びに来ていたルダさん、１８歳だった。感謝でいっぱいで夢心地のダンスのひと時の後、二人の出会いはそこで終わってしまったけれど、私はそのときから３４年間、ラトビアという国が好きになっていた。昨年末に念願叶ってリガを訪問、ルダさんには会えなかったがラトビアの人達の暖かい心に触れ、リガの美しい夕陽にも感激した。この体験は私のラトビア旅行記に触れているが、落ち込んだときに一瞬優しくしてもらったことを一生覚えている私はなんと単純な人間なのだろうかと思う。
（写真はユースホステルがあるオリンピックスタジアム）

エリア ヘルシンキ(フィンランド)

• 同行者: 一人旅
• 一人あたり費用: 100万円以上
• 交通手段: 鉄道

ヘルシンキに向かう国際列車から見えた夕陽。

３４年間訪問を願っていたラトビア・リガの美しい夕陽

シベリウス公園。フィンランドの代表的作曲家、ジャン・シベリウス（１８６５−１９５７年）を記念して名付けられた。１９６７年にエイラ・ヒルトゥネンが制作したモニュメントがあった。

オリンピックスタジアムの中に造られたユースホステル。ヘルシンキでは１９５２年にオリンピックが開催されているが、ここはメインポールがある陸上競技場であった。

この旅行記へのコメント （8）

• alohaspiritさん 2007/02/04 23:20:25

  青春時代の辛く、そして甘いステキな思い出ですね。

  さすらいおじさん　さん
  
  お久しぶりです。
  ここ数ヶ月、旅行記を更新していないにもかかわらず、コンスタントに訪問して下さってありがとうございます。
  
  半年近く国内外旅行らしきものをしておらず、最近旅行熱がムクムク湧いてきました。ハワイ以外に今最も気になる国は、ずばりフィンランド！
  仕事でフィンランド人と接する機会があり、その素朴でフレンドリーな人柄に興味が湧き、フィンランドの事がもっと知りたくなりました。
  （余談ですが、同じ北欧圏のスウェーデン人とも仕事する機会がありますが、彼らは結構そっけないデス（笑）。）
  
  さすらいおじさんが訪れた70年代から、大きく変わった部分もあるかと思いますが、国の気質は変わっていないのでしょうね。最近はフィンランドを訪れる日本人の数が多くなっていると聞きます。大半は陶磁器やガラス細工、建築などの芸術か、森と湖の豊かな自然に惹きつけられているみたいです。私が最も気になるのは、フィンランド人の暮らしぶりです。出来たらホームステイなどの形で一般家庭に滞在してみたいと思っています。
  
  また、その際にはラトビアを含むフィンランド近郊の国へも足を伸ばしてみるつもりです。
  
  訪れる時期は夏〜秋が一番なのでしょうが、今の時期（2月）はどうなんでしょうか？ヘルシンキを中心に、近郊の街／国へ足を伸ばす予定ですが、もし良い場所をご存知でしたら教えて下さいね。
  
  それでは、引き続き、さすらいおじさんのヨーロッパ旅行記に乗って、バーチャル旅行を楽しんできます！
  
  alohaspiritより

  さすらいおじさんさん からの返信 2007/02/05 09:31:58

  RE: 青春時代の辛く、そして甘いステキな思い出ですね。

  alohaspiritさん
  
  1971年のフィンランドをご覧いただきありがとうございます。
  
  フィンランドは優しいラトビアの少女との出会いがあり、強く心に残っています。
  日本文学に詳しい本屋さんもあって、親日的な人も多い印象を受けました。機会があればラップランドに行ったりオーロラを見たりしたいのですが、1971年にヘルシンキに行っただけです。
  
  ラトビアのリガなどバルト３国はツアーで２００４年１１月２１日から８日間行きましたロシアへの反骨精神が強い３国で感動しました。
  
  ＞訪れる時期は夏〜秋が一番なのでしょうが、今の時期（2月）はどうなんでしょうか？ヘルシンキを中心に、近郊の街／国へ足を伸ばす予定ですが、もし良い場所をご存知でしたら教えて下さいね。
  
  ２月に行ったことが無いのでわかりませんが、ラトビアなどバルト３国は２００４年１１月末に行って雪が積もって、道路は凍っていました。その経験から推測すると２月は寒いと思います。ただ、最近は温暖化が進んでいるようなので、インターネットで気象情報をチェックされるのがいいと思います。
  フィンランド近郊国なら、バルト３国をお勧めします

• wakabunさん 2005/07/07 13:07:07

  ソ連時代

  ソ連からヘルシンキに入ったなんて、非常に貴重な経験をされたんですね。今でもサンクトから入ることはもちろんできるけど、ソ連時代とはまた違うんでしょうね。私も今年はロシア旅行を計画しています。ロシアは全く初めてです。昔ほど厳しくはないと思うけど、今もビザが厳しいし、警官（ニセ？）にお金を取られる等の怖い話を聞きます。なので、ドキドキです〜。英語もあまり通じないらしいので、NHKでロシア語を勉強しはじめました。
  
  と、フィンランドから話がそれてしまいましたが、リガから来た女の子とので会い、ステキですね。なんだか私も切なくなってしまいました。

  さすらいおじさんさん からの返信 2005/07/07 14:00:52

  RE: ソ連時代

  wakabunさん　旧ソ連、フィンランドをお読みいただきありがとうございます。
  
  ＞ソ連からヘルシンキに入ったなんて、非常に貴重な経験をされたんですね。今でもサンクトから入ることはもちろんできるけど、ソ連時代とはまた違うんでしょうね。私も今年はロシア旅行を計画しています。ロシアは全く初めてです。昔ほど厳しくはないと思うけど、今もビザが厳しいし、警官（ニセ？）にお金を取られる等の怖い話を聞きます。なので、ドキドキです〜。英語もあまり通じないらしいので、NHKでロシア語を勉強しはじめました。
  
  １９７１年は税関は厳しかったですし、英語を話す人がほとんど無く、ヨーロッパからの旅行者をつかまえて道を教えてもらいました。今はどうでしょうか。私も行ってみたいです。
  
  ＞フィンランドから話がそれてしまいましたが、リガから来た女の子とので会い、ステキですね。なんだか私も切なくなってしまいました。
  
  落ち込んだときに優しくされた思い出というのはずっと覚えているものですね。wakabunさんも国際結婚されておられるのでそのようなきっかけもおありなのではないでしょうか。
  
  

• 龍さん 2005/07/07 11:41:30

  私も泊まりました

  kioさんと同じく、私もヘルシンキのユースに泊まりました。1983年です。
  私は逆コース、ヘルシンキからレニングラード、モスクワ、キエフへの
  旅でした。国境の厳しい検査が、初めて共産圏にはいる第１の衝撃でした。
  既にポーランドでワレサの「連帯」とか活躍していた頃だったのですが。
  同じコンパートメントのおばあさんが、「こんな小さな子までいじめて！」
  と検察官に必死に抗議してくれました。多分中学生位に見えたのでしょう。
  寒い２月のヘルシンキで買ったスペインのオレンジは没収されました。
  
  冬だったので、ストックホルムからトゥルク（？）まで乗った夜行の船や
  トゥルクからヘルシンキまでの車窓からの白い風景を思い出します。
  ヘルシンキは１泊だけでディスコも行けなかったのですが、町の人が温かく
  親切にしてもらった印象が残っています。
  あの町で知り合った友人はきっと一生思い出になる、さすらいおじさんの
  話を聞いてそんな気がしました。
  
  ソ連はそれなりに覚悟して行った所ですが、ホテルや劇場で片言の
  ロシア語で話した人たちとは仲良くなりました。ただあの頃は外国人を
  友人といえども家に泊めることができない時代だったので・・・・
  いつか、ヘルシンキもロシアも、そしてロシアの圧政から（一応）独立した
  ラトビアやウクライナetc.の国々も、また訪れてみたいと思います。
  
  
  
  

  さすらいおじさんさん からの返信 2005/07/07 12:54:02

  RE: 私も泊まりました

  龍さん フィンランドをお読みいただきありがとうございます。
  
  ＞kioさんと同じく、私もヘルシンキのユースに泊まりました。1983年です。
  私は逆コース、ヘルシンキからレニングラード、モスクワ、キエフへの
  旅でした。国境の厳しい検査が、初めて共産圏にはいる第１の衝撃でした。
  既にポーランドでワレサの「連帯」とか活躍していた頃だったのですが。
  同じコンパートメントのおばあさんが、「こんな小さな子までいじめて！」
  と検察官に必死に抗議してくれました。多分中学生位に見えたのでしょう。
  寒い２月のヘルシンキで買ったスペインのオレンジは没収されました。
  
  龍さんもあのユースに泊まられ、国境の厳しい検察を受けられたのですね。オレンジを没収するとは、１９７１年と強硬さは変わりませんね。国境の検察は随分受けましたがあの厳しさに勝るものは今だにありません。
  
  ＞冬だったので、ストックホルムからトゥルク（？）まで乗った夜行の船や
  トゥルクからヘルシンキまでの車窓からの白い風景を思い出します。
  ヘルシンキは１泊だけでディスコも行けなかったのですが、町の人が温かく
  親切にしてもらった印象が残っています。
  あの町で知り合った友人はきっと一生思い出になる、さすらいおじさんの
  話を聞いてそんな気がしました。
  
  街の人から受けた親切はありがたくて、忘れませんね。海外から日本に来られた方たちにも私が受けたように、親切にしなければ、と思いますが、なかなかです。---
  
  
  ＞ソ連はそれなりに覚悟して行った所ですが、ホテルや劇場で片言の
  ロシア語で話した人たちとは仲良くなりました。ただあの頃は外国人を
  友人といえども家に泊めることができない時代だったので・・・・
  いつか、ヘルシンキもロシアも、そしてロシアの圧政から（一応）独立した
  ラトビアやウクライナetc.の国々も、また訪れてみたいと思います。
  
  シベリア鉄道でも街を歩いても監視されていました。写真を撮ることも禁じられた場所が多かったです。私も崩壊後のロシアの人達は良くなっているのか、訪問してみたいと思います。
  

• kioさん 2005/07/05 22:27:27

  懐かしいヘルシンキ・ユースホステル

  こんばんわ〜　いよいよ〜さすらいおじさん青春編をアップし始めましたね。
  
  何篇か読ませて頂きました。とりわけヘルシンキの五輪スタジアムに
  隣接されたユースホステルはモスクワ経由旅行者が西側で最初に
  滞在する定番宿でしたよね。
  
  さすらいおじさん氏の訪れた７年後に自分もこのユースホステルに
  滞在しています。ユースの近くのディスコに行かれたとしたら
  ＜disco66>かと思います。ここは10年位前に無くなったそうです。
  数年前、ICQでヘルシンキ在住のフィンランド人とチャットで喋った時
  そんな事を聞きました。　
  ダンスのパートナーになってくれたラトビアの少女、
  さすらいおじさん氏にとってはきっと甘酸っぱいというより
  甘美な思い出として記憶の底に残っているんですね。
  
  

  さすらいおじさんさん からの返信 2005/07/06 00:03:37

  RE: 懐かしいヘルシンキ・ユースホステル

  kioさん　フィンランドをお読みいただきありがとうございます。
  
  ＞さすらいおじさん氏の訪れた７年後に自分もこのユースホステルに
  滞在しています。ユースの近くのディスコに行かれたとしたら
  ＜disco66>かと思います。ここは10年位前に無くなったそうです。
  数年前、ICQでヘルシンキ在住のフィンランド人とチャットで喋った時
  そんな事を聞きました。
  
  　　kioさんもこのユースに泊まられたのですか。それにしても、kioさんはほんとに世界中に友人をお持ちですね。ディスコはもうはやらないのでしょうね。情報ありがとうございます。
  
  ＞ダンスのパートナーになってくれたラトビアの少女、
  さすらいおじさん氏にとってはきっと甘酸っぱいというより
  甘美な思い出として記憶の底に残っているんですね。
  
  いい思い出です。落ち込んだときに優しくしてもらったことはずっと覚えているものですね。